迎え撃つはZZ。
アナハイム驚異の科学力。
きみは刻の涙を見る。
ビグ・ザムは、独立戦争時、ソロモン防衛戦で初めて投入されたモビルアーマーである。
巨大な全長、多数のメガ粒子砲、そして中遠距離からのビーム攻撃を無効化するIフィールド。
ドズル・ザビ中将は、敗色濃厚となったソロモンから味方の兵を逃がすために、このモビルアーマーで自ら打って出た。
多数の不具合を重ねた、この零号機ともいえるビグ・ザムは稼働時間は30分に満たなかった、とされる。
そして、実際には、そこまでも持たなかった。
そのビーム砲の斉射で多数の連邦軍艦船、モビルスーツ群に大打撃を与えたものの質量兵器である「ハンマー」を装備した軽キャノンに堕とされることになる。
その後、ビグ・ザムは量産され、ジオン独立戦争の最終局面となったルナツー攻略戦に投入され、大きな戦果を上げることとなる。
ジオンの総帥であったギレンは、このモビルアーマーを気に入り、戦後さらに数機が建造され、親衛隊を中心に、配備される事になった……
アナハイムはその技術を盗み出し、あるいはその製造プロセスの一部を担当することにより、我がものとしたのだろう。
小回りのきくモビルスーツに接近戦を挑まれたときのための対空機銃の増設。
さきほど、脚部のクローが、分離し、独自の攻撃をしかけてきたということは、サイコミュも搭載している。
ならばパイロットは、ニュータイプ、または強化人間。
全体が淡いグレーに塗装されていた。
アムロは、落ち着いている。
技術的な怒りはいったんおさめて、相手に集中している。
“まず、Iフィールドの発生装置を叩く!”
実体武器は……
あった。
21連装ミサイル2基。
グレネードランチャー。
Wバルカン。
……ありすぎる。
なんにせよ、過剰に詰め込むのが、このZZというモビルスーツのコンセプトらしい。
ビグ・ザムが、ビームを。続けてミサイルを放った。
ビームの威力は凄まじいものがある。
戦艦の装甲でも貫くだろう。だが、射角は腕にもつビームライフルのように自在には行かない。
死角へと回り込みながら、アムロはミサイルを迎撃するために、自分のビームライフルを持ち上げた。
え?……
なんで砲身が二本?
発射されたビームは、アムロの知っているビームライフルのそれとは別物だった。
命中したミサイルはともかく、その周りのミサイルまでが掠めただけで、次々と誘爆を起こす。
オーバースペックすぎる……
クランバトルが基準にあるアムロはともかく、軍人としての経験のあるクワトロにもそう感じられた。
「アムロさん! 頭部のハイメガキャノンはとりあえずは使用禁止だから!」
ルー・ルカがコクピットに大気圏飛行用の翼とスラスターをつけただけの簡易戦闘機から叫んだ。
「それは特殊なウェイブを発する決戦兵器なんです。ZZの次元波動ジェネレーターが。余剰次元から重力を開放する際に発生するマイクロブラックホールのエネルギーを利用し、木星の浮遊大陸くらいは跡形もなく吹き飛ばします!」
「じ、冗談だろ!!」
「もちろん、冗談です。」
ファが叫ぶ。
「ホントは、ジオンが独立戦争時に計画していたコロニーを使ったレーザー砲の20%くらいの威力しかありません!
しかもそれだけのパワーで撃つとハイメガキャノンそのものが溶解します。」
たいした慰めにもならない。
ビグ・ザムのクローが迫る。
ZZのダブルビームライフルがそれを打ち砕く。
“このビグ・ザム、たしかに強化はされているけど”
ZZは、武器の威力が高すぎるが、重厚な外観に比べ、その動きは軽快そのものだ。
“ノイエ・ジールやデンドロビウムの方が、攻撃の多彩さでは上だ。”
モビルスーツ技術者であるアムロは、ビグ・ザムについてもまったく知らないわけでもない。
倒すには、接近してまずIフィールドジェネレーターをなんとかするのがセオリーだろう。
だが、この機体はアムロの知っているビグ・ザムとは設計が異なっているようだ。
目をこらしてもIフィールドジェネレーターがどこにあるのか、分からない。
これだけの巨体を覆うIフィールドだ。
設置する箇所は限られるはずなのに。
「……いや、違う。これは“隠している”……いや」
アムロは戦慄した。
「搭載しているIフィールドジェネレーターは一基ではないのか!」
アムロは、機体をさらに加速させた。
ビグ・ザムの周囲を、円を描くように回り込む。
巨大な質量。
巨大な推進剤タンク。
巨大な発熱量。
どこかに――必ず、弱点はある。
「……分散型のIフィールド?」
クワトロが、低く言った。
「当たりかもしれんな」
「Iフィールド発生器を――複数配置してる……!」
だから、見えない。
どこか一箇所を叩いても、止まらない。
そのとき。
ビグ・ザムの装甲が、スライドした。
脚部。
腹部。
肩部。
それぞれから、ミサイルが発射される。
ジュドーが。
クワトロが。
連射でそれを落としていく。
「行けっーーーっ!」
ビームが、空間を薙いだ。
だが、アムロはすでに動いていた。
ZZの加速は異様なほどだ。
「この加速……!」
推力制御が、思考と直結するように追従する。
重いはずの機体が――軽い。
「……サイコミュなのか?」
いやあれはニュータイプでないと効果を発揮しないはずだ。
この後に及んでも自分をニュータイプとは認めたがらない「白い悪魔」は、ビームの雨の中へ突っ込んだ。
無理だ!
アムロの神業でしかない回避力を知っているクワトロと、ジュドーも思わず青ざめた。
少なくとも一本のビームは。
間違いなくZZを貫くだろう。
アムロはダブルビームライフルを上げた。
迫るビームを。
ビームで相殺した。
起きるプラズマ爆発を貫いて、ZZは、ついにビグ・ザムに肉薄した。
その巨体に。
ビームサーベルを突き立て、そのまま、バーニヤを全開にした。
ZZの移動にそって、ビグ・ザムが切り裂かれる。
ある種の弱点となるIフィールドジェネレーターがどこにあるかはもはや関係なかった。
ビグ・ザムが。
沈む。
破損したプロペラントタンクが爆発する。
切り裂かれたメガ粒子砲が火花をあげる。
だが本体そのものは――爆散しない。
「……ここでもクランバトルのルールを通すか、アムロ。」
クワトロの声はどこか僻んでいるかのような響きがあった。 パイロットとして。ニュータイプとして、アムロが自分より優れていると。
認めなければいけないのだが、認めきれない。
そんな響きがどこかにあった。
その瞬間だった。
ビグ・ザム改の胸部ハッチが、内側から開いた。
「なに!?」
ジュドーが叫ぶ。
中から――
人影。
宇宙服姿のパイロットが、外部フレームにしがみつくように現れた。
片手には――マシンガン。
「おおおおおおおおおおおおッ!!」
通信回線を無視した、生の絶叫。
マシンガンが、火を噴いた。
宇宙空間に、意味のない弾丸の列が走る。
ZZの装甲に、当たる。
弾かれる。
意味はない。まったく意味はない。
それでも。
撃つ。
撃つ。
撃ち続ける。
「ふざけるな……!」
パイロットは叫ぶ。
「やらせはせん! やらせはせん。やらせはせんぞっ!
たかが、クランのモビルスーツごときに!
やらせはせん!
ドズル閣下のご無念! この俺のプライド!
やらせはせんぞ!」
マシンガンを撃ちながら、フレームを蹴る。
まるで。
機体そのものに、しがみつく亡霊のように。
「ビグ・ザムは……負けてない……!」
弾倉が、空になる。
それでも。
引き金を引き続ける。
カチ、カチ、カチ、と乾いた音だけが響く。
沈黙。
やがて。
パイロットの腕が、力を失う。
マシンガンが、手から離れた。
ゆっくりと。
宇宙の闇へ、流れていく。
「……くそ……」
かすれた声。
「こんな……時代に……」
宇宙服のバイザー越しに。
こちらを、見ていた。
憎悪でも。
狂気でもない。
ただ――
取り残された兵士の、目だった。
アムロは、引き金を引かなかった。
ある意味、アムロはピンチだったのかもしれない。
誰が見ても負けた相手が断固として敗北を認めないとは……
そのとき。
クワトロの百式が前に出た。
金色の輝きに、男の視線がそちらを向いた。
「シン・マツナガ大尉だな?」
「お、おまえは?」
「元連邦軍大尉で、クワトロ・バジーナという……」
「た、大佐でありましたか!」
ちょっと硬直した百式の後ろで、ZZの肩に、ZETAが手をかけた。
「なあ、アムロさん。アルテイシア様も大佐もこれってふざけてやってんのか?」
「……いや、本人たちはどうもマジメらしいんだ。」
これはダイクン家の血筋がそうさせるのだろうか。
「いや、そう言えば、大佐の恋人であるララァもへんな偽名を名乗っていたな。
ひょっとして、ニュータイプの間でそんなのが流行ってるのかな?」
「やめてくれ! ヤザンの兄貴から俺もニュータイプだって言われてんだよっ!」
そろそろ映画一本分に、なったかな……