新たなるニュータイプ、ジュドー・アーシタ。その実力は?
一方、拉致されたカミーユは、記憶を失った少女と思いを繋ぐ────
「クワトロ大尉。」
スクリーンの中のエマ・シーンの顔色は流石によくない。
「状況は把握した。アーガマからは、ヤザン達の発進は止められないのか?」
「月面での演習プロジェクトは、すでに組まれていてグラナダにも提出済みです。
あとはその時期を、ヤザン・ゲーブルが勝手に『今』に書き換えただけです。ジェリドたちも協力しているので……」
まったく!
クワトロは舌打ちした。
面白そうなパイロットを見つけたから、ZETAを扱わせてみたい、か。
しかも艦長が不在なのを見計らって、独断でこれだけ勝手気ままなことを仕出かすとは!
部下にした場合、これほど扱いにくい相手はいないだろう。
だが──同じひとりのモビルスーツパイロットとしてみた場合は理解できないこともないのだ。
もともと、アーガマとアレキサンドリアがグラナダを訪れたのも「月面でのモビルスーツ性能テスト」のためだ。
それは、そうグラナダにも届けてある。
逆にモビルスーツ性能テスト艦であるアーガマが「それ以外」の目的で宇宙をうろうろすることなど許されない。
しかし。
このタイミングでグラナダが、演習を許可するなどありえるだろうか。
「クワトロ・バジーナ、百式、出る!」
VIP用宙港には、アーガマのようなカタパルトはない。
そのまま、バーニヤをふかして飛び出す。
月面での戦闘は……いつ以来だろうか。
続いて
「ハマーン・カーン、キュベレイ。発進する……しかし……やられたなあ、我が君よ。」
そう。
彼とハマーンが、ヤザンを止めようとすれば、その行動そのものが「演習」になってしまう。
どう動こうとヤザンの思うままだ。
「クワトロ・バジーナ。」
呼びかけてきたのは、クラバのオーナークラスが使用する特殊回線だった。
「アンキーか。」
クワトロはうんざりした声で答えた。
「いま、取り込み中だ。あとにしてくれ。」
「そうはいかないよ。なにしろこれからはじまるクランバトルのルールを説明しておかないとね。」
「なんだと!?」
「ヤザン・ゲーブルの『マークⅡ』と新星ジュドー・アーシタの『Zガンダム』。」
アンキーは上機嫌だ。
「対するは、ネオ香港のクラバオーナー、クワトロ・バジーナ大尉の『百式』と、マハラジャ・カーンのご令嬢ハマーンの操る『キュベレイ』だ。」
「冗談ではない!!」
反射的にそう言ってしまったが、クワトロは思い返した。
なるほど。
その手があったか。
連邦所属のモビルスーツのテストをグラナダ近郊で行うことは、事前の申請無しにはありえない事であったが、クランバトルならば。
もちろん、グラナダがいい顔をするわけではないが、ハプニング的にクラバをスタートさせることにはこれまでもあった。
と言いうか、ついこの前までは非合法のイベントだったのだから、多少の裏取引はあったにしてもそれが当たり前である。
同じ頭を下げるにしても罰金を払うにしても、連邦所属の艦艇がやったのか、クランバトル興行主がやったのかでは、事後の処理は後者のほうが、圧倒的に簡単だ。
「ルールは?」
クワトロは通信をハマーンにも聞こえるように切り替えてから言った。
クワトロがあっさり承知すると思ってはいなかったのだろう。一瞬の沈黙のあと、アンキーは声をたてて笑った。
「流石は“大佐”殿だね?」
「いまの私はクワトロ・バジーナだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「その与太話はおいとくとして。」
アンキーは愉快そうに言った。
「そっちは武装しているかい?」
「通常の実戦仕様だ。ソフトウェア的なロックはかけているが、外すことはできる。」
「上等、上等。ヤザンたちのモビルスーツも同じ仕様だ。じゃあ、今回のクラバは2対2のM.A.V.戦。どちらか一機でも直撃を受けたらその点で敗北が決まる。
いいね?」
「クラバのボス。」
ハマーンが上から目線で会話に割り込んだ。
「わたしは、月の重力下でもファンネルを使えるぞ?」
「ファンネル?……ああ、エネルギーキャップ式の小型ビットのことだね?
使えるなら使うがいいさ。」
----------------
グラナダのホテルの一室にカミーユは、監禁されていた。
一応、暴行の上、拉致監禁……なのではあるが、あまりそんな気はしない。
フォウと名乗る少女は、恐ろしいほど優しくカミーユの意識をふっとばしたあと、ここに彼を連れ込んだらしい(本人がそう言っていた)のだが、目が覚めた時、どこにも痛みは感じなかった。
カミーユ自身も格闘技をかじっているからわかる。
フォウ・ムラサメは、素人とは隔絶した技術を持っており、彼女なりにカミーユが傷つかないように細心の注意をはらって彼を無力化し、丁寧に丁寧にここに引きずり込んだのだ。
監禁、と言われたが縛られたりすることもない。
フォウは、目が覚めたカミーユに、二日たったら、もといた場所に帰すと約束した。
「まだ」自分の居場所を関係者に知られては困るのだ。
だから二日だけ、付き合ってくれないか。
そう言われてつい、うんと頷いてしまったので、カミーユはここいる。
部屋そのものはリビングに寝室が二つついた豪華なものだった。
ごくごく普通に、二人は連れ立って、ホテルのレストランで食事をとり、また部屋に戻り、あれこれと話をした。
フォウは「強化人間」だった。
ムラサメ研究所は、カミーユもその評判をきいたことがある。信じられないような非人道的な実験で強化人間や強化人間のためのモビルスーツを開発している極東の研究施設だ。
だが、フォウは見たところなにか特殊な処置を受けたようには見えない。
肌が抜けるように白いのが、病的と見ればそうなのだが、普通に笑い、普通に食事し、普通に会話ができた。
そう、話をしたのだ。
カミーユがスケッチをおこしていた「ぼくのかんがえたさいきょうのがんだむ」のことから始まり、このところのモビルスーツ開発事情、さらに彼女の『お姉さま』ココ・シャロンのこと。
まさにそれはカミーユが知りたかった情報でもあったので、カミーユはそこを深く突っ込んで聞いてみたが、フォウはなにも知らなかった。
とにかく、明後日までは身を隠すように。
そうココ・シャロンから言われたので、その通りにしている、というのがフォウの答えだった。
グラナダ郊外にあるVIP用の特別宙港にて、ココ・シャロンと別れてから、彼女がどこに行ったのかはまるで分からない。
と、フォウは言う。
彼女が指示されたのは、明後日まで“大佐や”その関係者、クラバ関係者、グラナダ警察……つまり彼女を彼女であると知るものにつかまらないこと。
カミーユにしてみれば、かなりいい加減な命令であるし、その命令になんの意味があるのか、あるいは、その期限がおわったあとどうすればいいのかなど、疑問点だらけなのであるが、フォウはまったく気にしていない。
「お姉さま」に言われたことをひたすらにこなす。
それは不安なことではないのか。
そうカミーユが尋ねると、フォウは笑ったが、その笑顔は寂しそうにみえた。
「わたしは記憶が無いの。」
「な、なんで!」
カミーユは喘いだ。
「なんでそんな酷いことを!!」
「モビルスーツの操縦に邪魔だから。」
フォウはあっさりと答えた。
「ニュータイプに匹敵する空間認識能力を持つためにはなにかの犠牲が必要なのよ。
厳密には、戦うことへの恐怖や忌避感を消すためらしいのだけれど。」
自分が誰かわからない。
そうなったら、自分が自分でなくなるような気がする。
「フォウは不安じゃないのか。いくらなんでもそんな酷いことをしてまで、人間を『強化』しないといけないものなのか。」
「そうねえ。」
フォウは首をかしげた。強化人間の少女は、普通のようでいてどこか狂っていて、正常なように見えてどこか異常だった。
「『お姉さま』がいることでわたしはずいぶんと『安定』したと思う。」
「でも……そんなのはインチキな記憶だろう!?」
「そうね。でもカミーユ。あなたはちゃんと記憶もあるし、たぶん普通の家庭で家族と一緒にいるのだろうけれど、やっぱり不安そうで不安定に見えるわ。」
フォウは人差し指でカミーユの唇に触れた。
「わたしのことを「お姉ちゃん」って呼んで見る?」
なにを!
カミーユは、顔が熱くなるのを感じた。いまさらながら。
このフォウという少女に魅入られている自分を自覚したのだ。
場所はホテル。
ベッドルームは別にあるにせよ、2人がけのソファはすぐ横にある。
クスッと笑って、フォウは手を振って、部屋のモニターに映像を映した。
「またクランバトルがあるみたいよ。」
「なんで、わかるの?」
「わたしはクラバの選手だから。クランバトルの情報は手元のスマホに入るようになってるの。受信のみにしてるから、位置情報は取れないけどね。」
カミーユにははっきり言ってクラバ所ではなかったが、映し出された映像を見て息を飲んだ。
「百式!! キュベレイ!?
そ、それに」
金色のモビルスーツと昆虫のように羽根を広げたモビルスーツ。
それに対するのは。
「ガンダムマークⅡ!!
そ、それにあれは……」
それはガンダムに似ていた。だが、全体にシルエットが鋭角で精悍な印象を受けた。
「ZETA!!」
可変機対可変機。
この物語の設定では、百式は可変の試作機。
決定力不足不足を解消するために、ジェネレーター強化やハイパーメガランチャーなど武装を加えたのがZガンダムガンダムです。