第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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フォウ・ムラサメとの接触をひかえ、アーガマクルーたちに緊張が走る。
ゼロとムラサメ研究所が作り上げた“強化人間”。
それはアムロたちにも想像を絶するものだった。
一方、ZETAのテストを止められたヤザンは……


第23話 クランバトルの時代~ゼータの鼓動

「すると、フォウ・ムラサメにはカミーユ・ビダン君を害する意図はないというわけか。」

一時、ジャミトフの麾下にいたこともあるというガディ・キンゼーは、ゼロ・ムラサメとも面識があるようだった。

 

被験体であり、そして失敗作でありながら、強化人間とそれに向けたモビルスーツ開発において、ムラサメ研究所のトップを張る女、ゼロ・ムラサメは腕組みしたまま、偉そうに頷いた。

 

「フォウは、精神的にも肉体的にも安定している。カミーユ・ビダンに危害を加えることはない。」

 

「じゃあ、なんで攫ったの?」

マチュがじと目で言った。

 

かなり背の高いゼロ・ムラサメを見上げる形になっている。

 

 

「人質、だな。

きみたちが、ココとフォウを捜索にきたことを知って、その動きを牽制する為だ。」

 

「でも、明日にはこちらに連絡をして、カミーユも返してくれる、と手紙にありました。そのこととは矛盾しませんか?」

「うん。いい目の付け所だと思うよ、アムロくん。」

 

関係者一同を集めて、状況を把握したいというヘンケンの要望で、アムロたち、ゼロ・ムラサメと彼女が連れてきたエルピー・プル、グラナダのクランバトルオーナー、ケリィ・カズリーは、ホテル内部のミーティングルームに集められている。

 

まず話は行方不明となったカミーユ・ビダンのことになった。

名探偵よろしくゼロ・ムラサメが立ち上がり、状況説明をはじめたところである。

 

「フォウは安定はしている。しているが、それは正常という意味ではないんだ。」

「意味がわかりません!」

 

クリスチーナ・マッケンジーが立ちあがる。

 

「いま、それを説明している。アレックスのパイロット。」

 

一通り自己紹介はしたのだが、ゼロ・ムラサメはあまり人の名前を覚えるのが得意ではないようだった。

あるいは、関心の薄い相手については、特徴と職業で覚えるタイプなのかもしれない。

 

「この場合『正常』というのは、人が一般的にもつ法律や道徳に従順に従う、という意味だ。わたしも含め、ムラサメの強化人間にそんなものはない。おっと!」

 

クリスが詰めよろうとしたのを、ゼロ・ムラサメは手を振って止めた。

 

「別段、殺人や暴力を振るうことで快感が得られる…ということもない。必要なら躊躇なくそれを行えるというだけで、それをわたしは『安定』という言葉で表現した。」

 

「カミーユ君は少なくとも進んで、フォウ・ムラサメについて行ったわけではない。」

ヘンケンが難しい顔で行った。

「彼のスケッチブックとスマートフォンが現場らしき公園に落ちていた。無理やり連れ去られたことは間違いない。」

 

「フォウは、おそらくココ・シャロンから明日までは、あなた方との接触をしないように命令されたんだろうね。

それを人質をとって、時間を稼ぐという方法をえらんだ。黙って隠れている手もあったのにね!

自分の帰属する群れのボスには無条件で従ってしまう。それが反社会的なことであっても、ね。それをわたしは『正常ではない』と表現したんだ。」

 

アムロは、カミーユのスケッチブックを思い出していた。

3機の重戦闘機が合体するモビルスーツ。

製造コストは大型モビルアーマー、例えばビグ・ザムにも匹敵するだろう。だが、その攻撃力はビグ・ザムをも凌ぐ。

製造コストと……整備性を考えると寒気がするほどだったが、たぶんそれは時代が求めるモビルスーツそのものだった。

 

「カミーユは空手をやってたんだよね。」

マチュが首を傾げた。

「フォウひとりで取り押さえられたのかなあ。誰か仲間がいる?」

 

「それはない。」

 

ゼロ・ムラサメの返答は即断だった。

まるで「そんなことを考えるだけ無駄」とでも言うような、乾いた声。

 

「フォウは単独で行動している。わたしが保証する。」

 

「……なんでそう言い切れるの?」

マチュの語気が鋭くなる。

 

ゼロは片眉を上げ、淡々と返す。

「目的が達成されるなら、手段は問わない。

カミーユ少年を拉致するのに人手が必要なら、フォウは別の方法を……例えばカミーユを拉致しないですむ方法を考えたのだろうが、そんな必要はない。15、6の子供を誘拐するのはフォウひとりで充分だ。」

 

沈黙が降りた。

誰もすぐに言葉を発せなかった。

ヘンケンの視線が、重くゼロに向けられる。

 

「……ムラサメ研究所が目指す強化人間とはなんなのだ?

単なる兵士でもない───」

 

「兵士というより――」

ゼロは、少しだけ目を伏せ、唇に薄い笑みを浮かべた。

「“兵器”もしくは兵器の一部だよ。心の奥に、自我と命令が綱引きをしてるだけのね。」

 

その笑みには、自嘲の色があった。

 

「じゃあ、ゼロ博士。」

アムロが静かに口を開いた。

「もしココ・シャロンの命令が“カミーユを殺せ”だったら、彼女は――」

 

「――殺すよ。」

遮るようにゼロが言った。

誰も息を呑む音さえ出せなかった。

 

「だが、そんなことを言い出さないから、フォウはココ・シャロンを『姉』として認め、それに従っている。」

 

「……信じられる根拠は?」

クリスが問うと、ゼロは微かに笑った。

 

「わたしがそう“作った”からだ。」

 

その場の空気がひやりと凍った。

 

ケリィ・レズナーが、煙草の箱を取り出しては、火をつけるのを思い直す。

「作った、ね。そりゃつまり、ムラサメ研究所のやってることは噂通りってことなのか?」

 

「どんな噂かは知らない。」

ゼロは肩をすくめる。

「被験体の確保に大量のクローンを製造したり、モビルスーツとの親和性を高めるために体の組織の一部を削除したり、依存性の高い薬物を投与したりしてるのは、別の連中のやっていることだ。」

 

「それが悪事だという認識はあるのだな?」

 

「“知識”としては、ね。確かにニュータイプの遺伝子をもつクローンがいたら、こんなに楽しいことはないし、いろいろと試してみたいことだらけだ。」

 

そう言いながら、傍らのエルピー・プルの頭を撫でた。

言ってることな完全にマッドサイエンティストなのだがその手つきは優しい。

 

ヘンケンが口を開いた。

「では、明日。フォウと接触するまでこのまま待て、と。」

 

「その通り。無理やりに彼女の居場所を突き止めても状況は好転しない。

……ああ、あとフォウに会いに行くメンバーは選んだ方がいな。大勢で押しかけてしまうと彼女を圧迫してしまう。」

ゼロは、テーブルに置かれたグラスを指先で回した。

「問題は、誰が行くかだ。」

 

「ムラサメ博士、あなたが行っていただけば……」

 

「もちろんそのつもりだが、わたしがひとりで行ったら、それはそれで諸君が信用出来ないだろう?」

 

「すごいなあ。」

ぽつりと言ったのはニャアンだった。

「まるで強化人間は人間じゃないみたいなことを言っててもちゃんと人間の気持ちがわかるん…です……ね。」

 

「そうだよ! わたしもまた『安定』しているのだからな!!」

 

アムロが口を開いた。

「ぼくが行きます。」

 

「アムロ!」

クリスが思わず声を上げたが、アムロは首を振った。

 

「カミーユがアーガマに乗ることになったのは、ぼくにも責任がある。」

 

ゼロは、興味深そうにその目を細めた。

「ニュータイプの感応力か。強化人間も擬似的なものだが、その力を備えている。

交渉に役立つかもしれない。わたしは悲観的だが。」

 

「そうか! ニュータイプの感応力……よし、危険はあると思うけど、マチュとニャアンも一緒に来てもらえるかい?」

 

「もちろん! わたしだって、カミーユのこと、心配なんだからね!」

 

ゼロ・ムラサメは変な顔で、周りを見回した。何が起こっているのか分からない、といった風であったが、彼女がそんな態度を見せるのは珍しい。

 

 

「いや、人数は少ないほうがいいから、マチュと黒髪は来なくても……」

「え、でもフォウ・ムラサメとの交渉にニュータイプの感応力が役立つかもしれないと言っていただいたのは、ムラサメ博士ではないですか?」

「いや、ニュータイプはひとりいれば」

「マチュ1人でってことですか? 申し訳ないですがあなたとマチュを2人きりにするのは、不安なんです。」

「い、いや、だからわたしとアムロで」

「ニュータイプがいた方がいいんでしょう?」

 

クリスチーナ・マッケンジーが首を横に振った。

「アムロは自分がニュータイプだとは断固として認めないんです。」

 

「そりゃそうですよ。ぼくはただの少しカンのいいパイロットってだけです。宇宙世紀に対応した人類の進化形なんかじゃあありません。」

 

 

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「ヤザン! いい試合だったよ!

報酬の方ははずませてもらう……まあ、貸し出しの軽キャノンの修理費は引かせてもらうけどな!」

 

モニターに映るアンキーは上機嫌だ。

ヤザンもにまにまと笑いながら言った。

 

「もう一試合儲けさせてやるぜ。」

「ほう? いいな。いつやる?」

「いま、これからだな!」

 

アンキーも流石に表情を変えた。

 

「な! いくらなんでも急すぎるだろう!?」

「アーガマの新型だぜ? まだどこにとも披露目してない可変機だ。

ジュドーに操縦させる。俺はM.A.V.としてマークⅡで出るぜ。」

「はあっ? そんなことを……ヘンケン艦長やアムロたちは今ごろ、ホテルで打ち合わせ中のはずだ。

まさか、おまえ、勝手に……」

「いや、俺はジュドーのやつに可変機ってやつを扱わせてみたいだけなんだ。だが、留守番のエマ少尉が頑固でなあ。テストを認めてくれないんだ。クラバならなんでも通るだろう?」

 

アンキーは、ヤザンを睨みつけたが、歴戦の古強者はのほほんと言った。

 

「興行的には面白いぜえ?」

 

わかっている。わかっているから、アンキーも悩むのだ。ここは、行政組織にもある程度顔がきくサイド6ではない。

ジオン管轄のグラナダだ。

ここのクラバの大立者であるケリィに話が出来ればいいのだが、ケリィもまたアーガマの連中とのミーティングに呼ばれてしまっている。

 

「なら……その新型とマークⅡ。相手は誰になるんだい?」

 

「まあ、俺たちを止めるために、“大佐”とハマーンがきてくれそうなんだ。M.A.V.戦にちょうど良いだろう?

機体は、可変機試作機の“百式”とエネルギーキャップ式の小型ビットを搭載したキュベレイだ。」

 

アンキーの黄金色の頭脳は、罰金はもちろん、逮捕、服役の可能性まで瞬時に計算した────そして出した結論は。

 

 

「よし、やるぞ!!」

アンキーは叫んだ。

「ルールは少し変える……どうせクラバ仕様に武器制限なんぞかけてないだろうから、ビームが直撃したらそこで試合終了だ。

いいな!?」

 

 

 

 




うーん。次回は苦手なバトル描写です。
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