崩れ去る思惑。
その裏で、命令に疑問を抱く者、沈黙のまま牙を研ぐ者、そして「返せない一線」を越えた者たちが動き出す。
ニューディサイズのモビルスーツは、ゆっくりと移動している。
たしかに巨大なボンベを曳航していては、それほど加速をかけるわけにもいかないのだろう。
飛行形態をとったZガンダムと百式ならば、楽に追いつける。
「待て待て! 待ってって!!
クワトロさん。本気で20対2でやり合うつもりなのかい?」
ジュドーは、こういったところはシビアだ。
仲間を、特に妹のリイナを守るためなら、平気で命を投げ出す一面もあるが、「大義」やら「理想」のために危険を被るのはまっぴらだった。
「その通り。
戦闘時間は 10分だ。
それだけでケリをつけて離脱、ただちにアーガマに帰還する。」
「出来るわけないだろっ!」
ジュドーは叫んだ。
たしかに時間をかければいいと言うものでもない。
少数の彼らが、旧式とはいえ、圧倒的多数の敵を相手にするには、可変機ならではの高機動を活かした奇襲に近い戦法だということは喧嘩慣れしてるジュドーには理解できる。
だが、それは堕とせても3~4機だ。エアーズへの進行は止まらず、たぶん「エアーズを救う」という目的からはなんの意味もない。
クワトロは静かに言った。
「いいか、ジュドー。モビルスーツには目もくれるな。狙うのはガスボンベだけだ。
動きも鈍く装甲もない。ガスボンベだけを全て破壊しろ。」
理解とともに徐々にジュドーの口元に、笑みが浮かんだ。
「それなら……やれる!
けど、ヤツらはたぶん、ガスボンベをぶっ壊しても進むのをやめないぜ。モビルスーツ部隊そのものはどうするんだ?」
「エアーズの防衛はペズン攻略とはまったく違う案件だ。
ドレンがバカでなければ、ジオンの正規軍が動く。グラナダなら一定の駐留軍がいるはずだ。わたしが声をかけた先もあるしな。」
「よしっ!
なら、派手に行くかっ!」
ジュドーは、バーニヤを全開にした。
ガンダムらしいトリコロールカラーの機体と黄金の機体が宇宙を駆け抜ける。
「来た……!!」
クワトロとジュドーにとっての誤算は、この可変機による強襲が奇襲にならなかったことである。
隊を率いるジョッシュ・オフショー少尉は、作戦を正しく理解していた。
エアーズへの攻撃は陽動。あくまでクランの可変機をおびき出すための陽動だ。
(それにしてはボンベに搭載したガスは本物の致死性の高いものだったが)
彼らはここで、可変機を迎え撃つ。
落とせれば御の字だが、そこまで出来なくても、やつらを引きつけるだけでいい。
その間に、ペズンから発進したゼク・アインを主体とする本体がクランの艦隊を叩く。
「ニューディサイズ本部へ!」
ジョッシュ・オフショー少尉は叫んだ。
「やつらが引っかかりました。機数は……2!!
どちらも新型の可変機です!」
可変機は、たしか六機以上あったはずだから、予定よりも少ない。陽動の効果としては物足りないが、しかし、それならそれで、数に物を言わせて落としてしまう、という選択肢もある。
たしかに、クランのパイロットは凄腕揃いだったが、ソロモン落としに特攻した“赤い彗星”でもあるまいし、この戦力差はいかんともしがたいはずだ。
ここにおいて驚くべきことに、敵と味方の意志は完全に合致した。
ジョッシュは、毒ガスのボンベなど破棄したかった。ペズンを制圧することも作戦行動の一環だとしても、民間人を無差別大量殺戮が必至の毒ガス注入などはしたくなかった。
上手い具合に、クランのやつらがガスのポンべだけ破壊してくれないだろうか。
そんなジョッシュの期待通り。
「各員、M.A.V.を組んで散開!
一機ずつ、包み込むようにして追い込め!
ボンベを守るより、やつらを落とす方が先だ!!」
そして。
クワトロたちは、前述の通り、ボンベだけ破壊出来ればよかった。
「ええっ! ボンベを捨てて散開したぁ?」
なんでかわからない。
だが、目の前には、クワトロからこれさえ破壊すればいいと言われたガスボンベが浮いている。
1個1個はモビルスーツなみのサイズがえるだろう……大都市を死の都に変えるには十分な量だ。
体当たり――いや、接触寸前にZガンダムは人型へと変形。ビームサーベルが延びる。
次々とボンベを両断していく。
クワトロの百式は、飛行形態のままだ。
ビームの連射は、ひとつも外すことなく、ボンベを破壊する。
これが地上だったら、周りの環境破壊を心配しなければならないが、ここは宇宙だった。
ボンベの中身は虚しく霧散していく。
「全機、攻撃か……」
ジョッシュが言いかけたそのとき。
全てのボンベを破壊した2機は、彼らに目もくれず遁走に移った。
「あ……」
呆然とジョッシュはその後ろ姿を見守った。
ビームが追いかけるが、当たる様子もない。
ポンべが破壊されたあと。
自分たちに目もくれずに、クランの可変機が遁走するのは、予想外だったのだ。
ここまで、10分どころか2分かかっていない。
隊そのものも混乱している。
半数は、可変機を追いかけようとしていたが、とても追いつけるものではない。
ただでさえ、増設プロペラントタンクを背負った彼らの機体は動きが鈍いのだ。
「つ、追跡は中止! 中止だ!」
バラバラになりかけた隊をまとめるのに、ジョッシュは数十分を要した。
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ニューディサイズ。
司令室。
「ジョッシュ隊が、クランのモビルスーツと接触したようです。」
バスクがにんまりと笑った。
「釣れたのは可変機、2機のみです。少々獲物は少なかったですが、これならジョッシュ隊で落とせるでしょう。
残ったモビルスーツで、引き続きエアーズ制圧を続行します。」
「うむ。」
ジャミトフも満足そうだった。
「本隊を発進させる! 目標はソドン!
なにがなんでも落とせよ!!」
幸運というものがあるとしたら、このとき、彼らは既に使い果たしていたかもしれない。
本隊の発進と並行して、次のような会話も交わされたのだ。
「ジョッシュ少尉! 戦況を報告せよ!
クランの可変機は落とせたのか?」
「い、いえ、逃げられました……」
「こちらの損害は? 落とされたモビルスーツはあるか?」
「いえ、モビルスーツの被害は皆無ですが、しかし……」
「やつらを落とせなかったのは仕方ない。ならばおまえらたちはそのまま、エアーズに進行し、これを制圧せよ。」
「は、はい、しかし……」
使えん男だ、とバスクは罵って通信を切った。
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ペズンの旧倉庫区画の休憩室。
カーラは、目の前の銃口を呆然と見つめていた。
いや武器はバスクたちに取り上げられているから、正確には銃口ではない。
溶接用のレーザーやらリベットの打ち込み機やらを魔改造した武器っぽい工具だ。
もとからペズンにいたジオン出身の技術者、研究員はほとんど全員顔を揃えている。
「悪いがカーラ。ちいっと、自分の部屋にこもって、目と耳を塞いどいてくれるか?」
「な、なにをするつもりなんです?」
「まあ、わしらのモビルスーツを使ってくれるのはありがたいから、協力しとったんじゃが」
古株の技術者は大髭面で、宇宙世紀のメカニックというよりもファンタジー世界のドワーフを思わせる。
「たが、あとから来たあのジャミトフってのはなんだ!?
わしら以外のモビルスーツを、あんな駄作を大量にもってこさせたあげく、今度は月面に毒ガス攻撃だと!」
「ま、まさか! 反乱でも起こすつもりですか!?」
「反乱じゃねえわ。ペズンを返して貰うだけだ。」
「無理ですよ。たしかにいまジャミトフたちの兵は少なくなってますが、出撃したモビルスーツ隊が帰ってきたら!」
「もうベスンには戻れねえなあ。」
ドワーフは嘯いた。
「こっちにもやつらをぶっ飛ばしてやれるモビルスーツはある。」
そこは普段はあまり使っていない旧倉庫の一角だ。
一応、与圧もされており、もともとペズンにいた技術者たちのたまり場になっている。
普段はカバーを被されたモビルスーツが、その全身を全容を露わにしている。
だが、ジオンのモビルスーツ開発者であるカーラからしても見たこともない機体ばかりだ。
「これって、まさか……」
「そうよ! もともとこいつが“ゲルググ”になる予定だったんだ!
“赤い彗星”が、ガンダムをかっぱらってくるまではな!
あっちこっち改良して、ガルバルディと名付けた、はっきり言おう!
ゲルググよりも高性能じゃ!
次世代機のコンペに出すつもりじゃったんだがムーバブルフレーム構造に対応していなかったんでな。まあ、おかげでゼク・アインという傑作機が誕生したわけだが。」
「こ、こっちの脚のないのは……」
「ギガンという。地球侵攻用の簡易モビルスーツじゃな。」
「ち、地上用……って脚は?」
「いまはブースターを付けてるが地上では車輪移動にする予定じゃった。」
「こっちのずんぐりしたズゴックは……」
「ガッシャじゃ。さすがカーラ。目が高い。クローアームに加え、ミサイルに質量弾も装備した。戦いがもう少し長引けばきっと戦場で大活躍できたはずじゃ。」
独立戦争が。
1年で終わってよかった。
と、カーラは思った。
「そ、そういうことなら、わたしも協力したいんだけど……」
ゼク・ツヴァイとガンダムマークⅤが、ソドンへ。
迎え撃つレイダー(またおまえが出るのか!)、ロゼスパークル、サイコガンダムR!