第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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久しぶりのアルテイシアサイドです。
シャリア・ブルさんは今回のクーデターの中心人物のひとりのわりにあんまりアルテイシアさんとの会談が少ないのは、やっばりの彼の「相手の心を読む」能力に起因してるところが多いのかな。





第22話 混迷の宇宙~公王府直属艦隊

アルテイシアの執務室に足を踏み入れたシャリア・ブルは、いきなり一枚の書類を手渡された。

挨拶の間もなく、である。

 

部屋にいるのは、書類を手渡したこの部屋の、そしてジオン公国の主アルテイシア・ソム・ダイクン。

その側近。護衛隊長ランバ・ラル。

そして、彼女の影武者であり、身の回りの世話を務めるミーア・キャンベルのみである。

 

「現役復帰、ならびに昇進おめでとう、シャリア・ブル准将。」

 

アルテイシアは視線を合わせようとはしない。

ミーアに促されて、ソファに座らされると紅茶とクッキーが運ばれてきたので、別に冷遇されているわけではなさそうだ。

 

「公国府直属艦隊司令官……ですか?」

シャリア・ブルは、正式な辞令であるその透かしやらお偉方のサインの入ったその書類をいやそうにつまみ上げた。

たしかに艦隊司令官ならば准将くらいでないと釣り合いはとれないが、二階級特進というのはいただけなかった。

すでに殉職を確定された様な気がする。

 

「ほかに適任はいらっしゃいませんか? 例えばランバ・ラル閣下に兼任いただくとか?」

 

「ほかの選択肢もある。お主が筆頭政務官を引き受けてくれて、こちらの負担を軽減してくれるとかな。」

ランバ・ラルが悪そうな笑みを浮かべた。

 

「優秀な指揮官は、すべてマ・クベのところにいます。当たり前ですけどね。」

アルテイシアは物憂げに言った。

そう、これは当たり前である。

ジオン公国の軍は、実質的にマ・クベ中将の指揮下にあるのだ。

「公国府直属艦隊の指揮を取れるものといえば、あなたが辞退すると自動的にシーマ・ガラハウになりますが……」

 

シャリア・ブルはコメカミを抑えた。

艦隊指揮やパイロットとしての有能性は疑うべくもないが、あれに公国府直属艦隊のトップを任せることはできない。

もともとがシーマ麾下の海兵隊を中心に構成されているのだ。

 

ついこの間までデラーズ・フリートに属していたシーマを抑えるための重しが必要だった。

 

 

「艦隊規模はシーマ・ガラハウの機動巡洋艦リリーマルレーンほかムサイ6隻。旗艦として強襲上陸艦ソドン。これらはすべてジオン公国軍からの貸与という形になります。ただし、その行動についてはわたくしに一任されます。」

 

「私には艦隊司令官の経験などありませんが?」

 

「ソドンの艦長には引き続きラシットが務めます。彼女は艦隊運用についても実績があります。

任せるべきところは彼女に任せて、あなたは美味しいところだけもっていくとよろしいわ。」

 

言葉だけみるとけっこうトゲがあるが、アルテイシアはこのとき初めて、シャリア・ブルに視線をやって微笑んだ。

 

「断る理由はなさそうですね。

それでは本題に入りたいと思います。」

 

ランバ・ラルは、シャリアを見て鷹揚に頷いた。

――これがダイクン家のやり方だ。諦めて慣れろ。

 

これは別にシャリア・ブルが読心術を持っていなくてもわかる。

 

「まず、アナベル・ガトーのデビュー戦でビットを操った少女ですが。グラナダ警察の保安部のモビルスーツ隊を破壊して、逃亡いたしました。」

 

「見つかりましたか?」

 

アルテイシアが身を乗り出した。

 

「いえ。ですが何者かはある程度調べがつきました。」

 

シャリア・ブルは咳払いをした。

 

「ランバ・ラル殿。それはあまりアルテイシア様には」

 

「ほう? お主も彼女の情報を掴んでいたか。」

 

ランバ・ラルは笑ったが今度の笑みは優しいものではなかった。

わかっていたならなぜ報告しなかったのか?

そんな風に責められているような気がして、シャリア・ブルは視線を落とした。

 

「いまはもうないのですが、地球で高級将校相手の慰安施設がありましてな。そこで働いていた女性です。」

 

「よく短期間に調べられましたね…」

 

「先日まで地上に赴任していた人物がむこうから申告してくれました。

グラナダのクランバトルに参加したココ・シャロンはもと自分が贔屓していたカバスの館の女性ではないか、と。」

 

「その将官は? なぜココ・シャロンが自分の贔屓の女性だと分かったのです?」

 

「それは……ココ・シャロンが写真集を出していたからです。

顔は仮面で隠しておりますが……」

 

「たしかに顔以外のところはかなり、遠慮なく露出されていましたね。」

アルテイシアにとっては愉快な話題ではないのだろう。

トントンと指先で執務机を叩いた。

「それで気がつく。そういうタイプの施設だった……ということですね。

では、彼女にニュータイプの素質があることを見出して、モビルスーツに乗せたのはその将官だったのですか?」

 

「いえ、カバスの館は半年ほど前に焼失しております。なにものかの放火が疑われましたが、はっきりしたことは分からず、館そのものは再建されないまま、働いていたものもそのまま、散り散りになったようです。」

 

「なるほど……ならば彼女を拾ってモビルスーツパイロットに育てたのが誰か……という肝心なところは不明なのですね。

シャリア・ブル?」

 

話をふられて、シャリア・ブルは言葉に詰まった。

 

「あなたのような心を読む力はありませんが、わたしにもニュータイプのカンのようなものはあります。

彼女がその後どうなったかを説明して下さい。」

 

「そのまえに」

シャリア・ブルは咳払いをした。

公王府直属艦隊の最初の任務がアーガマ追討にならないためにはこれは必要なことだった。

「シャロンの薔薇……とその中に眠っていた少女のことを説明させていただけますか?」

 

「ココ・シャロン……彼女とあのモビルアーマーになにか関係があるというのですか?

あの異界のモビルアーマーはイオマグヌッソ事変の際に消滅したはずです。」

 

「その通りです。あれはもともと“向こう側”に属する存在でしたから。」

 

「向こう側……」

唇が冷笑の形に歪んだ。

「ここと同じように、人類がスペースノイドとアースノイドに別れて争いを続ける――あまり、楽しくなさそうな世界のことですね。」

 

「そうです。あのとき“向こう側”から現れた“ガンダム”に似たモビルスーツを撃退したのが、ガンダムクァックスとガンダムジフレド、です。この二人のパイロットは極めて強力な…そして特殊なニュータイプと見なされ、事変後も引き続き、わたしの観察下に置きました。」

 

「マチュ――アマテ・ユズリハとその友人の少女のことですね。

先日、外交ルートを通じてサイド6カムラン補佐官からお礼の連絡がありました。

両親ともにサイド6外交部のキャリア組のようですね。そこまで考えてジオン工科大学への推薦を取り付けた訳では無いのだけれど。」

 

「そうです。そして、今度はこちら側の世界の話になります。

アルテイシア様もすでにお会いされているクランバトルの“白い悪魔”アムロ・レイの駆る“ガンダム”は、イオマグヌッソ事変のときに現れた“ガンダム”にそっくりなのですよ。」

 

 

「……」

 

「あくまで推論。いや空想のレベルかもしれませんが、“向こう側”にもガンダムがいて、アムロ・レイがいる。

そんな気がするのです。

そして、“シャロンの薔薇”で眠っていた少女のこちら側の世界の存在が、ココ・シャロン――ララァ・スンです。」

 

「面白い――かもしれないけれど異なる世界を観察することができない以上、空想でしかないでしょう?」

 

「たしかにその通りです。

ですが、私は向こう側のガンダムを見た時に恐怖に震えました。まるで私があのモビルスーツに落とされたことがあったような気がしたのです。

ランバ・ラル殿はいかがです?

アムロ・レイや彼の駆る“ガンダム”を見た時になにか感想を抱かれませんでしたか?」

 

「いや……恐怖心はない、な。」

ランバ・ラルは、考え込むように言った。

「むしろあのときの少年がよくここまで立派に成長したという感慨を抱いた――おかしな話だな。アムロ君とは初対面のはずなのに。

“向こう側”にもわしがいて、アムロと会ったことがあった、とでも言うことか?」

 

 

「アルテイシア様はいかがです?」

 

 

「彼は――わたしが一時サイド7にいたときの知り合いです。別に恐怖や懐かしさを感じることはなかった――けれど、そうね。」

アルテイシアは眉間に皺を寄せた。

「妙に彼のことは信頼しているわ。

とんでもない難事でも彼ならきっとやってのけるはず――そしてわたしの言うことなら聞いてくれるはず、だと。

向こう側の世界では恋人同士だったのかしらね。」

 

話のフリとしては充分だった。

 

「難民キャンプにいたララァ・スンは、クラバのオーナーであるクワトロ・バジーナ氏に保護され、ネオ香港でともに暮らしています。

今回のクランバトル出場に、クワトロ氏の意志が関係しているのかは分かりませんが。」

 

アルテイシア・ソム・ダイクンはこめかみを抑えて顔を歪めた。耐え難い頭痛を堪えるかのように。

 

“全軍出撃を命じられなかっただけマシだな。”

と、シャリア・ブルは思った。

 

 

 

 




全員が頭を抱えて、もう少しこのパートが続きます。
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