第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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それは、勝利のための作戦だった。
合理的で、効率的で、そして――人間的ではなかった。
誰かが引き金を引かなくても、
命は計算の中で切り捨てられていく。
一方で、奪われたはずの意志は、
密やかに、だが確かに、牙を研いでいた。
ペズン。
裏切りと狂気と選択が交差するその場所で、
戦争はついに「始める理由」を失う。






劇場版 GQuuuuuuX第二部 回天の宇宙~エンドゲーム1

ブレイブ・コッド大尉の顔色が変わっている。

「月面のエアーズを制圧しろと!?」

 

「そうだ。もともとあそこはたいした軍備は、いや軍備というのもおこがましいな。

払い下げのザクを何機かもっているだけだ。

制圧はたやすいはずだ。」

バスク・オムはそう答えた。

 

「し、しかし、なんのために!」

 

「我々を裏切った。見せしめに……とは言わんが、多少は民間施設に被害を出しても構わんぞ。むしろ、そうするべきだ。」

 

ブレイブ・コッドはなにか逃げ場がないか、模索した。

無辜の市民に武器を向ける――軍人としてのキャリアと、培ってきた精神がそれを、真っ向から否定する。

 

「トロイホースが使えない現在、モビルスーツのみではエアーズはあまりにも遠すぎます!

大都市の制圧ともなれば、途中で武器弾薬の補充も必要になるでしょう。なによりも推進剤です。行きは増設タンクでなんとかするとしても、制圧が完了しても戻ってくる燃料がありません。」

 

「見事な分析だ、ブレイブ・コッド大尉。」

バスクの唇が楽しそうに、本当に楽しそうに、笑みの形につり上がった。

「貴官と意見が一致するとは誇りに感じるよ。

――わかった。ガスを使おう。」

 

「が、ガス……ですと?」

 

「そうだ。エアーズはコロニーとは違っていくつもの区画に分かれているから全滅はせんだろう。

最小限のコストで最小の犠牲で済む。ガスをばらまけ。」

「そ、それは!!」

 

それは、ジオン公国が行った作戦のなかでも今日もなお、最悪の評価をされるものだった。

――コロニー落としよりも、だ。

 

コロニー落としはまだ、圧倒的に物量で勝る地球軍に対する唯一の対抗策として、あるいはギレンがその演説でのべたように「地表にしがみつく愚かな者への裁きの鉄槌」というとなんとなく、弾圧されてきたスペースノイドには喝采をもって迎えるものがいなくもないのだ。

だがコロニーへの毒ガスは。

 

同じスペースノイドに対して行われたものだ。

 

しかも彼らは「敵」ですらなかった。

連邦より、あるいは単に日和見を決め込んでいただけ、いやもっといえば、どうすればいいのか判断に困っていただけの人々だった。

ジオンの勝利後も、ギレンが軍備の拡張を続けなければならなかったのはこの理由だった。

 

各サイドは、ジオンを覇権国家として認めながらも、その勢力下に治まることを必ずしも是としなかったのである。

 

「きみが指揮をとる必要はないぞ。コッド大尉。」

バスク・オムはコッドの肩を親しげに叩いた。

「ジョッシュ・オフショー少尉が適任だろう。なにしろやつらの捕虜になっていたのだ。どこかで汚名返上の機会を与えてやらんとな。」

 

「バスク少佐、あなたは……」

 

「案ずるな、コッド君。」

総司令官席のジャミトフが、宥めるように声をかえた。

「これは陽動だ。実際には毒ガスは使わん。

だが、それらしい装備のモビルスーツ隊がエアーズを目指せば、やつらはそれに戦力をさかないわけにはいかなくなる。

そして、航続距離の長さからみて、やつらの中核となる可変機をそれに当てることになるだろう。

つまり、我々がやつらを強襲した際には、可変機なしの通常のモビルスーツのみで対処せざるを得ないわけだ。」

 

「可変機以外のパイロットも尋常の腕前ではありません、ジャミトフ閣下。」

 

「そうだな。確かに思ったよりも練度は高い。だが、我々にはきみがいる。インコム装備のマークⅤがある。ゼク・ツヴァイも健在だし、ゼク・アインも34機、出撃可能だ。

さらに軽キャノン改とザクも、エアーズに派遣する部隊を除いても20機は用意出来る。」

 

「全軍をだしてしまうのですか?」

コッドは、ゆっくりと言った。

「ペズンの防衛はどうします?」

 

「ヤツらに陸戦隊はおらん。外側からの攻撃では、厚い岩盤に守られたペズンを攻略することは出来ない。」

 

「これは――我々にとっても乾坤一擲の作戦となります。

せめて。提督が意識を取り戻されてからにされては?」

 

「戦いには“機”というものがあるのだよ、大尉。」

バスクが偉そうに言った。

「これまで、損害らしい損害が出ていなかったクランにも、ついに撃墜される機体が出た。

それだけでやつらは動揺しているはずだ。

そして、補給もパイロットたちの体力も限界に近づいている。

チャンスはいましかない!」

 

 

------------

 

 

「具合はどうかな、エイノー提督?」

 

エイノーは2時間ばかり前に、意識を取り戻したばかりだ。

まあ、それ自体はカーラが処方した麻酔の効果であって、ゼロやエイノー自身にとっても予定の行動だった。

 

「実によくない。」

そう言いながら、額を触ろうとした自分の腕が金属の篭手に覆われているのをみて、ギョッとしたように、口ごもった。

「……これが、リユース・P・サイコデバイスか。」

 

「まあ、そんなものだよ。」

うれしそうにゼロは言った。

「ジャミトフとバスクは、もうじき、クランの船に総攻撃を始めるぞ?」

 

エイノーはなんとか、ベッドから体を起こそうと試みた――そして、なんの抵抗もなくそれは成功した。

 

「な、なんだ、これは?」

エイノーはつぶやいた。

「動かすのにリハビリが必要だという話ではなかったのか?」

 

「あんたはあたらしい手袋とブーツを試すことを“リハビリ”というのかい?」

ゼロはクスクスと笑った。

 

「これは神経系にダイレクトに繋がったデバイスで、対応するデバイスを積んたモビルスーツを自分の手足のように動かせる――」

 

「なんだね、それは!

なんかの二次創作の世界かい?」

ゼロは、楽しそうにエイノーの肩を叩いた。

「今度ゆっくり聞かせてくれるかな?」

 

「……おまえたちはなにを企んでいる?」

 

「すでに陽動のための別部隊がエアーズに出発している。

もうじき、本隊も出撃するだろう。

ここに残るのは、もともとペズンにいた技術者や研究者、それにジャミトフの側近と護衛兵のみだ。」

ゼロは、ガッとエイノーの肩を掴んだ。

「やっちまおうぜ、提督!

やつらをぶっ飛ばして、ペズンを取り戻すんだ!」

 

「い、いや待て。待ってくれ。

リユース・P・デバイスはどうなったんだ?」

 

「そんなものは、ない!!!」

声高らかに、ゼロは宣言した。

「カーラがペズンに潜り込み、わたしを呼びつけるためのウソだ。」

 

「し、しかし。そ、そうか。

だが、それにしてもきみとわしで、ジャミトフの護衛兵やティターンズのスタッフを制圧できるわけがなかろう。

そもそも、ジャミトフたち以外は何だかんだと理由をつけられて、武器の携帯も許されてないんだぞ?」

 

「武器がない?」

呆れたようにゼロが言った。

「あんたの両手両脚についてるのはいったいなんだ?」

 

百戦錬磨のエイノー提督の頭脳をもってしても完全にあさっての方角に事態は進展している。

 

「本隊がクランのモビルスーツと交戦に入り次第ことを起こすぞ。

その間にすこし、レクチャーをしておこう。まず、ガントレットから発射されるリパルサーレイだが……」

 

「ちょっと、待ってくれ! それは……」

 

「なんだ? アーマーとマスクがないのが不満かね。残念ながら今回は、ガントレットとブーツで我慢してくれ。

それとも、緑色の巨人が好みかね?

実は強化手術は大得意でね!

こんど試させてもらえると有難いね。」

 

 

 

 




「大佐……」
「わたしの、ことはキャップと呼んでくれたまえ。」
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