これは決闘でもない。
数と補給、そして目的だけを研ぎ澄ました者たちが、
戦場の「正解」を突きつける。
ニューディサイズの意地と誇りをかけた剣の切っ先がいま、ソドンに迫る。
さて、カーラがニューディサイズに話したことは、嘘だらけではあるが、まったく真実がないわけでもなかった。
クランのパイロットたちは疲弊しきっている訳ではなかったが、休息時間があるとはいえ、ひとつの戦場にずっと縛り付けられているのは、人間の心と体を消耗させないわけはない。
モビルスーツには、百式のような可変機構をもつメンテに手間のかかるものが含まれていたためメカニックの負担も大きい。
そしてなんといっても敵はクランのパイロットよりもはるかに多く、戦いの落とし所も見えないのだ。
「機影6機。軽キャノン改3。ザク3。」
「迎撃だ。出られるものは?」
「アムロとマチュです。」
「すぐに発進準備を。ソドン、対空戦闘用意!」
ソドンのブリッジは慌ただしい。
タイミングが悪い。
直衛のゲルググをアルビオンに撤収させた直後である。
モビルスーツの直衛のない戦艦など、モビルスーツの攻撃にはでかい的でしかない。
「ラシット艦長!」
モニターに映った天パの青年は、あまり顔色がよくない。もともとの軍人ではない。
モビルスーツの技術者であり、彼の中では今回の戦闘はあくまで、クランバトルの延長上にある。
そう思い込みながらでないと戦うことも難しいのだろう。
やってることは圧勝でも精神的な負担は大きいはずだ。
「敵が少なすぎます。別働隊がいる可能性があります。」
「わかっている。」
ラシットはちらりとコモリを見た。
すでに、彼女は休息中のココとフォウに連絡し、発進準備をさせている。
「ヤザン隊をメンテのためにアーガマに下げたのは痛いな……」
「仕方ありません。ハンブラビのメンテがアーガマでないと難しいです……」
「ジークアクス、出るよっ!」
「アムロ、行きまーすっ!」
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この作戦を立案したのは、ニューディサイズのトッシュ・クレイ大尉だった。
冷徹な判断のできる参謀タイプの人物だが、パイロットとしての腕前も一流だ。
「先発隊より、入電です。」
部下のひとりがゼク・アインを寄せてくる。
「ソドンのモビルスーツと接触したそうです。相手は2機。白い“ガンダムもどき”とガンダムタイプの新型……ジークアクスです。」
「少ないな……」
トッシュ・クレイは呟いた。
彼はもともとエイノーと行動をともにしていた兵のひとりであり、ジャミトフたちのように、クランバトル参加者への偏見に基づく楽観論には与しない。
とはいえ、積極的な偵察とも挑発ともいえる行動に出ていた最初の頃に比べると、その動きに鈍さを感じるのだ。
やはり。
目に見えて、ではなくとも連戦はひとを、組織を疲弊させる。
「データによれば、ソドンにはほかにも可変機を含めて6、7機が搭載されているはずだ。」
トッシュはきびきびと言った。
「今回のゼク・アインは、対艦攻撃に用途を絞った特務装備だ。いいか。やつらのモビルスーツが上がってきても相手にするな。
ソドンに対して、ミサイル一斉発射。飽和攻撃によりこれを沈める。
ミサイル射出後は、速やかに離脱。」
「了解!!!」
「間違っても補助ブースターやミサイルボッドをパージして、クランのモビルスーツやり合おうなんて思うな!
やつらの強みは、モビルスーツ同士のM.A.V戦だ。こちらの強みは数と後方に基地を持つことでの補給のよさだ。」
「了解であります!」
「よし。全機最大加速に移る。予定通り大きく弧を描くルートを取り、側面よりソドンに接近するぞ。」
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アムロは、舌打ちをした。
「……こいつら、倒しに来てない。」
「逃げるなあっ! このお!」
マチュは……マチュもまた違和感に気がついている。
たしかに、ぼくらはパイロットとしては優秀なんだろうが。
アムロは心の中でボヤいた。
“結局は軍人じゃないんだよな。”
向かってこない相手は、どうにもやりにくい。
軽キャノン改は、肩のビーム砲をオミットし、代わりに手持ちのビームガンと盾を装備した機体である。
攻撃力は少し落ちるが機動性は高まっている、とされる。
同行のザクもまた、バーニヤを増設した改修タイプのようだった。
動きがいい。
ともに射程距離ぎりぎりから、こちらが近づこうとすれば後退し、かといってこちらが下がれば、距離を詰めてくる。
彼らの目的が、迎撃にでたアムロたちを足止めし、その間に別働隊がソドンを攻撃するつもりなのは、明らかだった。
「天パ! 援護して! わたし突っ込むよ!」
「ダメだ。」
何を言っても止まらない時は止まらないマチュだが、このところアムロの言うことはよく聞いてくれる。
ジークアクスが、アムロのガンダムの手を掴む。
視界が極彩色の光の破片に満たされた。
“だってこのままじゃあ。ソドンが”
“分かってる。しかしヤツらはぼくたちが焦るのを待ってるんだ。
クソッ! ロングレンジのライフルがあればな!”
“アーガマからZETAを持ってきとけばかったじゃん。空いてるんだし。”
“可変機はなんか、整備するメカニックに申し訳なくて”
戦いの最中に交わす会話にしては、のんびりしすぎているが、実際にかかった時間は一瞬である。
ニュータイプの認識力、感応力を無駄使いするなあ、とアムロは思うのだが。
アムロはマチュの手を離した。
実際に離したのは、互いのモビルスーツのマニピュレーターに過ぎないがその手を自分自身のものと錯覚できるほどの一体感は、アムロにもマチュにもある。
その間をビームが走り抜けていった。
少なくともこの距離での射撃の腕は、アムロにも舌を巻かせるものがあった。
「マチュ! ここはぼくに任せてくれ。きみはソドンに」
「ダメ! 一緒に戦え……と、ガンダムが言っている。」
うん。
ウソだな。
アムロは断定した。
そこへ。
「白い悪魔!!
借りを返しに来たぜえっ!」
「マッシュさん、突っ込みすぎだ!」
「うっせえぞ、ジェリド。ヒヨっ子は引っ込んでな!」
アレキサンドリアからの応援。
ドム改を駆るマッシュと、ガンダムマークⅡのジェリド・メサだった。
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「ゼク・アイン!! 機数……12!!」
コモリの声が僅かに裏返っていた。
警戒を怠っていたつもりはないが、その攻撃はまったく予想していない方角からだったのだ。
「フォウ・ムラサメ。サイコガンダム発進。」
ラシット艦長がすばやく命じる。
「ココは、甲板上に待機。」
「なぜ、2機とも発進させないのですか?」
「このタイミングでは、射程距離外でゼク・アイン隊止め切れきません。
ソドンへ攻撃されたときに、砲台は一門でも多い方がよいのです。」
ソム・エドワウは頷いて立ち上がった。
「レイダー、発進します。」
「ええ……なぜですか?」
「直衛艦隊旗艦ソドンを落とさせる訳にはいかないのです。」
ううん。
ラシットが顔をしかめた。
「ええっと、それはそうなのですが。」
「コモリ少尉。レイダーをカタパルトデッキに移動。」
そもそもソドンが落とされるとヤバいのはあなたが乗っているからであって、そのあなたが出撃してしまっては……。
「フォウ!」
ココ・シャロンは呼びかけた。
「はい!お姉様!」
「ゼク・アインの隊列を崩して……たぶん対艦ミサイルによる飽和攻撃を仕掛けてくる。
5秒かせげればいい。」
「分かりました、お姉様!!」
サイコガンダムRがカタパルトから射出される。
そのまま、バーニヤを全開!
ゼク・アイン隊に突進する。
思わず、ココが悲鳴をあげかけたそれは、あまりにも危険な行動だった。
おそらく。ゼク・アインが通常の仕様だったから、いかにフォウでも蜂の巣にされかねない直線機動である。
だが、今回、ゼク・アインはソドンを落とす。ただ、それだけの特殊装備だった。
ビームライフルさえもたないものが多い。
しかも、彼らは直衛モビルスーツには構わずソドンを目指せと厳命されていた。
いくつかの幸運がフォウを救った。
ビームライフルの連射はかわされたが、同時に起動していたショルダーバインダーのソードビットが、一機のゼク・アインのメインカメラを撃ち抜き、もう一機の補助スラスターを大破させた。
だが、すばやく散開したゼク・アイン隊は、そのまま、サイコガンダムRを無視して、ソドンにむかう。
「全弾発射! 目標、敵旗艦ソドン!」
だが、サイコガンダムRが稼ぎだしたわずかな時間が。
「ロゼスパークル…壱の型:オハ・デ・ミル・ペタロス」
ココのロゼスパークルから風にそよぐ花びらが放出された。
ココがソムとともに、クランバトルを戦ったときに使った武器です。
極薄の金属片が花びらが舞い散るように散らばり、侵入するものを切り裂きます。
何の動力も無いはずなのにある程度自由に操れるというオカルト兵器です。
そうですね。
分かりやすく言うとこうです。
「……散れ、千本桜」