「ソドンをイズマ内部に入港させないのですか?」
艦長のラシットが尋ねた。
公王府直属艦隊司令官であるシャリア・ブル准将は困ったように、傍らの青年を見やった。
「どう思うかね、エグザべ君。」
准将などという地位のものは通常、尉官に直接物事を問うたりしない。
だがこんな会話に慣れているのか、エグザべ・オリベ中尉はよどみなく答えた。
「前回、イズマコロニーを来訪した際には、サイド6の許可なしでかなりの間、コロニー内部に居座りましたから…」
「そうだな。やはりソドンの入港は中止だ。わたしとエグザべくんはモビルスーツで発進。アルテイシア様とランバ・ラル閣下と合流してソドンへ帰還する。」
「准将。ランバ・ラル閣下から連絡です。」
本来技術士官であり、こんな仕事はしなくてもいいのだが、習慣なのかコモリ
少尉がシャリア・ブルを呼び止める。
「メインモニターへ。」
特に秘匿通信でもなかったので、シャリア・ブルはそう指示した。
直後に後悔したが。
「おお、シャリア・ブル殿!
早い到着、感謝する。
さっそくだが、『レイダー』を受領したい。」
「搭載してはおりますが」
シャリア・ブルはいやな予感に身を焼きながら慎ましく答えた。
「ここでテストを行うおつもりですか?」
「そうだ。明後日、クランバトルが組み込まれている。」
シャリア・ブルはコメカミを抑えた。
優美な外見とは裏腹に、アルテイシアがかなり無茶をする人物であることは理解していたが、だったらおまえが止めろよ!と思うシャリアである。
「今回はクランバトル組織の見学のみの予定でしたが?」
「うむ。
だがどうもクランへの登録は細かいランク制になっているようでな。
初めての登録だと、コロニー周辺のデブリ回収からスタートするようなのだ。」
シャリア・ブルは自分でもわかる冷たい声で「それで?」と返した。
「偶然、カネバン有限公司から新型機のテストを依頼されたパイロットと出会ってな。彼女とM.A.V.を組めばいきなり試合に出ることが、可能らしい。」
「M.A.V.はあなたですらないと?」
ランバ・ラルはごつい顔を歪めた。
たしかに国家元首の護衛隊長としてなおかしなことをしている自覚はあるようだ。
「…おそらくはニュータイプだ。それもかなり強力な。」
言い訳をするようにランバ・ラルは言った。
「彼女を取り込めるなら危険を犯す価値はある――姫はそう判断したようだ。」
「何者です?」
「正直、ニュータイプでないわしには姫様がなにに惹かれたのかはわからん。
だが姫さまとヘルムコングロマリットの新型機をもっているらしい。名前は――ヴィトー・ディオール。」
「偽名…でしょうな。」
シャリア・ブルはこのとき、ヴィトー・ディオールの画像の1枚でも求めるべきであった。
彼は、ララァとは面識がある。
もしこの時点で、ヴィトーの正体が“大佐”の恋人であるとわかれば、その後の混乱のいくつかは回避できたであろう。
だが、このときシャリア・ブルは、アンキーが手配したパイロットがニュータイプであったことに、むしろ注意をひかれていた。
アムロ以外にもニュータイプを取り込んでいるとすると、これはアンキーの周辺を今一度、捜査する必要がある…。
「分かりました。エグザべ中尉とコモリ少尉を派遣します。
コモリ少尉。レイダーの操縦は大丈夫ですか?」
「はい。」
コモリは少し驚いたようだった。
「もとになったのはゲルググですから。まあ、ソドンから発艦してイズマコロニーに行くくらいでしたら。」
「エグザべ君は、リックグフカスタムの方を頼む。癖のある機体だが、きみの腕前なら問題ないだろう。」
「わ、わかりました。
…しかし…よいのですか?」
「よいのか?…とは。」
「クランバトルへの出場の話です!」
シャリア・ブルは両手で大きく×を作って見せた。
「いいわけはないでしょう。だが止めるべき護衛隊長がここまでノリノリでは話になりません。
ラシット艦長。連絡艇を用意してください。わたしは、後方に待機しているリリーマルレーンに移動します。」
「准将閣下は、なにをなさるつもりなのですか?」
「アンキーを捕まえます。選り抜きのクラバ選手を集めてトーナメントを開催するという話はきいていますが、我々の知らないニュータイプまで取り込んでいるとなると――その真意を問いたださねばなりません!!」
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ライブビュー配信がある、という話をアルテイシアはなんとなく、スルーしてしまっていた。
自分のデビュー戦なので、当然あるのだろうと考えてしまったこのだが、彼女はあくまで無名のパイロット、ソム・エドワウなのだ。
そしてM.A.V.であるココ・シャロン。
彼女はすでにグラナダで何試合かをこなしている――そしてグラビアまで出している人気のクラバ選手ではあるのだが、ここでは「新型機のテスト」のためにわざわざヴィトー・ディオールという別名を名乗っている。
だからBクラスのこのクランバトルがライブビュー配信されるのは、彼女達の対戦相手が人気選手だったからに他ならない。
前日には、試合前のインタビューまで組まれたていた。
「さあ、注目の一戦はいよいよ明日です!」
司会者は、にこやかな笑みを浮かべて、マイクを差し伸べた。
「これがデビュー戦となるおふたりですが、まずはクランバトルに出場するに至ったキッカケなどを、おしえてくただけますか?」
「語ることは多くはありませんです。」
ドレスも帽子も。黒を基調にした品の良いもので、もちろんヘルムコングロマリットの親会社であるかのラグジュアリーブランドのものだ。
全体に肌はほとんど見せていないにも関わらず、紗を多用した透け感のある生地の使い方でまだ二十歳をこえたくらいであろうに、清楚さと妖艶さが渾然となった魅力ある肢体である。
「わたしはアンキーからの直接の依頼でヘルムコングロマリットの新型機の強化パーツのテストをするためにここにいます。」
「ヴィトー・ディオールさん。」
司会者は大袈裟に両手を広げた。
「美女は謎めいているのも魅力のうちですが、もう少しお話を伺えると。」
ヴィトーはサングラスの下で微笑んだが、その唇はそれ以上言葉を紡ぐことはなかった。
司会者は、もう一人の美女――ソム・エドワウに話を振った。
「もともとテストパイロットだったそうですね。」
ソムはすらりとした肢体に軍服ににた機能的な服に身を包んでいる。
ヴィトーとは対照的に肌は抜けるように白い。
M.A.V.であることを強調するかのように、おそろいのサングラスの目元を隠している。
「わたしもあまり喋ることはない。」
ソムの唇も笑みの形をつくった。
「わたしも新型機のテストにクランバトルを選ばせてもらっただけなのです。
奇しくもわたしの機体もヘルムコングロマリット製なのです。」
それ以上の情報は出てきそうもなかった。
司会者は諦めて、ヴィトー&ソムと対戦するチーム。
“清浄なる大地”にマイクをむけた。
連邦軍の佐官の制服に身を固めた男たちだ。
佐官というにはずいぶんと若い。
連邦はジオンのように、戦場で活躍した兵士をいきなり抜擢する制度はないのだ。
「青き清浄なる大地のために!!」
向けられたマイクにむかって、ふたりは宣言した。
単なる地球至上主義ではない。もっと狂気をはらんだ、歪なものを感じさせた。
だが、叫んだのはその一言だけで、すぐにハンサムな顔に鮮やかな微笑みを浮かべた。
「お嬢さん方。お二人共にかなりの美人だ。目の保養になるよ。」
金髪の二枚目。
口元には穏やかな笑みを浮かべている。
「だがきみたちはニュータイプ、だね?
つまりは、強い。
いけないねえ。
強い牙を持つ奴はちゃんと閉じ込めておくか。つないでおくかしないと危ないからさ。」
「アズラエル。あまりお嬢さん方を脅すものではない。」
少し年上の青みがかった灰色の髪の青年が口を挟む。
「世の中には管理者が必要なのだ。それをわかってもらうには、『勝利』によって体に叩き込むのがもっとも単純でわかりやすい方法なのだ。」
バトルまでもう少し!!