グラナダからの援軍は間に合うのか。
市長とエッシェンバッハはどう迎え撃つ。
一方、ソドンには不穏な空気が流れていた。
主にシャリア・ブルのせいで!!
全てが上手くいくことなどありえない。
とは言えこのときのソドンのブリッジの様子はどんなものなのだろう。
報告がひとつ入る度に、歓喜の声と悲痛な叫びが代わる代わる響き渡る。
「アーガマより、入電!」
弾むような声で、コモリが叫んだ。
「クワトロ大尉の百式とジュドー・アーシタのZETAが、ペズン攻撃隊の毒ガスボンベを全て破壊に成功したそうです。
アーガマまでは1時間もあれば、帰投できます。
これで!おそらく……ペズンからの本隊の迎撃に間に合います。」
「さすがは“赤い彗星”……いや、クワトロ大尉だ。」
ラシット艦長は慌てて言い直した。
「シャリア・ブル閣下?」
アルテイシアの顔色を見て、こっちに振ったな……と、思いながらシャリア・ブルはおだやかに頷いた。
「これで勝った……とは言えませんが、少なくとも万全の状態でニューディサイズの本隊を迎え撃つことが出来ます。
エアーズ市も通常兵器のモビルスーツ隊だけならば、グラナダからの援軍が間に合えば……」
メインモニターにドレン中佐の顔が映った。
顔色はよくない。
「アルテイシア陛下!……緊急のお知らせが……ああ、シャリア・ブル閣下もこちらでしたか。」
「ドレン司令。」
アルテイシアはゆっくりと立ち上がった。
「なにか、悪い知らせね?
どうしたの? まさかマ・クベ中将がグラナダ駐留軍の派遣を渋っているとか――」
「まさか! そんなことはありません!
しかし、起きていることはそれに近いのです!!」
「どういう意味なのか、説明をお願いするわ。」
柔和な口調だったが、ドレンは震え上がった。
「ただちに派遣できるのは、ゲルググが三機。ザクが一機のみなのです。」
「ドレン中佐。」
アルテイシアがなにか言う前に、シャリア・ブルが口を挟んだ。
「なぜそんなことがありうる?
グラナダは月面最大の都市で、ジオンにとっては最重要拠点だ。その十倍のモビルスーツでも動かせるはずだぞ!?」
「イオマグヌッソ事変以来……」
言いにくそうにドレンは言った。
「各拠点への兵器の補充はほとんど行われておりません。」
「しかし、あそこはキシリア様が拠点にしていた場所だ。近衛のギャンだけでも……」
言いかけて、シャリア・ブルは、刺すような視線に気がついた。
エグザベ中尉のものだった。
「シャリア・ブル。」
ゆっくりとエグザベ・オリベは言った。
「キシリア近衛隊のギャンなら、わたしの一機を除いて全滅です。
ギレン親衛隊のビグ・ザムと――あなたに落とされてしまいました。」
凄まじく気まずい空気がソドンのブリッジを満たした。
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月面都市エアーズ市長カイザー・パインフィールドの顔は蒼白を通り越していて、薄く茶がかっているように見える。
「グラナダからの援軍が、モビルスーツ四機のみだと!?」
指輪をいくつも嵌めた拳が、デスクを叩いた。
「クランからの援軍はないのか!
いや、アルテイシア陛下は、我々を見捨てたのかっ!!」
「だからと言って、またニューディサイズに尻尾を振るわけにもいきますまい。」
デスクの傍らに立つ美青年が、静かに言った。
「ニューディサイズに味方をすることがどんなに危険なことかは先日の一件でお分かりでしょう?
1度、クランにベットしたなら、それを続けるしかありません。」
「エッシェンバッハ閣下。」
カイザー・パインフィールドはすがりつくように、青年に訴えた。
「あなたの力でなんとか援軍を! ほかのジオンの拠点でもかまいません。」
「いまのわたしにそんな力はありません。」
ガルマ・エッシェンバッハは、首を振ったが、これは本当だった。
軍を、家を、離れてしまった彼には、少なくとも宇宙における影響力はほとんどないな等しい。
そして――グラナダ駐留するジオン軍がそこまでやせ細っていたことも把握していなかった。
「エアーズ市のザクはどうなのです?
さすがに実弾への換装は済ませているのでしょう?」
「稼働できるザクは六機です。」
汗を拭いながらパインフィールドは言った。
「武器はマシンガンとヒートホーク程度です。ビームガンを装備した軽キャノン改には分が悪すぎます。」
「それでもグラナダからの援軍と合わせれば10機。だいぶマシですよ。
……そうだ。先日アルテイシア陛下が鹵獲したハイザックがあるはずです。
あれならビームライフルを装備しています。
動かせる機体はないのですか?」
「保安隊から……一機だけなら動かせると。」
「それはいい!!」
ガルマは手を打った。
「これで、11機。ハイザックならば軽キャノン改にも性能面では劣らないはずです。
向こうは、遠距離を移動して来ている。ある程度粘れば勝機はみえてきます……」
「パイロットがおりません!!」
パインフィールドの声は悲鳴のようだった。
エアーズ保安部のザク6、グラナダからの援軍4、そしてハイザックが1。
11機。
数字としては、ようやく形になり始めた戦力。
だが――
操縦席が空では、ただの鉄屑だ。
「予備役は?」
「そもそも月面都市は独立国家ではないのです。軍隊そのものがありません。」
「クランからの志願者を募るわけにはいきませんか?」
「エアーズは、クラバについては取り締まりが厳しく…」
矢継ぎ早に飛ぶ問いかけは、すべて首を横に振る動きで返された。
「そもそも保安部そのものも、治安維持のための部隊なのです。
もし、モビルスーツの操縦ができるものがいたとしても実戦に出ようなどというものは……」
言葉が、途切れた。
エアーズ市は軍事都市ではない。
平時を前提にした自治都市だ。
モビルスーツは“治安維持”であって、
“戦力”ではなかった。
「……つまり」
カイザー・パインフィールドは、かすれた声で言った。
「機体は用意できても、動かせる者がおりません。」
なるほど。
ガルマ・エッシェンバッハは頷いた。
「――ならば、わたしが出ましょう。」
一瞬、理解が追いつかなかった。
「……は? エッシェンバッハ閣下?」
だが、ガルマは涼しげに笑った。
「これでも士官学校を出ていますからね。
首席は、親友に奪われましたが、かなり成績は良い方だったのですよ。
幸いにも教習過程にモビルスーツの操縦も含まれていましたし。」
「し、しかし、ハイザックは初めてなのでは?
それ以前に、もしあなたの身に万一のことがあれば……」
「わたしの友人は、初めて乗ったモビルスーツで、複数のモビルスーツを撃破しましたよ。まあ、彼ほどの才能は無いにせよ、そうみっともないことにはならないと思います。」
「しかし、閣下は――!」
「政治家としての一面ならば、ここでエアーズ市に恩義を押し付けるのも悪くない。」
ガルマは、静かに、しかしはっきりと言った。
彼は、市長の顔を見つめた。
「わたしは、ここにいる。逃げる理由はない」
カイザー・パインフィールドは、震える手で口を押さえた。
「ですが……」
「実を申し上げると、わたしの友人はいま、クランに参加していましてね。」
ガルマの唇に笑みが浮かぶ。
「彼なら、ニューディサイズがエアーズにちょっかいをかけるのを。
その際に応援すべきグラナダの戦力が枯渇していることを察知していて、なにか手を打ってくれているような気がするのですよ。
それがなにかまではわかりませんが。」
本家センチネルではたしか、エアーズ市には独自の軍があって、まだ未成年の学徒兵が悲惨な末路をとげたはず。