パワーが、装甲が、武器が。
アムロを追い詰める。
その日の宇宙(そら)は、砕けた鏡のようだった。
残骸が、光を散らす。
その一つ一つを、アンは「景色」として見ていた。
なぜかアンはワクワクしていた。
これが終われば、あのイヤなティターンズたちとのお仕事も終わる。
それは確信だった。
「……いい日……」
ゼク・ツヴァイが、ゆっくりと姿勢を傾ける。
レーダーには映らぬ距離を保っているが、クランの艦隊は下方に展開している。
合図があれば、どの艦でもただちに撃沈できる。
アン・ムラサメはそういう位置をとっている。
「攻撃開始……目標……ソドン。」
信号が届いた。
頷いてアンは、ゼク・ツヴァイのバーニヤを全開にした。
艦を屠るのは「お仕事」だ。
でもアンは遊びたい。
「今日はね、遊ぶのにちょうどいい。」
推力、上昇。
重装甲の巨体が、ありえない加速で前に出る。
遊べるにしても艦を落としてからになるのだろう。
ここからの攻撃は、クランの艦隊からは捕捉できない。
ゼク・ツヴァイだけに可能な超高加速。
強化人間だけが耐えられるG。
「え!?」
アンの唇が釣り上がる。
「来る……わたしと遊んでくれるひとが?」
アンはビームスマートガンを持ち上げる。
接近するモビルスーツに向かって三連射!!
「かわしたの!?」
白いモビルスーツは流星のごとく、宙を翔けた。
ビームの火箭がそこから伸びる。
それは。
アンがゼク・ツヴァイを横滑りさせたその回避先を先読みするように。
サブアームが持ち上げた盾に当たり、火花を散らす。
最新のビームコーティングは、それを弾いた。
「あ、て、た?」
アンの頬が紅潮する。
「わたしに当てたの?」
砕けた鏡の破片が、二機の間を流れていく。
まるでこの日を祝福する紙吹雪みたいだ。
アンは、ゆっくりと息を吐いた。
「……すごい。」
ゼク・ツヴァイの各部スラスターが、微妙に姿勢を補正する。
その動きは、重装甲機のものではない。
まるで巨大な獣が、筋肉だけで宙を泳いでいるみたいだった。
「本気で遊ぶよ……」
名前は知らない。
知る必要もない。
「でもきみはいいひと。」
スマートガンを両手に構え直す。
「最高の友だち……」
引き金を、絞る。
「シンデレラのガラスの靴」
放たれたのは、ただのビームではなかった。
出力を極端に絞った、細く、長く伸びる光。
回避を誘うための、罠。
だが――
白い機体は、逃げなかった。
ほんのわずかに姿勢を傾け、最小限の機動でビームをいなす。
そのにわずかな時間差で2射めが。
それを白いモビルスーツのビームライフルが迎え撃った。
ビームとビームが空中でぶつかり、プラズマが火球を形成する。
「……わあ」
アンは、笑った。
「眠り妖精の森。」
ゼク・ツヴァイの腰部コンテナが開く。
微細な金属片とデブリが、広範囲に散布された。
視界。
センサー。
推進計算。
全部を狂わせる、宇宙の霧。
その中を、アンは突っ込む。
「わたしを見つけて?」
強化人間の超感覚は、霧の中でも相手を捉えている。
だが。霧の中。
白い機体が、消えた。
――いや。
いる。いるのだが、考えられないような機動で、こちらの感覚を狂わす。
アンは、笑ったまま首を傾げる。
「そこね。」
背後。
振り向きざまのビーム。
だがそれすら、読まれていた。
白い機体は、霧の“流れ”を利用して、横へ滑る。
滑りながらに距離を詰める。
ゼク・ツヴァイの両手のビームスマートガンが必殺のビームを叩き込む。
おそらく、相手のモビルスーツの性能そのものは一世代前のものだ。ビームの威力はゼク・ツヴァイが上だ。
速度も。
ゼク・ツヴァイがさらに加速する。
ふわり。
当たった!と思った瞬間、まるで揺れるようにビームをかわす。
そして、放ったビームが、ゼク・ツヴァイの肩の装甲を削った。
装甲もゼク・ツヴァイが上。
両者の距離は接近しすぎていた。
白いモビルスーツがビームサーベルを。
ゼク・ツヴァイの隠し腕がビームサーベルを。
同時に切り込んだ。
反発する刃。
パワーもゼク・ツヴァイが上。
「……っ!」
初めて。
アンの呼吸が、乱れた。
サーベルが閃く。
ゼク・ツヴァイの左サブアームが、斬り飛ばされた。
火花。
破片。
警告音。
それでもアンは――
笑った。
「いい。」
ゼク・ツヴァイが後退しながら、全スラスターを点火する。
「すごくいい」
ミサイルポッドからミサイルを発射。
直接、白いモビルスーツを狙ったものではない。
その周囲で炸裂してミサイルは、炎の廻廊を作り出す。
「輝く小路」
そうして作られた炎の廻廊をまっしぐらに、白いモビルスーツに突進する。
スマートガンを乱射。
廻廊で仕切られた空間には、かわすための場所はない。
ないのに。
それさえもこのモビルスーツはかわすのか!
両手を広げる。
「もっと遊ぼう」
コックピットの中で、アンは小さく呟いた。
「……まだ帰らないで」
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「ソドンが敵の重モビルスーツの攻撃を受けている!」
ラシット艦長の言葉は悲鳴に近い。
「ぺズン攻撃にでたガトー少佐のディープストライカーを戻させろ。
この前に遭遇したやつだ。アムロが抑えているがいつまでもつかわからん!」
ソドンのブリッジで、アルテイシアはただ前を見つめていた。
戦術モニターでは、白い機体と重装甲機の戦闘が高速演算で再現されている。
だが――
彼女は、それを「見ていなかった」。
感じていた。
胸の奥が、ひどく冷たい。
「……マチュ。」
マイクに呼びかける声は、ジオンの元首のそれではなく。
「……何者なんだ、この重モビルスーツは?」
ジークアスクのコクピットで、栄養ドリンクを飲んでいたマチュは一瞬答えが遅れた。
「ゼク・ツヴァイ。“死に戻り”から情報は来てるでしょ。ゼク・アインの後継機で変形機構はなしにして、高機動と重武装を両立されるコンセプトで作られた最新試作機。
パイロットはアン・ムラサメ。ムラサメ研究所の強化人間。こっちはエロセンセの情報。」
「“死に戻り”がダリルで、エロセンセがゼロ・ムラサメのことね。」
マチュは、返事をしなかった。
額に汗が滲んでいる。
目は、モニターではなく――
もっと遠くを見ていた。
「……あれ」
マチュが、やっと声を出す。
「もう人じゃないかも。」
アルテイシアが息を呑む。
「強いとか、上手いとかじゃない……」
マチュの指先が、震える。
「自分がなにをしてるのかわかってない。」
沈黙。
ブリッジの誰も、言葉を挟めない。
「……楽しんでる。遊んでる。」
マチュの声は、ほとんど囁きだった。
「戦ってるんじゃない。殺そうとしてるんじゃない。」
ズズッ。
ドリンクをすする音。
「……嬉しくってしょうがないんだ。」
アルテイシアの喉が鳴る。
その言葉は、彼女にも理解できた。
戦場には、何度も立った。
狂気も、絶望も、見た。
でも。
これは違う。
もっと、純粋で。
もっと、空虚で。
もっと、子供みたいに残酷だ。
「……止められるの?」
アルテイシアの問いに、マチュは、すぐ答えなかった。
目を閉じる。
遠くの光を、探す。
そして。
小さく、首を振った。
「……たぶん」
呼吸が浅くなる。
「わたしたちじゃ無理。止めるためには殺すしかないよ。」
アルテイシアの手が、コンソールの縁を強く握る。
「……それ以外の方法で誰が」
マチュは、ゆっくり目を開けた。
その瞳は、少しだけ震えていた。
「……天パなら。」
モニターの中で。
白い機体が、炎の廻廊の中を抜ける。
「……あの人なら」
言葉が、そこで止まる。
確信しているのに。
それを言葉にするのが、怖いみたいに。
「……届く。」
それだけ、言った。
アルテイシアは、モニターを見た。
白い機体。
その動きは――
戦っているようで。
守っているようでもあった。
「……そう」
国家元首は、静かに言った。
「なら……信じましょう。」
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ビームスマートガンをアムロは完全にはかわしきれなかった。
盾が砕けた。
左の膝から下を失った。
アムロのビームライフルは、ゼク・ツヴァイのビームスマートガンを持つ腕を吹き飛ばし、肩のラッチを抉りとった。
直撃は、アムロのほうが多い。
だが、武器の威力と最新の装甲がダメージを阻んでいる。
ガンダムの頭部バルカンが発射される。
ゼク・ツヴァイのミサイルが次々と爆発する。
その火炎の中に飛び込むようにして、アムロはビームサーベルを振るった。
ゼク・ツヴァイはかわそうとしたが図体がでかい分、避け損ねた。
背面に大きく張り出した補助スラスターやプロペラントタンクが両断され、ゼク・ツヴァイは爆発に包まれる。
“ やったか!?……いや違うか?”
ゼク・ツヴァイの隠し腕がビームスマートガンを発射した。
ガンダムの頭部が吹き飛ぶ。
「まだだ!……まだたかがメインカメラをやられただけだ!」
いよいよ、ぺズン編も大詰め!!