ついに決着!!
「ビットは撃ち落とされたはずだぞ。」
ヤザンは苛立ったような口調だった。
だが、その口元は楽しそうに笑っている。
「推進器も故障しているはずだ。なぜ飛ぶんだ?」
「なにか、そのわけのわからない超能力で」
ジェリドは、カミーユの胸元をゆるめてやっている。
その光景になにか感じるものがあったのが、ヤザンの隣にすわった女性が頬を赤らめて「キャッ……」と言った。
「ニュータイプはわけのわからん超能力者じゃねえってのが、俺の持論なんだが。
修正が必要なのかもしれねえな。」
ヤザンはつぶやいた。
粗暴で直ぐに暴力に訴えたがるのは
彼の一面でしかなく、あえて彼は自分をそう見せることに長けていただけなのかもしれなかった。
「いや、あれがまったく物理的な根拠もなしに飛んでるんだったら問題はむしろサイコミュのほうか。」
こもったその声は、ジェリドにも聞こえなかった。
-------------
「リーチは、当然ビットのほうが長い。」
アルテイシアは、椅子にもたれかかるようにしている。
そんな座り方をすることは、実は彼女には少ない。
人目のあるところでは常に姿勢を正している。
腹心とも言うべき、ランバ・ラルのまえでも一緒だ。
感情を顕にすることすら、あの兄絡みのこと以外では珍しいのだ。
ザビ家亡きあとのジオンを。スペースノイドの安定のため、彼女を担ぎ出したのは、たしかにマハラジャ・カーンであり、ランバ・ラル自身であったが、そこまでは彼女に求めていない。
むしろ、政のあれこれはこちらに丸投げしていただいて、年頃の女性らしい楽しみを求めてもらいたいのだ。
「攻撃はたしかに、とんがり帽子のビットが先になるでしょう。」
ランバ・ラルは答えた。
「ですが、その一瞬に間合いを詰められる。接近してのヒートサーベルでの斬り合いは、ガトーに分があるでしょう。
つまり、先制の一撃で勝負を決めなければ、勝利はガトーのものとなる可能性が高い。
僚機のビットを操れることを隠しての奇襲は見事でしたが、奥の手を出すのがすこし早すぎましたかな。」
「勝敗に関わらず、あのパイロットをこちらで確保するように手配を。」
アルテイシアの眼差しは、氷のように冷たく、宇宙の深淵のように、底深かった。
「もはや、正体云々を検証している場合ではなさそうです。
あのココ・シャロンと名乗るニュータイプは、ほかの機体のもつビットに干渉して自在に動かせるようです。」
「機体が。」
ランバ・ラルは言った。
「あるいは搭載したサイコミュが特別である可能性も。」
「マ・クベ将軍に連絡をとってください。いえ、それでは間に合わないわ。
“ソドン”とシャリア・ブル中佐はどこにいます。」
「ソドンは改装中です。その……アルテイシア様の御座艦として運用できるように。」
アルテイシアは舌打ちした。
「……やはり、公王府直属の戦力は必要なようね。
いますぐに、グラナダに向かえる戦力となると。」
グラナダそのものはジオンの都市だ。だごそのに駐留する戦力を使うとなると、マ・クベに話を通さねばならない。
そして、マ・クベはジオン公国軍のトップであるというだけで、ザビ家のような独裁者ではないのだ。
軍が動くには、いくつもの部門に書類を回さねばならない。
アルテイシアは、立ち上がった。
後ろ手に手を組んでうろうろと執務室を歩き回る。
「……しかたないわね。」
アルテイシアは不快そうに顔を歪めた。
「“アーガマ”に連絡をとってください。いまはグリーンノアに寄港中のはずです。正規軍を動かすよりは早く、グラナダにたどり着けます。」
「しかし……アーガマは連邦軍の船ですが」
「わたしがいま、懸念したことをそのまま伝えてください。アレが邪悪以外にも愚鈍を募らせていても誰か……ヤザンかアムロ・レイに話ができれば。」
ヤザン・ゲーブルはともかく、なぜここで昔、サイド7でセイラ・マスと名乗っていたころのご近所さんの名前が出たのかはわからない。
ランバ・ラルは、もっと現実的な手を打った。
軍はともかく行政は、公王府の管轄下にあり、グラナダもその例外ではない。
そして、警察機構は行政に属するのだ。
“試合が終了後、ココ・シャロンとフォウ・ムラサメを拘束せよ。”
たいていの場合、モビルスーツのパイロットを拘束するのは、モビルスーツなに乗っているときより降りた時を狙う方が楽なのだ。
--------------
アルテイシアとランバ・ラルの読みは正しい。
ソードビットがどんな動きをしようともガトーは対処出来る自信があった。
そして初撃が致命傷にならない限り、次のターンはガトーのものだ。
ガトーは、盾とヒートサーベルを構え。
静かにまった。
その瞬間が熟するのを。
ココ・シャロンが。
あるいはララァ・スンがいかに強力なニュータイプ能力をもっていても、様々な夢の記憶をもっていても。
実際に戦場を体に叩き込んだアナベル・ガトーには比べるべくもない。
ビットが動いた。
さすがにココ・シャロンにはこの緊張感は耐えられなかったのだろう。
ビットは、地面すれすれを這い、そこから浮き上がって、背後からガトーのサイサリスを襲った。
身を沈めたサイサリスの頭上を通り過ぎるビットをガトーはサイサリスの盾で殴りつけた。
スパイクを生やした打撃武器へと変貌した盾に殴られたビットは軌道を変えた――“とんがり帽子”へと。
そのままならば、ビットはその主を直撃していただろう。
だが、目前で、ソードビットはびたりと動きを止めた。
だがガトーが欲しかったのはその一瞬。
ココ・シャロンの注意が自分ではなく、自分のビットを操ることに向くその瞬間を。
サイサリスの巨体が直線で、“とんがり帽子”に迫る!!
真正面からの攻撃は、受けにくい。
下がっても突進のままに斬撃の範囲からは逃れにくい。受けようとしても速度の乗った攻撃に、バランスを崩したり、押し込まれたりする。
ガトーの勝利。
それを観戦しているものすべてが確認した。
ただひとり、ズムシティの酒場で観戦中の女が笑った。
「ほう?
そうくるか。」
ガトーのサイサリスの足元をもうひとつのソードビットが襲った。
さっきガトーが撃ち落としたサイコガンダムリファインのもう一機のビット。
いままでココ・シャロンが操っていたものよりも損傷がひどい。
また位置も少し離れた場所に撃墜されていたので、誰もその存在すら忘れていたのだ。
同時に、ガトーが弾き返したビットは、今度は頭上からサイサリスを襲う。
下と上から。
龍の顎が閉じるように。
その動きが見えたものは、今度はココ・シャロンの勝ちを確信した。
だがその牙が閉じる寸前に。
ガトーのサイサリスはその中から抜け出していた。
その巨大な質量をもつ盾を蹴りつけることで、さらに加速させたのだ。
本体にかわって、その盾が碎ける。
ガトーの振るうヒートサーベルは、とんがり帽子の首筋でビタリと止まった。
寸止め。
などというルールはクラバにはない。
だが。
とんがり帽子は、ゆっくりと両手を上げた。
結局、一発も打たなかった機銃がその手から滑り落ちる。
地球の六分の一の重力下でそれはゆっくりと地面におちて、砂ぼこりをたてた。
「わたしの前で付け焼き刃の奥の手など意味が無いと知れ。」
コクピットのなかで、無数の戦いを繰り返してきた少女は静かにほほえんだ。
破れてもなお自分は死ななかった。
フォウも。彼女が倒したフルバーアンとかいうガンダムの改修機のバイロットも。
繰り返しすぎて、絡み合った世界線。
なにかそこから浮かび上がるための糸を見つけたような。
ふとそんな気分がしたのだった。
ララァ・スン、敗れる。
とはいえ、こらはクランバトルという競技のうえの話です。
ほんとなら、ビットはビームを発射できますから。