ペズンに連邦内部の過激派を集めて一網打尽にしてしまおうと言う「彼」の策謀なのです!
「わが君はいささかイラついておられるようだな。」
印象的なボブカットのピンクの髪の少女が、隣の席のサングラスの男をからかうように言った。
男は少女よりだいぶ年上に見えたが、少女に物怖じするところはみられない。
「からかってくれるな、ハマーン。」
サングラスの男―――クワトロ・バジーナは、窓から宇宙を眺めていた。
これから大気圏に突入する彼らのシャトルは入れ違いに、宇宙へと上がっていくシャトルが見える。
その光点を見つめながら、彼は眉間に皺を寄せた。
「アンキーの動きが気になる。調子に乗っている……という程度のものではない。
この世を革新しようとする革命家のような情熱と確信をもって動いているように、わたしには映る。」
「なるほど?」
ハマーンはキラリと目を輝かせた。
二枚目と怜悧な美貌をたたえた少女には似つかわしくない会話だが、ハマーンは明らかにこの会話を楽しんでいた。
もし、ジオン本国になにかあって、アクシズが独自に政治的判断を強いられたなら、その指導者としてたつことも厭わない。
そんな覇気と才能に溢れた少女である。
―――もっともそんな事はありえない。
ジオンは独立戦争を勝ち抜き、その後の内紛で指導者であったザビ家を失ったものの、アルテイシア・ソム・ダイクンのもとであらたな体制を構築しつつある。
アクシズそのものは、まだ地球圏への帰還の途中であり、ハマーン・カーンは先遣艦エンドラの若いパイロットたちのリーダーという立場に過ぎない。
「とすれば、アンキーはなにを目指しているのだろう?」
「まだわからん。だがなにもかもをクランバトルに結びつけようとする意志は感じる。モビルスーツのテスト、いやテストではなく活躍そのものの場所も、儲けも、栄誉も。」
「わが君! それはわが君にとって悪いことなのか?」
「それがまだわからん。
……ハマーン。わたしは軍人だ。独立戦争時代はパイロットとして活躍した。
そして、前線を体験した軍人はすべからく思うのだ―――もう二度とゴメンだ、と。」
「つまり、戦争はもうこりごりってことね。」
「そうだ。例えば愛する祖国と戦争の荒廃とのあいだに、その身命を投げ出すことなになれば、多くのものがそうするだろう。それは軍人としてのもっとも崇高な使命だ―――嫌々ではあるが。」
クワトロはあまり楽しそうではない。
ハマーンは密かに思った。
―――どうも自分はこの男を困らせたり、からかって遊ぶのが好きらしい。
「でも、わが君はモビルスーツには乗りたいのでしょう?
それもただ機乗するだけではなく、その性能と己の操縦技術をぎりぎりまで試すような。」
「そうだな。そしてクランバトルはそれを『戦争』以外の場所で提供してくれる。
いくらルールを厳格化しても倒れる者はでるだろうし、そもそも戦いなどというものが野蛮で時代遅れのものなのかもしれない。」
「わたしも普通に歴史はならったわ。」
ハマーンはクスリと笑った。
「なんどかそのセリフは、歴史上言われている。だけど、いずれもそうは長く続かなかったのよ。」
「戦争という行為をクランバトルで置き換える。アンキーがそこまで考えているのかどうか。
そして、今回のガンダムマークⅡの所有権を巡るクランバトルがその第一歩となるのかどうか……」
クワトロは頭を振って続けた。
「ララァのことはもちろん、一番に気がかりだ。なんのためにクラバに出場したのかはわからないが、彼女を戦いの場に駆り出してはならない。」
「そのララァもニュータイプなんでしょう?
ニュータイプがその能力を開花させるのは、強化でも投薬でもなくてモビルスーツに乗せることよ。アクシズの研究者たちはそう結論付けている。」
「それでも、だ!」
クワトロは静かに言った。
少し黙ったあと、彼は話題をかえた。
彼の中でもこのことはまだ結論がでない問題だったのだろう。
「ティターンズがペズンへ新型機を要望しているという准将からの情報はおそらくはもっとも差し迫った問題だ。
数を揃えての大規模な会戦は当分ありえない。となれば、高コストでも超高性能機の存在が勝敗をわけることになる。
そして、ペズンはすでにゼクシリーズの新型機を完成させている、という噂もある。
キュベレイのファンネル、テム・レイ博士の可変機、いずれとも異なるアプローチによる強力な機体のはずだ。」
「それを懸念してるのか、楽しみにしてるのか、微妙なところだな、わが君!」
ハマーンはからかうように返した。
クワトロは真面目な顔でうなずいた。
「……たしかに半々だ。危惧はすれども興味はある。」
「……男っていうのはそう言う生き物なのだな。わたしは理解しているよ、わが君。」
「そういう意味では、ダリル元少尉と入れ違いで旅立ってしまったのは残念だ。
リビングデット師団のサイコ・ザク……いやサイコ・ゼクの力。ぜひ見たかったな。
アムロ・レイがアーガマにいて助かったよ。彼なら、きっとダリルとサイコ・ゼクのを正当に評価してくれるだろう。」
クワトロは感慨深げに、手元の通信端末を取りあげた。
「アムロが味方にいてよかった……ってことかな、わが君。」
クワトロはひとつ大きくため息をついてから端末の画面をハマーンにみせた。
ハマーンの顔がひきつる。
「まったく……アムロがいてくれてよかった。」
表示された文字は、アーガマからの緊急通信。
“ペズンが連邦軍過激派に占拠された。アーガマおよびアレキサンドリアはこの鎮圧のために出動する。”
「な、なにをする!!」
バスクは叫んでいた。
突きつけられた銃口はひとつやふたつではない。
「バスク少佐。あなたは拘束される。」
さきほどモニター越しに会話をしたバイザーをつけた女性士官が素っ気なく言った。
「う、裏切ったな!」
バスクはなおもわめいたが、抵抗はしない。
ふつう二桁におよぶ銃を突きつけられると人間はそうなる。
ブライアン・エイノーは、汚らしいものでも見るかのように、バスクを見やった。
「ペズンの協力に感謝する。」
「とんでもない。」
女性士官が口元をほころばせた。
「あなた方の志に感銘をうけた、ということです。」
「て、提督っ!
あなたは一体何を考えて……!」
ガンッ!
バスクの頭部に加えられた一撃はかなり遠慮のないもので、ベレー帽がふっとび、彼は床にうずくまった。
「武装蜂起だよ、少佐。」
倒れたバスクに、エイノーはむしろ優しげに言った。
「地球連邦軍の膿を摘出し、健全なものにするために我々は立ち上がったのだ。」
「そ、それなら我々、ティターンズが……」
「ティターンズもまた取り除かれるべき膿に過ぎない。」
「……」
「テロを繰り返し、ジャミトフの私兵となったティターンズ。スペースノイドに迎合するだけのエゥーゴ。どちらも邪魔だ。
わたしは連邦軍をあるべき姿に戻す!
そのために立ち上がったのだ!!」
「お、おまえらは!」
バスクは、エイノーを見上げてわめいた。
「おまえらはいったい……」
「我らは『ニューディサイズ』。
軍内部の不安定分子を放逐し、地球連邦主導による安定した体制を取り戻す。」
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「エッシェンバッハ様、お待たせいたしました。」
部屋に入るなり、エアーズの市長カイザー・パインフィールドは深々と頭を下げた。
月面都市エアーズは、月面裏側の都市としてはグラナダに次ぐ規模である。
応接室で待たされていた若い男は、困ったように笑った。
「様は困ります。わたしは、たまたま今年、ニューヤーク市の市会議員に当選しだけの若造ですよ。」
待たされたといっても10分ばかりである。2000万都市の市長といえば、中世の中規模程度の国家の元首に匹敵する存在だ。
対して「エッシェンバッハ様」と呼ばれた男は、まだ20代の半ばである。
怜悧な顔立ちではあるが、まだ若さのもつ甘さもある。
「『ニューディサイズ』がペズンを占拠することに成功いたしました。」
カイザー・パインフィールドの方が年齢もずっと上、政治家としてのキャリアも知識もはるかにうえのはずであるが、青年に対して丁寧な態度を崩さない。
「それはよかった。参加していた『ティターンズ』のものたちは?」
「バスク・オム以下、全員拘束済みです。
話を伺ったときはそんなことが可能なはずはないと思いましたが、見事なものでした。
実際にこうなってしまえば、宇宙における戦力の枯渇した連邦軍には打つ手がありません。
いままで、ティターンズの横暴に眉をひそめていたアースノイド第一主義を掲げるものたちはこぞって、ペズン支援を打ち出すでしょう。」
「問題はむしろジオンですが、ペズンは組織としては、ジオン公国と距離をおいている。ペズン側から救援依頼を出さない限り、ジオンもまた動きにくい状態にあります。」
「ジオンは当面、動きません。
ニューディサイズは、ティターンズのような連邦内部の獅子身中の虫を借り出すために旗揚げしたわけですからね。連邦内部の争いにジオンは積極的には関与したくはないはずです。」
エッシェンバッハ青年は、顔を伏せた。
ペズンを連邦軍の一派に占拠させる―――リスクの大きなこの計画を、彼はそれほど好いてはいなかったのだ。
「エアーズ市は、ニューディサイズを支援する表明を本日の午後にでも発表いたします。」
パインフィールド市長は、きっぱりと言った。
「エアーズ市を後ろ盾に持てば、物資も滞りなく、支援が可能です。」
「やりすぎは禁物です、市長。
目的は、あくまでも連邦軍のなかの過激派を炙り出すことです。」
エッシェンバッハ青年は冷静に言った。
「おそらくは、連邦軍はモビルスーツ運用試験艦アーガマを討伐に差し向けるでしょう。ですがアーガマは艤装を施していないただの輸送艦です。
新鋭モビルスーツは積んでいても、ペズンの戦力には太刀打ちできません。」
興奮した面持ちでそう語るパインフィールド市長を、エッシェンバッハ青年は冷ややかな目を見つめた。
“実際にはどうかな。クワトロとか名乗って参加している『赤い彗星』は戦略にも長けているはずだ。”
このまま話が進むとアムロははじめて「実戦」を経験することになるのか……