その場のノリで、面白そうな奴らを面白ろそうなシュチュエーションにぶつけてるだけです。
そんなこんなでまあ、本編でもちょっとあった夢の対決。
ジュドー・アーシタ対ヤザン・ゲーブルです。
ヤザンと、シャングリラから来た若きジャンク屋たちは、ずいぶんと待たされた。
とはいえ、飲み物や軽食が提供されたから、扱いは悪くない。
酒がないのが不満ではあったが、まだ子どもといってよい年齢でジャンク屋をやっているジュドーたちの話は、なかなか面白かった。
「シャングリラだって、金持ちはいるのさ。ただ、そいつらはそいつらで固まって暮らしている。」
ジュドーは吐き捨てるように言った。
「例えば俺たちが、いくら稼いでもそっち側にはいけない。ひとつのコロニーのなかでそうなっちまってるんだ。
スペースノイドの独立?
人の革新?
ニュータイプ?
笑わせるなってことだよ。」
そうは言いながら、彼の瞳には絶望とは程遠い強い光が宿っている。
ヤザンも甘ったるい理想論は、大嫌いだったが、彼の認識のなかではニュータイプというのは、とにかく超人的に強いパイロットという認識である。
その存在を否定するのではない。いるのだからどう対処するのか、考えるのがヤザンという男の真骨頂だ。
1時間ばかりすぎただろうか。
そろそろこちらから、声を掛けてみるかとヤザンが思い始めた頃、ドアが開いた。
アンキーだった。
後ろにジェジーとケーンの姿も見える。
「よお、アンキー、久しぶりだな。今日は、有望な新人を連れてきたんだ。
礼は酒の一杯も奢ってくれればよしとするぜ。じゃあ俺はこれで」
「そうつれない態度はなしだぞ、ヤザン。」
アンキーはにいやぁっと笑った。
実に怖い笑顔だった。
だが、怖い笑顔ならヤザンだって負けてはいない。
猛禽の笑顔で笑い返した。
アンキーを案内してきた入国審査官は、一応、2人が知り合いだったことで一安心したらしい。
「では、こいつらの身元引き受けはアンキー代表で間違いございませんか?」
「クランバトルなんて頭のイカれた連中のやる事だ。」
入国審査官の言葉に、アンキーはそう答えた。
キョトンとする審査官に、ヤザンが言った。
「つまり、頭のイカれた連中を止めても無駄だってことだよ。
つまりは、こいつらはポメラニアンズで面倒を見てくれる、と。そういう事だ。じゃあ俺はこれで……」
立ち去ろうとするヤザンの足の甲をアンキーはヒールのかかとで、踏みつけた。
「痛えぞっ! てめえいったい!」
「まあ、普通ならモビルスーツ持ち込みでクラバに参加を希望されれば断ることはしないさ。」
アンキーは物憂げに言った。
「ぶっ壊れようが、バイロットが怪我しようが、死のうが、主催者は知らんからね。
最近じゃあ、きちんとしたテストパイロットが多くて、素人が動かすモビルスーツはかえって新鮮に映るかもしれない。」
「賭けにならないだろう、それじゃぁ。」
とヤザンが言った。
「そこはハンデをつけてやればいいのさ。」
「片方だけ武器を制限するとか、か?」
「“白い悪魔”ででもない限り、そんなやり方はしないね。逆に時間制限をつけてやるんだよ。3分以上持つかどうか、とかね!」
アンキーは、シャングリラの少年たちに向き直った。
「誰がリーダーだい?」
アンキーの気合いに呑まれたのか、ビーチャがおずおずと答えた。
「一応、俺が……」
今度は、アンキーに絡まれたくなかったのか、一同から異論は出なかった。
「ふうん。組み立てもあんたが中心かい?」
「そ、それはモンドとイーノが中心で……」
「なんか不味いのか? まったく動かないガラクタだとか?」
ヤザンの言葉に、ジュドーが食ってかかった。
「そんなことはない! ちゃんと動かせた。宇宙だって飛べたし、射撃性能だって――」
「このクソガキがやっぱり、戦闘制限機能を外してやがったか。」
アンキーは、大袈裟にため息をついてみせた。
「じゃあ、パイロットはアンタだね?
名前は?」
「ジュドー。ジュドー・アーシタ。」
ヤザンは無言でジェジーとケーンを睨んだ。
2人は顔を見合わせた。
カネバン有限公司のポメラニアンズは、いまや有数のクランであり、もっぱらクランバトルを主催する側にまわってはいるが、もともとこの2人はパイロットとメカニックだったはずだ。
「動くのは動く。ぜんぜん規格外の部品をよくもまあ、うまく繋げたもんだ。」
ケーンが言った。
「そうだろ!」
ビーチャが勢い込んで言った。
「俺たちの“パーフェクトガンダム”は!!」
「ヤザン。おっかない顔で睨んでくれるなよ。
もちろん、パーフェクトでもガンダムもないよ……」
「頭部をガンダムっぽいツインアイに改造してあるんだ。胴体の基本パーツはザクだな。ジェネレーターは初期型のゲルググのものらしい。」
「なるほど。」
胸焼けしそうなモビルスーツだった。
「だが、動くのは動くんだな?
なにか問題があるのか?」
「操縦系がむちゃくちゃなんだ。そもそオートバランス機能がない。人体の動きをトレースする基本動作のソフトがない。極端なことを言えば『歩く』のもマニュアルだ。」
「そのくらいやってみせろ!」
卓越したパイロットであるヤザンは言ってのけたが、たしかにそれはかなりの難物だ。
「それだけじゃない。バーニヤの場所もめちゃくちゃだし、出力もそれぞれ違う。あれを飛ばせたらそれこそ、複座のモビルアーマーだって1人で扱えるんじゃないか?
いや尋常の人間に扱える代物じゃないぜ、アレ。」
「こりゃ面白い。」
ヤザンがニイと笑った。
「ジュドー、おまえはニュータイプかなんかか?」
「いずれにしても、ジェジーじゃあ、あの機体がちゃんと動くのかどうかさえ
確認できなかった。」
アンキーが言った。
「言っとくが、こいつだって腕はいいんだぞ!」
「それなら、俺が動かして見せるよ!」
ジュドーがアンキーを睨んだ。
「ちゃんと動いて」
「動くだけじゃクラバはダメなんだよね、坊や。」
「ちゃんと動いて戦えるところを見せてやればいいんだろ!」
ありゃ。アンキーに嵌められやがって。
ヤザンは心の中で呟いた。
ジュドーたちの作ったゲテモノモビルスーツは無様にやられたらやられたで、かなり観客の喝采をさらう試合になるはずだ――クランバトルとしてではなく、コミックショーとしてだが。
そして、まだアンキーの配下になると決まっていない状態で行われた試合については、アンキーには修理費も治療費も払う必要が無い。
「なら、そういうことにしようじゃないか。」
アンキーはメフィストのような笑いを浮かべながら、ジュドーに言った。
「ジュドー、あんたがそのパーフェクトなんタムとやらで3分間もったら、わたしんとこで面倒見てやるよ。」
「3分! 楽勝だ、そんなの!」
「話は決まった。それじゃ」
アンキーはヤザンの肩をポンと叩いた。
「ヤザンの旦那。よろしく頼むわ。」
そう来たか!ヤザンは一瞬、呆然としたが、まあそれもアリかと思い直した。
ジュドーたちのモビルスーツが、マトモに動かないゲテモノだったり、仮にマトモに動くゲテモノであってもジュドーの腕が悪過ぎれば、少年たちの儚い夢ごとめちゃくちゃにしてやれる。
もちろん、ジュドーの生命を奪わないように注意した上で、だ。
その場合は、彼らは故郷のコロニーのジャンク屋に戻り、たぶん鉄くずに塗れて暮らす。だが、何十年か後には腕のいい技術屋にテストパイロットのいるジャンク屋として、結構な評判になるのだ。
そっちの人生の方がオススメだぞ?
と、ヤザンは教えてやりたかったが、彼はそこまで親切ではなかったので、黙って頷いた。
「決まりだ!」
アンキーは新しい玩具を見つけた子猫のようにはしゃいだ。
「ケリィにここらで使える試合場がないか確認してくる。ヤザンのモビルスーツはこっちで用意するよ。」
……よかった。
アンキーが、リィナとエルの写真集のことを忘れてて。