でもララァとセイラさんのM.A.V.がなんか面白そうだったので、書きすぎてしまいました。
ヴィトー・ディオールの細い手は、意外に温かく、力強かった。ソム・エドワウはその感触に、わずかな安堵を覚えた。
再び、その黒い瞳の奥から現れた極彩色の光の断片が、ソムの視界を埋め尽くす。
だが今回はソムは慌てなかった。
これはニュータイプの『共振』だ。
互いの存在が、互いの精神を軽く触れ合わせるように伝わってくる。
ララ……ラ……。
あの幻聴のような響きが聞こえたが、それはもう耳障りではなかった。
「よろしくお願いしますわ、ソムさん。」
ヴィトーは微笑んだ。
「ええ、こちらこそ。」
ソムが手を離すと、バンボラ・バルが、はっきりと眉を寄せた。
ヴィトーの従者の少女たちも顔をしかめている。
「姫(ねえ)さま! こんな訳の分からない輩と!」
少女たちとバンボラは同時に声を発した。言った内容までほとんど一緒だ。
これには主に忠誠を誓うものたちも苦笑せざるを得ない。
「いや…このことはあとでまた話し合おう。」
姫を守るのが自分の役目だ。突然現れたこの謎めいた女性に、姫を巻き込むのは危険すぎる。だが、姫自身が了承した以上、口を挟むのは控えねばならない。バンボラ・バルは内心でため息をつき、代わりに受付嬢の方へ向き直った。
「それで、どうだ? これで試合は組めるのか?」
受付嬢は、携帯端末を操作しながら頷いた。彼女の表情は、先ほどまでの侮蔑の色を消し、プロフェッショナルなものに変わっていた。アンキーの名前が出た瞬間から、事態は変わったのだ。カネバン有限公司アンキー社長――非合法時代からのクランマスターで、現在はサイド6のクランバトルを取り仕切っている。
そのくらいの情報はバンボラの頭にも入っていたが、彼が考えたよりもアンキーは大物のようだった。
そして。
「はい、ヴィトー・ディオールさんとソム・エドワウさんのM.A.V.を登録します。Bクラスからのスタートとなりますが、アンキー社長の特例で、即時試合セッティングが可能です。それぞれの機体も事前登録が必要ですが、現在機体はどちらに?
ヴィトーさんの方は、ヘルムコングロマリットの新型機をお使いになるんですよね?」
「はい、そうです。試作機なのでの名前は……まだ決まってないわ。」
ヴィトーは軽く肩をすくめた。彼女の後ろで、ヴァーニとカンチャナが、互いに視線を交わしていた。姉妹ではないようだが、ヴィトーを守るような忠誠心が感じられる。ランバ・ラルは、少女たちの視線に気づき、わずかに警戒を強めた。子供のように見えるが、その眼差しは本来その年頃の子どもが体験すべきではないことを体験したもののそれだ。
「Bクラスか……。それなら、武器ありのクランバトルに出られるな。」
ランバ・ラルが呟くと、受付嬢が補足した。
「はい、さきほど申し上げた通り、サイド6でのクランバトルは、M.A.V.戦がメインです。2対2のチームバトルで、モビルスーツの武装はビーム兵器以外は全て使用可能。場所はコロニー外の指定宙域で行われます。デブリの影響で、予測不能な要素もありますが……それがイズマコロニーのクラバの売りですわ。」
ソムは内心で頷いた。彼女の新型機のテストにはそれで十分だ。彼女の目的は、キャスバルとの決着――兄との対決を、クランバトルという舞台で果たすこと。
…ではあるのたが、それを急いてはいない。
むしろいまはモビルスーツパイロットとしての自分の可能性を見極めたいという気持ちがあった。
ペズンで決起した連邦軍の一派…“ニューディサイズ”のことも気になったし、今回はクランバトルに正規に登録して、彼女の新しい機体の性能をを把握する。そのことだけで充分だ。
そしてヴィトー・ディオールというパートナーは、予想外の幸運な拾い物かもしれない。
キシリアの網に掛からなかったニュータイプ。
しかもサイコミュなしで「共鳴」を引き起こすほどの力をもつ。
このまま、引き抜きができれば大きな戦力になってくれることは間違いない。
だが、バンボラはそう楽観的にはいかなかった。
「ひ……いや、ソム。機体の到着は数日中ときいたが、本当に大丈夫か? お前の機体はまったくの新型機だ。操縦するのははじめてだろう。慣らしもせずにいきなりクランバトルでは」
「心配ないわ、バンボラ。新型といってもゲルググの改良型。テストパイロットとしての経験が活きるはず。」
ソムはランバ・ラルに微笑みかけたが、その目は真剣だった。
公にはしていないが、彼女も独立戦争を戦場で経験していた。
暮らしていたサイド7をジオンの襲撃で脱出せざるを得なかった医学生セイラ・マスとして。
彼女が乗ったのは、当時、そしていまも連邦の主力機軽キャノンだった。
ついた2つ名は“鉄槌”。
あまりありがたくはなかったがそれでも連邦軍では数少ないエースの一角ではあった。
ヴィトーが、少女たちを振り返って言った。
「ヴァーニ、カンチャナ。わたしはこちらのソム・エドワウさんをM.A.V.として新装備のテストを行うわ。」
「でも、お姉さま……この人たち、信用できるの?」
ヴァーニが小声で尋ねた。カンチャナは無言で頷き、ソムたちを睨んでいる。ヴィトーは優しく頭を撫でた。
「大丈夫。ソムさんは、私と同じ……特別な人よ。バンボラさんも、頼りになるわ。
これからもずっと味方でいてくれるかはともかく。」
少女たちは渋々頷いたが、バンボラ・バルは彼女たちの存在が気になった。インド系の肌、異なる髪質。かのハイブランドが軍需産業として立ち上げたヘルムコングロマリットの被験者か、何らかの実験体? 人工ニュータイプ…強化人間の研究は、ジオンだけでなく、連邦や企業でも進んでいる。ヴィトー自身が、そんな闇を抱えているのかもしれない。
受付嬢が端末を操作し終え、登録カードを二人に手渡した。
「登録完了です。最初の試合は、3日後。アリーナはイズマ外周の第3区画。対戦相手は、“清浄なる大地”…元連邦軍という触れ込みのM.A.V.チームです。ライブ配信も入りますがよろしいですか?」
「ありがとう。」
ヴィトーが礼を言い、ソムたちを誘うように歩き出した。居酒屋風の事務所から外へ。イズマコロニーの街路は、混沌として、賑やかで荒々しい。建物は特に東洋風ということもなく、コロニーでよく見かける無味乾燥なビル街だ。
雨はあがっていた。
「夜」の時間帯だが、ひとの流れは多い。
とくに武装もしていない女子学生の群れが、はしゃぎながら通り過ぎていく。
治安はそれなりによいのだろう。
「ところで、ヴィトーさん。なぜ私をパートナーに選んだの?」
ソムが尋ねると、ヴィトーは足を止め、黒い瞳を向けた。
「あなたと戦ってみたかったから。」
顔を強ばらせるソムに、慌てたようにヴィトーは言い直した。
「あなたと一緒に戦ってみたかったんです。
これは、夢に見た事もない新しい経験。どうなるかぜんぜん想像がつかないわ。」
「…あなたはニュータイプよ、ね。」
話すほどに謎めいた魅力を感じる。
ヴィトーに飲まれないように、ソムはマントの下で拳を握った。
「これはわたしのカンよ。
ヘルムコングロマリットは、そんな力を求めているのかしら。」
「ヘルムは」
ヴィトーは少し微笑んだ。
「あれは『俗物』です。モビルスーツ開発が儲かりそうだから手を出したに過ぎません。技術的には、古くからの繋がりをもとにあちこちから技術を取り込んでいるけど技術力そのものはあまり高くない。」
「あなたはヘルムコングロマリットの人間ではない、ということからしら。」
「ヘルムコングロマリットが新型機のテストをポメラニアンズに依頼して。
わたしはアンキーからテストパイロットとして指名されました。」
「また、アンキーか。」
バンボラは首を振った。
「どこに行ってもその名前が出てくる。
やつはなにものなのだ? シャリア・ブルの最初の報告ではイズマコロニーの零細クランだったはずだ。」
「アンキー社長は、私をテストパイロットとして雇ったけど……本当の目的は、たぶん、もっと大きいわ。クランバトルを通じて、ニュータイプの可能性を模索している。」
「可能性……?」
「そう。ニュータイプという存在が戦争の道具にならなくてもいい世界をつくるのがアンキーの目的。」
「待て。お前は何者だ?
なにをするつもりだ……ソムを巻き込むつもりなら御免こうむる。」
ヴィトーは静かに微笑んだ。蠱惑的な香りが、再び漂う。
「私はただのモビルスーツパイロットです。
あるいはそうなりたいと願っているひとりの女にすぎません。
心配なさらなくても、わたしと姫はとても相性のよいM.A.V.になれると思いますわ。
お互いにニュータイプの素養はあるようだし。
ソムさんの新型もヘルムコングロマリットの機体ですよね?
もともと拡張性とコクピット周りの安全性を重視したモビルスーツだけれど。
テム・レイ先生の強化パーツを装備してるそうね。
とっても興味があるわ。」
ソムの心臓が跳ねた。
こいつは…なにものだ!?
「ヘルムコングロマリットの偉いひとたちが残念がっていましたわ。
せっかく…公王府にモビルスーツを納品できたのにオプションパーツについては尽く却下されてしまったとか。」
そうだ。
たしかあの写真集の女は仮面をつけていた。
兄が一時期つけていたあの酔狂な仮面に似たものを。
いまの彼女は、素顔である。
だが肌の色は。
「ココ・シャロン!!」
「お静かに。ジオンの姫君。」
ヴィトーはそっと唇に指を当てた。
「わたしも純粋にモビルスーツの性能テストをするためにわざわざ偽名を使っているのです。」
「わたしが――誰か知っていて近づいたのか?」
「偶然です。わたしがこのコロニーを選んだのも。同じ時間、受付に並ぶことになったのも。」
「信じられん、な。」
バンボラは身構えた。素早く周りを探るが、ほかに伏せた人員は配置されていないようだった。
ここで、ソムを暗殺したり拉致しようとするならそれなりの人数を配置するはず…。
「なぜわかったかと言われれば、あなた方があまりにも、有名だからです。ニュースでも何度もお顔は拝見していますわ。
アルテイシア・ソム・ダイクン陛下。ランバ・ラル閣下。」
ランバ・ラルは居住まいを正した。
ヴィトーをじっと見つめる。
「お主の言葉の真偽はわからん。
そしてわしの戦士としてのカンはお主が途方もなく危険な存在であると、断定している。」
「…」
「だが反面、お主を害するべきではないとも感じているのだ。
わしは、なんの取り柄もない軍人。5年前までは前線を駆け回っていたオールドタイプに過ぎない。だが自分のカンは大事にするほうだ。それで――生き延びてきたのだからな。」
「それは大事にしたほうがよいです。」
ヴィトーは笑った。
「よろしければ、打ち合わせもかねてご一緒に食事はいかがですか?
わたしたちが、宿をとっているアナハイム・ハイアット・イズマのレストランなら個室もあるし、セキュリティも安心です。」
バンボラ…ランバ・ラルとソム…アルテイシアは顔を見合わせた。
彼らが宿泊しているホテルよりもだいぶ格上だったのだ。
「その…」
アルテイシアは歴戦の猛者である彼女の護衛隊長がこんなに追い詰められるのを初めて見た。
「その…持ち合わせが。」
「ラル!!」
「いやもちろんIDを使えば払えます。
ですが今回は隠密行動中のため、事前に無記名式のプリベイトを用意しておりました。
アナハイム・ハイアットの料金ですと、試合までの滞在費がすっからかんになってしまいます。」
「わたしがご馳走しますよ。」
マハラジャ・カーンやマ・クベのような常識人がこの場にいたら激昂したかもしれない。
だが、ただの学生や前線の軍人としての人生経験のほうが長かったふたりは――。
「わたしはお金持ちなのですよ。」
朗らかにヴィトー…ココ・シャロンは言った。
(もちろん彼女には別の名前もあるのだが描写がめんどくさくなるのでここでは触れない。)
「通常のクランバトルでも『館』に通いつめが出来るくらいの支払いはしてくれますし。
あとわたしはモデルの仕事もしてて、その写真集がかなり売れているみたいでその分の収入もあるのです。」
ヴィトーは少女たちを連れ、先に歩き出した。ランバ・ラルはアルテイシアの肩に手を置き、低く囁いた。
「姫、これは罠かもしれない。引き返すなら今だ。」
「いいえ、ランバ・ラル。わたしは進みます。これは、チャンスよ。」
二人はヴィトーの後を追った。イズマコロニーの暗い空からまた雨が降ってきた。
クランバトルへの幕が、静かに開こうとしていた。
せっかくなので対戦相手のキャラもひと工夫したいなあ。
基本オリキャラなしでやっておりますが。
ガッチガチの地球至上主義者...のようはフリをして、わざと盛り上げのためにヒールを演じてる様なやつらとか面白くない?