ソード・ワールド2.5 リプレイ 『煌日の姫と冴月の王子』 作:弧埜新月
茂みを飛び出した3人は真っ直ぐに建物を目指した。全速力だ。もう隠れ潜む必要はない。剣を抜いたままのシャイレーゼを先頭に、ヘビィクロスボウを携えたホリィ、剣の柄に手を掛けたクルムオンと物々しい一行が畑の間を駆け抜ける。
その騒々しさに、
しかし、流石に巡視の方は無関心とはいかない。労働者達のいる畑の見張りは出払っていたが、隣の畑を巡回していた男が3人に気付いたようだった。まだ若者と言っていい年頃のその男は突然の闖入者に当初ぽかんと目と口を見開いていたが、やがて自分の職務を思い出してか槍を両手で握り締める。
だが、見張りである彼は労働者達よりもまともな判断能力が残っているのか、はたまた単に臆病なのか。侵入者達が持つ立派な武器に気が付いたようだった。己が手には木の棒に粗末な穂先を括り付けたような貧相な槍1本。着ているのも襤褸1枚だけだ。どう考えても取り押さえるどころか足留めすらまともにできるか怪しいところである。
結局見張りの男は臆したように尻込みすると、転がるように建物へ向かって駆けていく。だが薬の影響か、もつれさせながら走る彼の足は遅い。その後ろ姿はあまりにも哀れだった。
こんな者達を見張りに立たせて一体何の意味があるのだろう。まだ見ぬブルシャとかいう首魁への怒りが否応にも増していく。きっと彼等のことなど心底どうでもいいのだろう。彼等の意志も、命も、尊厳も、何もかもが。
だがしかし、建物の方へ逃げていったいうことは、そちらに逃げ込む先があるということである。もしかしたら報告に行くのかもしれない。彼を追わない手はなかった。
柔らかい畑の土や轍に足を取られることを嫌った3人は畦道を真っ直ぐ駆け抜けると、男が消えた建物の角に向かって走る。待ち伏せを警戒して少し大回りに角を曲がってみれば、実の搬入口だろうか。取ってつけたような観音開きの扉が大きく開け放たれたままになっている。丁度3人が通ってきた薮からは他の建物の陰に隠れて見えなかった位置だ。付近に見張りの姿はない。3人は頷き合うとその中へと飛び込んだ。
飛び込んだ先にはそれなりに広い空間が広がっていた。中に明かりの類は無いようだが、幸い開けっぱなしになった扉から差し込む光で薄暗くはあるものの見る分にはそこまで不自由しない。
その部屋は正しく工場の中枢部、といった程をしていた。この扉が実の搬入口である、というのは正しかったらしい。この入り口から内部は幾つかに細かく区分けされており、搬入した実を加工して最終的に瓶詰めするまでの製造ラインが組まれているようだ。
そのラインに沿うように細い道があり、建物の正面の入口──上で見た二人の見張りが立っていた扉だ──の方へ伸びている。逃げた見張りの男はその先へ向かったようで、途中意図的なのか急いでいてぶつけただけなのか、道の側に配置されていた棚や机が幾つか倒れ、何らかの薬品や資材が床に散乱している。移動を阻害する効果はあるが、回り込めば幾らでも通る方法は見つかりそうだ。効果は限定的といえるだろう。
外から見えないように窓を廃した建物ということで、3人がまず警戒していたのは蛮族の迎撃だった。暗視を持つ蛮族は明るいところから暗い部屋に突入してきた人間を伏撃するのにうってつけだからだ。だが、中には蛮族、少なくとも大柄で身体能力の高いボルグの姿は見当たらない。代わりに蠢いているのは小柄な白い影であった。
「斃れても、働かされる……骨にされて」
そこにいたのは人のように動く人骨だった。蠢く白骨。スケルトンに相違なかった。
「死は労働をやめる理由にはならん……ってこと? ……ふざけてる」
シャイレーゼが握り締めた拳がぎしりと音を立てる。
元は集落にいた子供だったのだろうか。ここにいるスケルトン達は背が高くてもシャイレーゼの胸くらいまでしかなかった。彼等は侵入者にも差し込んできた光にも反応しない。倒された棚に巻き込まれたらしい個体もいるが、腰部を潰されて蠢く仲間に注意を払いもしない。ただ黙々と定められた作業をするだけ。
それはまるで畑で働く労働者達を彷彿とさせる姿で。
不気味な光景であると同時に、無性に悲しくなる光景でもあった。
「……こうやって死体を操る魔法が、操霊魔法にはあるんだったかしら」
「……ございます」
低い声で呟くように問うたシャイレーゼに、
「ですが、申し訳ございません。私にはまだ……」
「いいわよ、扱えなくて。こんなもの」
吐き捨てるようにシャイレーゼは言う。
操霊魔法は元来死体やゴーレムといった命なき者を操り使役するために生まれた魔法だ。魔法が生み出された当時である魔法文明時代では死体もゴーレムもあまり区別なく扱われていたようであるが、そこから3,000年経った現代では少なくともアンデッドを操る術は彼等の中でもタブーに近い扱いを受けている。
要はどんな技術も扱う者の性根次第ということなのだが……それを理解しながらも、シャイレーゼは湧き上がる操霊術師に対する嫌悪感を抑えきれそうになかった。
「……僕の神聖魔法では彼等を完全に浄化するには修行が足りていません。彼等を救うには術の効果が切れるのを待つか、物理的に破壊するしか……」
クルムオンが苦しそうにそう言う。それはつまり、哀れな犠牲者である子供達の死後の安寧を穢されたまま放置するのか、それとも彼女達の手で2度目の死を与えるか、という選択だった。
機械的に動く彼等に、果たして意志や魂といったものが残っているかは怪しいところだ。だからと言って心が割り切れるかというと……。
シャイレーゼは眉間に深く皺を寄せると、苦渋の顔で剣を握り直した。
「いいわ。私がこの子達を解放する」
「姉さん……いえ、僕も手伝います」
「要らないわ。この子達も私の領民だもの……だから、私に救う義務がある」
覚悟を決めた顔でシャイレーゼは一歩前に出た。彼等の死は自分で背負う。そう決意を固めた彼女だったが──その肩を、クルムオンが優しく叩いた。
「姉さんがそう言うなら、尚更一緒にやらせてください。僕とて王族。彼等は僕達の民なんですから」
「クルムオン……」
「彼等を救いたいのは僕も同じです。2人で背負いませんか、姉さん」
シャイレーゼは呆然と弟の顔を見返した。自分に向けられた慈愛の瞳を見詰め、そしてふっ、と強張っていた表情を緩める。その口許には僅かながら笑みが浮かんだ。
「そうね。確かにそうだわ。じゃあ、2人でやりましょうか」
「ええ。2人で彼等をこの地獄から解放しましょう!」
高らかに応じたクルムオンが引き抜いたフリッサを構える。
だが、その声に応えたのは姉ではなかった。
「──それは困るなぁ」
油脂で粘ついたような男の声が通路の奥から響いた。3人は一斉にそちらへと武器を向ける。神経質そうな靴音を響かせてそこから出てきたのは、趣味の悪い飾りで贅肉の付いた身体を飾り立てた小男だった。
「死体を用意して骨にするのはそれなりに手間なんじゃぞ。働き手が減るから表の奴等をおいそれと潰すわけにもいかんしな」
「……アンタがブルシャね」
「儂の名前を知っとったのか。ただの冒険者かと思っとったが……よもや王国の手の者か?」
感情を押し殺したシャイレーゼの声に、小男、ブルシャは訝しげに弛んだ己の顎を撫でる。どうやら双子の会話は殆ど聞こえていなかったようだ。まぁよい、とブルシャは太鼓腹を揺らすと、その吹き出物の目立つ顔を醜悪に歪めた。
「どちらにせよ、ここを見られた以上生かして返すわけにはいかんなぁ」
ブルシャが手を持ち上げ、太い指を器用にパチリと鳴らす。すると、部屋で労働していたスケルトン達が引いていき、代わりに通路の影から3体のスケルトンがかちゃかちゃと姿を見せ、ブルシャを隠すように並んだ。こちらはがっしりとした──骨ではあるが──大人の体格で、見張りとは違いしっかりとした剣と楯で武装している。スケルトンファイターと呼ばれるアンデッドだった。
ブルシャを護衛するように立つスケルトンファイターを見てホリィが苦い顔をする。悠長に話を聞くより先に手足の1本でも射抜いておけば良かったとでも考えていそうな顔だ。
その顔を見ていたブルシャがベロリと唇を舐めて嗤った。
「そうさな……たまには年頃の娘というのも悪くないかも知れんなぁ」
「ッ……!?」
反射的に身体を隠して後ろに退がったホリィを庇うようにシャイレーゼが前に立つ。
「この、下衆め……!」
柳眉を逆立てた彼女に対し、しかしブルシャの反応は淡白だった。露骨に萎えた顔で追い払うように手を振るう。
「お前のような年増はお呼びでないわ」
「年……ッ!?」
思ってもみなかったことを言われたシャイレーゼが思わず鼻白む。彼女はまだ15歳。年増と呼ばれるような年齢ではない筈だったがブルシャにとっては違うらしい。護衛がついて気が大きくなっているのか訊いてもない持論を滔々と詳らかにする。
「女なぞ10も過ぎればもう年増よ。それ以上になると肉と骨が硬くなり始めていかん。そういう意味ではそっちの娘も年増だが……」
ブルシャは嫌悪を滲ませるホリィの顔を見て下卑た笑みを浮かべた。
「まぁ、たまに摘むくらいであれば、これでもよかろうて」
「アンタ……! 人を何だと思ってるのよ!?」
男に堪らずシャイレーゼが激昂するが、ブルシャはどこ吹く風だ。
「儂に剣を向けてくるような者を人間扱いするわけなかろうが。損害を出さない分集落の奴隷共の方がまだマシというものよ」
そもそもだ、と彼は初めてその表情に怒気を乗せる。
「久々のお楽しみだったというに、一番いいところで邪魔をしてくれおって……! この落とし前、どうつけてくれるんじゃ!」
「お楽しみって……まさか!」
「そうよ。前から次愉しむ時はこれにしようと決めておった娘がおってな。それがさっき倒れたのよ」
苦労したんじゃぞ? とブルシャは自慢するように勿体を付けて言った。
「悪戯に畑の労働力を削るのも上手くないからな、倒れた時に遊ぼうと思うとったのよ。しかしこれが中々にしぶとい娘でな……少しずつ食事や休憩時間を削ってやって、ようやっと今日倒れたんじゃ」
「そんな御託はどうでも良いわ!」
何処に苦労があったのか分からない醜悪な話を遮り、シャイレーゼは怒鳴る。
「その子は無事なの!?」
怒声を上げつつも、僅かに希望もあった。その楽しみを邪魔されたのだと言うのなら、まだ先程の娘は無事ではないかと──まだ助けられるのではないかと考えたのだ。
だが、憎々しげに彼女を睨み返す男の異常性は彼女の想像を超えていた。
「無事でなぞあるものか。見張り共にようやっと汚れを落とさせて、首を捥いで、いよいよというところだったんじゃぞ」
「──何ですって?」
シャイレーゼの表情が抜け落ちた。彼女だけではない。側で聞いていたクルムオンも、ホリィも、似たような表情をしていた。
「首を、捥いだ……?」
「おうよ」
震える声で訊いたシャイレーゼに、ブルシャは得意気に胸を張って答える。
「捥いだ直後の、あの不随意な痙攣がいいのよ。どこに突っ込んでもいい。特に首なんぞ……」
「──貴様ァァァアアッ!」
ついに我慢の限界に達したシャイレーゼが突っ込んで剣を振り下ろす。同時にその脇を掠めるようにして太矢がブルシャを襲った。咄嗟にスケルトンファイター達がそれぞれ割って入り、矢の方は何とか防御に成功する。だが、練気を纏った剣の一撃は流石に無理だった。そのあまりの重さに受けた楯が耐えきれず、腕ごと粉々に砕け散る。
顔を
「チッ……これだから野蛮人は困るんじゃ」
鬱陶しそうに手を振ったブルシャの指示に応えてスケルトンファイター達が前に出て圧力を掛けてくる。堪らず引いたシャイレーゼに、ブルシャは侮蔑の目を向けてせせら笑った。
「どうせ女には血と吐瀉物の
「──男なら分かるみたいな言い方はしないで欲しいですね」
姉が退いてくるのに合わせて
「分からないし、分かりたくもない」
「それはお前が餓鬼だからじゃろ」
魔法を使うクルムオンを見て面倒くさそうな一瞥を向けたブルシャは、そこではたと手を叩いた。さも名案を思い付いたとでも言うようににたにたと嗤う。
「お前、儂につく気はないか?」
「……何だって?」
「一度味わえば世界も変わろう。どうじゃ。儂に永遠の忠誠を誓うと言うなら、その年増位ならくれてやってもいいぞ」
言われたことに、クルムオンの頭は真っ白になった。
この男は今何と言ったのだ?
敬愛する姉をダシにして、自分に何をしろと言ったのだ?
「こ、の……外道がァッ!」
姉もかくやと言うような赫怒を発したクルムオンに、ブルシャは心底煩そうに眉を
「なんじゃ、本気にしたのか?」
馬鹿め、と吐き捨てる。
「お前なんぞ生かしておくわけがなかろうが。皆仲良く骨の仲間入りよ」
もう構うつもりはないとばかりにブルシャは歯軋りするクルムオンから視線を切ると、未だにシャイレーゼと切り結ぶスケルトンファイター達に目を向けて苛立たしげに手を叩いた。
「何を遊んでおる! 小娘1人くらいさっさと始末せんか!」
──彼は、戦場に立ったことがないのだろう。
だから、彼我に横たわる絶対的な技量差に気付けないのだ。
幾ら魔法の援護があり、敵が剣技など望むべくもないスケルトンだからとはいえ。
自分と同程度のリーチの敵3体に囲まれて、攻撃を無傷で捌き続けられる女が並みである筈がないというのに。
「そこォッ!」
ホリィからも
しかし流石に劣勢であるというのはブルシャにも理解出来たらしい。初めて焦った声を上げる。
「な、何をやっておるかッ!?」
だが叱責を受けてもスケルトン達の動きは変わらない。当然である。彼等に命じた者の焦りや怒りに忖度する知能などない。
この男が、彼等をそのように変えたのだ。
「ホリィ、まずは纏めて数を減らします。合わせてください! キルヒアよ──」
「承りました! ──ザス・ヴァスト・ル・バン……」
応じたホリィが口早に詠唱を始めたのに先んじて、クルムオンはスケルトン達を真っ直ぐに見つめながら神へ請願する。腰を落として受けに回る姉へ、愚直に攻撃を繰り返すアンデッド達。彼等もまた、ブルシャの犠牲者なのだろう。
彼が救えなかった憐れな民。その成れの果て。
──救うことが叶わぬならば。せめて、この地獄から解き放つ。
「──この者達に、癒しをッ!」
その声に、あらん限りの力と想いを込めて、クルムオンは神へ乞い願う。
その真摯な願いへの応えは、降り注ぐ暖かな光として顕れた。
『ォ……アァ……ァ……』
柔らかい光に照らし出された手負のスケルトン達が声帯もないのにそう呻き声を上げた。その骨の身体からジュウジュウと音を立てて黒い煙が抜けていく。彼等に仮初の命を与えていた穢れが浄化されているのだ。
だが、その漏出は直ぐに止まる。光を浴びたスケルトン達は酷く消耗した様子だったが、構わずに剣を振り上げた。
分かっていたことだ。クルムオンの研鑽は、彼等を侵す全ての穢れを祓うには足りていない。彼だけでは、囚われた彼等を救えない。
だが、彼は1人ではないのだ。
「──シャイア・ラクラウ── ジバジガッ!」
神聖魔法が効力を失った直後、入れ替わるようにホリィの魔法が完成した。彼女が腕を真っ直ぐに伸ばして指差した一点、スケルトン達が乱戦を繰り広げるその頭上に、バチバチと空気の爆ぜる音を立てて小さな雷球が生まれる。
彼女とて、この国とその領民を想う者。冒涜されし死者を、せめて眠らせてはやりたいと。
決意を眼差しに込めたホリィはそのまま、叩き付けるように腕を振り下ろした。
「【スパーク】ッ!」
ホリィの力ある言葉を受けて、解けた雷球から紫電の光が幾筋もの細い雷となって辺りに降り注ぐ。
術者が駆け出し同然とはいえ、魔法は魔法。彼女が生み出した雷撃は、避けれも防げもしない一撃として一帯を等しく灼いた。
『──ァ……』
スケルトンの内、剣と浄化を受けていた2体がばらばらと崩れてただの骨に還る。彼等を縛っていた邪法がついにその存在を維持できなくなったのだ。
そして、
「ぐっ……!」
雷撃に撃たれたシャイレーゼが小さく呻いて身体を強張らせた。この魔法は一定の範囲に極小の雷の嵐を降らせるもの。そこに敵味方の区別などありはしない。
「なっ……!? あの女、味方ごと魔法で撃つなど、正気か!?」
「貴方に言われたくありませんね」
ホリィは詠唱の為に片手を離したクロスボウを構え直しながら、それに、と付け加える。
「信じているから撃てるのです。私も、その方も」
「──そういうことよッ!」
紫電の余波を剣で吹き散らしてシャイレーゼが吠える。魔力を妨げるのは魔力のみ。その重厚な鎧も練気を纏った肌も魔法の前では意味をなさない。薄く煙を立ち昇らせる姿はそのダメージが決して少なくないだろうことを窺わせたが、シャイレーゼはそれを感じさせない動きで生き残った最後のスケルトンファイターに斬り掛かった。
魔法を受けても生き残っただけあり、そのスケルトンファイターは他の2体よりも強力な個体ではあったらしい。ブルシャも最後の望みを掛けていたようだったが……3体で囲んでシャイレーゼの防御を崩せなかったのだ。どうなる筈もない。
シャイレーゼの鋭い一閃が、剣を持ち上げようとした右腕を肘から斬り飛ばす。バランスを崩してよろめいたその左肩をクルムオンの【フォース】が粉砕し、ホリィの放った矢が左膝を撃ち抜いた。
瞬く間に四肢の殆どを潰されたスケルトンは、崩れるままに片膝を突いて目の前に立つ騎士を見上げる。最早動くことすらままならない有様だったが、それでも反撃しようというのか、骨を軋ませて胸を反らす姿はまるで、最期を悟って介錯を頼もうとする戦士のようにも見えた。
シャイレーゼは一度瞑目すると、楯を投棄して両手で剣を振り被る。
「──おやすみなさい」
呟きと共に振り下ろされた長剣が、スケルトンファイターを両断した。完全破壊されたスケルトンはシャイレーゼに道を譲るように左右に分かれて斃れ、砕け散る。
「ひ、ひぃぃ!」
頼みの綱が破壊されたのを見た瞬間、顔色を完全に無くしたのはブルシャだった。彼は情け無い声を上げて背を向けると、泡を食ってなりふり構わず逃げ出そうとする。遅すぎる判断だった。
「逃しませんよ、下種め」
ホリィの太矢が情け容赦なくブルシャの膝裏を撃ち抜く。汚い悲鳴を上げもんどりうって倒れ込むブルシャ。砕かれた膝を抱えてのたうち回る小男の前に、双子が剣を携えて立つ。ブルシャは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を懸命に持ち上げて2人を仰ぎ見た。
「こ、殺さないでくれ! 何でもくれてやる! じゃから、命だけは……!」
「ふざけるなッ!」
激したクルムオンがフリッサの鋭い切先を男の眼前に突き付ける。
「今までその言葉を発した者をどれだけ踏み躙って来た! 今更自分だけ逃れられるとでも!?」
「ふ、踏み躙ったことなぞないぞ! 儂が手に掛けて来たのはそんなこと何も考えられんようになった連中ばかりじゃ! じゃから……」
この期に及んでそんな台詞が吐ける辺り、この男は真性の異常者なのだろう。
「ッ……! 貴様ァッ!」
一層怒りを発したクルムオンが弓のように剣を引く。
その腕を掴んだのは能面のような顔をしたシャイレーゼだった。
「姉さん!? 何で……!」
「ここは私の領地よ。どう裁くかは私が決める」
有無を言わさぬその声に、クルムオンは後の言葉を呑み込んで一歩後ろに退く。入れ替わるように前に出たシャイレーゼは、ひたり、と目の前の醜男を見下ろした。ブルシャはその傲然とした視線に思わず痛みを忘れて唾を飲み込む。
シャイレーゼはそんな屠殺を目前にした家畜のように縮こまる男に、欠片の優しさもない声で語り掛けた。
「安心しなさい。知ってることをちゃんと吐けば、命は保証するわ」
「お、おお……本当か……!?」
命は保証する、と彼女が言った瞬間、目の輝きを取り戻したブルシャがその足元に縋り付こうとした。それを表情を変えぬまま蹴倒したシャイレーゼは鷹揚に頷く。
「嘘偽りなく真実を話すのであれば、この私、シャイレーゼ・サンクネック・ハイゼンの名に賭けて、命だけは助けてあげる」
「さ、サンクネック……!? ハイゼン公……!?」
ようやく相手の正体を思い知ったブルシャが今更震え上がる。てっきり王家の手の者だと思い込んでいた。だが実際は手の者どころか王家そのものに直接弓を引いていたのだと。
「だが──分かっておろうな?」
男が
彼女が見た目通りの15の少女ではなく、
「私がこの名を賭けたのだ。
「そ、そんな──」
「余計な言葉も許さぬ」
ドンッ! と己の爪先を掠めて床に突き立ったバスタードソードの冷たい輝きにブルシャは息を詰まらせる。
「まぁ、吐きたいというなら虚言でも無駄口でもいくらでも吐くがよい」
剣を引き抜きながら、シャイレーゼは
「その時は──楽に死ねると思うな」
ブルシャは悲鳴を上げようとし、咄嗟に自分の首を絞めるようにしてそれを押し留めたのだった。
今回でブロック2が終了になります。
えー……一応原作シナリオの名誉のために申し上げておくと、原作のブルシャはロリコンでもネクロフィリアでもありません。普通の小悪党です。
私がノリノリでキーパリングしてたらですね、気付いたら流れるように罪もない幼女が斃れ、工場で働くスケルトン達は子供になり、ブルシャは外道のド変態になりました。
こちらが私の平常運転になります。ハイ。
……気を取り直しまして、ブロック3と比較して算出した成長結果が以下となります。
◯シャイレーゼ
ファイター:4⇒5、エンハンサー:3、ライダー3、アルケミスト:1
新規技能:【武器習熟A:ソード】
武器変更:バスタードソード⇒スティールブレイド
防具変更:ナイトシールド⇒グレートウォール
◯クルムオン
フェンサー:4、プリースト(キルヒア):3⇒4、セージ:3
新武器購入:スローインググラブ
◯ホリィ
スカウト:4⇒5、シューター:3、コンジャラー:2、マギテック:1、ウォーリーダー1、レンジャー:1
新規技能:【魔法拡大/数】
シャイレーゼは純粋に火力と防護点を上げに行ってます。前線を一人で支えるので妥当な判断ですね。
クルムオンはもう前線に出そうという考えが全員になかったので、プリーストを伸ばしてサブウェポンとしてスローインググラブを買っています。後列から投げ付けるんですね。
【ターゲッティング】無いから姉のドタマに当たる?大丈夫。姉硬いから当たっても効かぬ。
ホリィはスカウトを伸ばして魔法拡大/数を取りました。命中はこのレベル帯では既に十二分*1なので、支援能力を強化しました。