ペズンのおいて大型艦船の発着が出来るドックは、クランバトルを名乗るならず者どものモビルアーマーの奇襲により、大きなダメージを受けている。
ニューディサイズの唯一の戦艦トロイホースは、宙港内部に閉じ込められた形になっている。
単純な戦力ダウン以外にも物資の搬入などにもかなり支障をきたすことになるのだが、まだそこまで頭の回るものはいなかった。
ガンダムマークⅡは、モビルスーツ用のハッチから内部に誘導された。
ノーマルスーツを着用していないジョッシュのために、デッキが与圧されるのを待って、カーラはコクピットを開いた。
突きつけられる銃口。
それを遮るようにジョッシュがあゆみ出た。
「第1次強行偵察隊のジョッシュ少尉であります。」
銃口を突きつけてくる衛兵たちに知った顔がいないのを確認して、ジョッシュは敬礼した。
「敵艦に捕虜になっていたところを、もとペズンの技術者カーラに救出され、脱出に成功。
帰還いたしました。」
衛兵たちの銃口は揺るがない。
当初トロイホースで、エイノーとともにペズンに渡った者ではなく、あとから義勇兵として参加した者たちなのだろうが、この態度はいかがなものだろうか。
「カーラ……!」
その衛兵たちを押しのけるようにして、飛び込んできたのは、ペズンにもともといたジオン系の科学者や技術者たちだった。
銃口をものともせず、ほとんどカーラを抱きしめるようにして、その帰還を喜ぶ。
「カーラっ! よく戻った!」
「あ、ありがとう。」
「よくぞ、無事で……しかもあれか。ガンダムマークⅡを奪取してきたのだな!!」
「あ、あ、ちょうど、ソドンで打ち合わせがあったので、それで……」
「よくやった!!
ムーバブルフレーム構造においてはひとつの完成形ともいうべき機体を持ってきてくれるとは!!」
カーラはペズンの技術者たちとはウマがあった。
彼女自身はあまり認めたくなかったが、ペズンのものたちもサイエンティストの前にマッドがつくところがあり、リバース・P・デバイスの開発についてのカーラのエピソードは、彼らを感嘆させるに充分なものだったのである。
「ジョッシュ少尉!!」
駆けつけてくれたのは、エイノー提督とブレイブ・コッド大尉だった。
さすがに、衛兵たちも銃口を下げた。
「よく無事で帰ってきた。」
「申し訳ありません、提督。我が隊はクランどものモビルスーツ隊に敗れました。わたし自身も捕虜になり……」
「ほかの機は全機、帰還している。」
ブレイブ・コッド大尉が肩を叩いた。
「それにおまえだけじゃない。俺の隊もやられた。やつらはニュータイプも含むとんてもない腕の連中だ。無事に帰っただけでも上等だ。」
そして、ジョッシュとカーラが乗ってきたガンダムマークⅡを見てにやりと笑った。
「土産までついているようだし、な。」
「ペズンの技師諸君!」
エイノーは呼びかけた。
「まずは。やつらについての情報収集だ。
技術的な質問はそのあとにしてくれ。」
「やつらについての情報収集には、技術的なものも含まれて当然だと思います……」
わかったわかった
エイノーは手を振った。
「技術研究スタッフは3名同席を認める。
まず、報告並びにカーラの健康状態と休息を優先する。」
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ジャミトフ・ハイマン。
バスク・オム。
ニューディサイズの司令本部の主はこの2人になりつつある。
「……ずいぶんあっさり抜けてきたな」
バスクが低い声で言う。
「ソドンの連中は、今や敵の中枢だろうが。」
「しょせんは、ならず者の集まりです。統率がまったくとれておりません。ジオンの正規兵は、直接、戦闘が出来ないのですっかりひねてしまっていて士気は著しく下がっています。
さらに、こちらからの連続攻撃で、補給や補修が間に合わず、パイロットとメカニックもかなり疲弊していました。」
カーラの回答は、ジャミトフとバスクには納得のいくものだったようだ。
「わたしはうまく立ち回って、やつらの信頼を得ていました。アーガマからソドンへの連絡にすぐ使える機体がガンダムマークⅡただ一機だったため、わたしがひとりで行動する時間が出来ました。
ジョッシュ少尉が捕虜になっていることは知っていたので、警戒が薄くなる時間を見計らって助け出すことが出来たのです。」
「おまえはたしか『リビングデッド』の技術者だったな? 残りのメンバーはどうしている?」
ジャミトフが尋ねた。
「全員そろっての脱出は無理です。パイロットも技術者もクランに協力することを約束したもの以外はアレキサンドリアの独房に閉じ込められています。」
「ふん。クランにシッポを振ったのは誰だ?」
「パイロットではダリル・ローレンツだけです。彼は、クランマスターのアンキーに膨大な報酬を約束されて、寝返りました。」
「その名前はきいているぞ。」
ブレイブ・コッドが口を挟んだ。
「たしか、独立戦争時にサイコ・ザクを操ったパイロットだ。たしか……そう、クランバトルにも参加していたな。」
「その通りです。」
「だとすれば油断ならない相手だな。」
「それは――どうでしょう?」
カーラは微笑んだ。
「彼のリユース・P・デバイスは出撃のたびに微妙な調整を必要とするのです。
そしてわたしが脱出に成功してしまった以上、その調整が出来るものはおりません。」
ジャミトフは勝ち誇ったような笑みを浮かべて、エイノーを見やった。
「提督。どうやら私の見立ての方が正確だったようですな。たしかにここまでの経過をがみれば、我々のほうが損害は大きい。だがすでにやつらは限界に達しつつある。
エースのひとり、ダリルは出撃できず、虎の子の新鋭機ガンダムマークⅡのうちの一機はこちらの手に渡った。
ヤツらを叩き潰せば、月面都市どもの態度もまた変わるだろう。
弱気になる必要はない……」
そこまでジャミトフが言いかけたときに、司令室のドアが開いた。
静止する衛兵を振り切って、技術者たちがなだれ込んできた!!
ジャミトフとバスクが睨んだが、彼らは止まらない。
「カーラ!! あのマークⅡはなんだ!?
攻撃系統がことごとく通常の操作系からオミットされている!」
「おまえ、マークⅡに、まさか……リユース・P・デバイスを!」
カーラは黙って両手をあげた。
肘まで。
金属の篭手がはめられている。
「正解。あのマークⅡが100%の性能を引き出すには、これが必要です。」
技術者たちは騒然となった。
「カーラおまえまさかっ!!」
「さすがにそのために手足を切り落としたりしませんよ……昔と違って」
「な、ならば……」
「カーラは両手両足にこのデバイスを装着してるんです。」
ジョッシュが言った。
「このデバイスを通じて操縦することで、その追随性はリバース・P・デバイスに匹敵するものになるそうです。」
「ほう?」
バスクが唸るように言った。
「それはいい! さっそくゼク・アインにその機能を改修して……」
「バスク閣下、それが……そう簡単ではないのです。」
ジョッシュは早口に言った。
「このデバイスは手術によって体に移植することが必要なのです。
さすがに切断よりはラクでしょうですが、それでもかなりの手間と負担がともないます。」
ほおお。
と、技術者たちから、一斉に感嘆の声が漏れたので、技術者以外のものたちは、心底ぞっとした。
そうか。
手術のために「わたし失敗しないので」のゼロ・ムラサメさんをペズンに呼べることになるのか。