その近郊でクランバトルがスタートしようとしている。
だれもが予測しなかったこのクランバトルは、シャングリラの少年に新たな世界を開くのか。
文字に起こすと長いのですが、たぶんアニメだと尺5分です。
「クランバトル、クランバトル!!」
耳障りなアナウンスが、パイロットたちの耳を刺激した。
ヤザン・ゲーブルは顔を顰めた。
どうもこのアナウンスは好きになれない。
ジュドー・アーシタのZETAが身を寄せてきた。
まだ月面に出て、2分もたっていない。
着陸中のアーガマのカタパルトデッキは使えないので、通常にグラナダのモビルスーツ用の発進口から出てきたのだが、初めて扱うにしては、上出来だ。
“そういえば、カミーユのやつもはじめてマークⅡに乗ったときもいい感じに動かしていたな。”
ヤザンは思った。
普通は、こうはならない。機種が同じでも微妙な機体ごとの差異に苦戦するものだ。
まったくの新機種をのった瞬間から鮮やかに使いこなしてみせる────そんな例は、ヤザンもあとひとつしか知らない。
サイド7でガンダムを強奪した赤い将校さんかだ。
すなわち、それは────。
「対戦相手が決まりました。クワトロ・バジーナ乗機“百式”、ハマーン・カーン乗機“キュベレイ”。
マークⅡ、ZETAは指示されたポジションに移動してください。試合開始は30分後です。それまでは相手を捕捉しても発砲は厳禁です。威嚇や試射でも即反則負けとなりますので、ご注意ください。」
「わかってる! 俺はクランバトルは初めてじゃないんでな! ジュドーもわかったか?」
「ヤザンさん。オレは新型機に乗せてくれるっていうから着いてきたんだけどなぁ?」
ジュドーの声は刺々しい。
「いきなり、クラバとか。聞いてないんだけどな!」
十代の半ば……年齢はきいていないがカミーユよりも下だろう。だが仲間内でジャンク屋を始めるだけのことはあって、ものの言い方は繊細なところのあるカミーユよりも遥かにしっかりしている。
「考えても見ろ。」
ヤザンは言い返した。
「いきなり連れてきたガキをパイロットに雇ってくれと言っても、はい分かりましたと歓迎してくれると思うか?」
「そこはヤザンさんがなんとかしてくれるんだろ?
誘ったのはそっちだぜ。」
「だから、な。こういうことは、まず実績を作っちまうのがいいんだ。」
「『まず実績』のためにかけるほど、軽い命じゃないんだ。オレになにかあったらリィナが」
「まあ、安心しろ。クラバはクラバだ。命の取り合いじゃねえんだ。だがな」
ヤザンは凶暴な笑みを浮かべた。
「びびってるヤツから死神は連れていきたがるんだ。
胸を張って相手をしっかり見ろ。なあに相手はたかが、“赤い彗星”とアクシズのトップパイロットだ!」
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アムロは、ミーティングルームのモニターから、アンキーを呼び出している。
メインのディスプレイにはすでに、「クランバトル開始」の文字が表示されている。
ブライトは、アーガマのエマ・シーンと音声通話でやりあっていた。
「なんで、うちのモビルスーツがクラバに出ている!? え、ヤザン・ゲーブルが?
そんなことは許可してないぞ。
……ZETAまで持ち出したのか? それもヤザンが連れて来たパイロットだと!
そちらにパイロットは誰が残っている?
ジェリドにアボリー、ロベルト、か。」
そのまま、チラリとアムロたちを見た。
「……クリスチーナ・マッケンジーとアムロ、マチュ、ニャアンをアーガマに戻す。すぐにヤザンを追わせるんだ。
特別宙港に出かけたクワトロ大尉とハマーンには連絡はとれたか?」
「クロメさん。」
マチュがブライトの肩を叩いて、メインモニターを指さす。
それを見たブライトは、そのまま床に倒れそうになった。
「注目の最新機体対決! クランバトル初登場!
連邦のモビルスーツ運用テストテスト艦アーガマの協力による夢の試合が実現いたしました。
新世代の可変モビルスーツ“百式”! 名機ガンダムの後継機“ガンダムマークⅡ”。今回初の試験運用となる“ZETA”。異形のモビルスーツ“キュベレイ”はニュータイプ専用機との噂もあります!」
「クワトロ大尉……あなたまで……」
「落ち着いてったら、クロメさん!
焦って力で止めようとしても無理だよ。」
「マチュ! これは下手をすれば、ジオンの要衝グラナダで、連邦が勝手にモビルスーツ戦闘を行ったということで、外交問題になりかねないんだ!」
「いや、これは意外とありかもしれないですよ、ブライト中尉。」
アムロが言った。
ブライトは抗議しようとしたが、ちょうど、アムロの目の前の通信用のモニターが切り替わり、アンキーが姿を現した。
「どうしたんだい、アムロ?」
「どうしたもこうしたも……」
アムロはアンキーを睨みつけた。
「これはヤザン大尉の差し金ですか? それともあなたの?」
「あーあ、そのことを言うならヤザン殿の発案だねえ。」
アンキーは肩を竦めた。
「アンキーさん、あなたはなにを勝手なことを……」
ケリィ・レズナーが食ってかかる。
「ここはサイド6じゃないんだ。ましてジオン公国はクランバトルを正式な競技として認めたわけではない。大事になりかねないぞ!」
「ならないようにちゃんとやれ。」
アンキーは逆にケリィを睨みつけた。
「ついこの前、アムロたちに予告なしにクラバをしかけたことは忘れたんじゃないだろうね?
なあに。
連邦の最新モビルスーツが実際に動いて、戦闘してるシーンを見学できるのは、ジオンには垂涎ものだろう。政治的な問題にしてしまったら参加選手のクワトロ・バジーナ“大佐”殿やマハラジャ・カーンのご令嬢の件などややこしいことが次々に明るみになる。
『政治的』問題にはグラナダだってしたくないはずだ。
故に、この件はクラバのオーナーである我々への罰金でカタがつく。」
罰金だけですめばいいんですがねぇ……
と、ケリィがぶつぶつ言いながらもトーンダウンしたのは、当然、この試合で得られる利益を想定できたからだ。
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「だ、大丈夫なのか!?」
シャングリラの少年たちにとってもこの展開は予想外すぎた。
ときにはジュドーと対立することもあるビーチャも顔色が悪い。
「大丈夫! クランバトルはあくまでも試合。実戦じゃないんだから。」
イーノも顔を青ざめさせていたが、なんとか冷静さを保とうとしている、
「それに、ジュドーは……ニュータイプだ!」
「そんなことはわからねえよ。ちゃんとテストを受けたわけじゃないんだから!」
モンドが口元をひんまげるように言う。
「なに言ってんの!
これに勝てば───いえ、勝てなくてもいいとこをみせて、テストパイロットに採用されれば、テストパイロットの給料に加えて、あの最新機体でクラバに参加できるのよ! ここで生命をかけなくていつベットするのよ!」
エル・ビアンノだって、ジュドーは心配なのだ。だがここで、彼女たちが心配してもやれることはない。出来るのは応援してやるくらいだ。
「お兄ちゃん……」
リィナがそっと手を組んだ。
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変形を試すのはちょっと待ってろ、というヤザンの指示にしたがって、ジュドーはZETAを動かした。
慣れないのは全天周囲モニターというやつだ。360度すべてがスクリーンになっていて、まるでパイロットシートが浮かんでいるような感覚になる。
軽い重力に合わせて、なんどかジャンプしてみたが、ジュドーはもっといい方法を考えた。
バーニヤで機体を少し浮かせて……
そのままホバーするように月面を滑走する。
歩くよりはするかに滑らかで早い。
ヤザンはヒューと口笛を吹いた。
月の重力下では、あの移動方法がもっとも効率的だ。だがそれを教えられずに行えるとは。
“見てろよ、大佐殿。世にはまだまだすごい人材はいくらでもいるんだぜ!”
ビームサーベルもビームライフルも使えますので、何気に本作のクラバでは一番危険度が高かったりします。