語ってるのは、エルノー提督です。もともとニューディサイズ討伐隊の指揮官だったのが、ニューディサイズに寝返ったという方なので、はたしてこんな演説が似合うかどうか。
……全地球連邦軍、ならびに地球圏に生きる諸君。
私は、連邦軍提督ブライアン・エルノーである。
ここ、小惑星基地ペズンは、いまや一個の要塞であると同時に、我々の「意思」を世界に示すための砦となった。
この通信は、極力すべての回線を通じて開放している。妨害されるまでの僅かな時間であっても構わん。
私は、連邦の名において、軍の名において、そして一人の軍人としての良心において——
地球連邦軍の刷新を、ここに宣言する。
諸君。
我々は、いつの間にこんなにも堕ちたのだろうか。
地球連邦軍は、いつから「ジャミトフ・ハイマン」という一政治家の私兵組織となり。
同時に「ブレックス・フォーラ」という将軍の旗の下に集う、政治ごっこに興じる武装集団と化したのか。
ティターンズ。
エゥーゴ。
そのどちらの名を聞いても、私は同じ感想しか抱かない。
——「地球連邦軍ではない」。
ティターンズは、自らを「地球連邦の盾」だと言う。
宇宙に増えすぎた人類を管理し、地上の安寧を守るためならば、どんな弾圧も、どんな虐殺も厭わないと豪語する。
諸君、そんなものは盾ではない。
それは、ただの凶器だ。
弱者を打ち据え、声なき者を黙らせ、権力者の後頭部を守るための、血塗られた棍棒にすぎない。
一方で、エゥーゴはどうだ。
自らを「改革派」と称し、ティターンズと戦うことを正義として掲げる。
だが、その実態はどうか。
企業の利害と、議員たちの思惑と、コロニー世論の気まぐれを寄せ集めた「連合体」にすぎない。
ブレックス・フォーラ将軍は、かつては連邦軍人としての矜持を持っていた。
だが、彼に従う者たちの多くは、自らの正義だけを絶対視し、「連邦」という枠組みそのものを軽んじている。
ティターンズを憎むあまり、ティターンズと同じく「軍閥の論理」に落ちているのだ。
ティターンズは、ジャミトフの軍。
エゥーゴは、ブレックスの軍。
では——連邦軍は、どこにある?
いったい、どこにいってしまったのだ!?
諸君。
我々が誓った忠誠は、「ジャミトフ」や「ブレックス」といった「人名」に対してではなかったはずだ。
兵学校で、初めて軍服に袖を通したあの日。
我々が宣誓したのは、地球圏人類全体の平和と安定に対する責任であり、混乱を鎮め、秩序を維持する「組織」としての地球連邦軍に対する忠誠であったはずだ。
にもかかわらず、今や上層部の多くは、派閥の論理に毒されている。
どこに配属されるかで、その者の「忠誠の対象」が決まり、同じ連邦軍の制服を着ながら、互いを「敵」と呼ぶ。
士官学校では教官がティターンズ寄りかエゥーゴ寄りかで、学生同士の派閥が分裂し、前線では、同じ規格の制服を身にまとった兵士同士が、違うバッジを誇示し合い銃口を向け合っている。
そんなものは軍隊ではない。
それは、私兵集団の寄せ集めだ。
そんなものは、連邦軍とは呼ばん。
私はティターンズを支持しない。
なぜなら、彼らは「地球」を掲げながら「人類」を見ていないからだ。
彼らは地球を聖域と呼び、宇宙を棄民の地とみなす。
コロニーに住まう者を「監視すべき対象」としか認識せず、テロを繰り返し、不満の火種を見つけては、徹底的に踏み潰すことで独立戦争での敗北に対する矜恃を維持しようとしている。
諸君、それかもたらすものは、秩序ではない。恐怖と憎悪だ。
恐怖による支配は、一見、安定している。
誰もが怯え、誰もが沈黙し、誰もが従順そうに見えるからだ。
だが、恐怖は必ず反発を生む。
その反発は、やがて憎悪となり、憎悪は暴発し、世界を焼き尽くす火となる。
一度、人々が「連邦」という名前に恐怖の臭いしか感じなくなったとき——
そのとき、連邦は終わる。
法律や条約ではない、「信頼」という最も脆く、しかし最も強い基盤を失ったとき、
どんなモビルスーツも、どんな艦隊も、人心の崩壊を止めることはできない。
ティターンズは、その火を自らの手で撒き散らしている。
彼らは主張する。「我々が厳しいからこそ秩序が維持されるのだ」と。
だが私は断言する。
ティターンズが維持しているのは秩序ではなく、「崩壊の前段階」だ。
綺麗に片付けられた部屋の床下に、爆弾をぎっしり詰めているに等しい。
そんな愚かさに、私は加担しない。
では、私はエゥーゴ側に立つのか?
答えは、否だ。
エゥーゴは、ティターンズと戦っている。
その一点において、彼らの行動は理解できる。
だが、弾圧に対する抵抗は、本来ならば連邦議会と軍内部の正規手続きを通じて行われるべきであり、それが不可能なぐらいに制度が腐敗した結果、武装蜂起という形に走ったことも歴史を振り返れば理解できない話ではない。
だが——「理解できる」ことと、「賛同できる」ことは違う。
エゥーゴは、自らを正義と信じ、ティターンズを悪と断じる。
ここまではまだいい。
だが、彼らはしばしば「連邦そのもの」を敵視している。
ティターンズと結びついた官僚、企業、議員を斬るついでに、「連邦」の権威そのものを斬り捨てようとしている。
それは、あまりにも短絡的だ。
地球圏は広大だ。
地球、月、サイド群、小惑星帯。
そこに暮らす数十億、数百億の人々を、誰が、どうやって統治するのか?
治安を維持し、交易を守り、災害や事故に対応し、各コロニーや地球各地の利害を調整する仕組みが必要なのは、子どもでも分かる理屈だ。
そのために作られたのが「地球連邦」であり、その意思と決定を武力によって保障するのが「地球連邦軍」に他ならない。
ジオン公国は独立戦争について、地球連邦から一定の譲歩を引き出してにもかかわらず、その任を果たせなかった。
理解さえしなかった。
ザビ家の中での凄惨な殺し合い。アルテイシア・ソム・ダイクン治世においてもついこの前、デラーズフリートの反乱を招いている。
残されるのはなにか?
「正義」を自称するコロニーごとの軍閥と、企業ごとの私兵と、 それらの間で繰り返される戦争だけだ。
ティターンズはジャミトフの軍。
エゥーゴはブレックスの軍。
不安定この上なく、内紛を抱えたジオン公国。
その対立の末に待っているのは、「秩序なき世界」だ。
諸君、それで本当にいいのか?
私は軍人だ。
政治家ではない。
利益誘導や票集めに奔走するのが仕事ではない。
私の仕事はただひとつ。
「戦争を知る者として、戦争を制御すること」だ。
必要なときには戦い、不必要なときには戦いを止める。
それが軍人の矜持であり、責任だ。
しかし今の地球連邦軍には、その矜持がない。
自らの属する派閥の利益のために戦争を利用し、戦場を「出世競争」の場に変え、兵士たちの血を「政治的メッセージ」に使っている。
こんなものは軍隊ではない。
「制服を着た政治家」の集団だ。
その下で死んでいく兵士たちは、あまりにも哀れだ。
前線にいる諸君。
今そこにいる諸君らのあるものはティターンズの思想に賛同し、すでにティターンズの徽章をつけているかもしれない。
あるいは、エゥーゴの識別章を身につけているかもしれない。
だが、思い出してほしい。
諸君は、いつティターンズに、いつエゥーゴに忠誠を誓った?
兵学校の宣誓式で、諸君は何と言った?
「ジャミトフ閣下に忠誠を」か?
「ブレックス将軍に命を捧げる」か?
違うはずだ。
諸君が誓ったのは、地球連邦軍への忠誠。
地球圏全体の民を守るために、自らの命を賭けるという誓いだったはずだ。
ならば、いま諸君が従うべきは、
ジャミトフでも、ブレックスでもない。
「地球連邦軍を、本来あるべき姿へと戻そうとする意思」だ。
ここペズンには、まだ「連邦軍が連邦軍でありたい」と願う者たちが集っている。
彼らはティターンズに組みしたこともある。
エゥーゴと秘密裏に接触したこともある。
だが今、そのどちらにも属さない道を選んだ。
なぜか?
彼らが、私と同じ問いに直面したからだ。
「このままジャミトフとブレックスに軍を引き裂かせたまま、我々はただ従い続けるのか?」
答えは、否だ。
たとえ数は少なくとも、たとえ孤立無援であっても、
「連邦軍を連邦軍として維持する意思」がどこかに存在し続けなければならない。
それはどこか。
ここだ、小惑星ペズンだ。
ここはかつて、試験機の墓場と呼ばれた。
新型モビルスーツの試験運用、実験兵器の実装試験。
ジオン公国の中でも、いわば「端」であり「陰」であった基地だ。
時代にはやすぎたため、現実から切り離された場所だ。
だが今、ペズンは地球圏の「中心」だ。
少なくとも、我々の意志においては、そうだ。
私は、このペズンを占拠した。
連邦軍の正式な命令系統から切り離し、独立した指揮権を確立した。
これを「反乱」と呼ぶなら、呼べばいい。
歴史がどう名付けようと、私の本懐は変わらん。
これは、ジャミトフに対する「反乱」ではない。
これは、ブレックスに対する「反乱」でもない。
これは、「私兵化した両陣営に対する、連邦軍としての反逆」だ。
私は、地球連邦軍の名において宣言する。
連邦軍は、いかなる個人の私兵ではない。
連邦軍は、いかなる派閥の武器でもない。
連邦軍は、地球圏人類全体の安定と平和のためにのみ、その銃口を向ける。
これは、あまりにも当たり前の原則だ。
だが、今の世界において、この「当たり前」を口にする者は、ほとんどいない。
だからこそ、我々が言う。
誰が笑おうと、誰が嘲ろうと、我々は言い続ける。
「連邦軍を、連邦軍に戻せ」と。
諸君の中には、こう思う者もいるだろう。
「そんな理屈は分かるが、現実は違う」と。
ティターンズの艦に乗る者は命令に従わねばならず、
エゥーゴの部隊に属する者は同志の目を気にせねばならない。
その中で孤立することは、すなわち死を意味する。
家族がいる。友がいる。部下がいる。
軽々しく立場を捨てることなどできない、と。
分かる。
私もまた、長く連邦軍に身を置き、多くのものを見てきた。
命令に背けば軍法会議。
上官の不興を買えば左遷。
家族にまで圧力が及ぶこともある。
ティターンズも、エゥーゴも、それを十分に使いこなしている。
だから私は、諸君にただちに蜂起せよとは言わない。
我々と同じようにペズンで旗を掲げろとも言わない。
諸君に求めるのは、まずただ一つ——
「自分は、本来どこに忠誠を誓っていたのか」を、
心の中で、静かに、はっきりと思い出すことだ。
それだけでいい。
今すぐに武器を取る必要もなければ、隊を離脱する必要もない。
ただ——その問いから、目を逸らさないでほしい。
ティターンズの艦橋に立つ者も、エゥーゴのコロニーに潜む者も、
あるいは中立を装っている連邦正規軍の士官も、
皆が皆、この問いに向き合う時が来る。
「私は誰の兵士なのか?」
ジャミトフか? ブレックスか?
それとも——地球連邦軍か?
私は、ペズンを連邦軍の「第三勢力」にするつもりはない。
ティターンズに対抗するための、エゥーゴの別働隊でもない。
エゥーゴの過激さを牽制するための、ティターンズの傭兵でもない。
我々は、連邦軍そのものだ。
ジャミトフとブレックスという二人の名によって、覆い隠され、分断され、
かき消されかけている「本来の連邦軍」の、最後の自覚的な残滓だ。
ゆえに、我々の目的はただ一つ。
地球連邦軍の再統合と、その政治的中立性の回復。
連邦議会に対しては従属する——しかし、いかなる一個人にも従属しない軍。
地球圏全体を護り、しかし特定の地球国家やコロニー企業の私兵とはならない軍。
それを取り戻すこと。
そのためならば、私はジャミトフとも戦う。
そのためならば、私はブレックスとも戦う。
どちらかに肩入れすることはない。
どちらも、「連邦軍を私物化している」という一点において同罪だからだ。
彼らが真に連邦軍を尊重し、その私兵化をやめ軍を派閥争いから解放する意思を見せるならば、私は喜んで剣を収める。
だが、彼らが今の路線を変えないならば——
私は、たとえこの身がペズンと共に砕け散ろうとも、
その暴走を止めるために戦う。
諸君。
ペズンにいる諸君は、すでに覚悟を決めてここにいる。
だが、この通信を傍受し、聞いている連邦軍人たちの中には、まだ迷いの渦中にある者も多いだろう。
いい。
迷っていい。
迷うことなく派閥の命令に従う者のほうが、よほど危険だ。
一度も立ち止まったことのない銃弾ほど、制御の利かないものはない。
迷いながらで構わない。
ただ、忘れるな。
我々は「戦争のための軍隊」ではなく、「戦争を制御するための軍隊」だ。
ティターンズは戦争を恐怖の道具として利用し、エゥーゴは戦争を正義の証明として利用している。
ならば、我々は違うやり方を示さねばならない。
戦争を止めるために戦う軍。
暴走した武力を抑え込むために、やむなく武力を行使する軍。
それが、本来の連邦軍の役割だと私は信じる。
ここペズンは、その「実験場」だ。
新型モビルスーツの実験だけではない。
軍が、再び「軍」として機能するための、大胆な試みの場だ。
ここに集った者たちは、昇進を捨てた。
出世の道を閉ざし、家族を危険に晒し、
それでも「連邦軍を連邦軍として残したい」というわずかな望みに賭けた。
狂気と言われてもいい。
英雄だと思われなくていい。
歴史の片隅に、脚注一行で「ペズンの反乱軍」と記されるだけでも構わない。
だが、その一行が語る意味は——
「地球連邦軍は、最後まで自らを諦めなかった」という事実だ。
その事実さえ残せるならば、我々の敗北にも意味はある。
私は、諸君に選択を迫る。
だが、それは今この場での決断ではない。
明日の戦場で、命令が下ったその瞬間に、
あるいは、次の配属命令書を見たその時に、
諸君は、自分自身に問い直すことになるだろう。
「私は誰の兵士なのか?」
その問いに、胸を張ってこう答えられるならば——
「私は、地球連邦軍の兵士だ」と。
たとえ、その制服の肩にティターンズの章が縫い付けられていようとも、
たとえ、その胸にエゥーゴの徽章が光っていようとも、
諸君の「内側」が連邦軍であり続ける限り、
諸君は、いつでも我々の側に立つことができる。
ペズンは諸君を歓迎する。
亡命者としてではない。
裏切り者としてでもない。
「連邦軍であることを諦めなかった軍人」として迎える。
たとえ直接ここに来られずともいい。
諸君がいる部隊で、諸君が守れる範囲で、「私兵の論理」ではなく「連邦軍の論理」に従って行動せよ。
不必要な虐殺命令を拒め。
市民を盾にする作戦を拒め。
派閥の都合だけで決められた無意味な作戦に、疑問の声を上げろ。
それは小さな抵抗かもしれない。
だが、その小さな抵抗が無数に積み重なったとき、 ティターンズも、エゥーゴも、「軍全体を私兵化する」ことは不可能になる。
我々は少数だ。
だが、諸君一人ひとりが「連邦軍であり続ける」ことを選び続けるなら——
その時すでに、ペズンの蜂起は成功していると言えるのだ!!
長い……アニメになったときは、ばっさりカットまたは、この演説をバックに、アルテイシアさんたちやアムロたち、しかめっ面のクワトロ大尉、にやにや笑いのアンキーやムラサメ博士なんか映るんでしょうな。