クワトロは、ハマーンをひとりで宇宙に上げるつもりはなかった。
地球にいるからこそ、分かるものもある。
エイノーの呼びかけは、一般市民からの評判も悪くない。
戦後の復興は地球でもそれなりに順調に進んでいる。
実際に、ザビ家の内部の政権争いが止まなかったジオンよりもマシなくらいだ。
理由はあって、恐ろしく金食い虫であった宇宙での戦力展開の必要がなくなったからである。
モビルスーツの開発は進んでいたが、それは万が一のジオンの地球再侵攻に備えるためのもので、主力は軽キャノン、および肩にマウントされたキャノンを外してかわりに盾とビームガンを装備した軽キャノン改からは刷新されていない。
そろそろ人々は生きることのみに必死な毎日から、「敗戦」という屈辱を晴らしたいと考える者が増えていたのだ。
だが、連邦政府も連邦軍も内部の利権争いばかりで一向に、その行動に出ようとしない。
連邦の刷新を掲げて立ち上がったティターンズは一時期、民衆からの指示も集めたが、彼らのやることは市民も巻き込んだジオン施設へのテロ、ジャミトフの政敵とみなされる高級士官や政治家への圧力とおよそロクでもないものばかりだった。
今度こそ!
エイノー『提督』ならば!!
月面のいくつかの都市がペズン指示を公然と打ち出したのに加え、連邦政府そのものも、一応は武力蜂起を非難しながらも、ティターンズを解体し、それに反目する組織であったエゥーゴのリーダーを逮捕するなど、エイノーの主張通りの行動を続けている。
だからこそ。
これ以上、ニューディサイズが力をつける前に叩かねばならなかった。
これが一度成功してしまえば、何度でも同じことが繰り返されるだろう。
彼は少なくとも現場指揮官としては、ニューディサイズ討伐に参加するつもりではいた。
エゥーゴは、エイノーの非難の対象のひとつとなっていたため、エゥーゴとしてはニューディサイズ攻撃に参加しにくい。
ハマーンにエゥーゴのリーダーを押し付けたのにはそんな意図もあったのだ。
だが、問題はララァだった。
侍女のように彼女に仕えていた二人の少女――ヴァーニとカンチャナも連れて行って居る以上、長期、家をあけるつもりではあったようだが。
反面、「出ていった」感がまるでないのだ。
まるで少し長めの旅行にでも出かけたような…。
いったんは、宇宙に上がり、アーガマに合流するか…
と考えていたところで、クワトロは訪問を受けた。
「こっちだって、聞いてね。」
相変わらずメイクのクセの凄い女は、たしかメカニックとパイロットだった彼女の部下を連れていた。
「アンキー…」
そう言えば、クランバトルのトップランカーを集めてのペズン討伐についての返事を保留していたな…とクワトロは思った。
「ペズンの件はもう少しくわしく検討させてもらう。
死にに行くわけではない。
むこうの戦力とおまえが集めた戦力を比較し、勝てる作戦計画を立てねばならん。」
「ララァはいまサイド6にいるよ。」
いいコンドミニアムだねえ、と呟きながら、アンキーは勝手にソファーに腰を下ろして、足を組んだ。
「えーと、シャンパンはあるかい?
銘柄はなんでもいいよ。」
クワトロはもちろん、ハマーンもこういった物言いに敏感に反応するほうではなかったから、アンキーの要求は無視された。
「おまえがララァを!?」
「彼女に頼まれてね。」
クワトロの目つきはかなり剣呑なものになっていたが、アンキーはそれを平然と受け流した。
「なにかと言うとモビルスーツに乗って飛び出しちまうあんたと一緒にいたいから、自分もモビルスーツを扱えるようになりたいんだと。
かわいいもんじゃないか!!
そこに、自作のモビルスーツを売り込みたいヘルマコングロマリットの意思が結びついた。
モビルスーツまで自前で持ち込んでくれるのにクランバトルの参加を許可しないわけにもいかないだろう?」
ハマーンが首を傾げた。
「我が君。わたしが言うのもなんだが、ララァはかなり変なヤツなのでは?」
「本人としては、相談すれば反対されるのがわかってたから、無断でやっただけで、そんなに隠す気はなかったようだけどね。一応、クラバネームは名乗っていたけど。
ココ・シャロンってきいたことはないかね?」
クワトロは仏頂面で、知らんと答えた。
「そうか。けっこう名前は売れてたんだけどね。」
アンキーはいそいそとタブレットを持ち出して画面を開いた。
「ほら、ファースト写真集だ。400万ダウンロードの大ヒット作だよ。
クランバトルも裾野まで広げれば参加選手も多くなってきたけど、強くて、美しくて、しかもここまで脱げるものはいないからねえ。」
画面のなかの褐色の少女は、仮面で顔を半分隠している。
一方でその見事な肢体のほうはそこまで隠してはいなかった。
「なにをやってんだ、こいつ!!」
ハマーンが叫んだ。
「わたしもクランバトルに登録するつもりでいたんだが…ここまで脱がないと登録できないのか!?」
ハマーンの誤解を正すのが先か。
クワトロは少し悩んだが、思い直して立ち上がった。
「…細かい事情は本人に聞く。
サイド6にむかうぞ、ハマーン。」
「まあまあ、落ち着きなさいって、“大佐”殿」
どんな笑い方をしても邪悪になってしまうアンキーではあったがこのときのニヤニヤ笑いはひと際邪悪そのものだった。
「もう彼女はサイド6にはいないよ!」
「…」
「今はグラナダに移動しているはずだ。
彼女のM.A.Vであるフォウ・ムラサメと合うめにね。アーガマともそこで合流する予定だ。」
「アーガマだと?」
「そうだよ。フォウはいまそこで保護されている。
で、ひとつ相談なんだが、ララァとあってもあくまでココ・シャロンという別人として扱うようにおすすめするね。」
「…なにを考えている?」
「いろいろと考えてるのさ。
ココ・シャロンはサイド6でソム・エドワウってパイロットとM.A.V.を組んで一試合、戦ったんだ。」
クワトロはうめいた。
「ソム・エドワウ、だと!?」
「おやまあ、聞き覚えがあるんだね。わたしはくわしい事情はしらないけど、ココ・シャロンことララァ・スンがあなたの想い人であることは隠しておいたほうがいいと思うんだよ。
少なくとも情勢が落ち着くまでは、ね。」
ソファーの後ろに控えたポメラニアンズのメカニックが声をかけた。
「アンキー。そろそろ。出立した方が。」
「ああ、そうだね。
でこれだけの重要情報を提供したお礼だが、グラナダまで同行させてくれるだけでいいよ。
かのシャリア・ブルに追いかけ回されていてね!
あんたと一緒ならまさかいきなりミサイルをぶち込んだりはされないだろうし、さ。」
それはどうかな?
とクワトロは思った。
今回も少し短めですね!