ケリィさんがアムロたちを相手にクラバ始めたのがどうにも唐突なんで、もっとトントンと。
ケリィのパイロットとしての意地をアムロ相手に試したかったとか、調子よくすすめたら良かったのになあ、と落ち込んでおります。けっこうこれで「納得いかん」と離れてしまった方もいるようなので。
あら?
とミーア・キャンベルが自分のブレスレットを覗き込んだ。
部屋にいるジオンの重鎮たちに断りを入れることもなく、パネルを操作して執務室のメインモニターを開く。
「アムロ・レイの試合は、自動登録してるんです。」
ミーアは、言った。
「場所はグラナダ近郊です。スケジュール表にはないですね。
どうも、急に組まれたクラバのようです。」
「興味深いな。だがあとでじっくりと観戦させてもらおう。いまはアルテイシア様と内々にご相談したいことが他にもあるのだ。」
「相手は、グラナダのクランバトル主催者のひとりケリィ・レズナーと……アナベル・ガトー。」
全員が口をつぐんで、モニターに目をやった。
「あれは……モビルアーマー?
我が軍のビグロに似ているようですが……」
「おそらくは月面での戦闘を目的に、開発されたモビルアーマーです。ヴァルヴァロ……と。」
「ケリィ・レズナーが自らガトーとともにクランバトルに参加しているとなると、彼らの行方不明も単なる出来レースだったのかもしれませんね。」
シャリア・ブルが感慨深げに言った。
「なんのためにそんなことを……」
「グラナダ警察がモビルスーツ隊をもって、彼らを逮捕しようとしたからでしょう。ジオン公王府からの指示のミスですね。」
「わたしは……あのココ・シャロンを保護するようにお願いしました。あの力を我がものにしようとするものたちから、彼女を守るためです。」
「ランバ・ラル殿は……ああ、なるほどクランバトルのM.A.V.の片方だけを捕らえることはかえって難しいと考えて、ココ・シャロンとフォウ・ムラサメを両方とも拘束するように命じられたわけですね。」
「た、たしかに。だがクラバの参加者全員を逮捕するようにとは言ってはおらんし、ましてモビルスーツを出撃させるなどとは……」
「そこらは、命令を受けたものの解釈の違いかもしれません。」
シャリア・ブルは、仮面を有難いと思った。
少なくとも彼が呆れていることは、二人には隠し通せるだろう…たぶん。
「モビルアーマーとはいえ、5年前の機体でアムロ・レイに立ち向かえるのでしょうか?」
アルテイシアの疑問にミーアがデータを取り寄せて、モニターの一部に表示する。いつの間にか、かなりのクラバ通になっていたようだ。
「そこは、“ハンディキャップマッチ”となっています。
ケリィ・レズナーはいまラル閣下がおっしゃられたモビルアーマーヴァルヴァロ、ガトーは試作ガンダム2号機サイサリス……ただし、バズーカと盾は欠損したままです。
アムロのM.A.V.は…カイ・シデン!?
これって前にアルテイシア様にインタビューにきたあの失礼なジャーナリストですよね!?」
アルテイシアは笑った。
「そうね。ただ彼はあれでも2つ名があるの。“笑うジョーカー”。」
「ケリーズ工廠から貸し出されたのは、軽キャノンですね、たぶんこの型番だとロットは最新。マグネットコーティングはされてないようですが、かなり優秀な機体です。
ビーム兵器は双方とも使用不可。
――どこがハンディキャップマッチなんだろう?」
「アムロはテム先生の“ガンダム”なの?」
「あ、い、いえ!」
アムロ・レイも、ケリーズ工廠より貸し出しのザクです――ええっ! 武装なし!?」
さすがに顔を見合わせるラルとシャリアを横目に、アルテイシアは物憂げにデスクに肘をついた。
ため息とともに、金髪がさらりと揺れる。
「それでもいいわ。アムロとカイにわたしのポケットマネーから少し賭けておいて。」
「姫さま!
ジオン公国としては、クランバトルを公認しているわけではなく……」
「ランバ・ラル。あまり硬いことは言いっこなしよ。」
アルテイシアはあまり楽しそうではなかった。
「わたしはそれでもアムロはなんとかしてくれるのだろうと思うわ。分からないのはなんで彼がこんなハンディキャップマッチを引き受けたのか、よ。」
試合は唐突に始まった。
しかけたのは、アムロたちだった。
アムロのザクが、カイの軽キャノンをつかんで、振り回して、ガトーのサイサリスに投げつけたのである!
これにはガトーも面食らったようで、ヒートサーベルを抜く間もなく、軽キャノンの体当りをうけることになった。
2機のモビルスーツはヒートサーベルも飛ばしてしまい、まるで人間同士が組打ちでもするかのような白兵戦に突入した。
「“笑うジョーカー”はわしも聞いておりましたが、優秀な狙撃手だと。」
ランバ・ラルは歴戦の猛者である彼も経験したことのない戦いに半ば呆れたように言った。
「あれはたぶん、ジュウジュツね。」
アルテイシアは言った。
「サイド7でアムロと仲の良かったハヤトという少年がたしかそれを習っていたわね。」
「サイド7はニュータイプそのものや強化人間も研究していたのですか?」
「いえ、そんなことはないと思うけど。」
一方で、ヴァルヴァロは本体に備わった実弾兵器で、ザクを攻撃するが、ザクは巧みにその攻撃をかわす。
それどころか一度は、ヴァルヴァロに接近し、ヒートホークを叩きつけた。
――だが、虚しくヴァルヴァロのクローアームに遮られて、斧は跳ね返った。
「ヒートホークもなし?」
さすがにアルテイシアの眉間に深い皺がよった。
「そのようですな。」
ランバ・ラルは頷いた。
「メインカメラでも破壊するしか、ザクに勝ち目はありません。それ以外の装甲部分ではかすり傷をつけるのが精一杯でしょう。」
「それはやりにくい……戦いですね。」
シャリア・ブルが首を傾げた。
「いまからでも賭けられますか、ミーアさん?」
「できますが…どちらに賭けますか、シャリア・ブル閣下?」
「残念ですが…ケリィ・レズナーとアナベル・ガトーにですよ。ヴァルヴァロがビグロの発展型ならコクピットはメインカメラのすぐ後ろにある可能性が高い。パイロットを傷つけないように戦うアムロくんには、実にやりにくい相手です。」
パイロットとしても屈指の腕前をもつ彼らにしても、ザクのバイロットが三名いるなどとは、この時点では想像もつかない。
アムロはたしかにクランバトルを「競技」として理解していたが、マチュはそれを「命のやりとりまで踏み込む必要のある競技」として理解していたし、ニャアンに至っては「自分の安全」のために他者を害することにほとんど躊躇などなかったのだ。
マチュとニャアンがその操縦系をアムロに任せっきりでいるのは、実にこの優しげな顔立ちの青年の操縦技術への信頼がいかに厚いのかを物語ることでしかない。
「対ニュータイプ戦闘。」
何気なくアルテイシアが発した言葉に、ランバ・ラルとシャリア・ブルは凍りついた。
たしかに。
ニュータイプのすべてがジオン公国に属しているわけではない。
あれだけ、強権をもってニュータイプの素質のある者をかき集めたキシリアでさえ、アムロやあるいはサイド6のマチュ、戦争難民のニャアンといった人材を取りこぼしている。
「単体対単体では、限界があります。
ましてM.A.V.戦術などは論外。各個撃破の対象になるだけでしょう。」
「姫さま…いまそれを。」
「おそらくは熟練パイロットと次世代機体。それを6機編成で当たるような戦術が必要となります。」
「だ、誰かそれを? 姫さまのお考えだけだはありますまい。」
「ああ。これはヤザンの言ってた戯れ言よ。でもおそらくは正しいわね。」
ヴァルヴァロとザクの死闘は続いている。
傍目には、ヴァルヴァロがザクを一方的に追い詰めているようにしか見えない。
ザクは自ら攻撃に移ることも出来ないのだ。
だが、反面、ザクはほとんど被弾していない。何発か機銃が掠めはしただろうが、その程度は損傷にはならないのだ。
「推進剤、または弾丸をうち尽くした場合の勝敗はどうなるのか、ご存知か、シャリア・ブル?」
ランバ・ラルが尋ねた。
「まったく攻撃の手段を失えばそれは敗北でしょうが、ヴァルヴァロにはクローアームもあります。
攻撃手段がなくなることはありえません。
実際のところ、推進剤も――
あれは!?」
取っ組み合いを続けていたガトーとカイが、一目散にクレーターの外へと脱出していく。
ヴァルヴァロは。
その後方から三機の装置が分離した。
アムロのザクを取り囲むようにして、浮遊する。
「プラズマリーダーか。」
ランバ・ラルが呻いた。
「対象物を閉じ込め、焼き付くす。
ザクの装甲ではひとたまりもあるまい。
クランバトルでそこまでやるか、ケリィ・レズナー!!」
続いて起こったことはほんの数秒である。
アムロのザクがジャンプし、ヴァルヴァロのスラスターに斧をふるい、地上に落ちるヴァルヴァロを踏み台に、さらに高く舞い上がって、プラズマリーダーの効果範囲から脱出したのだ。
ヴァルヴァロは。
制御を失い、プラズマリーダーの範疇に落下した。
アルテイシアたちのパートはもちっと続きます。
たぶん、次で「第22話」は終了予定。