おかげで、陛下とか元首とかアルテイシア様とか姫様とか、みんな呼びたいように呼んでますね。
政治というには、変化を求めるものからはその進み方はあまりにも遅々としているように感じられる。
ジオンの次世代モビルスーツに連邦の新型を採用するというアルテイシア代表からの申し入れは、少なくともこのときジオンを表敬訪問していた連邦政府のお偉いさん方には、最終的には好意をもって受け止められたのだ。
無茶な提案である。
そもそもガンダムマークⅡは、連邦軍が威信をかけて作り上げた次世代モビルスーツである。それを────。
完成直後に再び、ジオンに奪われるというのか。
これでは、ただでさえ、戦力に勝るジオンが一層有利な立場を得ることにならないのか。
晩餐会の席上、難しい顔で、ある政府高官は、アルテイシアにそう詰め寄ったが、たんなる演技であることは、この聡明なるダイクン家の姫君にはよく分かっていた。
「目下のところ、連邦と我がジオンに軍事的な紛争はありませんわ。」
それはその通りなのだ。
連邦軍は宇宙にまったく展開していない──つまり、地上におけるジオンの基地に対して連邦軍が攻撃を仕掛けるような暴挙を噛まさない限り、戦争は起きないのた。
「それに、わたしたちにもガンダムマークⅡの技術を使わせてもらうように頼んでいるだけです。」
アルテイシアは周りのものにも聞こえるように、はっきりとした声で言った。
「連邦軍からガンダムを取り上げるわけではありません。そちらはそちらで、ガンダムマークⅢでもサイコガンダムでも作っていただいて差し支えありません。」
「しかし、我々としては……」
「まあまあ。そうそう急に結論を出すものではありませんよ。」
礼装に身を包んだ連邦軍将官が声をかけてきた。
「ゴップ将軍、しかし……」
「あのイオマグヌッソの大事故からまだ日も浅い。ジオンは精鋭をもって軍を立て直す必要があるのだ。
そうでなければ、各サイドは更なる混乱に陥る。そして地球連邦には、それを治める術はない。」
「…」
「ジオン公国もまた必死に『今』という時代を生き抜いているということだ。残念ながら、ガンダムマークⅡを欲しているのは、連邦に対する嫌がらせや予算の節約以上の理由があるのだ。」
「しかし。もともとガンダムマークⅡは教導隊のエリート用に開発された機体です。それをむざむざジオンに」
「それはどうかね? ジャミトフ閣下もティターンズにはそろそろ見限りを検討されているようだ。何分にも強弁なだけで、ろくな成果が、ないようなのでな。」
そして笑顔で、アルテイシアを振り返った。
「一度、この件についは持ち帰り、協議させていただきます。」
「よろしくお願いいたします、ゴップ閣下。」
アルテイシアは嫋やかに微笑んでみせた。
「もし、拒否されるようなら、ジオンは戦闘をもって決着をつけることを覚悟していると。
そうお伝えください。」
一緒に話をしていた高官が気を失いそうになるのを、ゴップが付け加えた。
「わかりました。どうしても折り合いがつかないようでしたら、戦いで───クランバトルで決着をお願いいたします。」
「面白いことを言うのですね、ゴップ将軍。」
アルテイシアは眉をひそめた。
「モビルスーツの試合で国家間の重要事項を決めるというのですか?」
「『戦闘で決着を』とおっしゃったのはアルテイシア様ご自身ですな。
なにも戦争だけが戦う術ではありません。クランバトルもまた立派な戦闘です。しかも戦争に比べて失われる人命もかける予算もはるかに少なくて済む。」
ジオンの美しい国家元首の口元に笑みが浮かんだ。
今度は苦笑である。
「わかりました。ここでの会談はあなたに勝ちを譲りますわ。もし、どうしても連邦がガンダムマークⅡの技術供与を拒否するならば、クランバトルで決着をつけましょう。
……言っておきますが、量産化にはかならずしも適さないワンオフ機ならば現時点でジオンにもゲルググを超える機体は存在します。それを操る優秀なパイロットたちも、ね。」
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晩餐会は、友好的に終わった。
と言うより、参加しているのは、なんやかんやで、ジオンからの利益を期待している者たちばかりだ。
ガンダムマークⅡに投入された技術や設計思想は既に、人類共有のものとなりつつある。もしガンダムマークⅡのデータを流すことで、ジオンに恩を売れれば(そして幾ばくかのキックバックが期待出来れば)彼らはこぞって、ガンダムマークⅡをジオンに売り渡すことに賛成するだろう。
「そして、ガチガチのアースノイド至上主義派や良識ある中間層は、反対に回ります。」
シャリア・ブルが、ワイングラスを掲げながらそう言った。
晩餐会終了後、アルテイシアが腰を落ち着けたのは、マハラジャ・カーンの自室である。
とは、いっても執務スペースを兼ねているので、かなりの広さがある。
かつて、アルテイシアがキュベレイのイラストを見せられたのもこの部屋だった。
ジオンの重鎮たちの表情は三者三様だった。
シャリア・ブルは全くの平静。
マハラジャ・カーンは不機嫌に黙り込む。
上機嫌なのはランバ・ラルのみである。
「ジオンの影響のもとにマークⅡをジオンへ売り渡そうとする案は否決されます。
次の段階として、戦争を避けるため、クランバトルによる決着をやむ無しと。
これはゴップ大将がうまく立ち回ってくれるでしょう。」
機嫌がいいのを隠そうとするランバ・ラルだったが、無理やりしかめっ面をつくるものだから、口元がビクビクと震えている。
なにが嬉しいのか?
敬愛するアルテイシア姫とM.A.V.を組んで戦えるのが嬉しいのだ。
こんな護衛隊長がいてたまるものかと、シャリア・ブルは思うのだが。
一方、マハラジャ・カーンがむっつりと黙ったままなのは、実は今回のクラバの決定とはなにも関係がない。
愛娘ハマーンがアクシズから帰ってきているのに、一度も顔を見せないのを僻んでいるのだ。
もっとも、彼は大佐殿にハマーンを嫁がせて、ダイクン家と姻戚になることを目論んでいたから、その意図通りにアーガマで大佐殿と行動をともにしているハマーンに向かって文句も言いにくい。
「ならば、万全の状態でクランバトルに臨むべきでしょう。
あらためて、申し上げますが元首の護衛隊長であり、政府の重鎮でもあるランバ・ラル殿が自らクランバトルに出場するのはわたしは反対なのですが。」
「意見があいますね、シャリア・ブル准将……」
アルテイシアが言いかけたが、シャリアはぴしゃりと言った。
「元首自ら出場するのは問題外です!」
「元首が出場するから、本来ならば戦争になりかねない無理がクラバで通るのです。」
「出場されるのは、あくまで謎のパイロット、ソム・エドワウと“蒼き巨狼”バンボラ・バルではなかったのですか?」
「いきなり、わたくしが出場すると言ったらティターンズあたりがテロに走る可能性があります。」
「それは必ず防ぎます。」
「防げたとしても第三者に被害が出るかもしれません。テロに目標などないのですよ。自らの怒りを社会的な騒乱を起こすことで表明したいだけなのですから。
起こす口実をもうけさせないのが一番です。」
アルテイシアは笑った。
「でも観衆はわたしたちが勝ち名乗りを上げて姿を表せば、否応なしに気がつくでしょう。連邦政府もね。」
「気づかれない可能性というのは?」
「シャリア・ブル。それはあまりにもひとをバカにしています。いくらなんでも変な仮面をつけたり、サングラスをしたり、前髪を上げたり下ろしたりするくらいでは変装にはならないものですよ。」
それはどうだろう。
と、シャリア・ブルは思った。
このお姫様がサングラスをかけただけで、ソム・エドワズの偽名でグリーンノアに潜り込んだのはついのこの前だ。
「───お止めするのが無理なようですか。」
ランバ・ラルはアルテイシアとともに戦えるということに舞い上がってしまっている。
唯一、苦言をていしてくれそうなのは、マハラジャ・カーンなのだが、ハマーンが、と言いながら、ハマーンの描いたキュベレイのイラストを見ながら涙ぐんでいるばかりだ。
「クラバに出るとして、機体はどうされますか? キュベレイはファンネルの操作に不安定さがあります。アルテイシア様を乗せるには不安があります。」
「逆に連邦はなんの機体で誰を出してくるかしら。」
「そこまではいまの段階では我々も想像がつきません。」
ランバ・ラルが言った。
「大戦のときに活躍したエース級のパイロットを片端から除隊させたのは、連邦も我が軍も同様ですからな。
可能性が高いのは、オーガスタ、ムラサメの強化人間あたりかと。」
「クランバトルのパイロットを指名して出場させる可能性は?」
「一度、除隊させたものを、頭を下げて再入隊させるのは、プライドが許さないでしょう。」
「もともと連邦軍に所属していないクラバのパイロットならば?」
シャリア・ブルは顔を顰めた。
外交的な決着をクランバトルで……。
そういう意図もあったのか。
「アルテイシア様。“大佐”殿はそんなことを受け入れはいたしませんでしょう。」
アルテイシアは天井を仰いだ。
口元がひくひくと笑いの形に歪んでいる。
「そうでしょう……そうでしょうね。残念、実に残念。」
「二兎を追う者の教訓は宇宙世紀にも有効です。なにとぞ、ここはガンダムマークⅡの権利を獲得することだけをお考え下さい。」
ガンダムマークⅡの技術を巡っての陰謀はいよいよ渦中に!
そのくらい決めとけよ、と言われそうですが。
アルテイシアがなんの機体で出撃するのか。そして連邦軍の代表は誰になるのか。
まだ、まったく決めてないので(というか思いついてもいないので)書いててワクワクしますねえ。
さてどうしましょう。