捕虜にされたのは、まだ若い士官だった。
連邦軍少尉ジョッシュ・オフショーと言う。
捕虜というのは、一定の権利を保証された立場ではあるが、彼を捕虜にしたのはまともな軍隊ではない。クランバトルという非合法の試合に身を投じたならず者の集まりである。どんな扱いをされるのかわかったものではない。
そもそも自ら投降したのではないモビルスーツを「捕虜」にするなど、有り得ないことなのだ。
連てこられたのは「ソドン」である。
連邦軍のV作戦において、モビルスーツの運用と併せて設計・建造された強襲上陸艦であり、かの赤い彗星によって奪取され、その後はジオンにおいて活躍した。
“ニューディサイズ”を立ち上げるにあたって、当時、士官学校の校長を勤めていたエイノーからジョッシュは直接、その計画を聞かされている。
つまり――
一応、ジオンの所属ではあるが実際は、月面都市の援助で成り立っているペズンは、ジオンからは積極的に手を出しにくい。
ジオン軍が健在ならいざ知らず、イオマグヌッソ事変のため、精鋭というべきギレン総帥の親衛隊とア・バオア・クーを失ったいまは、爪に火を灯すようにして、戦力を温存したいはずだった。
(現に、明白に反乱軍とよんでいいデラーズ・フリートに対してジオンは終始、積極的な攻撃に出ることはなかった)
ならば、連邦軍内部のいざこざであるニューディサイズの蜂起については、自ら乗り出すことはないだろう……というのがエイノーの思惑であった。
一方で連邦軍は、ニューディサイズを鎮圧したくても、宇宙における戦力は皆無である。
動きたくても動けない。
なので、これを機に連邦からもジオンからも距離を取りたがっている月面都市群から支持を取り付ければ、連邦軍の刷新という目的において、連邦軍と連邦政府に働きかけるチャンスは十分にある。
そののちは、月面都市を中心に、連邦の宇宙戦力を再編し、ジオンに対抗するのだ――
ここまではその通りにすすんだ。
だが、クランバトルとかいう無法者がしゃしゃり出てくるまでは、である。
無駄かとは思ったが、それでも軽キャノン改を勝手に使われぬよう生態認証ロックを幾重にもかけて、コクピットをでたジョッシュ・オフショーはそのまま、船内に案内された。
銃を突きつけられることもなく、案内された部屋で彼を迎えたのは、同年代にしか見えない青年だった。
なんとなく、モビルスーツのパイロット同士は「わかる」ものなのだが、このくせっ毛の青年はたしかにパイロット、それもかなり腕のよいパイロット出あることはわかるのだが、軍人らしい所作がまるでなかった。
「連邦軍少尉ジョッシュ・オフショー。」
「クラン“ポメラニアンズ”所属のパイロット、アムロ・レイです。」
「なんか二枚目だけど、顔色が悪いよ。」
アムロと名乗った青年のとなりの目つきの悪い女子高生がそう言った。
「マチュ。無理やりソドンに連れてこられたんだ。楽しいわけはないだろ?」
「なんか、こっちをならず者の集団だとでも思ってそうでさあ。」
女子高生は不満そうに言った。
「それは正規軍人からみればそうだろう……」
「正規軍ではないよね?
ペズンを占拠したテロリストだよね?」
「きさまに、なにが!!……」
さすがに顔色を変えたジョッシュが1歩踏みだしたが、マチュと呼ばれた少女はけろりとして言った。
「……ってガンダムが言ってる。」
「ジョッシュ少尉、すいません。」
アムロは頭を下げた。
「ぼくらはクランバトルの選手です。あなたを捕虜にしたのは、バンボラさんのアイデアなのですが、正直、どう扱っていいのかわかりません。」
「ニューディサイズの情報を渡すことはお断りする。」
ジョッシュは言った。
「戦力規模やモビルスーツの性能などを聞き出そうとしても無駄だ。」
「ああ、そこらへんは必要ないよ。」
マチュはあっさりと言った。
「この船ではないけど、元リビングデット師団のダリルさんたちがいるよ。
ゼク・アインの性能や機体数もわかるし、なんでしたらゼク・アインそのものもダリルさん用に確保してる。」
「ペズンの戦力は、ニューディサイズの蜂起から大幅に強化されている。
連邦軍からの義勇兵は三百名、月面都市からのモビルスーツの増援もすでに五十機を超えている!」
アムロの手がマチュの頭をポンポンした。
子供扱いして!
と、マチュはまたふくれたが
「お手柄だね、マチュ。
――ジョッシュ少尉。ぼくたちがあなたから聞きたいことはいまあなたが自分で仰ったことですべてです。」
今度こそ、ジョッシュは顔色を変えた。
女子高生に言い返しただけのつもりだったが、重要な情報を渡してしまったのだ!
「……でもペズンはもともとのジオンの技術者やテストパイロットもいれて、そんなに人数はいないはずですよね。
あとから、参加のメンバーがそんなに多くなると、主導権……っていうのかな、そういうのは大丈夫ですか?」
「……」
「ソドンに、集中的に攻撃を仕掛けさせたのは、エイノー提督からのご命令ですか?」
「いや、それはジャミトフ閣下の発案で……」
「たしかに、母艦を1隻でも撃破してしまえばそのあとが有利になるのはわかりますけど、なぜソドンを集中的に?
沈めやすいのなら、武器をほとんど搭載してないアーガマのほうが沈めやすいでしょう?
だいたい、アーガマ以外はみんなジオンの正規軍の艦艇ですよ。沈めてしまったら、もうはっきりとジオンに対して宣戦布告したも同然でしょう?
そしたら、ジオンも戦力の温存とか言ってられずに、すみやかにニューディサイズ殲滅にむけて動きますよ。
それじゃあ、まずいでしょう?」
「あ、アムロくん……だっけな。たしかにきみの言ってることはもっともだ。
だが、アーガマは後方に下がっているカタチで狙いにくい……」
「なら、アレキサンドリアやアルビオンもありますよ?
なぜ、ジャミトフ閣下は、ソドンを狙わせたんでしょうか。」
「……」
「すいません。問い詰めるつもりはなかったんです。
気分は悪くありませんか。お怪我は?」
い、いや。
ジョッシュは額に手を当てた。
この二人を相手にしていると肝心なことをボロボロとしゃべってしまいそうになる。
「部屋を用意したので、休んでください。一応外からロックはさせていただきます。あとで食事をお持ちしますよ。」
「すまない、アムロくん。だが」
「まあ、ぼくの取り越し苦労だといいんですが、ソドンにアルテイシア・ソム・ダイクンが乗船していることは、ニューディサイズでは把握されていますか?」
えっ……
!!!
「反乱分子だろうが連邦軍に、元首が殺されでもしたらジオンの報復は、ペズンを粉砕しただけではすまない。
地上へと向かう。
政治的な混乱の中での報復は、自制が効かない。おそらくは廃棄コロニーや小惑星を質量弾として地球に落下させるものになります。」
「ま、待ってくれ!
我々はそんなことは考えていない。」
「しかし、少なくともジャミトフ閣下はご存知なようですよ?
だから、執拗にソドン目掛けて攻撃を仕掛けてくる。
すでに、ニューディサイズは、旧ティターンズにのっとられてるってことですか?」
センチネルのキャラクターはイメージが掴めないので、想像だけで書いてます。異論は認める。