「見事な尋問だったな、アムロ。」
ジョッシュを個室に案内したあと、マチュと一緒に部屋を出たアムロに、バンボラが話しかけてきた。
「うまくすれば、ペズン勢力をこのまま瓦解させられるかもしれん。」
「そうでしょうか。」
ほとんど面識はないはずだが、この男――バンボラ・バルにはなんとなく親近感のあるアムロである。
ララァが繰り返したという世界線のなかでは、師弟であったことでもあるのだろうか。
「そうだ。ジャミトフはそのつもりで、義勇兵の名目で自分の手下を相当数送り込んでいるはずだ。
どこかの時点でエイノーを謀殺し、実権を握る――そこまで考えている、とわしは見ている。」
「バッカだよね!」
マチュがキッパリと言った。
「バカかな? 少なくとも謀略という点においては、ジャミトフはなかなかのものだと思うぞ。」
「そんなことをすれば――例え病死や事故死を、装ったとしても月面都市やペズンのジオン系の技術者がついてきません。」
アムロが補足した。
「そうだよ。ぶっ壊すことだけ一流でもそのあとを考えられない。だから、あいつらに世界をどうにかさせちゃいけないんだ……と思います。」
風格のある大人であるバンボラにマチュは、一応敬語だ。
たしか、サイド6の高官の一人娘なので、育ちはよい子なのである。
ありあまる行動力に覆い隠されてはいるものの。
「セイラさ……アルテイシア……ソムさんは?」
「ヤザンのところだと思う。」
バンボラ……ジオンの重鎮ランバ・ラルはそう言った。
表情はあまり楽しげではない。
「あれは悪い男ではないか、夫にするにはどうかなのだろうな。」
「ソムさんはヤザンさんとそんな仲なんですか!?」
「どんな仲かくわしくは知らん。
だが、家庭を築くことまで考えているのなら、むしろお主のような男こそ相応しいと思うのだが。」
ジオン政府の中でも、これは結論の出ていない問題らしかった。
首を捻りながら、ランバ・ラルが立ち去るのを、アムロはかなり惚けた表情で見つめていたらしい。
マチュの肘打ちが脇腹にはいって、アムロはやっと正気に戻った。
「しっかり、天パ!
自分の未来は自分で掴むのだから、周りの思惑に一喜一憂しないのっ!」
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「ヤザン!」
パイロットスーツは、ソム・エドワウの優美な曲線をほとんど隠さない。
その肢体を、一瞬だけ、ヤザン・ゲーブルの抱擁に委ねたあと、ソムはふわりと体を離した。
「新型のハンブラビは、いけるぜ! ソム!」
大好物を語る口調で、ヤザンは言った。
ロベルトとアポリーは気を利かせて姿を消している。
一応、人目をはばかるこのカップルの行動を邪魔するものはいないはずだが、互いにそれ以上の行為は控えていた。
パイロットは忙しい。
ヤザンがいくら欲望に忠実であろうと、ソムの美貌が魅力的であろうと、彼らには優先すべき物事が山ほどあった。
もともと少数精鋭をもって、ペズンへの攻略を目指している。
少なくとも、クラバのトップクラスパイロットは、正規軍のそれに勝ることを証明したとはいえ、人間の体の疲労はどうにもならない。
数でははるかに勝るニューディサイズがこの瞬間にも第二波、第三波の攻撃を仕掛けてくるきもしれない。
すでに出撃したモビルスーツには、消耗した推進剤や弾丸の補充、メンテの作業に入っているはずだ。
のんびりと逢瀬を楽しむヒマはない。
それに。
ソムは、戦いを通じてあらためて“白い悪魔”への好ましい感情が生まれていたのだ。
あれは――。
M.A.V.に相応しい。おそらくは戦場以外においても。
あれほど信頼できる相手はほかにはいないように思えるのだ。
「悪いな、ソム。」
ヤザンは、飲み物を放ってよこすと手を振ってみせた。
「次の出撃までに、今回の戦術をロベルトたちと復習しとかにゃならん。」
「わかってるわ。」
ソムはふわりと漂うカップを受け取って、手を振る。
「またね、ヤザン。戦いが終わったから。」
ニヤリ、とヤザンは精悍な笑いを浮かべた。
「オレの戦いが終わることなんてないんだぜ?」
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パイロットは忙しい。
ガトーは、ヘルメットを脱ぐと同時に差し出された飲み物に口をつけた。
食事も兼ねた栄養剤はドロリと喉を流れていく。
「次の出撃は未定です。」
メカニックが声をかけてきた。
「ディープストライカーを分解し、整備をおこないたいのですが……」
「やめておいたほうがいいだろう。」
ガトーは言った。
「いつ出撃命令が下るかわからん。最小限の代役補充で、次の出撃に備えるのだ。」
「港湾設備に大打撃を与えたときいております。」
重巡アレキサンドリアは、連邦の設計思想に基づいて、ジオンが建造した艦艇だ。
艦長とモビルスーツパイロットの一部を除けば、乗組員はほとんどがジオン軍の兵士である。
メカニックの男の顔は僅かに紅潮している。
独立戦争の“英雄”のひとりであるガトーに直接話が出来るだけで舞い上がってしまっているのだろう。
「たしかに大型艦艇の発着はしばらく無理だろう。だがもともとペズンには、専用の大型艦艇はほとんどないはずだ。
実質的な戦力ダウンにはならない。
それにモビルスーツは一機も落とせなかった。
というより、やつらが本格的に迎撃機を出撃させるまえに撤収したからな。」
ガトーが長距離を、新兵器で駆け抜け、敵の要塞に一方的に打撃を与えた……という自身の大戦果にたいして著しく冷淡であったので、メカニックは困ったように口をつぐんでしまった。
ガトーはその肩を軽く叩いた。
「これまでのところ、作戦は順調だ。」
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「作戦は順調だ」
ジャミトフ・ハイマンは断言した。
「こちらの強行偵察を通じ、やつらは実質的なジオンとエゥーゴの共同部隊であることは明白となった。
クランバトルのパイロットを集めたというのも単なる隠れ蓑であって、やつらこそが連邦軍に巣くう病巣。外科手術をもって取り除かねばならない腫瘍だ。」
「順調、なのかね?」
エイノーは皮肉に聞き返した。
モビルスーツの損耗は大きすぎる。
出撃させたモビルスーツで、最小限の推進剤や弾薬補給で再出撃が可能なものは皆無だった。
たしかに彼も、討伐隊にエゥーゴとジオンの影は感じる。
話を聞く限りでは、パイロットの腕前が異常なのだ。
まるで、全員がネームドのスーパーエースで構成されているかのような印象を受ける。
ことによると、クランバトルに名を借りて、ジオンや連邦のニュータイプ部隊が参加しているかもしれない。
「あのモビルアーマーもどきの急襲は予定外でありました。
たしかに港湾部の損害は大きい。修復にはひと月はかかります。」
バスク・オムが口を挟む。
「ですが、ニューディサイズ所属の戦艦はトロイホース1隻です。出撃できなくても大きな戦力ダウンにはなりません。」
「出撃したパイロットからは、ソドンへ攻撃を固執したことに、疑問点が生じている。」
エイノーは、指摘した。
「狙うならば、武装の無いアーガマが適切であったとの指摘だ。」
「アーガマは奴らの艦隊の最後尾におりました。
先行しているソドンを狙うのは特に問題はないかと。」
「たしかにな。だが戦術として当たり前すぎてだが向こうも充分な準備が出来ていた。
偵察用のモビルスーツ隊に補足され、迎撃のモビルスーツを上げられて、なんの戦果もなく後退せざるを得なかった。」
「たかだが、互いに手の内を探るための行動です。具体的な戦果に乏しいのは、お互い様ではありませんか?」
のらりくらりと。
一応は弁明、というか理屈はつけている。
だが、根本的なところが違う。
「ソドンはジオン公国のフネだ。しかも公国府の直属艦。それを攻撃してしまえば、ジオンと正面から敵対することになる。
それを理解できないジャミトフ閣下でもないでしょう?」
「何をいまさら!!」
ジャミトフは嘲笑った。
「我々の目的は、連邦軍を刷新し、その力を持って、新しい秩序を立てること!
その過程で立ちはだかるジオンは当然、敵ですぞ?
クラバとやらのモビルスーツ隊の運搬にジオンが艦艇を出したということはすなわち、この時点でジオンが公然と敵対行動に出たということ。
ここで弱気を混ぜることは考えられない!」
エイノーは椅子の肘掛を握りしめていた。
まさに。
このような自体にならぬように、のらりくらりと時間を稼ぎながら、力を蓄え、連邦への発言力を高める。
月面都市のいくつかを統合し、第三勢力を立ち上げ、その圧力をもって連邦軍と政府を刷新する。
危険な賭けだが、エイノーはそれが可能だと考えていた。
だが。
すべてがぶち壊しだ。
「次の出撃には、トロイホースで運んできたガンダムマークⅤを出撃させていただこう。」
ジャミトフは言った。
「ゼク・ツヴァイとインコム装備のマークⅤならば今度こそ、ソドンを沈められる。」
「まて、ジャミトフ。なぜソドンにそこまで拘る?
ジオン公国が本気になれば、我々などひとたまりもないのだぞ!?」
「アルテイシア・ソム・ダイクン。」
ジャミトフの目がいやな光を放つ。
「ジオンの傀儡姫がいままさに、ソドンに乗り込んでいるとの情報がある。
傀儡とはいえ、元首を失えば、ジオンはまた血で血を洗う政争に突入する。
こちらに手出する余裕はなくなる。」
「その情報は確かなのか!?
いや確かだとしても、そんなことをすればジオンの矛先はまず地上へ向かう。
質量弾で、地球はめちゃくちゃになるぞ?」
「新しい秩序のためです。エイノー提督。」
バスク・オムが笑った。
「古い秩序は崩壊すべきです。」
エイノー提督は可哀想なことになりそう。