人の意志そのものを兵器へと変える技術が密かに芽吹いていた。
かつて“シャロンの薔薇”と呼ばれた異世界のモビルアーマー。
それは世界の理をねじ曲げるものなのか。
“赤い彗星”は翔ける。
ニュータイプが戦いの道具にならぬ世のために。
独立戦争末期。
サイコミュは、その原型となるものが開発されつつあった。
ミノフスキー粒子によるレーダーや無線誘導の阻害。
有視界戦闘において、ジオンの投入した“モビルスーツ”は圧倒的な優位をもぎ取ることに成功した。
だが、コロニー落としによる早期終戦は失敗に終わる。
連邦がザクと同様のモビルスーツを開発し、投入してくるのは明らかだった。
原理や技術は、ジオンに一日の長があるものの、同じ人間同士。隔絶したものがあるわけではない。
そうなれば、最終的に物量に勝る連邦軍のまえにジオンは敗北するだろう。
連邦がモビルスーツを開発し、大量投入するまでの期間を、ジオンの技術者たちは10ヶ月と見積もった。
対抗するために、ジオンの技術者は、それぞれの限られた局面においてモビルスーツを圧倒できるモビルアーマーという発想に至った。
超高速による一撃離脱、または多数のメガ粒子砲を備えた拠点防衛。
だがそれはコストの上昇も招き、所詮は「ジリ貧」の域を脱するものではないと考えられた。
ならば、そこでもう一度、戦いについての発想を変えることで局面をひっくり返す。
基本、有視界戦闘を中心に設計されたモビルスーツをアウトレンジで一方的に叩きのめす。
脳波による遠隔攻撃を可能にしたビット兵器と、それをコントロールするためのサイコミュ。
開発が進むなか、忽然と現れた一機のモビルスーツ。
それは、MAN-08という開発ナンバーで設計されていたモビルアーマーに酷似していた。
特殊なフィールドに包まれたその中には、眠り続けるひとりの少女がいた。
キシリアは、“シャロンの薔薇”と名付けられたそれをグラナダ地下に秘匿し、解析を行った。
その技術は、紛れもなく、この世界のものでありながら、この世界が作ったものではなかった。
彼女とそのモビルアーマーを解析することにより、サイコミュとビット兵器は完成した。
すべてのサイコミュの原型となったそれを彼らは「アルファ」と呼んだ。
ギレンはこのキシリアの動きについては、必ずしも好ましく考えていた訳ではない。
彼は、拠点防衛用のモビルアーマー、ビグ・ザムの量産化と、コロニーレーザーによる連邦艦隊の一挙殲滅による局面打開を目論んでいたからだ。
だが、この時点では、まだザビ家内部の対立は明確化していない。
だがサイコミュを使えるのが、ジオン・ズム・ダイクンの提唱した宇宙時代に適応した新しい人類、ニュータイプに限られる、というのは、優生思想にどっぷり使ったギレンには、それなりに納得できるものだったのだ。
かくして、サイコミュとビットは完成した。、
紆余曲折を経て、それは当初予定されていた専用モビルアーマーに搭載されるのではなく、連坊から奪取された最新鋭モビルスーツ“ガンダム”とともに運用されることになり、そのパイロットには、“赤い彗星”シャア・アズナブルが指名された。
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“アルファは、マチュくんたちの手でもといた世界へと送り返された。”
クワトロは思う。
マチュが強力なニュータイプであることは疑う余地もない。
だが、彼女が“シャロンの薔薇”の停止フィールド内部に干渉することが出来たのは、ジークアクスに搭載された「オメガサイコミュ」の力によるところが大きい。
ビームが百式の身体を掠めていく。
お返しとばかりに放ったのは、クレイバズーカだ。
弾丸は、散弾である。
一発でモビルスーツの装甲をうち抜くことは出来ないが、2機編隊で合計4機。
まとまっているところに、うまく打ち込めた。
明らかに一機の動きがおかしくなった。
運良く、メインカメラを破壊できたのだろう。
M.A.V戦術については再考の時期に来ているのではないか。
マチュのジークアクスが、変幻自在な機動で、ゼク・アインを翻弄していく。
相変わらず武器は、ビームサーベルだ。
必ずしも余裕のある戦いではない。
その証拠に、ジークアクスの両眼の色がかわり、あの巨大化した向こう側の“ガンダム”のビームサーベルの一撃をも遮った円形のシールドが展開している。
ジークアクスに搭載された“オメガサイコミュ”
それもまた別の世界からやってきた特別なサイコミュなのだ。
アルファに干渉する力を持ち、まるで独自の人格があるかのように、マチュを守る。
“まずいな。ジークアクスが押されている。”
とはいえ、クワトロの百式もまだ自分に向かってくるゼク・アインを制圧しきれてはいない。
メインカメラを損傷した一機は後方に下がるが、まだ三機は健在だ。
散弾バズーカを打ち込むが、今度はうまく回避されてしまった。
アムロが、マチュの援護に回ってくれれば。
だが、アムロに対した二機は、この部隊の中でもとびきりの精鋭のようだった。
たくみな連携で、的を絞らせず、死角から死角へ、回り込むようにして、ビームを放つ。
クワトロはわずかに焦りを感じた。
宇宙戦闘用ではないニャアンのゾックも気になる。
リックゾックは。
くるくると、その身体を回転させていた。
まるで、姿勢制御を失ったようではあったが、そうではない。
リックゾックのメガ粒子砲はその身体の正面と背面に装備されている。つまり、多少の射角の調整は出来ても、相手が、ほぼ、正面か背面に位置しない限り攻撃出来ないのだ。
それをカバーするために、わざと身体を回転させている。
さらにクローアームを振り回すことで、回転に捻りを加えている。
まるで、奇怪な舞いのようであった。
(配信をライブ視聴していた熱心な“病み猫”ファンからは「おお! あれは邪神に捧げる舞い!」「いや。あれは混沌の神を召喚する術式そのものだ! 分かったぞ!まもなくこの宇宙は消滅する!」「なんだってぇ?」などという会話がなされていたが、それはクワトロにとってもニャアンにとっても、知ったことではなかった。)
とは言え、相手の攻撃を回避するのはまた別問題ではあるので、この状態からビームを直撃されたらゾックはひとたまりもないのだが、そこは、機先を制して攻撃を行うことで、たくみにゼク・アインたちに射撃体勢を取らせない。
だが、自ら回転しているゾックがそれほど正確な射撃が出来るかというとそうでもなく。
ゼク・アインに直撃したビームは一発もなかった。
これは、これでまずいか……
クワトロがそう思いかけた時。
ゼク・アインの一機の肩バインダーと右腕がビームの一撃で爆散した。
さらにもう一機。
こちらは二連射で、頭部とビームライフルを持つ両腕が破砕される。
ビット攻撃。
ゾックの装備する“エスビット”の攻撃であった。
エネルギーキャップ式により、小形化した特殊なビット二機は、ニャアンが、イグマオヌッソ事変の際に搭乗していたジフレドから引き継がれている。
そして、おそらくは、ジフレドに搭載されていた特別なサイコミュ、“カッパサイコミュ ”もまた。
これで、ゾックがマチュの援護に駆けつけられるか…… クワトロはそう思ったが。
「き、気持ち悪いぃ……」
「どうした!
どこか負傷したのか!?」
「め、めが……」
「メガ粒子砲に異常か?」
「……めがまわって……」
まあ。あれだけ機体を回転させれば、そうなるか。
クワトロはほっとため息をついた。
カッパサイコミュの中にいる誰かも同じようにため息をついた。
しばらく忘れてましたが、本編最終回で、アンキーたちがイオマグヌッソ空域で回収したジフレドエスビットおカッパサイコミュを組み込んだのが、ゾックで、たぶんカッパサイコミュの中には、正史のシャアの記憶と意識の一部をが取り込まれている。
――っていう設定です。