―――というわけにもいかないのですが、はたして誰が火中の栗を拾いにいくのか。
「地球至上主義者の亡霊が。」
街頭モニターの演説はまだ続いている。
口ひげをたくわえた短身ながら逞しい体躯の男が吐き捨てた。
サイド6、トアールコロニーの街頭である。時刻は「夜」であってしかも雨までオマケに着いていた。
隣に立つ女性は、男よりも背が高い。
すらりとした手脚をもち、フードをおろし、サングラスをかけてもなお、その美貌は隠せなかった。
「エルノーは優秀で公平な男だったわよ。」
女性は澄んだ声で言った。
小雨だったのでどちらも傘をさしていない。
だが、雨足が少し、強まったようだ。
「だから、『提督』があんな行動をとるのはほかに『公平』な道が見つからなかったからよ。」
「姫さまは連邦に甘い……」
「わたしはソム・エドワウよ、バンボラ・バル大尉。」
「……雨が強くなってきたようです。急ぎましょう。」
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こちらの一組の男女は地上のホテルのチェックインカウンターでそれを聞いた。
「ブライアン・エルノー提督といえば、保守派のなかでも穏健派で知られていたものでしたがねえ……」
ホテルマンはため息をついて、記入済みの宿泊票に目を通した。
「アナハイム・エレクトロニクス社のシロウズ様と秘書のハマーン様ですね?
サイド6からようこそ。」
「2、3日世話になります。」
前髪がうっとおしそうだったが、金髪の青年は品良く微笑んだ。
「宇宙はいろいろと物騒だ。よいときに地球に降りられたものです。」
「地球にはしばらく滞在のご予定ですか?」
「そうですね……亡くしたとんがり帽子を捜索しなければなりませんし。」
シロウズはキーを受け取ると一つをハマーンに渡した。
ハマーンは、不満そうに汚いものでも触るようにそれを受け取った。
「……同じ部屋、という選択肢はなかったわけね?」
「それはそうだろう。きみは私にとって大恩ある方のお嬢様だ。」
「まあ、いいわ。わたしもとんがり帽子からあなたを寝とったとか言われるのは心外だし。」
そう言いながら、ハマーンはエレベーターの中でそっと体を寄せてくる。
「……ねえ、ペズンはどうするの?」
「わたしがどうにかする問題ではないさ。提督閣下の主張するところはもっともだし、ティターンズが組織として解体され、ジャミトフが実権を失えば、エゥーゴも牙をおさめるだろう。
宇宙移民は緩やかに促進される。問題は地球環境がいまより破壊されないかどうかだが、すくなくともコロニーや小惑星を落とされるよりは、だいぶマシになるはずだ。」
「それでいいの?」
ハマーンは顔を近づけて愛しい男を睨んだ。
「俗物が!……とでもいいたいか?
たしかにアクシズクラスの小惑星を落とせば地球環境は激変し、人類の生息には適さないものになるだろう。
だがそのような粛清の果てに訪れる世界は、新しいニュータイプたち……アムロやマチュくん、カミーユやジュドーにはふさわしくないと思うのだ。
もちろんハマーン、きみにとっても、だ。」
「新しいニュータイプ?」
エレベーターを降り、部屋まで歩きながらハマーンは首を捻った。
「へんな言い方をするのだな、わが君。ニュータイプにも新世代っていうのがあるのか?」
「あるさ。」
自分の部屋のドアをあけたクワトロ……シロウズは苦々しげに言った。
「戦争の道具にならなかったニュータイプのことだ。」
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「結論を先に言っておく。ジオン公国は動かん。」
シャリア・ブルは公王府直属艦隊司令官として、先日准将を拝命した。
なにかと、公王府の内命で動くことの多かったこの5年間ではあるが、上官と言えるのは、このマ・クベ中将以外にはいない。
現在、ジオン公国軍のトップがこのいつも顔色の悪い陰キャだからだ。
「はい、ご命令了解いたしました。」
シャリア・ブルは、敬礼をした。
案の定、マ・クベはいやな顔をする。
「なにがわかった……まだわたしはなにも言っていない。」
「ジオン公国は動かない、とおっしゃいました。つまりそれは公王府直属艦隊も動くなということでしょう。」
「……まあ、その通りだ。」
マ・クベは、そばに置いた青磁の壺に触れた。
「……読心、か?」
「そのような大層なものではありません。」
シャリア・ブルは答えた。
「公王府直属艦隊もまた、ジオン公国軍です。マ・クベ司令の配下にあることは違いありません。ジオン公国軍が動かないということは、公王府艦隊も動かしてはならない。そういう意味に解釈いたしました。」
「……理解が早いのは結構だがな。」
マ・クベは壺を指で弾いた。
キンッという乾いた金属音がした。
「これは、わたしからの個人的な要望だ。ソドンをペズン宙域に派遣して欲しい。」
「それはどういう……いえ、たしかにあそこでこれから発生することは高度な政治的判断を要することがありえますが」
「そうだ。
地球連邦軍をさらにバラバラにしかねない反乱。しかも連邦軍は条約で宇宙での軍事行動を制限されている。有効な手段は取れない。月面都市のいくつかがすでにペズンの新勢力……ニューディサイズに対する共鳴と支援を打ち出している。ほっておけば、立ち枯れてくれることもなさそうだ。」
「なるほど。アルテイシア様をあそこにお連れして、そこで起こることを体験してもらいその場で判断をくだされる。そういうことですね。」
「あのお方の性格からして一介のパイロットに身を隠して現場に潜り込みかねん。そんなことはジオン公国としては当然容認することはできない。なので御座艦としてソドン込みで派遣する。当然、君も同行するだろうし、危険度ははるかに下がる。」
「しかし……」
シャリア・ブルは微笑んだ。
マ・クベ司令官は正しい。たいした洞察力である。だが実際には、すでにアルテイシアはその護衛隊長ともどもズムシティを離れている。
ダイクン家の思いつきと行動力は、今呉用をも越えるのだ。
「アルテイシア様の判断に政局を任せてしまって宜しいのですか?」
「当たり前だ。我がジオン公国軍はアルテイシアさまがどんな判断を下されようが。それを完璧に遂行してみせる。私はそのためにいるのだぞ。」
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「うごくな……ということですか、准将?」
ヘンケンは、モニターの中の人物を見つめた。
「そうだ。あのような形でエゥーゴにも言及されていてはきみたちの戦力も使いにくい。たいしたものだな、“提督”は。」
「しかし、このまま手をこまねいているわけには……」
「そうだな。彼の主張はある意味正しい。それだけに受け入れ難い。正義の主張に暴力を用いてしまっては台無しだ。だが一方で……たしかに地球連邦政府の一部における腐敗や軍閥化はこれを正さねばならないものだ。」
「つまりまとめると、『提督』の主張はほぼエゥーゴと変わらないってことだね!」
マチュが口を挟んだ。
赤毛の少女は――礼儀も常識もわきまえているクセにときとして容赦ない。
「それをエゥーゴが潰すのは筋が違うってことか。」
「マチュ……もう少し……その“言葉選び”というものをね。」
「アムロ君。まったくフォローになっていないぞ。」
ブレックス准将はモニターの向こうで苦笑いを浮かべた。
「たしかに、ジオン公国をふくめニューディサイズを武力をもって鎮圧出来るものは少ない。あるいはゴップ閣下当たりはアーガマをその任にと、お考えだったかもしれんが、先手を取られた。」
「しかし……放置もなりますまい。」
ガディ・キンゼーが強い口調で言った。
ジオン公国がアーガマのお目付け役として配備した重巡アレキサンドリアの艦長であるが、クルーのほとんどはジオン兵という甚だストレスのたまる立場にある。
「そうだな。ほっておけば影響を受けるものは加速度的に増える。」
ブレックスが面白そうにガディを見た。
「きみも立場が許せば、ペズンに合流したいのではないか?」
ガディ・キンゼーは、顔を顰めた。
実際に……
アレキサンドリアに配属された数少ない連邦軍パイロットからそのような打診を受けたばかりだったのだ。
血の気の多い若いパイロットではない。
元不死身の第四小隊のサウス・バニングを中心とする戦争経験済みの連中からだ。
もともと大気圏外のモビルスーツのテスト中に、デラーズ・フリートの奇襲を受け全滅したが、ジオン艦隊に救助された。
以後、ドレン艦隊の指揮下でデラーズフリートとの戦闘に参加し、立場は連邦軍のまま、アレキサンドリアに配属されている。
話だけ聞くととんでもないが、実際のところは、彼は連邦パイロットたちからの人望は厚い。
その彼がペズンへの合流を相談してきたのだから、事態は極めて悪いと言えた。
「ジャミトフ・ハイマンの拘束、ティターンズ、エゥーゴの解散……落としどころはそんなところでしょうが。」
ヘンケンは呻いた。
「別にわしの拘束を、追加してもらってもかまわんぞ。」
ブレックスは鷹揚に笑う。
「だが、これを成功させてしまうわけにはいかん。なぜならば―――」
「同じ手段を繰り返すやつが出るからだよね、准将。」
マチュが言った。瞳は燃えるように輝いていた。
「基地化された小惑星や軍事要塞化したコロニー。それをひとつでも占拠すれば好き勝手が通るとわかれば」
「コロニー国家は大混乱になるだろうな。ジオンがもっとしっかりしてくれていればまだいいのだが。」
「じゃあ、ペズンは潰す、でいいんだよね?」
「お、おいマチュ!」
アムロが慌てて、小柄な少女をとめに入った。
「だいじょぶだよ、天パ。潰すっていうのは言葉のアヤで。
やることはクラバと一緒だよ!
アタマを吹っ飛ばして、行動不能にするの!」
クラバペズン場所の開催!!
―――なのか?