艦娘の咆哮   作:Bu3og

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間話1

ー解放軍地下軍港・基地庁舎ー

 

 我々は北大西洋から北極圏に属する北アメリカ大陸バフィン湾へと入り、さらに進むと断崖絶壁に偽装した『解放軍』の地下ドックへと入った。

 地下ドックの規模は、もはや一つの港湾都市が入るほどの規模を有している。

 

 タグボートの誘導で『双六』が岸壁に係留されると、岸壁に自動車が用意されていた。

 

 私と古鷹。大淀の3人が解放軍司令部に案内された。

 

 案内された司令長官室には、まさに『提督』という敬称に相応しい老年の海軍将校が出迎えてくれた。

 

「ヴァウワース提督から報告は受けている。『解放軍』にようこそ。コマンダー・アズマ。私は『解放軍北米方面総司令』ーー実質海上部隊の総司令を務めているヘクター・ヒューバード。階級は正式なものではないが、『解放軍大将』だ」

「よろしくお願いします」

 

 ヒューバード大将はにこやかにコーヒーを一口飲むと、口を開いた。

 

「さてと、まずこの世界についてだが……君たちを攻撃した連中。『帝国』という存在は有史以来、地球の陸と海の8割を掌握している最大規模の国家だ」

「8割っ!?」

 

 私はヒューバード大将の言葉に絶句した。私の記憶にある国家の中で最大版図を誇るものと言ったら、7つの海を支配した『ブリタニア連邦帝国』。もしくはユーラシア大陸の最大版図を誇った『モンゴリア帝国』の2つしか思いつかなかった。他に我が皇国より国土が大きい国家は存在するが、地球の8割を支配するなどどれだけの時間と労力が掛かるかわったものではない。

 

「その世界最大の国家に抵抗するのが、我々『解放軍』だ。言っては悪いが、『解放軍』は『帝国』に滅ぼされた国家の残り(カス)だ。これを言うと首脳部は怒るがね」

 

 私は『解放軍』の内部事情。特に悪い言い方を淡々と話すヒューバード大将に妙な違和感を感じた。

 

「なんだかんだ言って、我々(解放軍)奴ら(帝国)との戦争は半世紀以上続いている。そして、我々は敗北の坂を下っている」

 

 ヒューバード大将の話す言葉に、ある種の諦めが含まれていることを感じた。この老提督が幾つなのかわからないが、物心ついたときから『解放軍』と『帝国』の戦争が起きており、剰え『解放軍』が敗戦を重ねているなら、一種の諦めも生まれるというものだ。だが、この老提督はその思いすら抗うほどの精神力を備えていることに私は驚愕を覚えた。

 

「さて、我が『解放軍』は海上部隊が大きく劣っているのが現実だ。現状有力な部隊となると、君たちを連れてきたヴァウワースの空母艦隊と他に数隻の巡洋艦。他所で活動している偵察用の潜水艦か沿岸用の魚雷艇位だ。それに対して『帝国』は地球統一を目指して『超兵器』を各地に展開している」

「失礼ですが、『超兵器』とは何ですか?」

 

 大淀の質問にヒューバード大将は腕を組み軽く考えると、質問に答えた。

 

「『超兵器』とは、大艦隊をたった1つで壊滅させるほどの戦闘力を持った存在……と言ったところだな。戦場に長くいたら、いつか出会うだろう」

「仮に、我々が『超兵器』と遭遇したら、どうすればよいですか?」

「それなら逃げに徹することだ。戦って撃退しようなど考えた者は、全て海の底に消えてしまった……」

 

 私はヒューバード提督の諦観した顔に何も返すことができなかった。

 

「おっと、こんなしみったれた空気を作るためじゃないんだった」

 

 ヒューバード提督は手元の白い電話機?に指を伸ばし、話しかけた。

 

≪こちら総務室です≫

「ヒューバードだ。ナギ少尉を総司令執務室に寄こしてくれ」

≪わかりました。直ぐに≫

「さて、君たちは『解放軍』とは違う組織だ。兵站業務もさることながら、書類業務は相当に負担になるのが目に見えている。そこでだ、君たちみたいに『解放軍』参加者の業務を補佐する人員を照会しようと思う」

「そうですか。それはありがたいことです」

 

 私が回答すると、丁度話していた相手が部屋に入ってきた。

 

「はっ……始めましてっ!! 皆さんの業務オペレーターを担当します。ナギュッ…ナギ・ブルックナー少尉と申します。よろしくおねがいしますっ!!」

(噛んだな……)

(噛みましたね……)

(噛んじゃったかぁ……)

 

 私はこの舌足らずなしゃべり方をする若い女性士官(見慣れてはいる)を見た瞬間。並の軍人なら心配する(こんなので大丈夫か?)と思うだろう。しかし、艦娘相手に仕事をする身として「新しい艦娘が建造されましたっ!!」位の感覚で私は受け入れた。

 

「東 麗次です。これからよろしくお願いします」

「よっ。よろしくお願いします」

 

 部下の中でも、この空回りっぷりを発揮するのは誰かなと想いを馳せていると、この年若いオペレーター(標準的軍人の年齢と比較して)の抱える硬そうな冊子?(データパッド)に目が向いた。

 

「ナギ少尉。その抱えている物は?」

「えっ? あっ……これですか? ヒューバード総司令にお渡しせよとゴツィネフ幕僚より言われまして」

「そうか? 見せてくれ」

 

 ナギがそれをヒューバード提督に渡すと、手慣れた手つきで操作し始めた。開くものじゃないのか……。(1950年代基準の人)

 時間が経つにつれて、ヒューバード提督の顔が険しいものに変化していった。恐らくあまり良くない報告だったのだろう。

 ヒューバード提督は先ほどと同じように白い電話機に指を伸ばした。

 

≪はい。幕僚室です≫

「ヒューバードだ。動ける部隊の情報を集めてくれ。そちらに行く」

≪わかりました。準備します≫

「コマンダー・アズマ。急用ができたので失礼させてもらうよ」

「わかりました……申し訳ありませんが、何があったのですか?」

「うむ。どうやら敵の巡洋艦部隊がここに接近しつつあるらしい」

「そうですか。戦力は十分なのですか?」

「……少なくとも、君とヴァウワースの艦隊を除くこの基地の艦艇すべてを投入すれば勝算はある」

 

 ヒューバード提督の歯切れの悪さから、勝算は低いだろうと感じた。

 最初、私はこのまま流れに身を任せようかと考えた。

 巡洋艦『双六』は少なからず被弾しているし、『東雲』と『紅雲』も共に消耗しているーーしかし、我々の主戦力(・・・)は特に損耗していない。

 他人に分の悪い戦いを押し付けるより、自ら活路を開くことを考え提案した。

 

「ヒューバード提督。もし我が軍の『双六』に燃料を優先的に補給して頂けるなら。その敵巡洋艦部隊の撃退を我々がお引き受けましょうか?」

 

 私の言葉を横で聞いていた古鷹と大淀が目を点にしながら視線を向けてきた。

 2人は私の下で十年以上も仕事をしてきた仲だ。ある意味私がその手の言葉と程遠い性格の持ち主であることを理解しているからだ。

 

「ーーそれは、敵巡洋艦部隊を退散させることができるいうことかね?」

「敵の数にもよりますが、撃滅も可能ではないかと考えます」

 

 ヒューバード提督は数秒間考え、私の提案に返答した。

 

「いいだろう。敵巡洋艦部隊の迎撃。コマンダー・アズマに任せる」

「ありがとうございます」

「ナギ少尉。早速彼に付いて行って必要な補給物品を纏めたまえ」

「わっ!! わかりました」

 

 私たち3人はナギと共に『双六』へと戻り、補給物品の取りまとめと損傷個所の応急修理を開始させた。

 

 私は作業の進捗を確認しつつ、艦橋で艦長と話していた。

 

「ーー敵巡洋艦部隊の撃退ですとっ!? 正気ですか東司令!?」

「らしくないというのはわかる。だが、ここで何もせず事態を見守っていたら、我々はこのまま敗北する可能性があるからだ」

「しかし、だからと言って『解放軍』の部隊を差し置いて我々が出る理由がありません。それに、本艦は万全の状態ではないのです」

「だからこそ、『解放軍』側に補給と整備を大急ぎで進まさせているんだ」

「確かに彼らは迅速に作業を進めてくれていますが、だからと言って我々が無理をする必要が理解できかねます」

「艦長。艦の保全の為にそう言うのはわかる。だが、既に我々は『帝国』と交戦しているのだ。どのような未来を得るにしても、『解放軍』と共に進むことが最善だと私は思う」

「……もし祖国に戻ったら、軍令部の方に司令のことを報告させてい頂きます。よろしいですね?」

「生きて祖国の地に踏めればいいがね……」

 

 艦長との口論を終わらせると、私は艦内の状態を確認しに行った。

 

 

 『解放軍』秘密基地に入港してから6時間と少し。『双六』の補給と応急修理が完了した。

 

「東司令。出港準備が整いました。損傷個所以外の異常はありません」

「そうか。わかった……『解放軍』側の指示に従い、出港作業に入れ」

「わかりました」

 

 サイドパイプが吹かれると『双六』はゆっくりとタグボートに曳かれながら岸壁から離れた。

 残された『東雲』と『紅雲』の乗員が我々の出港を見届けに来ていた。

 私も彼らに倣い答礼し、『双六』の手空きも同じように各々舷側に集まって答礼した。

 

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