筆が滑った。
ケリィさん出したからには、こいつも出さなきゃ。
ついでにカイのことも少し掘り下げたかったんで。
とんでもないとこでとんてもない展開です。
「どうだ……とは言っても日にちもたってしまっているし、撃破されたモビルスーツも回収済みだ。」
月面から眺める地球というのは実に美しい。
だが、グラナダは地球から見て、月の裏側にある。
地球は望めず、頭上に浮かぶのは、かつての宇宙要塞ソロモンくらいだ。
カイの軽キャノンが、身体を寄せてきた。
「場所が場所だから、足跡が雪で隠れたり、雨で証拠品が流れたりする心配もないわけだが。
どう推理するかね、名探偵。」
「からかわないでくれ!」
アムロはむっとして言い返した。
「そもそもモビルスーツ同士の戦いがあって、そのあとで、グラナダの警察機構が介入した。で、サイサリスと名称未定のモビルスーツがそいつらを撃破して、姿を消した。」
「そうだな。事実をなぞっただけだが。
いまのところは特に間違いは無い。
実にいい感じじゃないか、名探偵。」
「名探偵を期待して呼んだんなら、人違いだよなっ!」
マチュが、んん?と言いながら前方を指さした。
「足跡があっちに向かってる。」
「いいぞ、ニュータイプ。」
カイは、実はとっつきの悪い人間だ。
人をイラつかせるような笑いをよく浮かべているし。言動のひとつひとつが、なにかからかわれているようか印象を相手に与える。
そしてどういうものか、モビルスーツ越しであっても彼がそういう表情を浮かべていることが、アムロにはよくわかった。
ジャーナリストとしてはそれでいいのだろう。
インタビューした相手の感情を引き出すには、それもありだと思う。
「そこらは、戦闘直後……とは言っても虎の子のモビルスーツ隊が全滅したあとで、おっかなびっくりで駆けつけたグラナダ警察の保安部が確認している。」
「実際には、警察の増援が来る前に誰かが来た可能性があるんじゃないか。」
「いいぞ、アムロ。ニュータイプのカンってヤツだな。その通り。増援がたどり着いたときには、先客がいた。」
「誰なんだ、そいつは! そいつがガトーさんたちを連れ去った犯人なんじゃあ……」
「先にいたのはヴァル・ヴァロだよ。
……ってもわかんねえだろ?
実戦投入前に、戦争が終わっちまったモビルアーマーだよ。
パイロットはケリィ・レズナー元大尉殿だ。」
アムロは呻いた。
さっき、ケリィから一部始終を聞いていたがそんな話はなかった。
「あのひとは腕が……」
「ああ、そうだな。どうも何年かけて片手でも操縦できるようにヴァル・ヴァロを改修したようだ。」
「なんのために……?」
「まあ、クラバに首を突っ込むまえは、ジャンク屋をやってたらしいぜ。
ジャンク屋とはいってもフォン・ブラウンにも支店があるけっこう大手だったから経済的には成功してるようだが、もともとメカ弄りが好きだったんだろう。
――なあ、アムロ。」
もともとモビルスーツ同士の体の一部を接触させて会話するのは、ほかからの傍受されないような内密な会話をするためだ。
それでもなお、声を落としてカイは続けた。
「モビルスーツのパイロットで『上がった』やつをおまえ、知ってるか?」
「い、いや?」
アムロは実は連邦軍にもジオンにもそれほど知り合いはいない。
「そりゃたくさんいるだろ? 戦争が終わったからは連邦だってジオンだって軍縮路線だよ。
勝ったジオンだってエース級のパイロットだってずいぶん除隊させられて……」
アムロは、クランバトル中に知り合ったパイロットたちを思い起こした。
「そうか。」
ニイッと笑ったカイが笑う顔をアムロは想像できた。
「俺の知る限りじゃひとりもいないんだ。」
「そうか? 実際にクランバトルで知り合った相手には元ジオンや元連邦のパイロット上がりが多かったはずだ……」
言っていて自分の発言に矛盾を感じたアムロは黙り込んだ。
「そうだよな。そいつらは、クランバトルという形でモビルスーツのパイロットを続けている。
それ以外はどうだ?
元モビルスーツのパイロットで、いまは全然別の仕事についてて、モビルスーツの操縦からは完全に遠ざかっている……ひとりでも思い浮かぶか?」
アムロは懸命に記憶を探った。
クワトロ大尉は?
あれはダメだ。
クラバのオーナーとして、なに不自由ない生活とたぶん財界にもがっちりと名声を得つつあるにもかかわらず、モビルスーツにのるチャンスがあれば率先して飛び出していく。
たぶん、彼は自分がジオンの総帥になっても、真っ先にモビルスーツに乗って吶喊していくのだろう。なぜかその姿が当たり前のようにアムロの脳裏に浮かんだ。
あとは?
ガトー?
シーマ?
ヤザン?
ジェリド。
モビルスーツに乗ってない姿が想像できない。
クリスチーナ・マッケンジーさん……
いや彼女もテストパイロットだ。
「天パ!」
膝のうえでマチュがもぞもぞと動いた。
「気にする事はないよ。」
「いや!……そうだ、カイ。君自身はどうだい?
君は『ガンダム強奪』のあと連邦軍にいたんだろう? たぶんモビルスーツのパイロットとして!」
「なんだい。なんでそんなことわかるんだ!?」
「会話をするのに、モビルスーツ同士を接触させるなんてテクニックは、戦場に出たもの以外は知らないからさ!
操縦そのものは教えてくれるところがあってもそんな細かいテクニックは、戦場でなければ」
「わかったわかった。」
カイはため息まじりに言った。
「ニュータイプのカンってやつか?
確かにオレは、セイラさんにくっついて、連邦軍にいたさ。」
「……」
「惚れた……ってのとも違うがな。
パニックになって港に逃げ込んだオレを彼女はビンタして罵ってくれたんだ……『軟弱者!』って怒鳴ってな。」
「……待ってくれ。それって、アルテイシアさんが連邦軍にいたってことかい!?」
「いたもなにも。エースオブエースだよ。
ドズルのビグ・ザムを落とした『戦鎚』ってきいたことがないか?」
「ち、ちょっと待ってくれよ! ジオンの元首が独立戦争時代の連邦のエースだったなんていくらなんでも……」
「そこらは、“まだ”ジオンも大々的にするつもりは、ないようだがな。
まあ致命的な情報じゃない。なにしろ、ザビ家とダイクン家の簒奪の歴史は知られてるからな。
……で、俺は無事にパイロットを上がって、ジャーナリストをしてるって。
そう言いたいんだろ? まあ、たしかにその通りなんだが、パイロットを『上がれた』のかは怪しいもんだぜ?
なにしろ、こんな危ない橋を渡ろうなんて、どんなジャーナリストでも思いもつかんだろうからなあ。」
アムロの腕はまったく無意識に、ザクのレバーを動かしていた。
たった今までアムロのいた地面を、砲弾が削った。
ほとんど真空に近い月面では、爆音はしない。
だが、飛び散った土砂と岩の欠片がザクの装甲に跳ね返った。
「あれがヴァル・ヴァロだ。」
同様に飛び退いたカイの声は落ち着いていた。
アムロの乗るザクのモノアイは、甲殻類を思わせる異形のモビルアーマーをとらえた。
「ケリーさんですか! なぜ!」
「さあ!グラナダ8000万のクラバファンのみなさまっ!!」
すっとんきょうなキンキン声のアナウンスが飛び込んできた。
「今宵は、スベシャルハンディマッチを行います!
無敵のチャンプ“白い悪魔”。今宵はハンデをつけてザクで参加です。M.A.Vを組むのは連邦軍の隠れエース!“笑うジョーカー”カイ・シデン!」
「カイ! そんな! 君が!」
「対するは、我らがオーナー、ケリィ。モビルアーマー、ヴァル・ヴァロで登場です。
M.A.Vは」
一瞬、アナウンスは言い淀んだ。
「衝撃的なデビュー戦を戦慄の勝利で飾った“ソロモンの悪夢”アナベル・ガトーっっおおおっ!!」
クレーターの反対側の端から姿を現した鎧武者を思わせる機体は。
行方不明になっていたはずのトリントンチームの試作ガンダム2号機。サイサリス。
「ち、ちょっとケリィさん!何やってるんですか! クラバの出場のことならあらためて、アンキーさんかクワトロ大尉に相談してくださいよ、こんなやり方って!
それにカイはいまは、ただのジャーナリストです。こんなふうに試合に無理やり引き出しても」
「それは違うんだなあ!アムロ!」
どこか吹っ切れたような軽い口調で、カイは言った。
「俺はセイラさんにくっついて、けっこうあちこちで戦ったのよ。
ソロモン攻略にも参加しててな。
ケリィのドムを落としてあいつを負傷させたのも俺だったりするのよ!これが。」
「やるしかないよ、天パ。」
くい、と拳をにぎって、膝のうえの少女が顔をあげた。
ち、近い! 顔近い!
「うん、やろ。」
教官席のニャアンも頷く。
「かんべんしてくれ! このザクは武装してないんだぞ!」
「気合とキラキラで乗り切ろう!」
「うん、乗り切ろう!」
アムロくん、とんでもないハンディマッチ。
操縦するのは武装オミットのザク。膝の上にはマチュ。複座の教官席にニャアン。
カイの軽キャノンは、ビームではなく実弾仕様。
ガトーのサイサリスは、飛び道具は頭部バルカン。盾、バズーカなし。ヒートサーベルあり。
ヴァルヴァロは、メインメガ粒子砲は、実弾仕様に変更。クローあり、そのほか本体内に機銃は装備、クロー攻撃あり、あとプラズマリーダーはありにします。クランバトルには過ぎた兵器ですがこれがないとヴァルヴァロにならない。