第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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舞台は引き続き飲み屋街。
男にも女にも呑んではらすしかないモヤモヤはありますよね。
いやあ、すっかり宇宙世紀じゃないなあ。

新しいキャラに登場いただきます。マチュと並ぶ狂犬と呼ばれたあのニュータイプ。
もとネタはジークアクスなんで、Zガンダムキャラはありですよね?


第14話 白い悪魔~酔い街エレジー

時刻は深夜を回っていた。

チラと時計をみたらもう何時間かでミラーが陽光を取り込み始める。

そんな時刻である。

 

アムロ自身は酔ってはいない。

酒が飲めない年齢でもないが、いまの心境をアルコールに流そうとすると、とんでもなく悪酔いはしそうだった。

 

この一帯は、不法移民が営む酒屋やレストランが多い。

さまざまな異国料理を安い価格で楽しめるので、クラバのあとの食事はよくハヤトとこの街で食べていた。

 

だが、それももう終わりか。

 

治安はそれほど悪くはない。

子どもや女性の1人歩きは論外ではあるが、酔っ払いのケンカすらマレで。

 

「ふざけんじゃねえぞ! このクソガキがあっ!」

 

珍しくケンカだった。

二人組のパイロットスーツの男たち。

その相手はまだ十代の少年のようだ。

 

「カミーユがオトコの名前で何が悪い!」

胸ぐらを掴まれて、そう言い返す少年はたしかに女性に見間違えられそうな美少年だった。

 

 

--------------

 

 

「解雇!!…辞めさせるってのはどういうわけだ!」

大男はクランのリーダーの首を絞めあげる勢いで詰め寄った。

「俺たちはあの『白い悪魔』をあそこまで追い詰めたんだぞ!

あんたも言ってたよな?

もう『白い悪魔』にはハンディキャップマッチでも組まないと賭けが成立しなくなるって。

それをひっくり返したんだ。なにも問題になることはしていない!」

 

 

「…ひっくり返せてはいない、な。」

クランのリーダーは、女だった。

詰め寄る男は、たぶん年齢は20を過ぎたくらいか。背丈は女とは30センチは違うだろう。だがいくらでかかろうがそんなものを歯牙にもかけない強さが女にはある。

「結局、おまえらは負けている。」

 

「それでもちゃんと勝負になっている!」

大男は言い返した。

「つまりはそれは今後も『白い悪魔』をブッキングできるってことだろう? たしかにクラバとしては負けだが…負けたから解雇されるんならこんなクランはクソだ!」

 

「ジオニックからはボーナスが出ている…」

女はぼそりと言った。

「これで独立戦争時のザクの運用に諦めがついた、とさ。ジェネレーターの強化にバーニヤの増設、追加装甲、そんなものじゃあ、今後、時代が求めるモビルスーツには追いつかないと。はっきり決断のできるよいデータがとれた、とさ。

これはあんたらにそっくり渡してやるよ。」

 

「じゃあなぜ…」

 

「連邦士官学校はいつ中退した?」

 

「そ、それは。俺のせいじゃない。パイロットコースが大幅に縮小になるののあおりを受けて…」

言うべきでないことを言ってしまったことに気がついた大男は黙った。

 

クスクスと愉快そうに後ろにひかえたM.A.Vが笑った。

「ジェリドぅ!?

ダメだな、おまえじゃダメだ。この姐さんにはかなわねえよ。」

 

精悍、を通り越して凶暴さすら感じられる男だった。浅黒い肌。浮かんだ表情は人間というより猛禽類を思わせる。

 

「いかにも俺たちは、ジオン軍じゃねえ。連邦軍のパイロット上がりだ。

元ジオンを名乗ったのはわりぃとは思うがまあ、クラバはけっこうジオン公国軍出身じゃねえと採用が悪くてなあ。

でもよ、腕は悪くなかっただろう?

今日の試合ももし、乗ってたのが最新鋭のゲルググだったら『白い悪魔』を仕留められてたかもしれねえくらいには、よう。」

 

「それは認めてる。だから退職金代わりにジオニックから出たボーナスをくれてやると言ってるんだ。

だがこっちにもいろいろと事情があるんでね。」

女は静かに、だが鋭い視線で相手を見つめた。

「あんたらはティターンズなんだろ?

ええ?

ヤザン・ゲーブル、ジェリド・メサ。」

 

「そいつは誤解だぜ、アンキー。」

ヤザンと呼ばれた男は快活に答えた。

「たしかに勧誘はうけた。

だが教導部隊ってことになってるがありゃあ、はっきり言って殺し屋にテロリスト、アースノイド至上主義の狂信者の集まりだ。」

 

「あんたにピッタリじゃないかね、ヤザン。」

 

「そうだな。荒っぽいことが好きなのは否定しねえ。だがホントにそうだとしても俺は殺し屋じゃねえし、最初からそんな汚れ仕事を押し付けられる前提でティターンズ入りするのは真っ平だ。

だもんで、俺とジェリドは宇宙に逃げてきた。」

 

「最初からそう言っておいてくれれば。ね。」

クランの女ボス、アンキーはタバコに火をつけた。気だるそうに椅子にもたれかかって紫煙を吐き出す。

 

「なにかまずかったのか?」

 

「まあ、それだったらクランバトル用に最初から偽名を名乗らせたさ。

ティターンズからあんたらに出頭命令が来てる。」

アンキーはデスクに手紙を放り出した。

「ティターンズにとってはあんたらは脱走兵らしいよ。

一応、今日のクラバで大怪我をして入院中だと返答しているけど。」

 

「やっかいをかけるな。」

ヤザンは歯をむき出すようにして笑った。

どちらかと言うとおっかない顔ではあったが、本心だった。

殺すことを少しもためらわないが、殺すべきかどうかは冷徹に判断できる。

 

もしティターンズなる組織が汚れ仕事の専門家としてこの男を雇おうとしているならばまさにうってつけであった。

 

がこの男は利用されることは好まない。

使い捨てにされることなど以ての外だ。

 

おそらくは連邦軍のパイロットで、上官受け悪さでは五本の指に入ったであろう。

だが同僚や部下たちからの評判はそう悪くはない。

 

アンキーは分厚い封筒を差し出した。

手に取るとそれはかなりズッシリとした重みのある札束だった。

 

「事務所にこんなものを置いてるのか。」

からかうように、ヤザンは言った。

アンキーのことは気に入っていた。腹に含むものがありながら、こちらの腕を買ってくれる相手とはいい取引ができる。

ティターンズがヤザンにそこまでご執心だったとは気がつかず、本名でクラバに登録してしまったのは、たしかにこちらのミスではあった。

 

「ああ、まあね。いくらかの現金は金庫に置いておかないと、臨時雇いの女子高生が強盗をしに来た時に、渡してやれるものがなくて困るだろう?」

 

なんの話かわからない。

なおも文句を言おうとするジェリドの腕を引っ張って、ヤザンは街に出た。

 

ジェリドは荒れている。

悪い男ではないが、まだ若い。そして自分の能力に過剰に自信を持ちすぎている。

 

まあとりあえずは、酒だな。

 

ヤザンは思った。

 

移民街にいけば安くていい飲み屋があるだろう。

 

 

何軒かのバーをハシゴしたあとだった。

 

 

ジェリドはとりあえず、いい具合に酔っ払っている。

 

乗機を持たずにクラバにエントリーするものを「巣なし鳥」と言う。

 

まずはどこかのクランに入ることからして難しい。

まず独立戦争中のスコアは重要だ。「ネームド」でしかもそれを証明できれば採用の確率はぐんとはね上がる。

 

これまでのクラバの実績は、今日(日付をまたいだから昨日か!)「白い悪魔」に負けた以外は、連勝を続けている。たが、本名を名乗ることもままならなくなったヤザンたちは、それをネタにすることもできない。

 

ジェリドは安酒をため息といっしょに吐き出しながら、ぼんやりと通りを眺めている。

 

真夜中、というよりはもう夜明け前といったほうがいい時間帯だが、人通りはかなりある。

 

ジェリドの視線が一点を見つめているのに気がついたヤザンは同じ方向を見つめた。

 

なかなかの美形の2人連れだった。

こんな時間に飲み屋街をうろうろしてはいけない年齢だ。

 

体つきはほっそりしている。

ふたりとも髪はショートボブくらいで、ヤザンも好きな黒髪だ。

ひとりはすらりとした脚線がまぶしいミニスカート、もうひとりはスラックスだった。

 

ジェリドはふらふらと2人に近づいていく。

 

“やめとけ。”

ヤザンは思った。

女は嫌いではないが十代の前半はさすがに対象外だ。それに――。

 

「カミーユ! もう帰らないと!

おじ様が心配してるわ。」

ミニスカのほうがもうひとりの腕を掴んだ。

「カミーユ! カミーユってば!」

 

うるさそうにカミーユと呼ばれた少女はミニスカートの手を振り払う。

 

 

ヤザンはジェリドを止めた。

 

「おまえいくらなんでもアレは若すぎるだろう?」

「いや、だからだよ。こんな時間に女の子がふたりでこんなところにいては危ない。」

「いや、あのカミーユってほうは男だが。」

 

ジェリドは驚いたように振り返った。

 

 

「カミーユ? なんで男の名前がカミーユなんだ!?」

 

 

次の瞬間に起こったことは歴戦の猛者ヤザン・ゲーブルをしても想定外の事だった。

カミーユと呼ばれた少年が殴りかかってきたのである。

 

 

-----------------

 

 

アムロはもともと喧嘩を買って出るタイプではない。

しかし、190を超えるような長身の男に十代半ばにしか見えない少年が胸ぐらを掴まれているのだ。助けに入らない訳にはいかない。

 

が、事情をきいて呆れた。

 

どう考えても悪いのは少年のほうだった。

 

割って入ったアムロにも長身の軍人のほうは殴りかかろうとしたが、年嵩の凶暴そうなほうが止めてくれた。

 

「やめとけ、ジェリド。」

顔つきは怖い。笑った顔まで怖かった。

「別におまえが誰を殴り飛ばそうがかまわねえがこいつを殴るのはいくらなんでもカッコ悪すぎる」

 

「…どういう意味だい、ヤザンさん。」

 

「クラバに負けた腹いせに、路上でケンカをふっかけて怪我でもさせたら恥の上塗りだろう?」

 

ジェリドと呼ばれた大男は、一歩退いてまじまじとアムロを眺めた。

 

「まさかっ!」

 

「そいつが『白い悪魔』だ。」

 

 




バトルなし、エロなし、スリルもなし。
あるのはキレる十代、未成年に暴力をふるうMSパイロット。
舞台は引き続き深夜の飲み屋街。
戦争に巻き込まれなかったアムロってまあまあ平和に穏やかに暮らしてると思ってこんな設定にしたんですけど、まあ書きにくいですねえ。
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