第13話 鼓動   作:ATARU 2025

116 / 303
あのシーンを再現してみたかったのですが、ポーイミーツガールのトキメキはなかなか難しいものです。最後は力業。



第23話 クランバトルの時代~月面都市グラナダ

グラナダの空には、空がない。

正確には、空はあるのだがそれを眺めるのはかなりの贅沢品なのだ。

 

基本的には都市のほとんどが地下に設置されている。

 

天井のアーチに投影される人工の青空は、定刻を過ぎるとすぐに薄れて、白い照明が街全体を覆う。

カミーユ・ビダンにとってはここはひどく閉塞感のある光景のように思えた。

 

通学や通勤の流れからは少し外れた道の途中にある噴水のある広場。

 

そろそろ時刻は夕暮れだ。

たが人々が家路に急ぐまではまだ一刻ある人気のない時間。

カミーユはスケッチブックを膝に置いて、ペンを走らせていた。

時折、神経質そうに指を噛む。

 

カミーユは、なんというか。

 

放置されていた。

 

行方不明になったクラバのパイロットを探すためにアーガマに先駆けてグラナダへ。

どんな冒険がまっているのかとワクワクしてやってきたのだが、なんのことはない。

カミーユはホテルでの待機を命じられて、そのままである。

クラバのヒーローであるアムロはともかく、マチュやニャアンはカミーユとそれほど歳は違わないはずである。

 

現場検証に向かったアムロさんたちは、突然クラバを仕掛けられ、しかもそれを返り討ちにしたらしい。

相手はモビルアーマーに、試作モビルスーツサイサリス。

しかもパイロットはクラバの主催者のケリィに“ソロモンの悪夢”アナベル・ガトーだ。

 

帰ってきたマチュに、カミーユは文句を言ったが、「だって一緒に連れてったら危ないでしょ?」と、ばっさり切られた。

 

“ガンダム”ならいざ知らず、どうやってザクでモビルアーマーを倒したのか。

尋ねてもマチュは上の空である。

これは、別にカミーユに話せないとかそういうことではなく、なにか他のことに気を取られているだけである。

短い付き合いではあるが、マチュのことをカミーユは少しはわかっている。

――関心のないことについては、脳みそがクラゲ並になるのだ。

 

不貞腐れたカミーユは、近所の公園でもう数時間、スケッチブックを開いている。

 

カミーユは、スケッチブックに書き上げたモビルスーツのデザインをまじまじと眺めた。

出来は良くない。

 

テム・レイ博士のチームが、可変による即応能力に優れたモビルスーツを開発しようとしているのはわかる。

“大佐”の百式はたしかに優れたモビルスーツだ。でもあれを乗りこなせるのは一部のエリートパイロットだけだろう。

それに、可変機構の複雑さは、コストを高騰させるはずだ。

 

あと、高速移動に主眼をおいたために、決定的な攻撃力に不満がある。

 

カミーユが書き上げたのは、三機の重戦闘機が合体してモビルスーツになる代物だった。

 

いろいろツッコミどころは満載である。

 

そんなものを作ったら、可変機よりもコストがかかるのではないか?

武器もゴテゴテ付けすぎでは?

そもそも、操縦系が複雑になり過ぎて、これを操縦できるのは、ニュータイプかスーパーエース以外無理なのでは?

 

それでも彼は描いた。

描ききった。

 

辺りが暗くなり、変わって街灯の明かりがベンチの周りを照す。

 

「……何を描いてるの?」

 

声がした。

反射的にスケッチブックを閉じる。

 

振り向くと、灰色のコートの女性が立っていた。

 

カミーユよりもひとつかふたつ歳上だろうか。

印象的なエメラルドグリーン瞳はどこか虚で、どこか力強い光を帯びている。

肌は抜けるように白い。

 

「君は旅行者かな? グラナダのひとじゃないよね?」

「旅行…ではないけど、用事があってグラナダに来てる。」

「そうなんだね。名前は?」

 

必ずしも社交的ではないカミーユではあるが引き込まれるように彼女を見つめていた。

 

「カミーユ。カミーユ・ビダン。」

「いい名前!」

彼女は笑って噴水の縁に腰を下ろした。

 

カミーユの顔を覗き込む。

 

「自分の名前が嫌いなの?」

「女の子と間違えられる。」

 

カミーユは視線をそらした。

女は笑った。

 

「わたしはフォウ。」

「いい名前じゃないですか。」

「あまり、好きじゃないの。施設につけられた名前だから。」

 

独立戦争の被害はなにも地球だけのものではない。

反ジオンならまだしも日和見を決め込んだけのコロニーにも容赦なく死を振りまいたジオン独立戦争は、各サイドにも大量の難民を出している。

この子もそのような難民のひとりなのだろうか。

 

「じゃあ、本当の名前は別にあるの?」

「さあ……?」

 

「さあっ……て。」

 

「わたしは記憶がないのよね!」

モビルスーツのパイロットになるには不要なものらしいのよ。」

 

「そんな……。そんなことって。」

 

もし彼女の言う「施設」がそれを行ったのならあまりにも非道だ。

 

「酷い? たしかに酷いかもしれないけど。モビルスーツ操縦のジャマになるんなら、それも甘んじてうける。

わたしはいまはクランバトルのパイロットなの。

わかる? クランバトル。モビルスーツ同士で戦う競技のことよ。グラナダではいますごく人気あるの。」

 

名前が番号になっていて、モビルスーツの操縦のために強化を施された少女……。

 

カミーユにとってはそれは初めて会う相手ではない。

 

「ドゥー…ムラサメ?」

 

「ああ、ドゥーのことを知ってるの!?」

フォウは楽しそうに言った。

「わたしは直接会ったことはないの。

わたしやトロワが“調整中”の間に戦闘に行かされちゃって。」

 

フォウ……フォウ…

 

フォウ・ムラサメ!!

彼らが探していたララァのM.A.V.だ!

 

「フォウ…さん。フォウ・ムラサメさんですか!?」

 

「あら」

フォウは首を傾げて見せた。

「わたしのことも知ってるの。あなたもクラバの関係者?」

「はい。というか、ぼくはあなたを探してグラナダに来たんです!!」

 

「ありゃ。それは困ったわ。」

フォウはゆるゆると笑った。

「わたしはお姉様にしばらくグラナダで待つように言われたの。

お姉様から連絡がなければ、もうあと二日。

あと二日したら、ここのクラバ組織を通じて“アンキー”という人に連絡をとることになってるの。」

 

「ララァさんはどうしてるんです!?」

カミーユの語気に押されたように、ふわりとフォウは立ち上がった。

まるで舞うようにつま先でたって一回転する。

ゆったりしたワンピースの裾が翻った。

 

「グラナダ近くのVIP用の宙港で別れたわ。行く先は知らない。」

 

カミーユは、どうすればいいのか分からなかった。

ララァへの手がかりを握るフォウは、とんでもなく重要なはずだったが、力づくで捕らえようとはどうしても考えられなかった。

 

「で、その絵。モビルスーツ?」

「……ええ。設計ってほどじゃないですけど」

「強そうね。」

 

フォウはスケッチブックをのぞきこむ。

 

彼女の指が紙の端をなぞる。

 

「ダブル・バルカン、ハイ・メガ・キャノン、ビーム砲にもなるハイパー・ビーム・サーベル、ダブル・ビーム・ライフル、21連装ミサイルランチャー、ウイング・シールド。」

クスッとフォウは唇に指を当てて笑った。

「男の子だねえ、カミーユ。」

 

「そんなことはないよ!」

カミーユは、頬が熱くなるのを感じた。

たしかに……盛りすぎたような気はするが、

「ドゥーがイズマコロニーで使ったサイコガンダムは、Iフィールドにミノフスキークラフト、さらに全身にメガ粒子砲を装備していて、外装をリフレクタービットとして飛ばすことが出来た。

ハマーンさんのキュベレイは、普通のモビルスーツのサイズにエネルギーパック式の小型ビットを搭載することができる。

1対1でこいつらとやり合うためには、父さんやテム先生が考えてるような機動力特化の機体じゃあダメなんだ。」

 

「あなたすっごく面白いわっ!!」

フォウは手を打って笑った。

「ぜひ、うちのセンセイに紹介したい!」

 

「ぼくは……あなたを捕まえないといけないかもしれないんだ。」

カミーユは恐る恐る言った。

「ぼくたちは、あなたとあなたのM.A.V.を探すように“大佐”から言われている。捕まえるためじゃなくて、安全を確認するためだから、いまこの状態で目的は半分達成してるようなものだけど。」

 

対するフォウの笑顔は心からのものだった。

 

「“大佐”というのは、お姉様の大事な人…クワトロ・バジーナのことね。」

「そうなんだけど。いやそれ以外にもいろんなひとたちが、ララァさんを探している。ガトーさんたちとのクラバを見たからだよ。」

「はあ。わたしたち、ガトーに負けてるんだけどね。」

「それでも、だよ。」

 

カミーユはフォウの肩に手を置いた。

フォウは別に抵抗しようとはしなかった。

 

「ぼくと一緒に来てくれるかい、フォウ?」

 

「わたしと、一緒にいたいの、カミーユ?」

 

なんだろう。この神秘的な少女にカミーユはどんどん惹かれていくのが、自分でもよく分かった。

 

「そ、それはそうだけど」

「なら、話は簡単よ、カミーユ。わたしはアンキーたちに連絡をとるまであと二日待つようにお姉様から言われてる。

あなたはわたしをクワトロさんのところに連れていきたい。

――なら、あと二日、一緒にいましょう!

それでふたりでそろってアンキーのところに行って、クワトロさんにも連絡をとってもらいましょう!」

 

肩におかれたカミーユの手に、フォウの指がからんだ。

手首に走る激痛!

 

カミーユの身体はくるりと回って、地面に叩きつけられていた。

 

急所は打っていない。

だが衝撃で息が詰まる。

 

「――というのが、わたしの提案。

もっともあなたに拒否する権利はないんだけど、カミーユ?」

 

カミーユは、フォウの淡い光を放つような美貌を見上げた。

どうしょうもなく、フォウに惹かれていく自分に当惑しながらも。

 

“なんか違う。”

 

妙な感触が心をかすめた。

 

 

-----------------

 

 

「さあて!

辛気臭い戦艦ぐらしには飽き飽きだ。

ジェリド、ロベルト、アポリー。

今夜は街に繰り出すぞ!」

 

ヤザンはそう叫んだが、彼の可愛い部下たちはあまり気乗りのしない様子だった。

 

「なんだ? 不満か?」

 

「グリーンノアから月面まで移動しただけですよ。」

ロベルトが言った。

「グリーンノアでも適当にやってたし、あらためて命の洗濯という気分でもないんですが。」

 

「あと、グラナダはジオンの支配圏なんで、一応連邦所属のアーガマは半舷休息になります。」

アポリーも言った。

「俺たちパイロットも交代で休憩です。グラナダに降りるのは、許可証が必要です。」

 

「ちなみに、おまえらは……」

 

「俺もアポリーさんもロベルトさんも艦内待機だ。ついでにヤザン、あんたもそうです。まだ外出許可はおりてません。」

 

「わかった。」

わかった、というのは、ジェリドたちを連れて呑みに行くのを諦めたという意味だ。

ヤザン自身がグラナダを楽しむのを諦めるつもりは毛頭ない。

「留守はよろしく頼む。」

 

「まあ、止めるだけ無駄だと思うんで、ブライト大尉には腹痛で寝込んでるって言っときますよ。」

ジェリドが言った。

ヤザンは振り返らずに手を振った。

 

実際のところ、ヤザンは酒や街の喧騒に飢えているわけではない。

理由はいくつかあって、ひとつは彼が対ニュータイプ用に提案した戦術――三機を一小隊としてあとは小隊数を増やして敵に当たるというレポートがえらく高く評価されてしまったことだ。

彼としては、かつてクラバにおいてアムロを相手にした戦いで、M.A.V.戦術がニュータイプの操るカスタム機においては役に立たないことを身をもって知ったからに過ぎないが、ブレックス准将を通じて連邦軍にも、そしてジオンにも情報が流れていている。

 

高く評価されるのは嫌ではないが、延々と続くブリーフィングに付き合わされるのはゴメンだった。

それに、まだ彼はこの戦術を実戦で試していない。

 

本当に使えるかどうかわからない机上の知識をあれこれ評価されるのも真っ平だった。

 

それに出来れば、カミーユ。

トアールコロニーの盛り場でいきなり殴りかかってきたクソガキにとびっきりのプレゼントのことを早く教えてやりたかった。

 

出港直前になって、テム・レイが押し込んできた新しい可変機……そのテストパイロットにテム・レイ自身が、カミーユを指名したときいたらどんな顔をするか早くみたくて堪らなかったのだ。

 

そんなわけでヤザンはひとり、入国審査の列に並んでいる。

エゥーゴの制服は連邦軍のそれとは異なるが、それでもジオン支配圏のこの都市にジオン以外の軍服は目立ちすぎるだろう。

ヤザンは、目立たない色のジャケットに同色のスラックスに身を包んでいる。

 

こういうところに頭が回らぬ男では無いのだ。

 

身分証については、クランバトルの選手として登録したときのものを使うつもりだ。

 

列は、容易にすすまない。

 

危険物の持ち込みやID検査は、自動的に終わっているはずだ。最終的には人間の目による確認となるが――それはそれほど時間のかかるものではない。

――とすると、トラブルか。

 

ヤザンの口元が獲物を前にしたケモノの様に釣り上がる。

トラブルは大好物なのである。

 

怒鳴り声のするゲートに向かって彼は進んだ。

列を乱されたことに険しい目を向ける者も多いが、制止する者はいない。

だれにもわかるのだ。この男がヤバいことが。

 

列の先頭は、ガキの一団だった。

 

たぶん一番年嵩の者でもカミーユより年下だろう。

身なりは皆あまり良くない。

 

入国審査官に先頭の少年が食ってかかっている。

 

「だ、か、ら!

俺たちはちゃんと許可をとってやってるジャンク屋なんだよ!」

「それはおまえらのいるコロニーでの話だろう。グラナダでの商売の許可はとっているのか?」

「違うよ。俺たちはここのクラバに参加するために来たんだ。ジャンク屋やりに来たんじゃない!」

「所属のクランは?」

 

言われて、少年は押し黙った。

 

「それはこれから探します!」

少年の妹だろうか。愛らしい顔立ちの少女が口を挟んだ。

「クラバに使うモビルスーツは持ってきてます。モビルスーツさえあればクラバに参加するのは難しいことではないはずです!」

 

「そっちの荷物のほうのデータも届いているが」

審査官は別に少年たちの身なりが貧しいから、ジオン公国民でないからということで、意地悪をしているようではなかった。

マジメな男らしくかなり困っている。

「たしかに、モビルスーツだが……型式番号…なし。武装…なし。これでどうやってクラバに出るつもりなんだ。」

 

「そりゃしょうがないだろ。俺たちがジャンク部品から組み上げたんだ。型式なんかないし、武器はクラバの出場が決まってから買い揃えるよ。だって、クラバ出場前から武器が使えたら完全に違法品だろ!?」

 

「まあ、それはそうなんだが」

審査官は口をへの字の曲げている。

「それならクランを先に決めてもらわんと、だな。あるいは、クランバトルに参加資格のある者の紹介があるとか、な。

そもそもおまえたちが組み上げたモビルスーツモドキがほんとに動くのか?」

 

 

これは少年たちの怒りに火をつけたようた。

食ってかかろうとする少年の前にヤザンは身体を滑り込ませた。

 

「なんだ!おま――」

 

「いやあ、勝手に先に行くなって行ってんだろ?

俺はヤザン・ゲーブル。ちゃんとしたクランバトルの戦士だぜ、ほら。」

 

地球連邦軍大尉のものではなく、トアールコロニーでクランバトルをしていたときのID を提示する。

 

「こいつらは俺の紹介で、カネバン有限公司のアンキーんとこで預かることになってる。

ほかに問題が無けりゃ通してもらってもいいかな?」

 

 

 

 




長い割りにはあんまり話はすすんでません。
カミーユがスケッチブックに書いてたモビルスーツの試作案は当然アレですし、最後にグラナダへの入国審査でもめていた連中は、もちろんアイツらです。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。