ブルーコスモスさんたちもカラミティとフォビドゥンに乗せて上げればよかった。
「初動も知らない、セオリーも知らない。クラバを甘く見た罰です」
ロード・ジブリールが楽しそうに言う。
ソムは、ほんの少しだけ唇を持ち上げて笑った。
見ているものがいなかったのは幸いだ。
その笑みには温度がまったくなく。
それを浮かばせた行動が自分のものだと。
気がついた者は、一生後悔し続ける――それはそんな微笑みだった。
「ソム! 少し我慢しててください。
いま、助けます。」
ソムが注意をひいてくれたことで、ヴィトーのロゼスパークルは、それほど被害を受けていない。だが、レーダーも目視も、ニュータイプのカンを持ってさえも糸がどこにあるのか分からない。
つまりは、「動けない」という一点を取れば、絡め取られたソムと似たり寄ったりの状況と言えた。
「ヘルムコングロマリットのモビルスーツは操縦者への安全性を重視している。」
ロード・ジブリールが冷徹に言った。
「少々派手にやってもパイロットに生命の危険はない。まずは両手両足を破壊するのだ。」
「もちろんです。観客は女パイロットの阿鼻叫喚を──」
そこまで言わせなかった。
ソムのレイダーは、変形した。
繋がれた状態のまま、機体骨格を強制的に展開させ、
“絡みついた糸そのものを押し起こすように形状を変える”。
通常ありえない。
フレーム応力を無視した、壊してでも生き残るための変形。
《応力限界警告!》
《機体に損傷が発生──》
それでも、ソムは迷わなかった。
ズンッッ!!
足を引き千切られる獣のように、レイダーは束縛を外へ弾き飛ばし──
拘束脱出。
「馬鹿な!? あの変形で!? 機体が壊れるはずだろう!!」
叫ぶアズラエル。
変形した機体は巨大な鳥を思わせた。
そのまま、張り巡らされた結糸界を離脱!
「なるほど?」
ソムの声は楽しげだった。
「あなた方の動く、その軌道上にそって動けば、糸は絡みつかない。そういう仕掛けになっているわけね?」
「…」
「アズラエル。狼狽えるな。次の戦法に移行する。」
ゲルググ改の腕にマウントされたキャノンから、砲弾が発射された。
高速で移動するレイダーの前方を塞ぐかのよな軌道で砲弾は走る。
あたるものか!
“ソム! 逃げてください!!”
レイダーは急制動。
その前方で砲弾は消失した。炸裂…ではない。消失したのだ。
起こったのは爆発ではない。
砲弾はそれ自体がぎっしりと密集した糸で出来ていたのだろう。それが解け、散らばり。
空間に巨大な蜘蛛の巣を作り出す。
...
これが思念の会話ってヤツね。
危なかった。
ヴィトーの呼びかけがなければ、蜘蛛の巣に突っ込んでいたかもしれない。
糸をまきつけたままの強引な変形が、そう何度とできるものではないことはゾムも理解していた。
しかし終わらない。
次はこちらの番。
「ソム様。ここはわたくしが」
「ヴィトー? 」
「アズラエル! 先にもう一機を落とす! やつは…なにかやる気だ。」
ロード・ジブリールが叫んだ。
「……ロゼスパークル…壱の型:オハ・デ・ミル・ペタロス。」
ヴィトーの機体から広がったもの。
“なに…あれは”
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「なんです! あれは!」
観戦中のエグザべは、やっとのことでそれだけ言った。
「まだ出てくるぞ。」
バンボラもうなった。
「あの追加パックのなかになんであんな量の」
とエグザべが呟いたが、コモリが答えを出した。
「あれは…薄い。物凄く薄い花びらのようなものなのよ。だから…質量だけ見れば収納体積はそんなに必要ないわ。」
「だがあんなものを撒き散らして何になる!? 」
「チャフの一種なのでは?」
「お互いを目視できる距離でなんの意味がある。」
元歴戦パイロット、新鋭のニュータイプパイロット、技術士官、と三者三様の観戦者たちはすぐにその効果に気がついた。
「糸が。」
アズラエル機とロード・ジブリール機が撒き散らした糸が。
「切断されている……!!」
彼らのバトルフィールドに広がったモビルスーツを絡め取れるほどの張力をもった糸。
それが、ロゼスパークルの放った花弁に切り裂かれていく。
砲弾から生まれた蜘蛛の巣も例外ではなかった。
なんの抵抗すら出来ずに、無害な断片へと姿を変えていく。
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「なんなんです! これはぁっ!」
アズラエルの声が裏返った。
「極薄の金属片だ。」
ロード・ジブリールは唸った。
「相対的な速度や角度を調整すれば、鋭利極まりない刃物としての効果は期待できる…だが…どうやって操っているのだ!?」
そう。
ロゼスパークルの発射した花弁…オハ・デ・ミル・ペタロスは確かにそのようなものだった。
だがそれらは風に揺らぐように、揺らぎ、拡散し、戦場へと散っていく。
だがここは宇宙だ。
風が吹くことはなく、花弁は最初に与えられた初速と角度のまま、動いていくしかないはずだ。
ソムのレイダーの隣りにふわりと、ロゼスパークルが並ぶ。
モビルスーツを接触させることで、ほかからは傍受されにくい会話をすることができるが、これはそのためだけではなかった。
「“オハ・デ・ミル・ペタロス”は微妙なコントロールはできません。あの花弁の渦のなかではわたしたちも切り裂かれます。」
とんでもないことをヴィトーは言い出した。
「ですから、わたしの周りを無傷圏と設定して、ここにはオハ・デ・ミル・ペタロスの影響が及ばないようにしています。
わたしから離れないでください。」
微妙なコントロールがきかない!?
ということはだいたいはコントロールできる、ということなのだろうか。
ソムはその言葉の意味を理解した。
推進剤も、いやスラスターさえないただの金属片を、彼女はコントロールできるのだ!
兵器や武器の概念をこえたそれは、ソムにとって吐き気がするほど恐ろしいものだった。
「ヴィトー。あなたは戦いに慣れてい無さすぎます。」
動揺を飲み込んで、ソムは言った。
「どういう意味ですか?」
「わたしたちが一緒に同じ位置に留まることで、ここがあの花弁からの安全圏であると相手に教えてしまったのです。」
ミサイルが続けざまに炸裂した。
相手のゲルググが肩にマウントしていたものでほとんど全弾を撃ちつくしている。
それは、直接、ソムたちを狙うというより、花弁を揺らして少しでも安全な接近ルートを確保するためのものだった。
「そして、この武器には一撃必殺の威力はない。」
盾を掲げ、突進する2機のゲルググ改。
盾は次々と深い傷を刻み、装甲もまた。
たが、それでもゲルググは健在だ。
バシュッ!
撃ちつくされたと思っていたミサイルが発射される。
今度は正確に狙いを、ロゼスパークルとレイダーに定めている。
何を考えることもある。
レイダーの銃口が上がり、機銃がミサイルを捕らえた。
「あなたは、『慣れて』いないのね。」
優しげな口調でソムは言った。
「ニュータイプとしてはすごいのだけれど。あなたは戦いをするひとではないわ。」
ヴィトーは唇をかんだ。
たしかに――ミサイルが自分目掛けて放たれた瞬間。彼女はそれを迎撃すべきか、それともオハ・デ・ミル・ペタロスのコントロールに集中すべきかの判断を一種ためらい。その一瞬の間は戦場において致命的なものとなる。
「うおおおおおおっっっ!!」
ミサイルの爆炎をかいくぐり、2機のゲルググが接近する。
あまりにも暴力的な。
機銃に対してはモビルスーツの盾は充分に有効だ。
接近戦――シートサーベルによる斬り合いに移行すべきか。あるいは回避。またはオハ・デ・ミル・ペタロスを集中させて。
だめだ。
ここで迷っていては。
ヴィトーは混乱する。
どうしたら。
「実に理想的。」
ジオンの美姫は甘い言葉をささやいた。
レイダーは人型に変形する。
その腕に握られたのは。
「とったぞ!」
ヒートソードを振りかざすゲルググの腕ごと。レイダーの振るう巨大な鉄球が押し潰した。
肩口からメインカメラまでを押し潰し。
ゲルググはくるくると宙に舞う。
パイロットに意識はあるのか。コクピットは潰れていないだろうが。
いずれにしても戦える状態ではなかった。
「き、さ、ま!」
もう一機のゲルググはとっさに回避行動をとった。だがそこはもはや、オハ・デ・ミル・ペタロスの舞うこの世の地獄。
スラスターが深々と切りさかれ、制御を失うゲルググに。
「滅殺!!!」
ソムのハンマーが炸裂した。
両足を粉砕され、錐揉み状態で吹っ飛ぶ。
メインカメラの破壊が勝利条件であるクランバトルではあるが、もうひとつわかりやすいものもある。
戦闘不能――。
こうして、いろいろに因縁深いニュータイプ組は、ブルーコスモスを破ったのである。
思ったより、ソムとヴィトーは相性がよい。
このあと、当然アンキーからグラビアの話が出るでしょうね。まあ、ランバ・ラルがついてるので大丈夫だとは思いますが。