お食事のおかずに拙作をよろしくお願いいたします。
カミーユはザク改をドゥーの機体に近づけた。マシンガンはうち尽くしていたとしても近接武器はあるはずだ。
これまでのドゥーの戦いぶりからして危険極まりない行為だったが、ドゥーは素直に接近を許した。
「なんなんだよ、アレ。」
モビルスーツを実際に触れ合わせれば
、その操縦者同士だけのプライベートな会話が可能だ。
震える声でドゥーは言った。
「知らないよ…あんなの。キケロガだって瞬殺されるだろ。あれってニュータイプなのか?」
「ぼくも、よく知らないんだ。」
カミーユは正直に言った。
「つい先日会ったばかりなんだ。アムロさんは、ぼくが盛り場で絡まれてたのを助けてくれたんだよ。」
(ジェリドがきいたら「おまえがいきなり殴りかかって来たんだろうが!」とまた一悶着ありそうな発言ではあった。)
「クランバトルに…こんなすごいヤツがいたなんて」
ドゥーは小さな声で言った。
「ん、大丈夫か、ドゥー。」
「な、なにさ、いきなり!」
「いや、その」
カミーユはちらりと見ただけのドゥーの容姿を思い出していた。長く伸ばした髪を無造作にピンでとめている。男性か女性か判別に困る華奢な身体。
「体調不良で競技を棄権してたじゃないか。また気分でも悪くなったのかと。」
「ああ、そのことか。」
げんなりしたような声でドゥーは言った。
「ボクはあちこち弄ってあるからね。いまは製造元を離れてるからすこしくらい不具合がでるのはしょうがないんだよ。薬でもたせてるけど…」
「試合は中止しよう。すぐ病院へ…」
「意外に優しいんだね、カミーユ。」
またカミーユの目の前が光に覆われていく。
キラキラ光る空間だ。
シートもコンソールもそのなかに溶けていく。
キラキラのなかにカミーユはいた。
少し離れたところに、見覚えのある少女がいた。
「まあた、共振だ。ボクだれとも触れ合いたくないのに!」
顔をしかめたドゥーが吐き捨てるように言った。
「触れ合う…共振? 分からないけど具合がよくないんだろう。お医者さんに診てもらおうよ。」
「ああ、心臓――」
「心臓がよくないのか、ドゥー?」
「いやそうじゃなくて、」
ドゥーは寂しそうに笑った。
「ボクが心臓なんだよ。身体が爆散してるのに心臓だけが動いてるって。変だろ?」
「なにを、何を言ってるんだよ。」
カミーユは叫んだ。
「ぼくが見ているのはきみの心臓なのかい?
じゃあきみの身体ってなんなんだよ?」
「サイコガンダム。イズマコロ二―でキケロガに敗れた。」
そのテロの話はきいたことがあった。
人型に変形するモビルアーマーが現れ、イズマコロニーは大損害を被ったという。
犯人は不明だったが、連邦、とくにアースノイド至上主義者の集まりであるティターンズがその背後にいたという説もある。
鍵を握ると噂される女子高生は、行方不明になったままだ。
あのモビルアーマーのパイロットが。
このドゥーという少女だというのか。
「アレをみれてよかったのかもしれない。」
光条が宇宙を駆けていく。
クリスのモビルスーツもアムロのガンダムもどきも。
どちらも白を基調にカラーリングされていた。
どちらも手持ちの射撃武器は使い尽くしてしまっている。
加速性能、運動性はクリスの「ガンダム」が上回っている。
だがその攻撃を「ガンダムもどき」は最小の動作でかわしていくのだ。
クリスのビームサーベルは何度か、「ガンダムもどき」の持つ盾に深い溝を穿った。
なんどかは、ビームサーベルで斬り合ったが、クリスの攻撃は空を斬ることが多い。
“これがニュータイプか!”
クリスは心の中でつぶやいた。
かのソロモン落としのとき。
“赤い彗星”シャアと“灰色の亡霊”シャリア・ブルのM.A.V.は、ソロモンを守る連邦軍を文字通り蹴散らして見せたのだという。
片方だけがモビルスーツを持っていた独立戦争初期とはわけが違う。
連邦のワッケイン少将は、かなりの艦隊とモビルスーツを駆り出していた。
実際、この戦力をルナツーに貼り付けていればルナツーの防衛もあるいは史実とは別の流れがあったのではないかとのちに批判されることになったほどの規模だった。
それはほとんど、一機のモビルスーツと一機のモビルアーマーに粉砕された。
ニュータイプとは。
サイコミュとはこれほどのものなのか。
連邦が抵抗の意志をなくしたのは、あるいはルナツーの陥落でも、それと引き換えのグラナダ消滅の失敗でもなく、これを見たからかもしれなかった。
“でもアレックスもニュータイプ用のモビルスーツのはず!”
目の前が赤く染まる。
あまりのピーキーな操作性に彼女の神経がついていけなくなったのだ。
アレックスを実際に操作しての模擬戦やシミュレーター戦で、クリスは負けたことがなかった。
引き分けも一度だけである。
いまの夫である元ジオン軍人は、モビルスーツのパイロットだった。
彼が操縦するザクとのシミュレーターバトルは、戦場と仮定した地形をつかった巧妙なトラップや、彼の捨て身の戦法によって、双方とも大破の判定がでている。
このパイロットがホンモノのニュータイプならば。
もし、サイコミュを搭載したモビルスーツに乗せたらどんなことになるのだろう。
彼をこのまま、クランバトルとかいう怪しげな戦場においておくわけにはいかない。
アナハイムならどんな高給をつんででも彼をスカウトするはずだった。
反面、非人道的な人体改造も辞さないムラサメなどにはその身柄を自由にさせるわけにはいかない。
そのために。
つう。
と、鼻孔から血が滴った。
なんとしてでもここでこのガンダムもどきを倒す!!
クリスは実戦経験こそ乏しいが、テストパイロットとしてモビルスーツ同士の戦闘には長けている。
彼女は。
相手の弱点――癖を見出した。
クラバというあくまで「試合」であるモビルスーツ戦はメインカメラが備わっている頭部さえ破壊すれば勝利となる。逆にコクピットが設置されることが多い胸部や腹部は、狙いたがらないのだ。
つまり。
少々卑怯ではあるが、クリスは頭部への攻撃だけ警戒していればいい。
駈け違いざまに、ガンダムもどきがビームサーベルを振るう。
互いの体勢から、胴体の方が狙いやすかったはずだ。
だがその斬撃の軌道は不自然に歪み、アレックスの頭部を狙っていた。
それを弾き返し、もう片方のビームサーベルで。
防がれた!
だが、いままでより確実に深く踏み込めた。
アレックスのビームサーベルが「ガンダムもどき」の盾を真っ二つに両断する。
「ガンダムもどき」は盾を手放した。
あとは。
スキを待つ。
どんなパイロットでも。いやニュータイプであってもひとは無限に戦い続けることはできない。
だがそれまで。
わたしがもつか。
目の前を光がチラついたような気がした。
ザッ…
ザザッ……
雑音まじりの音がきこえる。
いや、声だ。
ひとの声だ。
「ドゥー!! 大丈夫か! ドゥー。」
それは――少年の声だ。
たぶんあのカミーユとかいう。
全弾をうちつくしたドゥーのハイザックとカミーユのザク改は仲良く、試合を見物していたのだが。
「ガンダムもどき」は一瞬そちらに気を取られていた。
クリスは最大加速で「ガンダムもどき」に迫った。
このスキを見逃したら。
あとがない。
弾切れのふりをしていた。
腕にマウントしたガトリングを最後に一斉射する。
盾を失った「ガンダムもどき」はそれを避けるしかなかった。
そこをアレックスのビームサーベルが襲う。
勝った!!
「ガンダムもどき」は回避しようとしない。いやできないのか。
その頭部へ。
元ガンダムの開発者テム・レイが手がけたという「ガンダムもどき」。
独特な複眼構造のセンサー。角のようにみえるアンテナ。それ以外はあまりガンダムには似ていない。
アレックスの斬撃が駆け抜けた。
やった!!
だが。
ガンダムもどきの頭部は、まだそこにあった。
なにが。
過度の昂りが吐き気となって、込み上げる。
なぜ。
メインモニターにふわり。
と、映ったのは。
ビームサーベルを握りしめたアレックスの腕だった。
それが二本。
ガンダムもどきは。
自分の頭部に斬撃が当たるより早く、アレックスの両腕をビームサーベルで両断していたのだ。
「し、しょうしゃ! カミーユ・ビダンチーム!!」
第15話「白い悪魔」はあとちょっとで終わる予定です。
とはいえ、カイのアムロへのインタビューとか、今後の「白い悪魔」をめぐってのポメラニアンズの暗躍とかでもちっと続きます。