ソード・ワールド2.5 リプレイ 『煌日の姫と冴月の王子』   作:弧埜新月

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最近全然書く時間が取れない……
1万文字超えてまだまだ終わらなさそうだったので分割して投稿することにしました。
お陰で前中後編構成だったのがⅠ~Ⅳになってしまった……この計画性の無さよ。
Ⅴまでは……行かないと思うんですがね……


薬(Ⅲ)

 ホリィの用意した薬草によって治療と魔力の回復を終えた一行は、装備を整えて集会所を後にした。

 薬草類は誰でも使える一方で、しっかりと効果を引き出すには専門の知識が必要になる。特に魔香草は難しく、素人が扱うとただ煙いだけで1ミリも魔力が回復しなかった、なんてこともざらだ。

 その点、レンジャーとしてしっかりと基本を押さえたホリィの腕は中々のものである。シャイレーゼは思いっ切り身体を動かしてもまるで痛みを感じない位には回復できたし、魔力が完全に底を付いていたクルムオンも回復魔法なら2回、【フォース】なら1回は行使できる程度に魔力が戻った。

 惜しむらくは薬草をそのまま屋内で焚いたことだろう。窓から漏れ出た煙を目敏く見つけたグラントが、火事と勘違いして飛び込んで来たのだ。

 何せ昨日襲撃を受けたばかりである。すわ襲撃かと血相を変えて走って来た。そうしてみれば、現場には冒険者達が呑気に部屋の中で薬草を焚いていたのである。

 平身低頭して謝り倒すホリィから事情を聞いて、グラントは最終的には笑って許してくれた。それはもう、村の恩人でなければ縊り殺すところだった、という呑み込み損ねた声が滲んで来るような笑顔だった。

 そんなこともあってか、装備の最終確認をするホリィはまだ少ししょんぼりとしている。彼女は出来ることも多く、基本的には有能なのだが時折とんでもなくポンコツなことをやらかすのが玉に瑕だ。何とも残念な侍女*1である。

 

「よう」

 

 支度を終えて今まさに蛮族の拠点探しに出発しようとしていた彼女達に声が掛けられる。先程肩を怒らせて戻っていったばかりのグラントだった。声音を聞くに、蟠りとかは別に残っていないようなのが幸いか。

 

「グラント? その格好……」

「さっき、蛮族共の巣を探しに行くって言ってただろ? 一枚噛ませて貰おうと思ってな」

 

 そう答えて、一目で使い込まれたと分かる鉄の鉞を担いだグラントがにやりと笑う。その背後には同じような表情を浮かべた男達が5人、思い思いの武器を担いで立っていた。鍬に鋤、木槌に石斧、そして檜の棒。どの男も屈強であるが、それは木樵としての屈強さであって戦士のそれではないとシャイレーゼは見抜いていた。

 戦力にならなくはないが、頼りない。

 特に戦闘になれば、柵の防護がない状態だ。相手の規模が大したことなくても犠牲を覚悟する必要があるだろう。最悪の想定通り手に負えない程の規模であれば、その時は素人の集団を抱えての撤退だ。格段に逃げにくくなるのが目に見えている。

 唯一の利点は手が増えることで探索の効率が上がることだが、それもホリィが問題なく見つけられるという以上不要だ。この手の探索におけるホリィの信頼は非常に篤い。要らないリスクを背負ってまで頭数を増やす必要は無いように思えた。

 隣に視線を向ければ、クルムオンも首を小さく左右に振っている。

 弟も同じ意見だと確信したシャイレーゼはグラントに向けて少し申し訳無さそうに言った。

 

「気持ちはありがたいけど……貴方達には村の防衛に全力を注いで欲しいのよ」

 

 しかし、グラントはそうはいかねぇ、と首を横に振る。

 

「コイツは元々俺達の問題。だってのに、村の恩人であるアンタ達に頼りっぱなしってのは心苦しいってもんだ。俺達にも手伝わせちゃくんねぇか」

「気持ちは有難いけど……」

「腕っ節なら心配すんな。そりゃ、アンタ程、とはいかねぇかもしんねぇが、村ん中でも腕の立つ連中を集めて来たんだぜ」

 

 男達はグラントの言葉に自信に満ち溢れた表情を見せて頷いている。

 クルムオンは彼等の顔に見覚えがあった。当然である。その若者達は、先程彼が解毒した面々そのままだったのだから。

 つまり、彼等は昨日の襲撃で蛮族の矢面に立っていた面々だ。村人達の主戦力である。

 

「村の防衛はどうするんですか」

「突貫工事だが柵は直したし、戦える奴もまだまだ残ってる。何とかなるさ」

 

 思わず訊いたクルムオンに、グラントはそう笑って肩を竦める。

 クルムオンにはその仕草が虚勢であるようにしか見えなかった。

 

「そんなに戦力を引き抜いては襲撃を受けた時相当に苦戦する筈です。貴方も分かっているんでしょう。それは村を危険な目に合わせる行為だと」

「ああ、そうかもな」

 

 グラントはクルムオンの言葉にあっさりと首肯した。

 

「だったら──」

「だが、コイツは村の総意だ」

 

 しかし、彼の目には強い光が宿ってもいた。

 

「俺達の村は正直辺鄙なところだ。街まで出るにはちょっとした旅をしなきゃならねぇし、正直……領主様の目も、行き届いているとは言いがたいし、な」

 

 グラントは少し言いづらそうに一瞬目を逸らしたが、すぐに三人へ視線を戻す。

 

「何か足りなくなれば自分達で何とかするしかねぇ。何かが襲ってくれば自分達で倒すしかねぇ。俺達は今までそうやってやって来たんだ」

「それは……」

「おっと、勘違いさせたらすまん。アンタ達の助けが迷惑だって言ってるんじゃ無いんだ。本当に感謝してる。ただ、人に何か助けて貰うってことがあんまり無かったからか、人任せで何もしないってのがどうにも性に合わなくてよ」

 

 そうだそうだと村人達が同調する。グラントは少しだけバツの悪そうに口元を歪めた。

 

「アンタ達は、言い方は悪いが本来村と関わりのない余所者だ。村の連中には、余所者に借りを作りっぱなしで情けないって思ってる奴も結構いるんだ……本当は全部俺達がやるからアンタ達は手出ししないでくれって言えたらもうちっとは格好が付いたんだが……」

 

 村長として、なるべく村人の被害は減らしたいということなのだろう。だが村人からの突き上げもあり、討伐に出ないわけにもいかない、といったところか。

 

「なあ、頼むぜ。俺達にも何かやらせてくれ」

 

 そう言って改めて頭を下げるグラントに、双子は揃って僅かに渋面を作った。グラントの後ろに並ぶ男達の士気は見るからに高い。いや、頭を上げたグラントも似たような表情をしている。村長としてはともかく、彼個人としては自らの手での解決を望んでいるのは明らかだった。

 この様子では、ここで断っても勝手に着いて来てしまうだろう。コントロール出来ない状態の彼等を野放しにするのは論外だった。かと言って、連れて行く訳にもいかない。自分達は村人の危難を取り除きに行くのだ。その為に、守るべき民を危険に晒すのは本末転倒である。

 ──……クルムオン!

 困ったシャイレーゼは視線を隣に投げた。自分にはもう説得の言葉が思い付かない。だが、自分より優秀な弟ならば。

 姉の視線を受けたクルムオンは、一瞬視線を下に落とした。そして、右手で軽く左胸の脇に触れる。その意図は彼女からすれば明白だった。そこには彼女の持つ身の証の、その兄弟刀が納められている筈だったからだ。

 決断は一瞬。シャイレーゼは即座に小さく頷いた。同意を得たクルムオンは、懐に手を入れる。

 

「村に関わりのある者であればいいんですね?」

「あ? 何を言って……」

 

 訝しげに眉を(ひそ)めたグラントの言葉が、尻切れに途切れる。

 クルムオンが懐から短剣を、その鞘ごと引き抜いたからだ。

 気品を感じさせる光沢を放つ黒檀に金で紋章が装飾された鞘。宝石が象嵌され、複雑かつ美しい彫金の施された柄。その紋章が王家の物であると知らなくとも、一介の冒険者が持てるような代物ではないことは一目瞭然であった。

 

「改めて名乗ろう。僕はクルムオン・サンクネック。この国の王家の末席に名を連ねる者。そして──」

 

 クルムオンの視線に応じ、シャイレーゼもまた己の短剣を取り出す。弟の持つ短剣と、追加された家紋以外は瓜二つなそれを。

 

「こちらは、シャイレーゼ・サンクネック・ハイゼン。この地を治める領主その人だ」

 

 クルムオンの言葉に、村人達が大きくどよめいた。眼窩から目玉が転がり落ちそうな程目を見開いて、穴の開かんばかりにシャイレーゼの顔を注視する。どの顔も、『えっ、あの破天荒なのが領主様? マジで?』とか『見えねぇー……というか信じたくねぇー』とか書いてあるのが見えるような有様であった。

 

「……そこはかとなく失礼なこと考えられてる気がするわ」

「姫様の昨日の行いを見ればそうなるのも致し方ないのではないかと……いだっ!?」

 

 シャイレーゼの発言に一気に顔を青ざめさせた村人達だったが、迂闊なことを言って頭頂部に拳を落とされ涙目になるホリィを見て雰囲気が幾分か和らぐ。

 シャイレーゼは唯一あまり表情が変わらなかった男に視線を向けた。

 

「グラント、貴方はそんなに驚いてないみたいね」

「いや……驚いては、いますよ」

 

 グラントは慣れていないのだろう、改めた口調で喋りにくそうに答える。

 

「昔、王都に出た時に、シャイレーゼ姫のお姿を見掛けたことがありました。似ている、とは思っていたのですが……まさかこんなにぶっ飛んだ性格……もとい、ファンキーな、あいや親しみやすいお方だとは思わず」

「私の正体を理解した上でその物言いが出来る度胸と素直さは褒めてあげるわ」

「め、滅相もない」

 

 額に青筋を浮かべて指の骨を鳴らすシャイレーゼに、グラントは青い顔で両手を突き出し首を振った。そして話題を変えようとしたのか、はたまた思ったことが口を突いて出ただけか、疑問を口にする。

 

「それにしても……何故領主様がここに?」

「先程貴方も言っていたでしょう。領主の目が行き届いていないと。姉さんもその点を気にして、こうして視察の旅に出ているんですよ」

 

 クルムオンがグラントの発言を使って嘘の理由を並べた。それを聞いたグラントが藪蛇だったかも、とばかりに更に顔色を悪くする。

 言ってしまえば面と向かって領主の批判をしたわけだ。さっきの姉への事実陳列罪程ではないがまぁ無礼な行為である。

 先程の話し振りを見るに、姉が領主ではないか、という疑問はずっと彼の胸の内で燻ってはいたのだろう。そう思っていつつも口や態度出してしまう辺り、根が真っ直ぐというべきか、迂闊というべきか。

 一方のシャイレーゼはグラントの反応を気にした風もなく、クルムオンの話に乗っかってくる。

 

「正直、私は剣を振る方が得意で、領地経営の方はさっぱりだったのよ。領内には長年この地を治めてくれていた代官達もいるし、彼等に任せてれば大丈夫だと思ってたのだけど……一度実際見て確かめた方がいいって、クルムオンがね」

「姉さん!?」

 

 カバーストーリーに変な話を追加してきた姉の顔を思わず振り返るクルムオン。だが彼女は片目を瞑って苦笑した。

 

「照れない照れない。実際、ここまで自分の目で見て来て良かったと思っているもの。彼等の暮らし振りを知れたし、足りない物も見えてきた。こうして、この村を救うことも出来る」

 

 滔々と語るシャイレーゼ。その意図は明白である。

 ──この機を利用して僕の印象を良くしようとしてる!

 単純に思い付きだろう。こうして自分ではなく弟の入れ知恵によって村が助かったとすることでクルムオンに功績(玉座)を押し付けようとしているのだ。

 しかも否定するとただ嘘を付いたシャイレーゼの評判が下がるだけなので姉からしてみればどっちに転んでも問題ない策である。心なしかこちらを流し見る姉の視線がドヤっているのが分かった。

 姉にしては掛ける労力が少なく隙のない策だ。惜しむらくは、対象が少な過ぎて大局的に見れば殆ど効果がない点だろうか。似たような考えに至ったのだろう、ホリィ(お目付役)がシャイレーゼに向けるじとりとした視線には非難よりも残念なものに向けるような感情の方が多分に含まれているように感じた。

 クルムオンは小さく溜息混じりに咳払いすると、脱線しかけた話を戻す。

 

「彼女はこの地の領主。つまりこの村の所有者です。この村のこれ以上ない関係者であり、この村について姉さん以上の決定権を持つ者は存在しません」

 

 クルムオンはそう断言する。正直暴論の類ではあったが、グラントにその点を指摘する余裕はないようだった。彼は苦しげな顔で何とか言い募ろうとする。

 

「でも……でもですぜ、領主様の弟様。そんな危険な所に貴方様方を行かせるくらいなら、俺達が行った方が……」

「僕達は国内や領内全体の情報を鑑み、この方法が最善と判断しています。一介の村長が、その判断に異を唱えるのですか?」

 

 それは正論だったが、このまま押せばいける、と判断したクルムオンはすっ、と目を細めると、敢えて権威を振り翳す物言いで潰した。反発を招く言い方だとも分かっているが、逆にこの方が面倒が無くていい。己の知らない情報を元にしていると上位者から言われれば余程のことでない限り反論出来なくなるからだ。ついでに姉が上げようとした好感度も下げることが出来て一石二鳥である。

 案の定、グラントは顔を(しか)めつつもぐっ、と押し黙った。背後の男達もまた、多少の不満の色を見せながらも諦めつつあるのが窺える。思う所はあってもやはり権力者に逆らうつもりは無いのだろう。

 だが、このままいけ好かない権力者と思われるのも好ましく無い。クルムオンは表情をふっ、と緩めた。

 

「代わりに、はならないかも知れませんが、貴方達に頼みたいことがあります」

「頼みたいこと……ですか?」

「ええ。一つは、この村の防衛。僕達はこの村を救う為に来たんです。村の脅威を取り除く為に外に出て、その間に入れ違いで村が滅ぼされた、なんてことになるのは貴方達も嫌でしょう?」

 

 僕は嫌です、とクルムオンが言えば、グラント達も異論は無いようでおずおずとだが頷く。

 

「正直、蛮族の規模は掴みきれていません。場合によっては、昨日と同程度の蛮族が残っている可能性もある。なので、僕達が探索に赴く間、しっかりと守りを固めておいて欲しいんです」

「わ……分かりました」

 

 蛮族は残っていても数体、高を括っていたのだろう。昨日の襲撃と同程度の数と聞いたグラントや村人達は目を見開いて身体を強張らせた。確かに、昨日と同規模の襲撃に晒されては残していく予定だった戦力では持ち堪えられない。

 思い詰めた表情で俯いたり、不安そうに顔を見合わせたりしている村人達を、クルムオンは更に押した。

 

「それともう一つ。僕達が明日になっても戻って来ない、もしくは明らかにこの村の戦力では対抗出来ない場合ですが。その場合は村人を連れて山を降りてください。これは相当に大変なことです。主戦力である貴方達が居なければ成し得ない」

「そ、そんなに蛮族がいるんですかい……?」

 

 想像を遥かに上回る戦力がいるかもしれないと言外に告げられ、思わず、といった風に身震いしたグラントが戦慄く声で問い返した。クルムオンは落ち着かせるように柔らかい笑みを浮かべる。

 

「あくまで最悪の可能性です。実は昨日の襲撃が全てで巣穴に戦力が残っていない、ということもあり得ます。ただ、この一件はただの野良蛮族の襲撃ではない、背後に大きな黒幕が潜んでいるような可能性があります。だからこそ僕達が動いているのですし、皆さんには慎重な行動を心掛けていただきたい」

「わ、分かりました」

 

 自分の想定を超える事態に巻き込まれたと感じているのか、グラントは不安そうな顔して頷いた。村人達も互いに忙しなく視線を交わし合い、落ち着かない様子だ。

 これだけ脅かしておけば着いてこようなんて気は起こらないだろう。クルムオンは締め括りとして横でうむうむと頷く機械になっていた姉に視線を向ける。

 

「領兵への指示を書いた姉さんの手紙を預けておきます。万一の時はそれを近くの詰め所に持ち込んでください」

「えっ、手紙?」

「ええ。姉さんに何かがあった場合でもそれがあれば何とかなるでしょう……姉さんの兵ですからね?」

 

 領主が書くのが筋だろうと言えば、どこか釈然としない顔のまま彼女はホリィに紙と筆を貰いに行く。話を半分位理解し切れていない顔だ。

 まぁその辺りはホリィが上手くフォローするだろうと判断して視線をグラントに戻した。

 

「ここまで色々言いましたが、これは本当に最悪のケースです。実際、そこまで酷くなることは殆どないでしょう。ですが、僕達の立場では、そういった最悪のことも想定しなければならない。分かっていただけますか?」

「は……その、理解は出来ます」

 

 グラントは少し肩を落として小さく息を吐くと、表情を改めてクルムオンを見つめ直し、深く頭を下げた。

 

「我々のことを慮っていただき、ありがとうございます。このご恩は決して忘れませぬ」

 

*1
ホントにそう。ファンブルの仕方が芸人染みてる




今回のシナリオ、身分を明かさないと村人説得できないのはちょっと納得いかない点でしたね。確かに身分明かした方が本文みたく権威を振り翳せるので説得楽にはなるんですけども。説得にボーナスがつくとか位でいい気がしますが……ゲームブック形式だからでしょうかね?

それはそうと、インフィニット・コロッセオを買いました。シャイレーゼ姫らしき御人が居ますね……いや、誰だこれ。知ってるシャイレーゼと違うぞ。
おかしいのは間違い無くこの卓のシャイレーゼなんですけどね!全く違う世界線なのは間違いありません。従者はおっさんじゃなくてカワイイ(ポンコツ)美少女ですしね!
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