イレギラーにはじまったクランバトルは激しさを増していく。
モビルアーマーヴァルヴァロに秘めたケリィの思いとは。
そして、かつての連邦軍のエース“笑うジョーカー”カイ・シデンと“ソロモンの悪夢”アナベル・ガトーの戦いの行方は!
当たらない!
ケリィは舌をまいた。
もともとの仕様ではメガ粒子砲を装備していたはずのヴァルヴァロの主砲は、実弾に変更されている。
連射性能からいっても弾速からいっても、モビルスーツをとらえるには、難しかった。
とはいえ、そのほかにも、ヴァルヴァロは、速射性能に優れた機銃も複数備えている。
それが当たらない。
クラバの関係者として、ケリィはアムロの腕前を知っているつもりだった。
モビルスーツパイロットとしては、引退を余儀なくされたケリィではあったが、ヴァルヴァロならば。
もとより、モビルアーマーはクラバへの参加は認められていない。
一対一では勝負にならない以前に(それだけなら数でハンデをつけてしまえばいい)さすがのジオンもモビルアーマーを払い下げようなどとは、考えなかったので、そもそもクラバに投入のしようがなかったのだ。
ケリィが隻腕の自分にも扱えるように改装したこのヴァルヴァロは、組み立て前の状態のまま終戦を迎えていた。
そのままジャンクになるところをケリィが発見した。
足りない部品を作り上げ、片腕でも操縦できるように、コントロール系を構築し直し。
名誉の負傷を負ったはずのケリィはあっさりとジオン軍から放逐された。
その自分の身の上と、ヴァルヴァロをどこかで重ねていたのかもしれない。
こいつでもう一度、戦うことが出来れば。
いやそんなことをしても、失った腕や戦場での栄光が戻るわけではないことは、よくわかっていた。
わかってはいたが、試さずにはいられなかったのだ。
“それにしてもアムロよ。俺がやり合いたかったのは、ソロモン防衛戦で俺を落としたカイ・シデンのほうなんだがな!”
その間、アムロはガトーに相手をしていてもらうつもりだった。
バズーカも特殊盾も失ったサイサリスではあるが、アムロのザクはそもそも非武装だ。
余裕をもってアムロを抑えていてくれるだろう。
だが。
“白い悪魔”がアムロ自身を指すのか、あのガンダムモドキを指すのかは諸説あるのだ。
つまり、パイロットとしてのアムロ・レイが凄いのか、それともテム・レイ博士が開発したガンダムモドキの性能が優れているのか。
あるいはその両方か。
だが、ケリィは、はっきりと悟った。
アムロ・レイ。
このパイロットは、異常だ。
ケリィは機銃で巧みに、アムロのザクを追う。
先読み――いや未来予知でも出来るのかと問いたくなるような回避力ではあるが、それでもなんとかアムロを追い込んでいく。
ザクはザクだ。
彼の愛用するガンダムモドキではない。
ここだ!!
ヴァルヴァロの主砲が弾丸を発射する。
アムロのザクが斧を振りかぶった、主砲の弾丸は殺傷能力を低めるために炸裂弾を使っていない。使っていないからなのだが。
斧の一撃でその弾道がずらされようとは、ケリィの想像を超えていた。
そのままの動作でザクは、急速に接近してくる。
ザクのバーニヤでも、月面程度の重力ならホバー移動や飛翔に近いジャンプも可能だ。
そして飛び道具をもたないザクは、そうするしかないのはわかっていた。
“く、クローアームを!”
咄嗟にメインカメラを庇ったその上から、斧が叩きつけられた。
僅かに傷を残して、斧が跳ね返る。
もう片方のクローアームが、ザクの胴体を掴もうと伸びたが、そのときにはすでにザクは間合いの外にいる。
ヒートホークならば。
かなりの損傷を受けていた。
だが、もともと赤熱化する機能がないただの斧では、ヴァルヴァロの装甲にはかすり傷程度しかつけられない。
「おっとおおっ!!
ザクに乗っても“白い悪魔”は健在なのかあ!」
アナウンスが絶叫する。
「我らのボス、ケリィ・レズナーの攻撃がまったく当たらない!
まるで“灰色の幽霊”を見ているのか!
アムロ・レイは、シャリア・ブルの再来なのか?」
「ケリィ! 高速機動に移れ!」
ガトーは、軽キャノンの腹を蹴飛ばした。
これだって、姿勢制御には欠かせない代物だが、手で殴って指を破損させてしまうよりはマシだ。
質量で劣るカイの軽キャノンは大きく飛ばされた――そこに取り落とした軽キャノンの機銃が落ちていようとは!
“先読み……か! このカイ・シデンという男もニュータイプか!”
戦局を見据えるような淡々としたその戦いぶり。
学徒兵あがりではあるが、その撃破数は二桁に達していたはずだ。
頭部のバルカンで牽制しながら、ガトーとしては、接近戦を挑むしかない。
カイが有重力下での格闘術をモビルスーツ戦に転用するという非常識なことを行っていたとしてもだ。
ガトーの視界の端で、ヴァルヴァロが加速するのが見えた。
そうだ、それでいい。
もともとヴァルヴァロは、そのようにして使うものなのだ。
じっくり足を止めての撃ち合いは得手ではない。
だが、自らも高速移動に移ったことで、狙いはさらにつけにくくなった。
“ビームが使えれば……いやいくらなんてもそれは無理か。”
ケリィ・レズナーは迷っている。
アムロ・レイは。
ニュータイプだ。
それも恐らくは“赤い彗星”に匹敵する。
もし、仮にだが、アムロが独立戦争に動員されていたら、ジオンの勝利も危うかったのではないか。
可能性はゼロではない。
アムロ・レイは、ガンダム開発の責任者テム・レイの息子であり、開発拠点であるサイド7にいたのだから。
「アムロ君!」
ケリィは呼びかけた。
「敗残兵のリハビリに付き合わせてしまってすまない。」
「負けたのは連邦ですよ?」
「俺の戦はソロモンで終わってるのさ。
そしてソロモン攻略戦は俺やガトーにとっては敗北だ。」
何を勝手なことを。
と少女がぶつぶつとつぶやく声をマイクが拾ってくる。
「俺はモビルスーツの操縦が出来なくなって、ガトーは死に場所を失って、5年も右往左往していたが、これで満足だ。」
「ち、ちょっと! やめてくださいよ! ここが死に場所とか言い出すのは!」
「そうは言わんよ。なにしろ今回のクラバもかなりの収益が見込めそうだからな。」
クランバトルのオーナーってこんなのばっかなの?
また少女のつぶやきが聞こえる。
アムロがザクに同乗させている少女たちのどちらかだろう。
「よし天パ! わたしが許可する! あいつのモノアイを斧で叩き壊してよし!」
「ダメだよ、マチュ、たぶん構造的にモノアイの後ろがコクピットだ。
ケリィさんに怪我をさせてしまう。」
ケリィは笑った。
なるほど、なるほど。
これが“白い悪魔”か。
武装のない状態でも、負けるとは微塵も思っておらず、逆にこちらを気遣っている。
これなら、あれをつかっても良いだろうか。
いや、騙し討ちとか卑怯というならいまの時点で充分そうなのだから。
「ガトー、カイ! 付き合わせて済まなかったな。ここから離れてくれ。」
「おい、ケリィさん、ひとを追い込んどいていまさらなにを!」
「プラズマリーダーを使う。巻き添えにならんところまで、距離を取ってくれ。」
次回、決着!!
というか、まあ、ガトーとコウは、ケリィが匿ってたとしても、ララァとフォウはどうなったんだ!
のほうが気になりますよね。