「エグザべ・オリベ。ギャン、発進願います。」
「却下。」
美しき元首は、短く答えた。
ブリッジのモニターに精悍な青年士官の顔が映る。表情は…困っていた。
「なぜですか?」
普通、パイロットはそんなことは聞かない。
まして、元首がいちいちそんなことに答えたりはしない。
だが、さらりと金髪を揺らして、元首は言った。
「あなたは今回のメンバーには入っていないからです、中尉。」
「し、しかし。それは」
たしかにエグザべは、ペズン攻略のメンバーからは外されている。今回の作戦に参加できるのは選ばれた「クランバトル」のパイロットだけだ。
エグザべはクランバトルに参加したことはなく、そういった意味ではたしかに参加資格はないのだが。
一介の尉官でありながら、いろいろと裏の事情にも詳しくなってしまった彼は、主君とその側近がわざわざ偽名を使って、クランバトルに登録したことを知っている。
納得できるわけがなかった。
「これは作戦そのものではなく、ソドンの防衛のためです。」
エグザべは言い返した。国家元首にパイロットが反論することは普通はないのだが、なに「コイツ」はクランバトルのパイロット“ソム・エドワウ”だ。
「そうね…確かに直衛をだしたほうがいいですね。」
ソム・エドワウは立ち上がった。
「ラシット艦長。レイダーを発進させます。
準備はよろしくて?」
「却下。」
「ダメです。」
「それはいくらなんでも…」
自分の乗る船を守るために自分が発進する。
敬愛する元首の行動に、ブリッジの全員が反対する中。
隅で手をあげたのは、褐色の肌に、黒い髪をお団子に結んだ少女。
「なら、わたしが行きますわ。」
「ココ・シャロン。」
ランバ・ラルが顔をしかめた。
「相手の機体は恐らくは重装甲、高機動の重モビルスーツだ。あなたのロゼ・スバークルには、相性が悪い。」
「わたしは、あの武器についての全容をお見せしてはいません、バンボラ・バル様。」
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生身で宇宙空間。というは実に心もとない。
自分で移動できない。
微細なデブリに接触しても致命傷だ。
くるりと体を丸めたマチュを、大きな手がすくってそのまま、コクピットに連れて行ってくれた。
ふう。
与圧を確かめて、マチュはヘルメットをとった。
「マチュ! アブナイゾ、ヘルメット、ヘルメット!」
球体が跳ねたが、マチュはなだめるようにそれを撫でた。
そのまま、シートに体重を預ける。
目を閉じてその感触を楽しんだのは――3秒。
「いくよ! ジークアクス!!」
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「新型、だと?」
ガディ・キンゼーは相手を睨みつけた。
イオ・フレミングは大袈裟に肩をすくめてみせたが、ダリルのほうは平然としている。
「そうです。ゼク・ツヴァイですね。
重装甲と高機動。それに武器をやまほど搭載した試作機です。コストがかかり過ぎるのと…パイロットがいなかったので、実戦投入が危ぶまれていた機体です。
…ですが、パイロットのほうはなんとか都合がついたみたいですね。」
「なぜここで奇襲をかけてきた? 強行偵察か?」
「目的はそうなんでしょうが。出来れば船の一隻でも沈めておこうという意図は当然あると思いますよ。
ゼク・ツヴァイにはそれだけの武器が搭載させていますから。」
「ソドンから発進したジークアクスがアーガマに接触――」
オペレーターがそう報告する。
「いえ…着艦せずにそのまま離れます。これはいったい…」
「ぼくらはぼくらで準備をしよう。」
ダリルは、提案した。
「こっちを狙われたときのために直衛は必要です。
イオ。“フルバーニアン”、いけそうか?」
「行けるぜっ。」
イオ・フレミングは上機嫌だ。
連邦出身の彼は、“ガンダム”に乗れることがうれしくてしようがないのだ。
それに“フル”とか“パーフェクト”とつけば、もう大好物である。
“そんなにガンダムに入れ込むなら、ガンダムのガワだけ被せてやればいいのかなあ。”
とダリルは思ったのだが、口には出さない。
「ぼくのゼク・アインには狙撃用のライフルを。」
「狙撃…距離がありすぎないか?」
「ぼくは…いつでも。どこからでも狙えます。」
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「なんなんだ! こいつ!!」
ジュドー・アーシタは混乱していた。
まだ子供ではあるが、周りの悪意にはなれている。その延長でひとが死ぬのも見てきた。
いや殺意そのものを自分に向けられた経験だってある。
たが。
これは。
“遊ぼうよ、遊ぼうよ、遊ぼうよ!”
向けられるのは純粋な好意。
感応したジュドーにはその姿さえ、はっきり分かる。
リィナと同じ年頃の少女。
赤い髪をお下げに編んで、顔にはそばかすが見える。
キラキラと光る目をしている。
“ほらっ! これが『妖精の小路』。一緒にお散歩しよう?”
一斉発射されたミサイルは、Zガンダムを包み込むように炸裂した。
右も左も上も下も。
下がることもできない。
爆炎がつくる道は、ただ一つ。
まっすぐ、異形の巨大モビルスーツに続いている。
「このっ!」
ジュドーが撃ったビームが、虚しく拡散した。
Iフィールドだ。
“いいね! すごっくいい!!”
異形のモビルスーツが撃ったビームを、ジュドーは辛うじてかわした。
いや、爆炎の壁に囲まれていては、これ以上回避するのとはむずかしい――
殺られる!?
「うあああっ!!」
少女の雄叫び。
それとともに、爆炎の壁が切り裂かれる。
現れたのはガンダムタイプのモビルスーツ。
手にはビームサーベルが握られていた。
「マ、マチュ? マチュ姉か!」
「ジュドー、カミーユ! 勝手に出撃きたらいけないんだからね!」
マチュをよく知るものがいたら「おまえが言うな!」と総ツッコミがはいっただろうセリフを彼女は平然と言ってのけた。
「あなたも! “お友達”なの。」
おさげの少女がうれしそうに叫んだ。
そこに。
カミーユのマークⅡの散弾バズーカが打ち込まれる。
ミサイルポッドのいくつかが。
破壊できただろうか。
「いいよね! 遊んだら帰りにわたしのおうちに寄っていって! あの山のむこうにある緑の切妻屋根の家なの。わたし、ケーキを焼くわ。」
しゃべりながら。
実際におしゃべり好きなのだろう。楽しそうにそう言いながら、ビームを。ミサイルを。機銃を撃ちまくる。
「ジークアクスっ!」
オオオッ!
機体が吠えた。
少なくともカミーユとジュドーにはそう見えた。
ジークアクスの全面に、Zガンダムを庇うよう巨大な盾が展開される。
そこに異形の巨大モビルスーツの火力が集中した。
爆炎が。
2機のモビルスーツを包む。
「防いだ…のか?」
「もちろん!!」
なにがもちろんなのか分からない。このガンダムはIフィールドジェネレーターを持っているのだろうか。いやあれはビームにしか使えないとカミーユが言っていた。
それに…。
「いっけっえええっ!」
急速接近するマークⅡ。
3度発射される散弾は、今度はかなり集中して敵のモビルスーツに命中した。
――でも!悲しいかな、これ散弾なのよね。
多少のダメージは与えたであろうが。
装甲を貫くことは出来ず。
「なにをしている! アン・ムラサメ!!」
男の怒声が割り込んだ。
「カトンボどもと遊んでいる場合か!
ソドンを落とせ。」
「えっ…」
少女の声は悲しそうだった。
「遊んじゃダメなの?
そう。お船を破壊するの? わかった。」
異形のモビルスーツのモノアイが、寂しそうにジュドーたちを見た。
ほんの一瞬。
そしてそのまま急加速。
後方に待機したソドンに向かう。
「まずい! ソドンにはお姫様が!」
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「敵、モビルスーツ急速接近。目標は本艦と思われます。」
「モビルスーツ発進、急がせろ。」
「ロゼスパークル、発進完了。直衛につきました。あとは…間に合いません!!」
「敵モビルスーツ、ミサイルらしきものを発射…な、なんだこの数は。」
「回避急げ!」
「対空防御!」
ミサイルに覆い尽くされるように。
ソドンはのろのろと進路をかえる。
間に合うものではない。
そして。
ここまでのミサイルの飽和攻撃をうけたならいかに頑丈なソドンと言えども大ダメージは避けられないだろう。
だが。
「オハ・デ・ミル・ペタロス。」」
ココ・シャロンの声が静かに響く。
ミサイルが。
数十発のミサイルが。
ソドンに到達することなく、爆散していく。
「あれは」
ラシット艦長は呆然とその光景を見つめた。
「あれがあのモビルスーツの搭載兵器――モビルスーツそのものの名前でもあるロゼスパークル。」
バンボラが低い声で言った。
「無数の金属片を撒き散らす。それは刃となって、その領域に侵入するものを切り裂く。」
接近する異形のモビルスーツの体のあちこちで火花が上がった。
これもまたロゼスパークルの効果なのだろう。
だが重装甲のまえに決定的なダメージにはならない。
そこに。
ビームの一撃。
肩の大型バインダーのひとつが爆散した。
「狙撃!?」
「ど、どこから?」
「方角はアレキサンドリアです。し、しかしこの距離で」
「アレキサンドリアより、モビルスーツ接近!
識別…ガンダムゼフィランサス…フルバーニアンです。」
宇宙空間における機動力に特化したフルバーニアンは。その加速性能においては可変機にも匹敵する!!
「おちろっ!」
イオ・フレミングがバズーカを発射する。
しかし、巨大モビルスーツはそれを次々にかわした。
「アン・ムラサメ! Iフィールドジェネレーターがダメージを受けている。いったん帰投するんだ。」
「ええ?」
バスクの命令に赤毛の少女は不満そうに、声を漏らした。
しかし、命令に逆らう気もないのか、そのまま、反転。加速して宙域から離脱していく。
ゼク・ツヴァイのIフィールドが故障したのは、カミーユの撃った散弾パズーカの効果だったりします。