宇宙世紀0085年 ソーラ・レイ事故及び公王戴冠後からの某日
ズムシティ公王庁舎、玉座の間にて
―消えたいと思う者ほど影は濃く、希望の道を行く者の影は薄くなる
謁見、それは敵意と忠誠を、諦めと反逆を振り分ける顔見世。何故、私がジオンの女王にならなければならないのか、理屈は分かり、道筋は敷かれたが、この場に座らされても尚、実感が湧かない。あゝ私は何故、齢5歳にも満たない童女に笑みの一つも掛けられず、睨みつける様な位置と態度で居なければならないのだろう。
「貴様は……確かキシリア・ザビの」
「おお、青い巨星ともある御方が私の様な副官をよくご存知で」
「確かにゼナ・ラオ・ザビは病状がよろしくなく、名代が付き添うと
話を伺っていましたが……ザビ家の縁ですか?」
「ええ、私はジオン独立戦争の終結からずっとお傍におりましたもので。
自惚れもありますが、よく懐いて頂いております」
ヒゲの蓄えた、ガタイの良い中年、いや初老に差し掛かろうか。美丈夫の男がその童女を守る様に傍らに付き添っている。しかし、その立ち位置はあくまで童女が前。つまり、今回の謁見の主賓であり、探りを入れなければならない人物でもある。どこまでこの童女が知っているのか。そう“どこまで”が大変重要になる。私は独立戦争以前に身を隠し、独裁者の家系が皆死んでしまい、担ぎ出された人身御供として今、此処にいる。それ以外は誰も知らないというのが前提だ。
「はじめまして。アルテイシア公王女陛下。
今は亡き、ドズル・ラオ・ザビの娘、ミネバ・ラオ・ザビでございます」
「アルテイシア・ソム・ダイクンである。幼き身ながらよく馳せ参じた。
貴女の淑女として、ザビ家の代表としての振る舞いに私は嬉しく思います」
「ええと」
困惑を見せる童女ことミネバ。きちんと練習をしてきたのであろう堂々とした態度に幼き日の自分と比べる。仮に私があの歳でこんな場に立てたであろうか? 緊張に満ちた顔だが、決して逃げぬ覚悟を決めたまっすぐな眼差し。その中で慎重に選び言葉を返す。幼子だから、ただの遺児だから、そんな理由でこの娘に優しくすることは出来たとしても、何かがあれば私は躊躇なく、容赦なく、殺さなければならない。何故なら、この童女はザビ家の女だからだ。
「失礼を。小さいのに頑張って一人で来て頂いて嬉しいですと仰っています」
「は、はい! 私も女王陛下に逢えて、光栄でござい、ます」
困惑を隠せないまま、後ろの男に耳打ちをされて止まった時計を進めていく。言葉が難しいのは仕方ない。作法は既に決まっており、それを違える事は出来ず、言葉を選ぶ自由すら私にはない。それでもミネバは退かぬ。普段使わない言葉、普段着ないであろう、きっちりとしたジオンの儀礼用の軍服。それはまさしく、ドズル・ザビという男の遺したモノであるとまざまざと見せつけている。
「ミネバ様に来て頂いたという事は、アルテイシア公女王陛下
ひいてはダイクン派に対して、もはやザビ家は恭順の意を示すという事で
間違いないと見てよろしいな?」
「ラル……まあ、良い。返答を聞かせよ」
控えていたラルが言葉から話が進む。そう、お前に叛意は無いな? このまま、ジオンのために力を尽くしてくれるんだな? そんな事を一々呼び付けて確認しなければならない。まるで歴史の教科書に載っている様な内容。だが、これは必要なのでしょう。そう思わなければいけない。口に出し、それが記録に残る。そういった、手順一つ一つが内外への信頼へと重なる……面倒だわ。
「こほん、女王陛下は“ザビ家は仲直りがしたいのか?”と聞いておられます」
「はい! せ、戦争はダメです。大切な人が居なくなってしまいます。
お父様も、顔はお写真と動画でしか知りません」
「……ッ」
男の耳打ちが入る。大変内容は砕けて、本来の意味とは程遠い。しかし、段取りとしては何か原稿を読む訳でもメモでもない。この眼の前の童女が必死に考えて、言葉を紡いでいる。拙い、幼い、何も知らない童女がどうしたいのか、それを私は聞き出している。何なのかしらこれは? まるでアリスの前に立つハートの女王をやらされている気分。そして、その言葉と共に私の頭に声の色が囁かれる。これは悲哀と事実の色、私がニュータイプとして感知したのか、あるいはこの童女が発したのか。
「こういう子を増やすのはよくないとお母様もキシリア叔母様も
ギレン叔父様も言って……ええと仰っておりました」
「……貴様、いけしゃあしゃあと幼子に何を吹き込んだ!?」
「ラル!!! ここは謁見の場である。お前とて弁えよ!」
「ッ……いえ、出過ぎた真似を。申し訳ありません」
「あ、あの」
童女の言葉に声を荒げる。当然である。“まるで私や兄さんの様に”復讐を練り込まれて養育されているとなれば、それを一番に心苦しく想っていたであろう、この男の怒りに私は理解を示してしまう。はぁ? ありえない、何をやっているのか? 童女相手にこんな場所で怒鳴るなんて、理解をしてしまう方が歪んでいる。窘めはするがそれでも此の場は真意を問わねばならない。本音としては聞きたくもない。
「だが、改めねばあるまい。今の言葉、事と次第によってはという事になります」
「ミネバ様、女王陛下は亡くなったキシリア叔母様とギレン叔父様の事を
聞きたいと仰っております」
「はい……ええと、その」
「私は幼い日サイド3を離れてからあの二人の事をよく知りません。
どんな人物だったのですか?」
ラルを黙らせ、童女に死んだ親族の話をさせる。これも務め、務め、ああ消えてなくなってしまいたい。けれど、やらなければならない。あの灰色の幽霊が全て、成し遂げてしまったのだ。毒も、苦味も、小骨も、噛み切れない筋も全て、削ぎ落として、私の眼の前にはナイフの自重だけで引き裂ける仔の肉塊を差し出されている。それを飲み込んで、この国を前に進めなければならない。だから、私は敢えて、下唇を噛み締めて毒と小骨を先に口にする。
「キシリア叔母様は、ギレン叔父様が居ない時に遊びに来ておりました。
お菓子を、アップルパイを一緒に作ったりをしておりました」
「あのお方の細やかな趣味でして、私もご相伴に預かった事は数度ございます」
「暗殺対策がこうじてというのは私も聞いた事がございますが」
「月に招かれた時は一緒に宇宙遊覧やお馬にも乗せて頂きました。
後はお父様のお話もよく聞かせてくれて
ガルマ叔父様とも逢ったら仲良くする様にと。ザビ家の者同士ですから」
「そう……ですか」
流れてくる。感情の音色は極彩色だ。紫の覆面が印象的なあの女の一面。いろんなことを諦めてきたのだろう。そんな中、女で居られた瞬間をこの童女と共有している。母親の思い出がどこまであったのか、それを埋める様にこの童女にそれが注がれている。何も知らぬ、何も分からぬ童女にとって彼女はただの優しい叔母であったのだろう。
「ギレン叔父様は……お顔は怖いのですけれど優しくて
いつも別荘に居て、ズムシティのオペラハウスにも連れてって頂きました。
叔父様は声が良いので歌もお上手で、恥ずかしいと言って
何回も聞かせては貰えませんでしたが、私は……好きでした」
「別荘に隠遁しているとは噂では聞いておりましたがよもや」
「禁欲的な方でしたが、それでも本土にわざわざ建てておりますので」
とんでもない話を聞いてしまった。理屈は分かる。あの発声や演説はそれこそ技術の賜物でもある。研鑽と努力を天才が重ねた結果なのだと、故にあの無謀な独立戦争を国民に決起させる事が出来た。その源流が趣味(歌劇)なのですか。ギレン・ザビ自身の事については断片的には知らなかった。曰くジオン・ズム・ダイクンの理念の情熱的な信奉者であり、曰く人類を減らして、管理すべきと主張するサイコパスであると。……まさか、40億人の地球に住む人々を葬った悪業の独裁者が、たった2人の親族の為に隠遁して見守っていたと? 童女から感じるこの感情の音色は、荘厳な父親としての代わりを果たそうとする1人の男のそびえ立つ巨躯の意志であった。
「にわかに信じられんな」
「私はお仕えしていただけですので、歌の良し悪しは判断が難しいですが
概ね事実であり、吹き込んだ事ではございません」
「ギレン叔父様は本当に上手でしたよ。
力強くて、ぴんっとカラダの奥まで響く様な声で
お父様も映像だと……立派でいつも堂々としていて、今も其処に居るみたいに」
「良く……わかりました。辛いことを思い出させてしまいました」
「いえ、コレも……ザビ家……いえ、私の大切な家族の話ですので」
崩れていく。私の中の怨敵、兄が殺すべきだと家を出ていった標的、音声で、画像で、映像でしか知らない相手。地球人口の半数を死に追いやった悪魔の様な兄妹。冷酷で冷徹、身内同士で最期は殺し合ったと聞く。そして、眼の前の童女の幼少期を形成した血縁であり、良き親族であった。それは眼の前の童女の瞳に貯められた涙が雄弁に物語っている。それを私は灰色の幽霊を使って葬ったのだ。
「此処からは大人の話になります。お任せ頂いても?」
「はい、お願いします」
「子供に聞かせる話でもあるまいが……」
「いえ、私には、母の代わりに聞かねば、なりません。大事な話なんですよね」
「……解りました。引き続き、席を共にすることを許します。誰かこの娘に椅子を」
用意された椅子は明らかに大きく、そこに小さく腰掛ける姿は……当にもう一人の可能性の私であったのだろう。不相応、不釣り合い、不似合い、何を言い繕っても堂々巡りの悪口にしかならない組み合わせ、きっと私が此処に座っていなかったらこの童女は此処に座っていた。それでも、泣き晴らしそうな瞳から袖口で涙を拭い、再びまっすぐに私の顔を視線で射抜いていくる。あれが、殺意の銃弾であったら私はとっくに死んでいただろう。
「では遺言書という形でお預かりしております。
詳細は官僚の方が精査して頂けると思いますので
要約させていただいてよろしいですね」
「うむ」
「まず、ミネバ・ラオ・ザビ様に関してはザビ家としての序列から離れ
母方の籍に戻る形にさせていただきます。
後は行方知れずですがガルマ・ザビ様だけが唯一の生き残りという形になります」
「ザビ家を実質取り潰すというのですか」
「法律上と立場上は。当人は慣れぬので幼き間は色々お目溢しを頂きたく」
「……良いでしょう」
難しい言葉を並び立てる中、私とラルの驚く顔から、童女も事の流れを察する。あるいは同じく感情の色を聞いたのかも知れない。驚嘆で目を大きく見開くがそれでも背筋を張ったまま、私から視線を逃すことをしない。実質、ザビ家はこの瞬間に公的には滅んだに等しい。もちろん、派閥残党の政争や真偽を問わず、ガルマ・ザビを担いで企てる一派は居るだろう。だが、唯一の正統後継者の立場である彼女から家名を失う事にした。……なんと羨ましいことか。
「これはキシリア様の願いでもあります。ミネバ様にザビ家を継いで頂くより
自由に生きて欲しいと、書類等は準備されておりました」
「しかし、いささか不用心ではないか?」
「私も引き続き後見人としてお傍に居るつもりです。
……何より、この場にて立場を明らかにすることでアルテイシア様から
直々に庇護と御慈悲を示して頂きたいのです」
「先ほどの話を聞くにこれは故ギレン・ザビ氏も把握していたのですか」
「あのお方が自分で動き、発せぬ事は全て些事ですので」
自分を利用する。こうも清々しくも堂々と言われてしまうと笑ってしまいそうになる。もちろん、立場的にも流れとしても笑えない。コレを口に出すという事は、理屈と手順と根回しは完全に済ませているのだ。私がこの座を簒奪した様にあのキシリア・ザビが自身の侍らせていた副官を数年単位で傍に置いて準備を進める。それもギレン・ザビが隣に居る様な状況という事はその点では合意は取れている。差し出された肉は私だった様ね。
「貴様、ぬけぬけとそんな幼子をダシに使うのか」
「ラル……保身でもありますが、そんなザビ家の血の入った幼子を
守るのに最善に近しい行動と私は思います」
「解ってはおります。ですが!」
「私にあの子を塔にでも押し込めて、髪を伸ばさせとでも言わせたいのか?」
「ぬっ……いえ、そんなつもりは……しかし」
筋を通して、そして私や兄さんと同じ境遇にしない様にという筋立ては否定も躊躇もさせない。完全に思考も反感も何も“私から”止められる事を想定されている動き。恐ろしい、これがキシリア・ザビの策謀か。ザビ家の女の恐ろしさの集大成、最期の舞台を見せられている。そう、私には別に此の眼の前の童女をどうこうするモチベーションがそもそも存在しないのだ。ならば、筋と情で正々堂々と頭を下げれば無下には扱えない。
「私も此の機会に軍を辞め、親族の商いを手伝う予定です。
しがないジャンク屋ですが、ミネバ様の別荘に近いところですので」
「確か、サイド1の付近の新築コロニーを手掛けているのでしたね。
監視は置かせます」
「はい、こちらもそれが抑止力になって頂ける事を期待しております」
全てが死んだ人間達の思い通りに決まっていく。何が灰色の幽霊か、こっちのザビ家の亡霊共の方がよっぽど聡く動き回っているじゃない。こんなに死後元気だというなら地獄の門は開けっ放しなんじゃないかしら? あゝもうダメ! 限界だわ、気分が最悪。ラルに視線を送る。助け舟ではない、今からぶちまけるという合図。撃鉄はとっくに上がっていたので、掛けた指を今から引き絞る。そういう宣言を今からする。ラル、首をいくら横に振っても、もう遅くてよ?
「時に、セイラ・マスという女をご存知かしら」
「これでも元軍閥なので存じております。シイコ・スガイに並ぶ
ジオン独立戦争の地球連邦側のスーパーユニカムの1人で
ソロモン防衛戦にて初期型のビグ・ザム1号機を屠った。
その後の作戦移行は消息が知れぬと聞いておりますが、何か?」
「女子供を戦場に出して名を挙げさせるなど恥ずべき行為です。
縁あって私は彼女を良く知っているので
彼女からの言葉を贈らせて此の場を終わりとします」
「拝聴させていただきます。ミネバ様」
「あ、はい。お願いいたします」
この長ったらしい相手の言葉から、この童女に対する知られたくない真実“私は仇であると知らない”。そんな希望的観測を寄る辺にする。もう、実はとか、後がどうなる等は知らない。この場がこうだと思ったら、もうそれでいいのよ。大体、なんで私がこんな事をしなければならないの。こんな不幸をこの童女に担わせるなんて言語道断です。これは務めでも、贖罪でもない、ただの……本当にただの八つ当たり。
「本当の望みを歪めて受け止めて、自分が出来るとは思わないで。
出来もしない事を出来ると信じる。そうなってしまってはただの鬼子よ。
私は貴女がそのありのままで生きられる様に願い、助けとなります」
「鬼子ですか……お言葉、ありがたき幸せにございます」
「次、其処の後ろの。こそこそと後ろに隠れて、それでも男ですか、軟弱者。
その意味深で物知り顔で商いなんて胡散臭くてダメね」
「は、はぁ」
「もっと若くて快活な人を前に立てた方が良くってよ。
そして、何よりミネバ嬢を不幸にしたら、私が直々にその頭を潰しに行くわ。
棺の中で原型を留めていると思わない事ね」
「アルテイシア様、その……流石に」
「お言葉、痛み入ります」
「覚えておけと言いたいですが、すぐに忘れて頂いて結構よ」
ラルの呆れ顔と唖然とした口元を徹底的に無視する。童女がものすごい顔をしている事にとても心が痛むが涙を呑んで無視する。散々周りに好き放題されてしまったのだから、此の場で咎められるなんて私が赦さない、全員潰してやる。……もう考えた方が完全に暴君だわ。本当にハートの女王になった気分。これは適度に今後も息を抜かないとダメね。今度は私がソロモンをどこか気に入らないところに落とす事になってしまいそう。
「では、これにて」
「女王陛下。最後に、これはギレン叔父様からお言葉を頂いております。
お贈りさせて頂いて、よろしいでしょうか」
「良いでしょう。どうぞ」
「ギレン叔父様が、もし自分の後にジオンを継ぐ人に遺した言葉です。
“復讐するは我にあり”」
「ッ!? それは!」
「お待ち下さい。これは私も聞いておりません!」
「ラル!」
その場に居た全員が、どこまで真意を理解していたか分からない。言葉をそのまま受け取れば、報復宣言、あるいは遺恨を残し、復讐の代行者としてこの童女を指名しているとも取られる。だがこれは違う、これは私がニュータイプの素養があるから解ったとかではない。ラルが今にも懐の銃に手を掛けてしまいそうなほどの焦燥、その射線を遮る様に軟弱者の男が声を荒げる。その激動の中で私は、冷静に言葉を選ぶ。
「聖書からの引用ですね?」
「……ああ! 失礼、そういえばありましたな」
「はい。私にはまだ難しい言葉……です。
ただ、ギレン叔父様か私か他の誰かが継いでも此の言葉を忘れない様にと。
そう遺して、下さいました」
「人が宇宙に上がっても尚、その手に復讐はあるべきではないと」
「なんと勝手なっ! 散々……いえ、だからこそでしょうな」
ラルの怒りが湧き上がったところにまるで伏せていたかの様にこの言葉が染み渡る。かつて西暦と呼ばれ、宇宙世紀の前の地球に存在した宗教の一つでの言葉。復讐は人がすべきではなく、神に委ねるべきだという。深い意味には言及は避ける。そして、ラルの憤怒も理解する。故に、だからこそ、此の言葉が必要なのだと。そこに居た大人達の誰もが、かつての地球人類の半数を殺したとされる男の祈りに頭を垂れる。
「かの者の最期の良心として受け取っておきましょう。
では、貴方達の未来に平穏が続く事を玉座から願い、私は私の務めを果たします」
「はい、御機会を頂きありがとうございます」
「寛大な処置、感謝を申し上げます。ジオンに栄光あれ」
波乱の満ちた謁見も終わる。肝を冷やしたが終わってみれば、全てがそうあって欲しいという願いと祈りの答え合わせ。さて、では私はその答えを精査しなければならない。あちらも軟弱者なら、物陰に隠れて気配を消していた“こちらの軟弱者”を呼びつける。言葉など発し無くても済む。現れるこちらも……なんでジオンの連中は歳不相応にヒゲを生やして、見た目を老けさせるのかしら?
「灰色の幽霊。どうか」
「もう解っているとは思いますが」
「隠し事も野心もなく、ありのままであったのですね」
「むしろ、ラル殿とアルテイシア様の感情の発信が強くて
読むのに苦労しました。少し気負い過ぎでは?」
「むぅっ……」
灰色の幽霊、シャリア・ブル。私をこの座に座らせた男の1人で、尚且つ涼しい顔を終始していたと思うと余計に忌々しい。こちらの幽霊も私の人生を好き勝手に捻じ曲げている。いつか除霊してやりたいがそれは今ではないのは流石に分かる。スペースコロニーにおいて塩も貴重だし、やるなら杭で刺すよりハンマーで頭を潰したい、いつか除霊専用MSを用意しましょう、ビグ・ザムとかよりでかいヤツを。
「後ろの軟弱者はどうか」
「あれも中々純粋な方の様ですな。
流石キシリア・ザビが傍に置いていただけの事はある」
「あの顔で?」
「あの顔で、です。その見方は些かどうかと」
「その仮面で言うのですか?」
「……血は争えませんな」
「ニュータイプは一番嫌な言葉を選べるのね」
「お二人共落ち着いて下され」
兄さんのかつて付けていた仮面を厭味ったらしく付けているこの男、しかも悪意が全くない心が読めるクセにノンデリという最悪の男。やはり除霊、除霊が全てを解決する。その為にも国をさっさと建て直さないと……それで更に私は苦労する。これも全部ザビ家が悪いし、兄さんが悪い。なるほど、だからあの言葉という事ね。復讐するならそれはもはや神殺しをしないといけないと……よし、頑張るしかないのね。そんな私の破滅めいた心など知らずに遠目では希望に満ちた二人は逆光に消えていく。
「ふふ、これで私達はお揃いになってしまいましたね」
「おや? ……よくご存知で」
「キシリア叔母様から聞いておりました。
これからも頼りにしていますよ、ロナ」
「家名を捨てた者同士などでなくともそうさせていただきますよ、ミネバ様」
「では帰りましょうか。楽園(シャングリラ)に」
消えたいと思う者ほど影は濃く、希望の道を行く者の影は薄くなる。あゝ私は死ぬまでこの玉座に縛り付けられるのかしら? そんな想いに沈みながらも、光に消える二人の後ろ姿をどこまでも目で追ってしまった。
次回予告
「ミネバ・ラオ・ザビだった娘」