ゲシュペンストの異世界渡り -Multiverse Crusaders- 作:サツキタロオ
新暦57年――
外宇宙進出に敗れた人類は、火星・月・地球に活動圏を限定され、夢なき時代を生きていた。
国家は形骸化し、台頭したのは技術と資本を力とする新興軍事企業群――技術資本連邦(TCU)。
兵器開発は競争と利益にまみれ、戦場は「戦う理由」より「競う理由」が支配する。
そんな時代、青年・霧島鷹真は、就職先として戦艦《シロガネ》に乗艦。
軍事企業《マルチワークス・パーソナリティ》の新型パワードスーツ《ゲシュペンスト》のテストパイロットとして、過酷な第一歩を踏み出す。
だがその最中――突如として空間が裂けた。
次元歪曲現象《DBD》、宇宙各地で観測されていた謎の空間事象が、彼らを呑み込む。
戦艦《シロガネ》、そしてゲシュペンストは、光の中へと姿を消した…
第2話:海に浮かぶ少女達
〜三人称視点.
DBDの発生によって空間に生じた裂け目は、シロガネとゲシュペンストを飲み込むと、まるで何事もなかったかのように静かに消え去った。
その場には、もはや何も残っていなかった――。
数分後――
艦内、ブリッジ。
「被害報告!」
艦長・小野寺の号令に、オペレーターたちが一斉に状況確認に動く。
同時に、周囲に異常がないことを確認した艦長は、ゲシュペンストの回収を命じた。
◆
――艦内・格納庫。
機体の足元に着地したゲシュペンストの装甲が開き、中から鷹真がよろめくように降り立つ。
「……はあ、死ぬかと思った……」
アーマーを外し、乱れた呼吸を整える鷹真。
酸素濃度は正常、空気は吸える――それだけでも、まだマシかもしれない。
スーツから解放された体に微かな重力の違和感を覚えながら、彼はふらつく足取りで艦外へ出る。
「……海……?」
目の前に広がっていたのは、四方を青く染める広大な海原だった。
空は澄み、風も吹いているが、明らかにここは元いた荒野とは異なる場所だ。
「……どこなんだ、ここは……?」
しばし茫然とするも、今は状況確認が先と判断した鷹真は、ブリッジを目指して足を速めた。
……ブリッジ。
ドアが開くと同時に、若い女性オペレーターがこちらに気づいた。
「お疲れ様です。あなたがゲシュペンストの装着者さんですか?」
「え? あ、はい……」
戸惑いながらも返答する鷹真。
直後、艦長の声が背後から飛ぶ。
「彼女は藍沢翔子。新人のオペレーターだ。よろしく頼む。」
「……どうも。」
翔子は小さく微笑み、端末に視線を戻す。
どうやらすでに解析を始めているらしい。
鷹真は艦長のほうを振り向いた。
「艦長、ここって……いったい、どこなんです?」
「……さあな。あのDBDの影響で空間ごと吹き飛ばされたんだ。正確な座標は……まだ特定できておらん。」
艦長の表情には苦悩が滲んでいた。機関部も通信も生きているが、外部との接続は一切不能。
この場所が「宇宙」なのか「異世界」なのか、それすらわからない。
そんな最中――
「なんだ!?」
オペレーターが端末に目を走らせ、息を呑む。
「艦長! 水面上にて複数の未確認機影を感知!……軍隊、いえ、怪物です!」
「何だと!? 映像を出せ!」
モニターに映し出されたのは、異様な姿をした複数の機影だった。
手はなく、胴体からは白い脚部が突き出し、艦とも生物ともつかない異様なフォルム。
全体の輪郭は魚雷のようでもあり、しかし“機械”ではない不気味さを纏っている。
鷹真は即座にゲシュペンストを起動し、出撃を決意する。
………………
機体のブースターが吹き上がり、装甲を纏った鷹真は波間に浮かぶ。
空と海が溶け合う景色の中、不気味な機影たちがこちらへ向かってくるのが見えた。
『鷹真、やれるか!?』
「ええ。こいつらを倒せば戦闘データにもなりますし、武装テストもまだ不完全ですからね。」
『わかった。ただし、無理はするな。これはもう訓練じゃないぞ』
鷹真は小さく息を吐き、通信を切った。
「……テストであって、実戦じゃないなんて保証は、最初からなかったさ!」
ニュートロンビームを取り出してそのまま発射。
「くらえ!」
一体の怪物が、胸部を抉られて爆発し、そのまま海の底へ沈んでいった。
「よし……!」
鷹真のゲシュペンストが海上を滑るように移動しながら、左肩部のランチャーを起動。
ロックオン完了――次の瞬間、ミサイルが一直線に発射された。
「スプリットミサイル、発射!」
「よし、残りは――三体か」
その時――
『!? 艦長! 新たな高エネルギー反応が急速接近!数、3!』
「なにっ!? 敵の援軍か……!?」
飛翔したミサイルが敵の胴体に着弾。海上で火柱を上げ、二体目の怪物が海中へ沈んでいく。
「うひょー!なんだよあの戦艦!?でけぇー!ハガネ*1と同等なんじゃねぇか!?」
先頭を飛ぶ少女、響が活発に叫ぶ。
「しかし、何処にもあの艦のデータは無い…」
「………異世界の戦艦か…」
3人は視線を移し、海上に立つゲシュペンストの姿を確認した。響はその姿に大盛り。
「なぁ球磨、瑞鳳!あれゲシュペンストだぜ!かっけー!」
(ゲシュペンストって21mぐらいだよな。)
(何故パワードスーツのようなんだ。)
球磨と瑞鳳は内心で思いながらも、目の前の戦況を優先する。
「深海棲艦を排除するぞ。響、ゲシュペンストの奴にも通信を送れ。」
『こちら、第七遊撃部隊、旗艦・響。そこのゲシュペンスト、聞こえるか?』
「何、何故ゲシュペンストの事を…』
「説明は後!ひとまずコイツらを蹴散らすぞ!」
返事を待たず、3人は一斉に武装を展開し、深海棲艦の群れへと突入していった。
「あの戦い*2からまだ深海棲艦残党が湧いて出んのかよ。」
「たくっ、蹴散らすのも一苦労だぜ!」
そう言って響はブースターに格納されたグレイブを構え、前方のイ級に斬りかかる。
鋭い軌跡を描いた刃が、深海棲艦の装甲を一撃で切り裂き、爆発と共に撃沈。それに続く球磨。
「…ようやく戦いが終わって落ち着けると思ったのに…」
球磨が文句を言いながらビームサーベルを構える。
「しょうがないだろう。残党討伐は任務だからな。」
瑞鳳が冷静にそう言い放った。
「……はあ…貴重な休暇を邪魔した怒りはお前らにぶつけてやる!」
そう言ってビームサーベルで敵に斬りかかり、そのまま蹴り飛ばした。
それを逃さないと瑞鳳がビームライフルで正確に撃ち抜いた。
イ級の残党を蹴散らし、戦場はようやく沈静化した。
海の上を漂いながら、響がくるりと旋回して隣の球磨に声をかける。
「なあなあ、球磨。あの戦艦、気になるよな。中に人も居るみたいだし、行ってみようぜ?」
「……そうだな。状況を整理するには接触が必要だ。なあ、瑞鳳、お前もそう思うだろ?」
「……同感。あれほどの艦と機体、見過ごせるわけない」
三人は小さく頷き合い、球磨が端末を起動。すぐにシロガネへ通信を送る。
『こちらは横須賀鎮守府所属、第七遊撃部隊の球磨。情報交換を望む。可能であれば、貴艦への乗艦を許可していただきたい。』
通信を受け取った艦橋では、鷹真と翔子が顔を見合わせた。
「……どうしますか、艦長」
「……こちらとしても、情報が喉から手が出るほど欲しい状況だ。よし――乗艦を許可しよう」
………………………………
-シロガネ 応接室-
簡素ながら落ち着いた内装の部屋に、艦娘の三人が招き入れられた。
深海棲艦との交戦直後にもかかわらず、誰一人として疲れた様子は見せていない。
ソファに座った球磨が、丁寧に頭を下げる。
「乗艦を許可していただき、ありがとうございます。改めて自己紹介を――私は横須賀鎮守府所属、球磨型軽巡洋艦の球磨と言います」
「俺は響。第七遊撃部隊の旗艦を務めてる」
「……瑞鳳。軽空母だ」
簡潔だが、礼節ある挨拶を交わす三人。
だが、それを受けたシロガネの艦長――小野寺は、微妙に困惑した表情を浮かべていた。
「……ヨコスカ? チンジュフ……? それは……どんな組織なんだ?」
「えっ?」
戸惑う三人に、さらに追い討ちをかけるように小野寺が言葉を続ける。
「それに……なぜ、我々のゲシュペンストのことを知っている? あのパワードスーツは我々の世界で極秘扱いのはずだ。」
鷹真も眉をひそめる。
「……情報漏洩の可能性はないと思うんですが。ていうか、何で知ってるんです?」
その言葉に、響が腕を組みながらぽつりと呟く。
「……なんか、話が噛み合ってない気がするな。」
瑞鳳が目を伏せ、考え込むように呟いた。
「……やっぱり、異世界から来たってことなのかな」
球磨が小さく頷く。
「そう考えた方が、色々と説明がつく。艦も機体も、我々の世界じゃ見たことがないし……」
小野寺は、静かに溜め息をつき、項垂れるように椅子に沈み込んだ。
「……やはり、そういうことか……。実を言うと、我々は数時間前――DBD、次元歪曲現象に巻き込まれ、強制転移させられた。」
「……!」
「元いた世界から、ここへ……場所も時間も、どこなのかすら不明だ。」
艦長の言葉に、艦娘たちは沈黙する。
そして――
響がゆっくりと目を上げた。
「……なら、協力してみる? 異世界から来たってんなら、放っておけないし」
瑞鳳も静かに頷く。
「それに……ゲシュペンストの機体性能、俺は気に入った。敵じゃないなら、味方でいい。」
球磨がにっと笑った。
「情報は交換し合うべき。そっちにも、知りたいことは山ほどあるだろう?」
鷹真が苦笑交じりに言う。
「……ありがたいです。正直、こっちは右も左も分からないんで。
艦長も軽く頷いた。
「――ならば、まずは状況の整理から始めよう。
こうして、異世界から飛ばされてきた戦艦《シロガネ》と、艦娘たちとの出会いは、静かに幕を開けた――。
次元の歪みがもたらす邂逅は、まだ始まりにすぎない。
なんか出して欲しい作品あったらコメントしてください。
次回は日本に上陸です。
別の分岐ルートも…
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