ソード・ワールド2.5 リプレイ 『煌日の姫と冴月の王子』   作:弧埜新月

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少し短いですがキリがいいので投稿しま──
6,000文字弱って短いですよね?



危険な花の香り(上)

 村に帰還した一行が村に蛮族の討伐が完了した旨を伝えると、村は再び祝杯ムードとなった。

 残っていた蛮族の規模を聞いたグラントをはじめとする一部の村人は自分達の手で解決出来なかったことに若干悔しそうな顔をしていたものの、村に大した被害が出ないまま乗り切れたこと自体は嬉しいのだろう。一様に感謝を述べ、シャイレーゼの武勇とクルムオンの治療の腕を褒め称えた。

 そのまま宴会に──前日の宴で余剰の肉や酒は放出し切っていたようでささやかではあったが──突入。3人が借りている部屋へ戻って来たのは日も落ち切って少し経った頃だった。

 

「さて……件の集落の件を考えないとね」

 

 自分の使っているベッドに腰を下ろしたシャイレーゼが口火を切る。

 どう考えてもその集落は怪しい。真っ黒である。調査に赴かない訳にはいかなかった。

 

「一先ず、出向いてみますか?」

「そうねぇ……でも、ただ乗り込むだけだと怪しまれそうよね」

「蛮族達が冒険者に討伐された、という情報を持っていないと考えるのは楽観的過ぎるでしょうね」

 

 今回の騒動を仕掛けたのが件の集落であるならば、その顛末を把握していない筈がない。直接確認に来ていなくとも、蛮族に定期報告をするように段取りを組んでいれば異常が起きていることは理解できるだろう。

 

「……では、夜襲でもしてみますか?」

 

 思案していたクルムオンがそう提案した。

 

「向こうの戦力や警備状況は分かりませんが、少なくともこちらより寡兵であることはないでしょう。こちらには暗視のできるホリィもいますし」

「成る程、それもそうね」

「……集落を攻め落とす前提なら悪くはないかも知れませんが、まずは偵察からではないでしょうか。警備に暗視のできる蛮族がいれば夜襲のメリットも薄れてしまいますし」

 

 シャイレーゼが頷き掛けたが、ホリィがそう反対意見を述べて押し止める。

 蛮族は夜行性の者が多い上に暗視持ちもそれなりにいる。人間相手には見込める夜襲の利点が蛮族相手には不利に働く可能性が高いのだ。それもそうですね、とクルムオンは意見を引っ込めた。

 そこで、シャイレーゼが何かを思い付いたようではたと手を打つ。

 どうせまたロクでもないことでも思い付いたんだろうな、と思わせる、それはそれは溌剌とした表情をしていた。

 

「じゃあ、水攻めにするとかどうかしら」

「どうしてそうなるんです!?」

 

 本当にロクでもなかった。

 

「……一応、訊いてあげましょうか。その水、どこから持ってくる気です?」

 

 痛みを堪えるように眉間を押しながらクルムオンが問う。シャイレーゼはふふりと胸を張った。

 

「上流の水門を破壊して相手の要塞を押し流すっていう戦術が昔の戦であったとかなかったとか!」

「どこの国の話をなさってるんですか!?」

 

 最早何もいう気が無くなって深い溜め息を落としたクルムオンに代わり、ホリィが特大の雷を落とした。

 

「そもそも! 上流の水門なんてものは存在しませんから!」

「そんなっ!?」

「自領の地形くらい把握なさってください!」

「この領どころか、我が国には水攻めに使えるような水門自体がありませんけどね」

 

 2人に白い目で見られたシャイレーゼは喉に声を詰まらせてたじろぎを見せた。そして取り繕うように咳払いをする。

 

「いや、うん。知ってたけどね。そもそも自分の領地を水攻めにするのはちょっと」

 

 当然だが侍女の白眼視は止まらない。むっすー、とシャイレーゼの顔を見据えている。

 

「めっちゃ睨まれてる……助けてクルムオン!」

「一旦、件の集落まで様子を見に行きましょう。それから方策を考えても遅くはないでしょうし」

「それがよろしいかと」

「スルーされた!」

 

 当然である。

 

「では、僕は戻って報告書を書きます。ホリィは姉さんに触書を書かせるのを忘れないでください」

「えっ、それはホリィが代筆してくれるんじゃないの?」

「承りました。お休みなさいませ、クルムオン殿下」

「ホリィ!? ホリィ──!?」

 

 シャイレーゼの悲痛な声が響き渡る中、恭しく頭を下げるホリィに手を振ってクルムオンは部屋を後にしたのだった。

 

   ◇◆◇             ◇◆◇

 

 翌日、書いた報告書と書かされた触書をグラントに託し、一行は山の奥にあるという集落へ向かった。

 馬車はそのまま村に預けてある。偵察が目的なのだ。目立つ馬車による移動は避けるべきだったし、そもそも件の集落へ至る道は細く、周囲を木々に遮られていて馬車を通せるだけの幅が無かった。

 そうしてほぼ獣道同然の山道を進んでいくと、目の良さのお陰だろう、突然先頭を歩いていたホリィが手を横に上げて双子を制止した。

 

「……この先、見張りが居ますね。こちらへ」

 

 ホリィは小さく声を掛けると素早く双子を木々の間へと誘導する。

 

「こちらに気付いてはいないようです。練度はかなり低いようですね」

 

 双子を隠してから顔だけ出して先を確認したホリィが、息を吐いて身体を戻した。

 

「見張りが立っていたのは集落の入り口らしき場所でした。武器を持たされただけのただの村人、といった風体でしたが……見張りは見張りです。一旦回り込みましょう」

 

 そう言って、ホリィは極力音を立てないように薮の中へ進み始めた。こうなれば密偵たる彼女の独壇場である。双子は黙って彼女に付き従うことにした。

 そのまま慎重に移動すること数十分。3人は少し小高くなった丘にやった来ていた。集落に程近く、遠い昔に集落側が崩落したのか少し切り立ったようになっている。丘の上は木や茂みが多く、身を隠す所には事欠かない。偵察にはうってつけの地形だった。

 先に身を隠せる場所からホリィが一帯の安全を確認し、後方の2人を招き寄せる。

 

「いい場所を見つけたわね」

 

 シャイレーゼが茂みの中に伏せながらホリィを褒める。集落の方へ顔を向ければ、大きく木々を切り拓いて出来た空間が広がっているのが見えた。殆ど勾配の無い地形に、いかにも適当に掘っ立てました、というような粗末な家が20戸程並んでいる。ここが件の集落で間違いないだろう。彼女の今いる位置からは人々の顔までは分からないまでもその様相が一望できた。

 

「恐縮です。ですが、これ程偵察に向いた場所に罠の1つもないとは……相手は素人集団である可能性が高そうですね」

 

 シャイレーゼの隣で集落内の警備状況を観察しながら、ホリィは相手をそう評する。

 集落は獣避けらしい貧相な柵で周囲を囲まれており、その中を武器を持った男が何人か巡回しているのが見えた。装備に統一性はなく、どこかふらふらと彷徨っているような印象だが、武器を持って一定のルートに沿って巡回している以上どう見てもその役割は歩哨である。歩哨が闊歩するような集落がまともである筈がなかった。

 

「いかにも集落っていう体ではないわね……あの、中央にある大きな建物は何かしら」

「普通に考えれば村長の邸宅ですが……集落の規模に見合っていませんね」

 

 ホリィとは反対方向に潜り込んだクルムオンがそう姉の呟きを拾った。

 

「それに、邸宅というよりは……なんでしょう。工房とか、研究所とか、そういう施設に近い印象を受けます」

 

 それは少し変わった建物であった。造りは周りの掘立小屋と大差のない粗末なものだが、その大きさは数倍では効かない。側面にも屋根にも窓が一切なく、焼いたような色合いの壁がただただ不気味であった。

 

「正面から近づくのは難しそうですね……」

 

 正面玄関らしい少し大きく作られた入り口の両脇には槍らしき物を持った見張りが2人立っているのが見える。その前には村の水源なのだろう泉があり、そのせいか広く空間が取られていた。遮蔽物が殆どなく、そちらから近付けば立ち所に見つかってしまうのは想像に難くない。

 

「僕は奥に見える畑が気になりますね。何かの薬草の類なのでしょうが……」

 

 この集落の主要産業なのだろう。森の奥側に広がっている、優に集落の総面積の6割を占める畑にクルムオンは視線を移す。同じ植物を少しずつ植える時期を変えて長期間採取できるようにでもしているのだろうか、黒、緑、そしていっそ毒々しいとまで言える濃い桃色に別れた畑には、多くの村人と、畑の周囲を巡回している見張りの姿が見えた。今は丁度収穫しているのか、黒い畑により人が集まっており見張りもそちらに集中している。

 

「ここからだと判然としませんが、恐らくあれが薬の材料なのでしょうね」

「そうね。あの薬はどう見ても植物由来のものだったし」

「何にせよ、この警戒体制は普通の村落と比べれば明らかに異常です。隠したいことがある者程、警戒心は育つというもの。ここでは我々も慎重に行動した方がよいかと存じます」

 

 ホリィの提言に、双子は揃って頷いた。

 

「でもそうなると、具体的にどうするかよね……クルムオン、何か良い案はない?」

「そうですね……この状況を見ると、やはり夜襲は効果がありそうに見えますね。蛮族の姿は見えませんし、士気や練度も低そうです」

「成る程、夜襲」

「それなのですが……」

 

 ホリィは少し言いづらそうに口を出す。

 

「初手からの力押しはお控えなさった方が……殿下の仰る通り、彼等の士気は低く自ら望んで行動しているようには見えません。ただ操られるだけの哀れな民草に過ぎない可能性も」

「なるほど確かに。蛮族に脅されている可能性もあるわね」

 

 気を悪くした風もなくシャイレーゼは頷いた。クルムオンも同じようで、顎に手を当てて再び考える姿勢を見せる。

 

「なら寝返らせるとか?」

「出来なくは無さそうですが……そのためには彼等が何故従っているのかを知らないといけませんね」

「あー……そうね、人質なんか取られてるんだったら中々上手くいかないかも知れないわね」

 

 シャイレーゼは難しそうな顔をして頭を捻った。

 

「そうすると、一先ず兵士を連れてくるのはナシね。もし本当に人質がいるなら楯にされそうだし」

「となると、その辺りは少なくとも確認しなければなりませんね」

「まずは情報を集めないとか」

 

 双子の方針が情報収集で固まる。そういうことであれば、とホリィが早速案を提言した。

 

「情報収集するならば、今回の場合入り口に立つ見張りに声を掛けてみるのも手かと」

「正面から行くの?」

「はい。普通に話が聞ければ良し。武器を向けてくる可能性の方が高そうですが……村に近づくものを追い払おうとするのか、それとも『私達』を排除しようとするかで分かることもありましょう」

「成る程。僕達を認識し、敵として対応してくるなら蛮族から話が伝わっている可能性が高い……それだけ関係が深いということですね」

 

 突然やって来た冒険者、要するに武器を持った見知らぬ余所者を追い払おうとする村自体は、そう珍しくもない。冒険者を装って盗賊働きをする者など幾らでもいる。武力を持った他人の立ち入りを拒むのは、自衛としては決しておかしな選択ではないのだ。

 尤も、自衛手段を携えた旅人なぞそれこそ数え切れない程いるので、実際は嫌な顔をするくらいが殆どで、武器を向けて威嚇してくるようなことはまずない。そういった『非常に排他的な村』に近付きたがる人間はいないので、その内周囲の村や町などのコミュニティで共有されて疎まれ、困窮することになるからだ。

 そんな訳なので、手にした槍でいきなり突き掛かってくるようなことがあればかなりの異常事態である。特に、こちらの顔や風体を見て襲い掛かってくるようならば、門衛レベルにまで3人の情報が行き渡っていると言うことだ。クルムオンの言うような疑いはかなり濃厚と言える。

 

「集落内の警戒レベルが跳ね上がるリスクはありますが」

「その時はその時ね。もし手に負えないことになったら、引いて今度こそ兵を連れて来ましょ」

 

 残念だけど、とシャイレーゼは重い溜め息を吐いた。民を救いたい気持ちに嘘はないが、それ以上にこの集落は放置できない。もし問答無用で攻撃してくるような異常性を見せる集落であるならば尚更だ。

 ……本来であれば、蛮族と通じ、麻薬を密造する集落など、話を聞いただけで討伐のため、問答無用に兵を動かしてもおかしくはない。

 自分が進言したこととはいえ、それを入れて思い悩むシャイレーゼの姿にホリィは彼女の善性を見た気がした。

 

「……まぁ、そうならないように祈るしかないわね」

 

 気持ちを切り替えたか、肩を竦めたシャイレーゼはもう1つの案は? とホリィに問うた。は、と短く頷いてホリィは答える。

 

「こっそりと回り込んで中に侵入するのも手かと存じます。警備は厳重なようですが、それを担う人は半死人のようです。柵の作りも粗末なもの。付け込む穴は幾らでも見つけられるかと」

「侵入……潜入作戦ねぇ」

 

 シャイレーゼは疑わしげな視線を弟に向ける。

 

「……何です?」

「クルムオン、そういうの苦手じゃない。そういう技能ないし、鈍臭いし」

「酷い侮辱ですよそれは!? 第一お言葉ですが、技能ないのは姉さんも同じですからね? 性格だって雑で大雑把なんですから、僕より姉さんの方こそ潜入には向いていませんよ!」

「名誉毀損! ホリィ!」

 

 水を向けられた侍女は恭しく一礼する。

 

「私はクルムオン様の味方でございますので」

「味方がいない!」

 

 大仰に頭を抱えてのけ反ったシャイレーゼの着ている鎧からがちゃりと金属音が鳴る。金属鎧は防御力が高い分、どうしてもこういった音が出てしまう。動きも制限されるので、隠密性が優先される潜入作戦には不利(判定-4)なのだ。本来ならば。

 

「見張りはあの様子ですし、周辺には放置されて伸び放題になった薮も幾らかございます。流石に、あの中央の建物は難しいかと存じますが……畑周辺であれば、姫様でも隠れ潜むことは可能かと」

 

 然程警戒されていない状態ならば、直接目視されにくい場所に潜んで近くに来た際に音を出さないようじっとしてさえいれば案外気付かれないものだ。眠気で意識が朦朧としていたり、注意力が散漫になっていたりする相手ならば尚更である。何かと耳目を引きやすいシャイレーゼではあるが、今回はそう問題になるまいとホリィは判断していた。

 

「何というか、釈然としない気持ちはあるけど……」

 

 2案を聞いたシャイレーゼはむむむ、と数秒考えた後、選んだのかそうねと顔を上げた。

 

「一度ちゃんと彼等の話を聞いておきたい気がするわ」

「つまり、見張りから話を聞く方を選ぶと?」

「ええ。上手く説明出来ないんだけど、そうした方がいい気がして」

「僕も賛成ですね。あの様子ではこちらからアクションを投げ掛けてやらないと知りたい情報は得られない気がします」

 

 シャイレーゼの考えにクルムオンが賛意を示せば、もうホリィに言うことはない。承りました、と頭を下げた後、先程の道へと戻るべく双子が通り易いルートを示すのだった。

 




1つ裏話
第1話を書き始めた時点で既にこの辺りまで進んでいました。
双子の冒険者として活動する際の名前については最初から決めていた訳ではなくて、実際はこの頃に私の発案で決めました。王族の双子と同じ名前、年齢の双子の冒険者とか即身バレ案件だろ、と。
シャイレーゼはシャルかレーゼ、クルムオンはクルムかクーン辺りかなと思ってプレイヤー達と話合った結果今の名前になりました。
クルスといえば夜襲だそうで。


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