さて、カミーユが優勝したモビルスーツジュニア大会のエキシビションマッチ。マブは我らがアムロ。
相手は瞬殺では面白くないので、それなりのやつらをご用意いたしました。
「こいつは」
モビルスーツジュニア大会運営員は、顔をしかめた。
となりに座る同僚を見るが、すでに同僚は気がついたと見えて、自分の出向元の企業へメッセージを送ろうとしていた。
ジュニアモビルスーツ大会は今年も無事に、かつ盛況のうちに終了した。
今日はのM.A.V戦はエキシビションである。
運営的には、勝ち負けはどうでもいい。
武装はビーム系の兵器はオミットされているし、実弾系はモビルスーツの装甲を撃ちぬけないように弾頭を調整されている。
コクピット周りへの故意の攻撃は禁止。メインカメラの破損で敗北が決まる。
参加者のひとりはジュニア大会の優勝者と準優勝者ではあるが、そのM.A.Vは誰を連れてきてもいい。だから誰が何が参加しても反則はないのだが。
いいのだが。
しかしこのモビルスーツは――
「ちょっと待ちなよ。」
背後から声がかかった。
年齢不詳。美人の部類にははいるのだろうが、独特なメイクとコスチュームが結構な率でそれを台無しにしている。
「誰だ、あんたは!」
メッセージを送信しようとした同僚は、怒ったように立ち上がった。
「ここは関係者以外は立ち入り禁止だ。警備員を呼ぶぞ。」
彼は慌てて止めに入った。
「やめとけ。」
「なぜだ? どこの馬の骨か知らんがここは関係者以外さ立ち入り禁止だ。」
「…カネバン有限公司のアンキー社長だ。」
「ポ、ポメラニアンズ!…」
同僚は絶句した。メッセージを送ろうとしていた手を止めてあわてて頭を下げる。
モビルスーツジュニア大会へのスポンサー企業のひとつである。企業としての格はジオニックやアナハイムといった大企業とは比べるべくもないが、出資額はかなりのものだった。
「し、失礼ですが…」
彼は声が裏返るのを必死に抑えた。
カネバン有限公司は、この宙域でのクランバトルを仕切っている大立者だ。
「あのモビルスーツは、社長の差し金でしょうか?」
優勝者のカミーユ・ビダンのリファインされたザクに続いて、白を基調にしたトリコロールカラーのモビルスーツが発進していく。
開発者のテム工廠はそれを「ガンダム」と称しているが、誰もがもっとわかりやすい名前で呼ぶ。
――白い悪魔、と。
「それがまったくの偶然なのさ。」
アンキーは空いた席に遠慮なく腰掛けた。
「一昨日、盛り場で絡まれていたあのカミーユとかいう坊やをアムロが助けたらしい。
あれこれ話をするうちに今日のクラバに出場することになったらしいんだ。」
「社長。」
同僚が硬い声で言った。
「これはクランバトルではありません。モビルスーツジュニア大会のエキシビションです。」
「まあ、それに金をかけるのは勝手さね。胴元としてそれを仕切るのもね。」
アンキーはニヤリと笑った。
「今後ひょっとしたらクラバのジュニア部門も開設するかもしれない。もう少し安全度を高める形でね!
そのためにスカウトできる選手ははやめにツバをつけておきたいのさ。」
アンキーはモニターに向かって体を乗り出した。
それを特等席で鑑賞しようということらしい。
「カミーユ・ビダンはフランクリン・ビダン博士のご子息です。クラバにスカウトは難しいかと。」
「来週にはクランバトル運営委員会が、サイド6の肝いりで発足するよ。」
アンキーはボンボンを取り出して口に含んだ。
一応、ここは禁煙で。この油断ならないクラバの元締めはそれを守ってくれているらしい。
「ちなみにわたしも運営委員さ。もうクラバは日陰の存在じゃなくなるんだよ。
ちなみに、それを言い出したら『白い悪魔』のパイロットはアムロ・レイだよ。
あのテム・レイ博士のご子息さ。」
いくつかの大企業の肝いりで、新世代のガンダムを開発しているフランクリン・ビダンと、とっくに過去のひととなっているテム・レイとは立場が違う。
だがそれよりももっと伝えなければ行けないことはあった。
「準優勝者は、ドゥー・アカツキと名乗っています。」
彼は口早に言った。
「年齢はたしかにこの大会に出場できるものでしたが、在籍していた学校などはダミーデータでした。乗機はザクの改修機…と見せかけてそうではありません。
根本から設計しなおしたモビルスーツにザクのガワを被せただけの新型です。
それにあの操縦技術…あのドゥー・アカツキはおそらくは、強化人間です。」
「随分とすっとばして結論を出したな。」
アンキーは笑った。
「で? その正体はなんだ? ティターンズか?」
「私は連邦の戦術戦略技術研究所ではないか、と踏んでいます。」
「連邦が? なぜそう思う。」
「あれです。」
ちょうど画面の中では、ドゥー・アカツキのM.A.V機が発信していくところだった。
これもガンダムタイプだ。
アンテナな複眼のメンインカメラにその設計思想を色濃く残している。
「ガンダム」を名乗るテム工廠の機体よりも外見からして遥かにガンダムに近かった。
「“赤い彗星”に奪われたガンダムにかわる新たなるガンダムを生み出す研究開発がそこで行われていた、とのデータがあります。当然、終戦には間に合いませんでしたが。」
「そうか。あんたは連邦の出身かい?」
「いまはジオニックの子会社の所属ですけどね。
そもそも設計思想からしてめちゃくちゃだった。」
彼は苦い思い出を語るように顔をしかめた。
「“ニュータイプ”なる存在にひかれたのか、いもしないニュータイプのために機体の反応速度を極限まであげたのですよ。
たしか試作機は一機完成したはずですがその操作性はあまりにも悪く、それを補うためにさらに追加の外部装甲を装着させた。
おかげで今度は動きが悪くなり、被弾率が上がった。」
「5年前の機体か。」
とは言え、役にたたないとも思えない。実際にザクや軽キャノンも多少の改修でいまだに使われているのだ。
アンキーは唇をなめた。
艶やかな紅が濡れて、誘うように輝く。
「だけど、わたしの『白い悪魔』に勝てるのかな?」
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コロニーのハッチからアムロは「ガンダム」を出した。
先にでたカミーユは慣れた操作で、モビルスーツを寄せてきた。
ザクの改修機なのだろうか。バーニヤを強化するためのバックパックを背負っている。
「アムロさん。対戦相手の事がどうも気になってるんですけど」
「たしかにね。」
アムロは目の前のコンソールパネルに表示された相手のデータを見ている。
クランバトルをやっているような錯覚にとらわれたが、違う。これたあくまでエキシビションマッチだ。
準優勝者が連れてきたのは、ガンダムタイプの改良機だ。
独立戦争時に試作機が作られてそのまま、倉庫に眠っていた機体らしい。
注目すべきはパイロットだ。
元連邦のテストパイロットをしていた、とある。ならば腕はかなりのものだろう。
「準優勝者のドゥーって子のことなんですが」
「ああ。」
アムロはもうひとつのデータに目を走らせた。
ドゥー・アカツキ。
年齢と―在籍校以外のデータはない。
「ぼくが彼女と標的射撃の種目で一緒になったときに、声が聞こえたんです。」
「声?」
「通信回線は切っていたのに。たしかに彼女の声が。それだけじゃないんです。目の前がキラキラして――まるで彼女と心が直接繋がったような気がして。」
恋、かな。
と、その手のことには朴念仁のアムロはぼんやりそう、思った。
カミーユはなんとフランクリン・ビダンの息子さんだった。当初アムロはカミーユの申し出は断るつもりだったが、父親の再就職先の上司の息子の頼みとなるとそうもいかない。
「なんて言ってたんだい、その…ドゥーちゃんは。」
「自らニュータイプを選んだボクたちがホンモノだ。おまえらなんかには負けないっ…と。」
うーん。愛の告白とは違うみたいだな。
とアムロは思った。
ここら辺は彼はテム・レイによく似ていた。基本的には研究者で技術屋なのである。
「それにあのキラキラが…」
それは眼科の分野だろう、とこの若きパイロットは思った。こののちに彼はそのキラキラと嫌という程付き合うことになるのだが。
「エキシビションマッチを開始します。
エキシビションマッチを開始します。」
無機質な機械音声が流れた。
「ミノフスキー粒子、戦闘濃度へ散布。試合開始まで、5、4、3…」
「アムロ! 行きまーーーすっ!!」
「カミーユ、行きます!」
「ドゥー・ムラサメ、ハイザック出る!」
(いやおまえムラサメって言っちゃダメじゃん!)
「クリスチーナ・マッケンジー、アレックス出ます!」
また苦手なバトルシーンです。盛り上がるかなあ。盛り上がってくれるとうれしいなあ。