第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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ちょっと執筆速度が落ちたせいもあって、ダラダラ続きてしまった「21話」ですがこれでおしまい。
次回以降は、月面都市グラナダに舞台が移ります。





第21話 狐の時代~アンキー

試合の決着をみた瞬間。

移民街の小さなバーは騒然となった。

試合を見ていたものたちの多くが、賭けをしたのだろう。

歓喜の声をあげるものと、落胆と悲哀の叫びの量は半々、と言ったところだ。

 

ゼロ・ムラサメは、体をふるわせて、大きく息を吐いた。

モビルスーツ同士の戦いは。とくにパイロットがニュータイプや強化人間だったりすると、彼女に性的なエクスタシーに近いものを感じさせてくれる。

 

さて。

と。

ゼロ・ムラサメは周りを見ながら考えた。

まだ飲み足りないが、とりあえず満腹になったエルピー・プルが、うとうとし始めていた。

そろそろ腰をあげたほうがよいのだが、彼女は待ち人を探している。そのためにはあまり居場所は動かない方がいい。

 

「姐さんは賭けてなかったのかい?」

 

ひとりの客が声をかけてきた。

若いが身なりは悪くない。

旅行者にはみえなかったが、難民にも、ジオン公国民にも見えない。それでいてなんとなくこの安酒場にもしっくりと溶け込んでいる。

 

「そういうあんたは?」

 

「ガトーに賭けてた。1杯奢らせてもらってもいいか?」

 

「連れが眠たそうなんで、そろそろ切り上げようと思ってたんだけどね。」

ゼロ・ムラサメは、相手の顔をながめた。とりたてて二枚目でもない。

知的ではあるが、品はない。

悪人でもないが油断してたらやられる。

そんな顔つきだった。

 

 

こういう連中を知らないゼロ・ムラサメでもなかった。

 

「……ジャーナリスト、かな?」

 

「おや、なんでわかった?」

 

「ふん? まあいい。ならわたしのことが分かって声をかけてきたんだろうね?」

 

「まあ、ここで会ったのは偶然ですよ。偶然。ズムシティはなかなかジオン以外の出身者には冷たいところがあってね。

くつろいで呑みたいときは、移民街へ足を運ぶんだ。」

 

「あんたの名前は?」

 

「カイ。カイ・シデン。」

 

ゼロ・ムラサメは人を人とも思わないような倫理観の欠如を除けば、けっして異常人ではない。

ニュース番組もまめに見るほうだ。

 

「見た顔だと思ったら、ここの公王にインタビューしてたね、たしか。」

 

 

「ご存知だとはありがたい。

で、わざわざズムシティにお出かけになったのは、やはりギレン前総帥肝いりのニュータイプ研究所ですか?

非合法なクローン体をもちいて実験を繰り返しているという。」

 

そういいながら、傍らの少女に目をやる。

 

こいつもニュータイプなのか。

カイ・シデンの異常なカンの鋭さに驚きながら、うつらうつらし始めたエルピー・プルに自分の上着をかけてやった。

 

「この子はなんだか追われていたので、保護しただけだ。」

 

「そんな偶然が転がっているんですね!!」

 

「貴様こそなんで、ズムシティに滞在していた?」

 

「そりゃインタビューのためですよ。デラーズ准将にいままでのお話をきいて、“デラーズ紛争”の総括をしたいという算段だったんですがね。」

 

ゼロ・ムラサメは鼻で笑った。

 

「廃棄コロニーを移送中の事故ってことになってるが、実際はデラーズ・フリートはジャブロー攻撃のためにコロニー落としを敢行しようとしていた。

デラーズ准将は、事故の責任をとって引退。

実際は手元の軍を解散させられて、幽閉状態のはずだ。」

 

「会うのはわりと簡単に会えましたよ。」

カイ・シデンは肩を竦めてみせた。

「ただ、インタビューの内容がね。いまどき、ギレンばりのジオン選民思想、人口抑制論を語られてもねえ。」

 

ゼロ・ムラサメは、半ば呆れ顔でグラスの底を軽く回した。

琥珀色の液体が、かすかな照明を受けてゆらめく。

 

「……それは記事になりにくい?」

 

「記事にはならない。だが“証言”としては残る。歴史はね、勝者のものだけじゃなく、負けた側の声も混ぜておいた方が味が出るんだ」

 

カイ・シデンの声は、軽口の調子を崩さない。だが瞳の奥には、酔客らの雑音を一歩引いて眺める冷たさがあった。

 

「それに……」と、カイは声を潜めた。

「本題はデラーズじゃない。

デラーズの艦隊はジオン本国艦隊と接触するまえに、瓦解している。そこに連邦が新たに組織したニュータイプ部隊が関わっているという噂だ。

……だがね、ニュータイプというニュータイプは、キシリアの機関が囲い込んでしまってる。

とすれば、それにかわるもの。あなたや、オーガスタが研究しているもの。その娘――いや、“その存在”もそうなのかな?」

 

ゼロは無意識に肩をすくめる。

眠りこけるエルピー・プルの小さな頭が、彼女の脇に預けられていた。

 

「俺はただの記者だ。武器も兵も持たない。だが――あなた方がいまどこで、何を背負っているのか。もし間違った方向に進んでいるなら、記事にして世間へ投げるくらいのことはできる」

 

「わたしの行く先に道は無いよ。」

エルピー・プルを抱いて、ゼロ・ムラサメは立ち上がった。

「わたしは“道を作るもの”であって、作られた道を評価するのは、世間に任せている。」

 

「警告だよ。ズムシティは“表向きは平和”だが、裏でなにが動いてるか、俺はだいたい嗅ぎつけてる。ニュータイプ研究所も、クローンの噂もな」

 

その言葉に、ゼロ・ムラサメは短く息を吐いた。

この男の“カンの鋭さ”は、ただの偶然ではない。取材で積み上げた膨大な裏付けと、人間観察の鋭さからくるものだ。

 

「……ならわたしも忠告しておくよ。わたしの周りを掘りすぎれば、命がいくつあっても足りない。」

 

「記者は好奇心で死ぬ生き物だからね」

 

「そうではない。わたしは自分の作品にはものすごくやさしいんだ。

危ない橋を渡ることも多いんだろ?

おまえも“強化”してやろうか?」

 

怖いのは、ゼロ・ムラサメはこの言葉を本気で好意で口にしていた。

カイは慌てて首を振った。

 

「……ご遠慮するよ。いや、あんたの腕を信用しない訳じゃないんだが、ニュータイプの知り合いが何人かいるんだがどうもあまり幸福そうに暮らしてるやつがいないんだ。」

カイはそう言って、立ち上がって会計をしようとして……硬直した。

 

酒場の入口は屈強な男たちに固められていた。

 

「――なんだ。おまえらは。」

 

男たちの先頭にたつ女は、隈取りの濃い派手な化粧のせいで年齢不詳だ。

カイを無視して、ゼロ・ムラサメに話しかける。

 

「ムラサメ博士。探したぞ。そっちの女の子は?」

 

「なに、拾い物さ。連れて帰ることにした。」

 

「ニュータイプ研究所から脱走騒ぎがあったそうだが」

 

「ああん? 知らん。拾い物だと言ったろう。それよりもずいぶんと到着が遅かったな。まあ、おかげでうちのフォウの試合を堪能出来だが。」

 

「あんたの持ってる発信器はだいたいの位置しか特定できない。結構探したんだぞ。」

 

ははあ。

カイが楽しそうに叫んだ。

「わかったぞ! あんたカネバン有限公司のアンキーさんだな。」

 

「誰だい、このお調子者は?」

 

「ジャーナリストだよ。」

ゼロは、さり気なく、アンキーのボディガードが構えた銃とカイの間に体を滑り込ませた。

 

「ムラサメ研究所とポメラニアンズがつるんでいたとはけっこうなスクープだ。」

 

剣呑な空気が流れる中、カイは飄々とアンキーに握手をもとめた。

 

「どうだい? 取材も兼ねて一緒にグラナダまで連れてってくれないか?

貧乏ジャーナリストでね。シャトル代もないんだ。」

 

「――カイ・シデンかい。

前にうちのアムロにインタビューしてた奴だよね。」

 

「覚えててくれるとは光栄だよ!

いまや飛ぶ鳥を落とす勢いのポメラニアンズのアンキー社長にインタビューできるなんて光栄だ。」

 

「一緒に連れてくともインタビューを許可するとも言ってないけどね……」

 

「まあ、いいじゃないか、アンキー!

殺すほどのこともないが、適当な憶測で記事を書かれても困る。

同行させとけば、その間は監禁しているのと一緒だ。

ところで、どうしてわたしがグラナダへ行こうとしてるとわかったのだ、カイ・シデン。」

 

「ああ、カンだよ、カン。さっき負けたのってあんたのとこの強化人間だろ。なんらかのフォローは必要になるのかもと思ってんでね。」

 

「実にいいカンじゃないか。」

楽々とエルピー・プルをおぶったまま、ゼロ・ムラサメは言った。

「こいつはひょっとするとニュータイプの素養があるのかもしれない。」

 

 

 

 

 




ココ・シャロンことララァ・スンが発現させた余りにも危険な能力。彼女のニュータイプ能力に気づいたものたちが、一斉に動きだします。
うーん、24話で収集つくのかなあ。
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