第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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次期主力モビルスーツの座をかけて。
運命の戦いが始まる。





第23話 クランバトルの時代

ジオン公国と連邦が「講和」を行って久しい。

名目は「講和」でもそれが実質的な連邦の敗北であったことは、誰の目にも明らかだった。

 

講和条約そのものは、明確であり、ほとんと数行でしかない。

 

ひとつには、スペースノイドの自治権を認めること。

それに伴って、連邦の宇宙戦力は大幅に縮小。終戦時に宇宙にいた連邦軍は、大気圏内に戻るか、ジオンに接収されるかを選ばされた。

もともとペガサス級(ジオン流にいえばソドン級)以外には、連邦の艦船で大気圏突入のできる戦艦は存在しなかった。

 

それでも何隻かはバリュートを使用して大気圏突入を試みたのだ。

だが、なんとか地上に降ろしても、さてそこからどうなる?

 

ソドンやザンジバル級の機動巡洋艦を除けば宇宙空間での運用を目的に作られた艦船に大気圏内の飛行機能はない。

荒野に置かれたオブジェは、連邦高官達をしてもアタマを抱えこむに十分なものだった。

 

「ゴップ将軍、遠路はるばる……」

手を差し出したのは、鋭利だがどことなく不健康な印象を与える男だった。

名をマ・クベといい、目下のところジオン公国軍のトップである。

タイプとしては、前総帥のギレンに近いものがあるかもしれない。

あまりにも頭が良すぎ、周りが馬鹿に見える。

 

ゴップは連邦軍では大将である。位も年齢もマ・クベより上だったが、如才なく手を握った。

 

「お招き感謝いたしますぞ。マ・クベ閣下。」

現場の指揮官というよりも、軍略家、軍政家としての評価の高い人物だ。

 

かつて、マ・クベはこの男の軍略によって、オデッサをはじめとする要衝地を失ったことがある。

 

独立戦争時代、ついに一度として前線に出なかった彼を「ジャブローのモグラ」と揶揄するものもいるがマ・クベに言わせれば馬鹿な話だ。

どこの世界に参謀本部長が前線に出てくる軍があるのだろう。

 

反抗作戦の間、ついに連邦軍は兵站を切らすこともなく、無限の体力をもってマ・クベ軍を圧迫し続けたのである。

 

 

ズム・シティにあるマ・クベの私邸である。

明日には、アルテイシア・ソム・ダイクンやマハラジャ・カーンとも会見が予定されている。もちろん豪華な晩餐会もだ。両国の高官たちも当然参加する。

だが、それよりも前に、マ・クベとゴップは話しておかねばならないことがあった。

 

「おお、そうだ。」

ゴップはにこにこと笑みを浮かべながら、部下が捧げ持った箱を取り上げた。

「これをマ・クベ閣下に。」

 

露骨すぎる賄賂のたぐいだった。

マ・クベは受け取った。

 

蓋を開ける。

案の定、陶器の器だった。

おそらくは茶器なのだろう。

 

黒釉が掛けられた碗の内面に大小の斑文が現れ、鑑賞者の心を惑わすような神秘的な青い輝きを放っている。

 

「チャイナ……ですか?」

 

「南宋のもののようです。わたしのような俗物にはなかなか理解し難いものなのですが、その紋様は焼き上がる過程で釉が自然に変化してできたものらしい。

極めて貴重な一品です。」

 

「ふむ。」

マ・クベは内心僅かに動揺している。

この器がまるで曜変天目茶碗のように彼には見えたのだ。

いくらなんでもそれはなかろう。

世界にも数点しか存在しない至宝を景気よく賄賂につかう阿呆はいない。

おそらくは、もっと後代に。

おそらくこの手の器をチャイナ以上に珍重したジャパンで作られたレプリカだ。

だが、この出来栄えならばコレクションに加える価値は十分にある。

 

「いろいろと気苦労の多いかと存じますマ・クベ閣下の無聊をお慰め出来れば幸いです。」

 

「お預かりさせていただこう。」

マ・クベは、ゴップに椅子をすすめた。

ゴップは笑みを絶やさない。

まるで冗談を言うようにぼそりと言った。

「……昔も今も、マ・クベ殿におかれましては、上役に苦労いたしますな!」

 

「それは否定いたしません。

キシリア閣下もギレン閣下も一筋縄では行かないお方でした。

確かに気苦労はありましたが、このマ・クベ、ジオンへの忠誠を常に尽くしてまいりました。」

 

「ふむ?

では、アルテイシア様はいかがですか?」

 

「私に公王陛下を論評させるのですか?

勘弁いただきたいな、ゴッブ閣下!」

 

「それほど、大袈裟なものではありません。私ども連邦政府としても宇宙はジオンにこそ、まとめていただきたいのです。安定した長期政権として。

デラーズごとき小物に掻き回されるのは正直なところいただけませんな。」

 

マ・クベの表情は穏やかだったし、ゴップは笑顔を絶やさない。

だが、同席していたマリガンは背筋が寒くなるのを感じた。ちらりとゴップの副官を見やると彼も顔色が真っ青になっていた。

 

「アルテイシア様は聡明なお方です。」

 

「それは存じておりますが……」

 

そう。

なまじ頭がよいだけに、ランバ・ラルもマハラジャ・カーンも苦戦している。

今回、半ば儀礼的なサイド3訪問に際して、ゴップとマ・クベが密談をしなければならなかったのもそのためだった。

 

「モビルスーツの開発はいささか、加熱気味のように感じられますな。」

ゴップが咳払いをして言った。

 

マ・クベはゆっくりと頷いた。

「開発元が多くなりすぎて、軍にも制御がききません。いやジオニックやアナハイムもコントロールが及んでいるか怪しいものだ。」

 

「その中で、モビルスーツのひとつの完成系であるゲルググの後継機として、アルテイシア様が、ガンダムマークⅡを指名されたとか。まさに慧眼ですな。」

ゴップは、腕組みをしながらしきりに頷いた。まんざら演技でもなさそうだった。

「サイコミュを搭載した機体はニュータイプにしか使えない。モビルアーマーはコストがかかり過ぎ、対策次第では意外に脆い。

その意味でガンダムマークⅡは理想的な機体です。装甲材の改良も必要でしょうし、攻撃力を補うためのバックウェポンシステムの開発も今後視野に入れ無ければならないでしょうが、逆に言えばあのムーバブルフレームという設計思想はそれを可能にしてしまう。」

ふう。

と、ゴップはため息をついた。

「しかしながら! しかしながらですぞ。

ガンダムマークⅡは連邦軍とアナハイムの合作です。その開発過程にはジオン公国もジオン系の企業は、微塵も関与していないはず。それを――完成したマークⅡの出来がよかったからジオンによこせ…はいただけませんな。」

 

「ゴップ閣下。実際にマークⅡを開発し、ロールアウトさせたのは、グリーンノアのフランクリン・ビダンのチームです。直接ではないにしろあそこには、ジオン公国からの出資もされております。」

 

「それはわかりますが……ガンダムマークⅡは連邦軍の発注において開発された機体です。

ジオンの主導で開発された機体ならば、トリントンの試作ガンダムシリーズがあるでしょう?」

 

「ゼフィランサスは地上と宇宙での換装に手間がかかり過ぎる。サイサリスはそもそも特殊すぎて、使えない。デンドロビウムはコスト面も含めモビルアーマーを超えてしまう。ガーベラは基本武装の発展性に難がある。」

 

ゴップは天井を仰いだ。

 

「――いやはや!

参りましたな! つまりはアルテイシア陛下は本気でガンダムマークⅡを手に入れるつもりでいる、ということですか。」

 

「残念ながら、です。ゴップ閣下。

すでに公王府の直属艦隊が、アーガマを拿捕するために出撃しております。」

 

「マ・クベ閣下!

もしそのような暴挙が許されるのでしたら、我々もティターンズのジオン駐屯地へのテロ行為を止める自信はありませんな。」

 

ふたりの。

極めて有能かつ性格の悪い二人は、じっと睨み合った。

 

ややあってから、マ・クベが折れた。

視線をはずすと、まるで独り言のように言った。

 

「つける薬がないときにつける薬が戦闘による決着ならば、いま少し別な方法をとりませんか、ゴップ閣下。」

 

「と、いいますと?」

 

「クランバトルですよ。ジオン本国ではそれほど盛んではないが、サイド6では公式の競技として認められています。

互いに代表を出し合って、力づくで決着いたしましょう。」

 

 

--------------

 

 

シャリア・ブルは、あまり自分が常識人だと思ったことは無い。

その特殊な能力は抜きにしても、木星で体験した濃厚な「絶望」は彼を常に常人とは違う方向に駆り立てていた。

おそらくは、平穏に家庭を築いて、子と孫と曾孫に囲まれて過ごす老後は無いだろう。

それにしても。

 

「ゴップがクランバトルによる決着をのんだそうですね!」

 

ソドンのブリッジに立つ金髪の女性が楽しそうに叫んだ。ノースリーブからのぞく白い腕がまぶしい。

一応、ソドンは彼女の御座艦だったからそのための席も用意してあるのだが、彼女はガンとしてそこに座ろうとはしない。

 

「誰を出してくるか、楽しみね。連邦にもまだなかなかのパイロットはそろってるはずよ。」

 

「まあ、それはそれとしてですね。」

シャリア・ブルはあきらめと共に言葉を吐き出す。

「こちらのパイロットは誰がするのです?」

 

「もちろん、わたし。謎の凄腕パイロット、“白の月影”ソム・エドワウよ。」

 

美人なのだがな。

シャリア・ブルは呟いた。

なんだか、サングラスをかけただけで変装したつもりになっている公王陛下を彼は心から残念に思った。

だが、ここまでは、アルテイシアが、クラバを言い出したときにシャリア・ブルは予想はしていたのだ。

だが――。

 

「悪いな、シャリア・ブル。M.A.V.はわしが務めさせてもらう。

――この――“蒼き巨狼”バンボラ・バルがな。」

 

とっさに偽名を考えたな。

シャリア・ブルはジオン公国の最高権力者たちを絶望的な視線で眺めた。

こちらまでは予想していなかった。

 

ランバ・ラル閣下もやめとけばいいのに、彼もまた変な仮面を被って変装したつもりになっている。

なんだ? この仮面は伝染でもするのだろうか。

 

 

 

 

 

 




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