ゲシュペンストの異世界渡り -Multiverse Crusaders-   作:サツキタロオ

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【前回のあらすじ】
新暦57年――

外宇宙進出に敗れた人類は、火星・月・地球に活動圏を限定され、夢なき時代を生きていた。
国家は形骸化し、台頭したのは技術と資本を力とする新興軍事企業群――技術資本連邦(TCU)。
兵器開発は競争と利益にまみれ、戦場は「戦う理由」より「競う理由」が支配する。

そんな時代、青年・霧島鷹真は、就職先として戦艦《シロガネ》に乗艦。
軍事企業《マルチワークス・パーソナリティ》の新型パワードスーツ《ゲシュペンスト》のテストパイロットとして、過酷な第一歩を踏み出す。

だがその最中――突如として空間が裂けた。
次元歪曲現象《DBD》、宇宙各地で観測されていた謎の空間事象が、彼らを呑み込む。

戦艦《シロガネ》、そしてゲシュペンストは、光の中へと姿を消した…


第一章:裁世篇
第2話:海に浮かぶ少女達


 

〜三人称視点.

 

DBDの発生によって空間に生じた裂け目は、シロガネとゲシュペンストを飲み込むと、まるで何事もなかったかのように静かに消え去った。

 

その場には、もはや何も残っていなかった――。

 

 

 

数分後――

 

艦内、ブリッジ。

 

「被害報告!」

 

艦長・小野寺の号令に、オペレーターたちが一斉に状況確認に動く。

同時に、周囲に異常がないことを確認した艦長は、ゲシュペンストの回収を命じた。

 

 

 

 

――艦内・格納庫。

 

機体の足元に着地したゲシュペンストの装甲が開き、中から鷹真がよろめくように降り立つ。

 

「……はあ、死ぬかと思った……」

 

アーマーを外し、乱れた呼吸を整える鷹真。

酸素濃度は正常、空気は吸える――それだけでも、まだマシかもしれない。

 

スーツから解放された体に微かな重力の違和感を覚えながら、彼はふらつく足取りで艦外へ出る。

 

 

 

「……海……?」

 

目の前に広がっていたのは、四方を青く染める広大な海原だった。

空は澄み、風も吹いているが、明らかにここは元いた荒野とは異なる場所だ。

 

「……どこなんだ、ここは……?」

 

しばし茫然とするも、今は状況確認が先と判断した鷹真は、ブリッジを目指して足を速めた。

 

……ブリッジ。

ドアが開くと同時に、若い女性オペレーターがこちらに気づいた。

「お疲れ様です。あなたがゲシュペンストの装着者さんですか?」

「え? あ、はい……」

戸惑いながらも返答する鷹真。

直後、艦長の声が背後から飛ぶ。

「彼女は藍沢翔子。新人のオペレーターだ。よろしく頼む。」

「……どうも。」

翔子は小さく微笑み、端末に視線を戻す。

どうやらすでに解析を始めているらしい。

鷹真は艦長のほうを振り向いた。

「艦長、ここって……いったい、どこなんです?」

「……さあな。あのDBDの影響で空間ごと吹き飛ばされたんだ。正確な座標は……まだ特定できておらん。」

艦長の表情には苦悩が滲んでいた。機関部も通信も生きているが、外部との接続は一切不能。

この場所が「宇宙」なのか「異世界」なのか、それすらわからない。

 

そんな最中――

 

「なんだ!?」

オペレーターが端末に目を走らせ、息を呑む。

「艦長! 水面上にて複数の未確認機影を感知!……軍隊、いえ、怪物です!」

「何だと!? 映像を出せ!」

 

モニターに映し出されたのは、異様な姿をした複数の機影だった。

手はなく、胴体からは白い脚部が突き出し、艦とも生物ともつかない異様なフォルム。

全体の輪郭は魚雷のようでもあり、しかし“機械”ではない不気味さを纏っている。

 

鷹真は即座にゲシュペンストを起動し、出撃を決意する。

 

………………

 

機体のブースターが吹き上がり、装甲を纏った鷹真は波間に浮かぶ。

空と海が溶け合う景色の中、不気味な機影たちがこちらへ向かってくるのが見えた。

 

『鷹真、やれるか!?』

「ええ。こいつらを倒せば戦闘データにもなりますし、武装テストもまだ不完全ですからね。」

『わかった。ただし、無理はするな。これはもう訓練じゃないぞ』

鷹真は小さく息を吐き、通信を切った。

「……テストであって、実戦じゃないなんて保証は、最初からなかったさ!」

 

ニュートロンビームを取り出してそのまま発射。

「くらえ!」

一体の怪物が、胸部を抉られて爆発し、そのまま海の底へ沈んでいった。

「よし……!」

 

鷹真のゲシュペンストが海上を滑るように移動しながら、左肩部のランチャーを起動。

ロックオン完了――次の瞬間、ミサイルが一直線に発射された。

「スプリットミサイル、発射!」

 

「よし、残りは――三体か」

 

その時――

 

『!? 艦長! 新たな高エネルギー反応が急速接近!数、3!』

「なにっ!? 敵の援軍か……!?」

飛翔したミサイルが敵の胴体に着弾。海上で火柱を上げ、二体目の怪物が海中へ沈んでいく。

 

「うひょー!なんだよあの戦艦!?でけぇー!ハガネ*1と同等なんじゃねぇか!?」

先頭を飛ぶ少女、響が活発に叫ぶ。

「しかし、何処にもあの艦のデータは無い…」

「………異世界の戦艦か…」

3人は視線を移し、海上に立つゲシュペンストの姿を確認した。響はその姿に大盛り。

「なぁ球磨、瑞鳳!あれゲシュペンストだぜ!かっけー!」

(ゲシュペンストって21mぐらいだよな。)

(何故パワードスーツのようなんだ。)

球磨と瑞鳳は内心で思いながらも、目の前の戦況を優先する。

「深海棲艦を排除するぞ。響、ゲシュペンストの奴にも通信を送れ。」

『こちら、第七遊撃部隊、旗艦・響。そこのゲシュペンスト、聞こえるか?』

「何、何故ゲシュペンストの事を…』

「説明は後!ひとまずコイツらを蹴散らすぞ!」

返事を待たず、3人は一斉に武装を展開し、深海棲艦の群れへと突入していった。

あの戦い*2からまだ深海棲艦残党が湧いて出んのかよ。」

「たくっ、蹴散らすのも一苦労だぜ!」

そう言って響はブースターに格納されたグレイブを構え、前方のイ級に斬りかかる。

鋭い軌跡を描いた刃が、深海棲艦の装甲を一撃で切り裂き、爆発と共に撃沈。それに続く球磨。

「…ようやく戦いが終わって落ち着けると思ったのに…」

球磨が文句を言いながらビームサーベルを構える。

「しょうがないだろう。残党討伐は任務だからな。」

瑞鳳が冷静にそう言い放った。

「……はあ…貴重な休暇を邪魔した怒りはお前らにぶつけてやる!」

そう言ってビームサーベルで敵に斬りかかり、そのまま蹴り飛ばした。

それを逃さないと瑞鳳がビームライフルで正確に撃ち抜いた。

 

イ級の残党を蹴散らし、戦場はようやく沈静化した。

海の上を漂いながら、響がくるりと旋回して隣の球磨に声をかける。

「なあなあ、球磨。あの戦艦、気になるよな。中に人も居るみたいだし、行ってみようぜ?」

「……そうだな。状況を整理するには接触が必要だ。なあ、瑞鳳、お前もそう思うだろ?」

「……同感。あれほどの艦と機体、見過ごせるわけない」

三人は小さく頷き合い、球磨が端末を起動。すぐにシロガネへ通信を送る。

 

『こちらは横須賀鎮守府所属、第七遊撃部隊の球磨。情報交換を望む。可能であれば、貴艦への乗艦を許可していただきたい。』

 

通信を受け取った艦橋では、鷹真と翔子が顔を見合わせた。

「……どうしますか、艦長」

「……こちらとしても、情報が喉から手が出るほど欲しい状況だ。よし――乗艦を許可しよう」

 

………………………………

 

 

-シロガネ 応接室-

簡素ながら落ち着いた内装の部屋に、艦娘の三人が招き入れられた。

深海棲艦との交戦直後にもかかわらず、誰一人として疲れた様子は見せていない。

ソファに座った球磨が、丁寧に頭を下げる。

「乗艦を許可していただき、ありがとうございます。改めて自己紹介を――私は横須賀鎮守府所属、球磨型軽巡洋艦の球磨と言います」

「俺は響。第七遊撃部隊の旗艦を務めてる」

「……瑞鳳。軽空母だ」

簡潔だが、礼節ある挨拶を交わす三人。

だが、それを受けたシロガネの艦長――小野寺は、微妙に困惑した表情を浮かべていた。

「……ヨコスカ? チンジュフ……? それは……どんな組織なんだ?」

「えっ?」

戸惑う三人に、さらに追い討ちをかけるように小野寺が言葉を続ける。

「それに……なぜ、我々のゲシュペンストのことを知っている? あのパワードスーツは我々の世界で極秘扱いのはずだ。」

鷹真も眉をひそめる。

「……情報漏洩の可能性はないと思うんですが。ていうか、何で知ってるんです?」

その言葉に、響が腕を組みながらぽつりと呟く。

 

「……なんか、話が噛み合ってない気がするな。」

瑞鳳が目を伏せ、考え込むように呟いた。

「……やっぱり、異世界から来たってことなのかな」

球磨が小さく頷く。

「そう考えた方が、色々と説明がつく。艦も機体も、我々の世界じゃ見たことがないし……」

 

小野寺は、静かに溜め息をつき、項垂れるように椅子に沈み込んだ。

「……やはり、そういうことか……。実を言うと、我々は数時間前――DBD、次元歪曲現象に巻き込まれ、強制転移させられた。」

「……!」

「元いた世界から、ここへ……場所も時間も、どこなのかすら不明だ。」

艦長の言葉に、艦娘たちは沈黙する。

 

そして――

響がゆっくりと目を上げた。

「……なら、協力してみる? 異世界から来たってんなら、放っておけないし」

 

瑞鳳も静かに頷く。

「それに……ゲシュペンストの機体性能、俺は気に入った。敵じゃないなら、味方でいい。」

球磨がにっと笑った。

「情報は交換し合うべき。そっちにも、知りたいことは山ほどあるだろう?」

鷹真が苦笑交じりに言う。

「……ありがたいです。正直、こっちは右も左も分からないんで。

 

艦長も軽く頷いた。

「――ならば、まずは状況の整理から始めよう。

 

こうして、異世界から飛ばされてきた戦艦《シロガネ》と、艦娘たちとの出会いは、静かに幕を開けた――。

次元の歪みがもたらす邂逅は、まだ始まりにすぎない。

*1
横須賀鎮守府所属の大型戦艦。艦首に搭載されている超大型回転衝角が最大の特徴で、ドリルを回転させながらバリア・フィールドを展開して突撃し、敵艦や要塞のバリア、隔壁などを突破するだけでなく、地中を潜行することも可能。深海棲艦との最終決戦では敵母艦に向け特攻し、内部へ侵入する道を切り拓いた。

*2
第二次レイテ沖海戦の事。実質的な深海棲艦と人類の最終決戦であり、両陣営の総帥の死亡と深海棲艦の元帥の死亡により終戦した。しかし、各地で深海棲艦残党が蔓延る原因にもなった。




なんか出して欲しい作品あったらコメントしてください。

次回は日本に上陸です。

別の分岐ルートも…

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