第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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「0」と「1」。
その再会はこの宇宙になにをもたらすのか。
歪められた記憶と認識。
歪んた情熱と才能。
滅びの炎は新しい命の誕生を告げるのか。







劇場版 GQuuuuuuX第二部 回天の宇宙~トモダチ

手術の時間は5時間に及んだ。

両手両足にデバイスを取り付けられたエイノーは、ストレッチャーに乗せられ目をつぶったまま、身動きしない。

 

「どうなったのだ!?」

手術が終わったとの連絡を受けて、飛んできたバスクが怒鳴った。

 

「神経の接続に少々手間取った。実を言うと持ってきたデバイスに少々難があってな。提督に合わせるのに苦労した。

おかげで提督は昏睡状態だ。しばらくは目を覚ますまい。」

「しばらくだと? どのくらいだ?」

「安心しろ。命に別条はない。せいぜい2日といったところだ。しゃべれるには1週間。起きあがれるのは10日か。

何しろ……私失敗しないので。」

 

いや、それは充分失敗だろうとバスクは思った。

 

「意識が戻るまでのケアは、わたしとカーラで行う。心配する必要はない。」

 

「わかった。こうなってはしかたない。」

バスクは頷いた。

「実は、明後日にはクラバのやつらに大々的な攻撃をかけることになった。

エイノー提督の指揮を仰げないのは、不安材料だが、この際しかたあるまい。」

 

ゼロ・ムラサメは両手を広げた。

「さあ、約束だ。わたしのアンを返してもらうよ。」

 

「それは待って欲しいのだ。ムラサメ博士。」

 

「なせだ!?」

 

「我々の重モビルスーツ、ゼク・ツヴァイはアン・ムラサメ以外には操縦出来ない。明後日の強襲攻撃には外せない人材なのだ!」

 

ゼロは少し考えて、わかった、と言った。

 

「なにはともあれ、アンには会わせてもらうぞ。」

 

 

 

 

扉が開いた。

 

ゼロ・ムラサメの姿を認めた瞬間、アンの背筋がぴんと伸びた。

 

逃げない。

俯かない。

そのかわり――

 

「……ずいぶん派手な登場ですね、センセ。」

声が、少し高い。

それでも止まらない。

「もっと白衣に血がついてるとか、

そういう“悪役らしい演出”を期待してたんですけど?」

 

マシューが息を呑む。

 

「アン……!」

 

ゼロは、面白そうに眉を上げた。

 

「元気そうだ。マシューとマリラはよくしてくれたか?」

 

「ええ、とっても。」

アンは即座に返す。

「センセよりはずっと。」

 

マリラが、そっとアンの背中に手を置く。

 

アンは一瞬だけ視線を落とし、

それからまたゼロを真っ直ぐ見た。

 

「わたしを普通に扱ってくれました。」

 

「普通ではない。」

ゼロはつまらない冗談でもきいたような顔で返した。

「被検体を拉致して、研究所を逃げ出すなんて、普通の扱いではないからな。」

 

「こどもの……」

マリラの視線は鋼鉄の色を帯びていた。

「こどもから記憶を奪い、モビルスーツの操縦、ただそれだけのために精神を歪める。そんなところから、逃げ出さない方がどうかしてる!」

 

「ゼロ。」

マシューが言った。

「おまえもムラサメ研究所の犠牲者だ。

記憶は……完全に消せるものではない。しまい込まれただけだ。我々の研究ならその一端を取り戻すことに成功している。

ムラサメを捨てて、こちらに来い。」

 

答えずに、ゼロはアンに尋ねた。

 

「ともだちはいるか?」

 

「いるわ!」

 

「どんなことして遊んでる?」

 

「モビルスーツに乗って。

それで、キューン、ヒッキューン、ズババン、そ、そこかあ! もらった! チイ……って。」

 

「これは酷いぞ。」

ゼロはため息をついた。

「モビルスーツ戦闘をお遊び、対戦相手を友だちだと思っている。」

 

「そ!そう動機づけしたのは、おまえだろうが!」

 

「まあ、恐怖心を消すためのアプローチのひとつではあるが。

あまりにも現実に起こっていることと異なる状況認識はすみやかに破綻をもたらす。それはイコール、アンの破滅だ。」

胸を張る。

「わたしならそうならないように出来るが?」

 

マシューとマリラは。

同時に拳銃を取り出した。

訓練をつんで、この日のためにそなえた動作だった。

 

「さようなら、失敗作。」

「おまえをこの世に生み出してしまったことが、ムラサメ研究所の最大の害悪だ。」

 

ゼロは、わずかに目を細めた。

「報告としては上出来だ。」

 

「な、なにを?」

 

「おまえたちの真摯さ。アンを思う気持ち。そして能力の限界。すべてを雄弁に物語ってくれた。」

 

ゼロは、銃口を目の前に僅かな怯えも見せない。

諦め?

いや一通り、診察の終わったいしが患者に、症状を伝えるまえのひと呼吸。

そんな区切りの動作だった。

 

「わたしを殺すなら、こんなオモチャでは無理だぞ?」

淡々と言う。

「だが、その前に確認したいことがある。」

 

視線は、拳銃ではなくアンに向けられている。

 

「アン。

友だちはたくさんできたか?」

 

一瞬、室内の空気が張りつめた。

 

マシューの指が震える。

マリラは歯を食いしばった。

 

アンは、考えた。

 

ほんの数秒。

だが、それはこれまでの人生でいちばん長い時間だったかもしれない。

 

「……たくさん、は、いない。」

はっきりと、アンは言った。

「遊び終わると友だちは、みんなどこかに言ってしまってもう会えなくなってしまうから。

でも物語とかで読む友だちはそうじゃない。わたしが……」

 

アンは俯いた。

 

「わたしがなにかいけないことしちゃったのかなあ……って。いつも思ってる。」

 

それは。

そうなのだ。

アンにとって、遊びとはモビルスーツ戦、友だちとはその対戦するパイロット。遊びの終わりとは――すなわち、相手を撃墜することなのだから。

 

ゼロの口元が、わずかに歪む。

 

「なら……寂しいか?」

 

「うん、マシューとマリラは優しいけど、少し寂しい。」

 

「なら、わたしと来い。遊んでも居なくならない友だちを紹介してやる。」

 

(このときはるか離れたアーガマという船の中で天パの青年がぞくりと体を震わせた。まだ少年の面影を残す大人しそうな顔立ちの青年である。隣りの少女が心配そうに額に手をやった。

「熱はないみたい。だけど顔色がよくないわ。」

「なんだか悪寒がしたんだ。」

「疲れてるのよ。次の出撃までまだ時間はあるわ。ゆっくり休んで。」)

 

アンは考えてから――首を振った。

 

「今は――いけない。」

 

言葉を探す。

 

「わたしは、ここでもっと遊ばなくちゃいけない。マシューとマリラは、あの怖い人たちとそう約束した。」

 

「……なるほど」

 

ゼロの声には、はじめて感情が混じっていた。

 

「それが、おまえたちの“研究成果”か」

 

マシューとマリラを、一瞥する。

 

「皮肉だな。

ムラサメ研究所でのおまえたちでは到達できなかった地点だ。

アンは理性を残しながらも静かに狂っている。」

 

ゼロは背を向けた。

 

「安心しろ。いますぐは連れて帰らない」

 

マリラの腕から、わずかに力が抜ける。

 

「だが、覚えておけ」

 

振り返らずに言う。

 

「世界は、選択した者にだけ優しいわけではない」

 

扉が閉まる。

 

静寂。

 

アンは、拳銃を握る二人を見上げて、言った。

「ねえ」

 

小さく、だが確かな声で。

 

「……わたし、ちゃんとできてた?」

 

マシューは答えなかった。

ただ、アンを抱きしめた。

 

「マシュー、あんた、銃のセーフティが、かかったままだ。」

「……」

「わたしもさ。なれないことはすべきじゃないね。」

 

 

---

 

 

 

アーガマ艦内、居住ブロック。

 

ドアロックは赤いまま、時間の感覚を奪う照明だけが天井に張りついていた。

 

「……くそっ」

 

カミーユは壁を睨みつけ、拳を強く握りしめた。

勝手に出撃した。

それだけで閉じ込められる理由としては、彼には到底納得がいかない。

 

「アイツらはテロリストでしかも数が多いんだ! 少しでも戦力は多い方が決まってる。それなのに……!」

 

吐き捨てる声は、怒りと焦燥で震えている。

 

ジュドーはベッドに腰掛け、腕を組んだまま天井を見ていた。

 

腹立たしいのはジュドーも一緒だったが、寂れたコロニーでジャンク屋をやっていた彼は、カミーユより歳下ながら、世の理不尽には慣れている。

 

「まあまあ。どうせどこかで説教されて解放だろ?

ここはちゃんとした軍隊じゃないから、なんかの刑になることはないさ。

まあ、寝て待つしかないんだったからそうしようぜ?」

 

「冗談じゃない!」

カミーユが振り返る。

「次にドアが開いたら――俺は殴る。そんなヤツら修正してやる!」

 

その瞬間。

 

カシュ。

乾いた音とともに、ドアロックが解除された。

 

反射だった。

 

考えるより先に、カミーユの身体が前に出る。

溜めも、躊躇もない。

抑え込まれていた苛立ちと怒りが、そのまま拳に乗った。

 

「どけええっ!!」

 

ドアが開ききる前に、拳が突き出される。

 

――鈍い衝撃音。

 

「ぐっ!」

 

低い声とともに、長身の男が一歩、二歩とよろめいた。

サングラスがふっとんだ。

 

まだ骨格に幼さを残した少年の拳とはいえ、空手をかじっていたカミーユの一撃は、相手をよろめかせるには充分な破壊力をもっていた。

 

「……」

 

沈黙。

 

その場にいた全員が、言葉を失った。

 

殴られた男――クワトロ・バジーナは、頬を押さえたまま、静かにカミーユを見下ろしていた。

 

「……いきなりだな。これが若さか。」

 

その背後で、ヤザンが腹を抱えて笑い出す。

 

「はっはっは! やるじゃねえかカミーユ! 今のはいい踏み込みだ!」

 

「笑ってる場合じゃないでしょ!」

リイナ・アーシタやジュドーの仲間たちが慌てて駆け寄った。

 

「カミーユ! 何してんの!」

「いきなり殴るとか聞いてないって!」

「お兄ちゃん! なんで止めなかったの!!」

 

カミーユは、ようやく相手の顔を認識した。

 

金髪。サングラス。

見覚えのある――いや、忘れようのない男。

 

「……あ」

 

遅れて、血の気が引く。

 

「ク、クワトロ大尉……?」

 

「そうだ。」

 

クワトロはサングラスを直し、ため息をついた。

ヤザンが肩をすくめる。

 

「で、どうする? 俺が代わりに一発返しとくか?」

 

「やめろ、話がややこしくなる。」

 

クワトロはそう言ってから、カミーユとジュドーを見回した。

 

「君たちに用があって来た。説教でも、処分でもない」

 

ジュドーが目を丸くする。

 

「え? じゃあ、なんで――」

 

「解除だ」

クワトロは淡々と言った。

「君たちは、クランに正式エントリーされた。

今日からは“無断出撃した厄介者”ではない。」

 

一瞬の沈黙。

 

次の瞬間、ジュドーが声を上げた。

 

「えっ、マジで!?」

 

「……正式、に?」

 

カミーユの拳は、まだわずかに震えている。

 

クワトロは、殴られた頬を気にする様子もなく、穏やかに言った。

 

「そうだ。近々発足するクランバトルのジュニア部門の選手として正式にエントリーされた。だから――」

視線をまっすぐ向ける。

「もう少し、殴る前に話を聞く癖をつけるのだな!」

 

カミーユは唇を噛みしめ、深く頭を下げた。

「……すみません」

 

「まあ、いい」

クワトロは短く答えた。

「若さは、時に武器になる。

だが、制御できなければ――味方を殴る」

 

ヤザンがニヤリと笑う。

 

「まあ、今日はいいウォーミングアップだ。

味方のフリして近づいてくる敵もいるからな。経験値としては貴重なもんだ。」

 

「状況はどうなってるのさ。」

ジュドーはそう尋ねた。むろん、処世術に長けた彼は、クランがやばそうなら、リイナや仲間たちを連れてアーガマをトンズラすることも選択肢に入れている。

 

「悪くはない。ざっと40機前後のモビルスーツに損傷を与えている。こちらの被害者はリック・グフとドムの二機のみだ。どちらもパイロットは救出できている。」

クワトロは正直に答えた。

「だが、押されている、と言えばそうだ。

数に押されている。

なので、悪いがカミーユとジュドーにも力を借りたい。」

 

うん。

ならこっちの腕を高く売り込むチャンスだな!

ジュドーは心の中でガッツポーズを作った。

 

「さっそくだが、アーガマ前方に偵察用ドローンを撒くための準備を手伝ってくれ。

カミーユはマークⅡ、ジュドーはZガンダムで頼む。」

 

 

 

 

 




登場人物は出ろ揃ったかな。
そろそろ決戦の幕開け。
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