第13話 鼓動   作:ATARU 2025

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このあとの展開は、ちょっと鬱なものになるかもしれません。
ぺズン動乱が、首謀者たちの逃亡という画竜点睛を欠くものになりましたが、まあ、ガンダムっぽくないかな。

一応「ぺズン編」はこれで終了です。サブタイトルの「それぞれの戦後」はぺズン蜂起のことでもあり、独立戦争からなにかを引きずってきたものたちにとっては、そこからの心の中でのケジメをつけるという意味でもあります。







劇場版 GQuuuuuuX第二部 回天の宇宙~それぞれの「戦後」1

「厄介だよ。実に厄介だ。」

 

眉間に皺がよっているからその言葉にウソはないのだろうが、基本的に普段から不機嫌な男は、いまさら不機嫌になってもまわりは特に気にしないものである。

 

ジオン公国軍の最高責任者マ・クベ中将はそんな男である。

 

シャリア・ブルも飄々と、頷いた。

 

「なんらかの動きがあることは、予想しておりましたが、このタイミングで姿を現すとは考えておりませんでした。」

 

2人がいるのは、ズムシテイのマ・クベの私邸だ。

マ・クベは、デスクのうえのパネルを操作した。

モニターに映し出されたのは、あの兜を被ったような新型モビルスーツ“マラサイ”だった。

 

「月面のアナハイムは、もはや地球の本社からもコントロールは効かぬらしい。まあ、情報のやりとりはあるので、こいつのデータを手に入れることはできたわけだが……」

 

「ムーバブルフレームは、マークⅡの技術を流用しておりますね。

よく出来たモビルスーツです。

これを連邦にもジオンにも隠したまま、作り上げていた……」

 

「実際のところ、アナハイムエレクトロニクスの経済力はひとつの国家並みだ。

しかし、国家ではないので、『外交』が出来ん。

この先、ヤツらはジャミトフやバスクたち元ティターンズをどうすると思う?」

 

「たぶん、答えはこうでしょう。

ぺズン蜂起の責任者は、エイノーであって、ジャミトフたちは騙され、あるいは脅されていやいや従っていただけだ。 このまま、連邦に渡してしまうと有無を言わせず死刑にされ、口封じをされる恐れがあるので、しばらくはアナハイムが預かることにする。」

 

「……わたしもそう考えている。」

マ・クベは、青磁の花生けを指で弾いた。

乾いた金属音が、美術館クラスの骨董で埋め尽くされた彼の執務室に響く。

 

「いまなら、連邦とジオンが総力を上げればアナハイムを潰すことは出来るだろう。だが、それはコロニー維持に必要な民生品の調達先を一挙に失うことを意味する。」

 

「……向こうの出方待ち、です。」

シャリア・ブルは、平然と言った。

「どのみち、全面的な軍事闘争は彼らも望まないでしょう。戦うものの厚みが違う。

とはいえ、“戦争”に代わる紛争解決手段として、我々は“クランバトル”を提示してしまっています。

クランバトルならば、参加資格は国家に限られない。」

 

「民間企業が、己の意志を通すためにクランバトルを使うということか。」

 

「各コロニーや月面都市も、です。」

 

ふむ。と、マ・クベは頷いた。

「とにかく一度、接触してみるか……」

 

「“外交”は出来ないと仰ったはずでは?」

 

「確かにな。だが“取引”ならば出来る。

“マラサイ”を公王直属軍のモビルスーツとして採用したいと打診をかけてみよう。」

 

マ・クベはもう一度、花生けを弾いて、厄介だな、と呟いた。

 

「それはともかく……だ。」

滅多に笑わぬ唇に浮かぶのは“苦笑”だろう。

「ぺズン蜂起をよくおさめてくれたな。」

 

「アンキーの手の内で踊らされただけですよ。クランのパイロットたちがよくやってくれました。」

 

「相手の要求するダンスが出来るのも大したものだ。

さて、おまえはどうする? 勲章でも欲しいか?

階級をあげてやってもいいが、この前、二階級特進をしたばかりだ。それにしょっちゅう、平気で軍籍を放り出すような輩をほいほいと昇進させる訳にもいかんのでな。」

 

マ・クベはパネルに触れた。

モニターにソドン型の強襲上陸艦が浮かぶ。

 

「新造艦だ。褒美として公王府直属艦隊に進呈しよう。おまえの艦にするするといい。

艦名はグレイファントムだ。」

 

艦名はなんとかならないかな、とシャリア・ブルは思ったが、ただ敬礼だけした。

 

 

---------------

 

 

珍しい集まりだった。

お互いに顔見知りではある。

あるのものはあるものの上官や部下であったこともあるし、クラスメイトだったものもいる。敵と味方で争ったものもいるし、親の敵や姉の敵であるものもいる。

 

「ラル大尉が」

と、主催となった青年はランバ・ラルを独立戦争当時の階級で呼んだ。

「ここに自分だけ招かれないのは、どういう訳だと、僻んでいたが、まあ、病院から抜け出すわけにもいかないだろう。

それぞれ、みなよく戦った。」

 

乾杯!

 

と、上げたグラスには泡立つ黄金色の酒がつがれていた。

 

各自、グラスを飲み干すと、皆の視線は、いちばん意心地が悪そうにしている男に集中した。

 

「うかない顔だな、マツナガ大尉。」

 

「いえ……その……しかし」

年齢はまわりのもの達と変わらないはずだが、顎髭のせいですこし老けて見える。

独立戦争中“白狼”の名で呼ばれた男は、目を伏せた。

「なんの集まりなのですか、これは?」

 

「細かいことは気にすんな!」

猛禽の目をした浅黒い肌の男が返した。

「クランバトルか終了したんで、ノーサイド、敵も味方もない。慰労会的なもんだ。」

 

「しかし……わたしは敗れて……」

 

「“白い悪魔”に落とされるなんざ、クランバトルの選手にとっちゃ、通過儀礼みたいなもんだ。」

ヤザン・ゲーブルの言葉に、何人かが苦笑いした。

 

「まあ、難しく考えるな。単純に打ち上げってやつだ。

それに会費は……」

ヤザン・ゲーブルが目配せした視線の先で、サングラスの青年が苦笑しながら頷いた。

 

「クラン持ちだ。」

 

おおっ!

と、一同がどよめいた。

そんな軽いノリとは無縁の面子ではあったが、とりあえず生き残った喜びがあり、また、ただ酒、ただ飯が嫌いなものはこの世にはいない。

 

場所は、グラナダでも最高級のホテルのパーティルーム。

立食パーティだが、出された酒と料理は最高級のものだ。

 

人の集まり具合は三々五々。

元連邦と元ジオンではやはり、話しにくいのだろう。

グループはいくつかに分かれた。

 

乾杯の音頭をとった貴公子然とした青年のもとにまっさきに擦り寄ったのは、さるコロニーの市長である。

名をマッシュという。

 

「エッシェンバッハ議員。」

グラスの縁を合わせて、にこやかに微笑む―――いや、マッシュはなかなかの凶相の持ち主ではあるから、彼にできる精一杯の「にこやか」さであるのだが。

視線は、ドローンのカメラに向いている。

 

選挙用のピーアール写真と言うわけだ。

ガルマ・エッシェンバッハは、ニューヤークの駆け出しの議員に過ぎないが名門エッシェンバッハ家の娘婿であり、本人もまた……

いや、彼の旧姓であるサイド3の名家の名前は、いまだに一部のジオン国民から熱烈に支持されているのだから、その評価は後世の歴史家に任せた方がよいかもしれない。

 

しかし、そのザビ家を、いち早く離れたことで、地上でも彼の人気は高まっている。

そして、見るべきものは見ている。

 

ギレンとキシリアが政争を続ける間は、一切、表舞台に経つことはなく、イオマグヌッソ事変で両者が共倒れの形で姿を消してから、ニューヤーク市議会選挙に打って出た。

―――当たり前のように当選である。

 

その政治的感覚も見事。

気の早いものは、すでに彼を将来、連邦政府を背負って立つ逸材とみなすものも少なくない。

そして、今回のエアーズ防衛戦である。

 

「たまたま」滞在していただけで、縁もないエアーズに対するテロ攻撃(途中、クランのモビルスーツ隊の攻撃で武装を失ったものの、エアーズ攻撃に毒ガスを使うように指示されたことは、その攻撃隊長であるジョッシュ・オフショー少尉が証言していた)に対し、立ち上がり、自らモビルスーツを操縦してこれを守り抜いた。

 

おまけに若くてハンサム。

 

これほど大衆受けする人材はない。

 

「マッシュ、そろそろいいかな?」

 

何度も写真を撮り、同じように集まってくる者たちの中心に収まるようにアングルを考慮しながら、記念写真に余念のなかったマッシュは、そう呼び掛けてきた相手を睨みつけ……ようとしてあわてて、笑顔をつくった。

 

「もちろんだ、です。ああ……シャア……大佐……」

「わたしはクワトロ・バジーナ大尉だよ、マッシュ。」

 

その名乗りになんの意味があるのかよく分からない。

が、ともかく、これからトントン拍子に出世するであろうガルマ・エッシェンバッハとの友好をアピールするための撮影には十分だ。

 

それではのちほど。

と、モゴモゴしながら、傍を離れるマッシュをサングラスの奥から、呆れたように見やったクワトロは、久しぶりに会う旧友にグラスを掲げた。

 

「さすがに人気があるな。」

そう言って笑ったクワトロだったが、ガルマは嫌な顔をした。

 

「笑うなよ…みなが見ている。」

 

「しかたあるまい。名門エッシェンバッハ家の跡取りで、エアーズを救った英雄だ。」

 

「そう言うきみはどうなのだ?

ソロモン落としから、イオマグヌッソ事変で、姉上のパープルウィドウを討つまでなにをしていた? そして、いまはクランバトルのオーナーだと?

なにを考えている。」

 

「ふむ……姉上のことはすまなかった。これ以上、宇宙を、人類をザビ家の内紛に付き合わせているわけにはいかなかったのでな。

ほっておけば、ひとは滅びる。

イオマグヌッソはまさにそういう兵器だった。

もし、これからのわたしになにか行動目標があるとすれば、それはニュータイプが戦争の道具にならない世をつくる。

それだけだな。」

 

「それは、わたしも賛成だ。」

ガルマは、グラスを飲み干すと、脇のテーブルから新しいグラスを手に取った。

「それでどうする? ネオ香港地区から議員にでも立候補するか?

なんなら、手伝えると思うが。」

 

「わたしは、無名の元連邦軍将校だ。

そんな大それたことは考えてないよ。」

 

考えていないものが、こんな大立ち回りをするか。

と、ガルマは思った。

彼にだって情報網はある。

現在の彼の立ち位置。

デラーズ紛争、そして今回のぺズン蜂起での活躍。

連邦軍の改革勢力であるエゥーゴに属し、周りには、優秀なニュータイプを多数集めている。

 

そしてなにより、ジオン公国の元首アルテイシア・ソム・ダイクンの実兄だ。

 

ひそかに始まっている将来の連邦指導者としてのガルマ・エッシェンバッハを押す勢力とは別に、クワトロ・バジーナ、いやキャスバル・レム・ダイクンを押すものもいるのだ。

 

「正直なところ、政治とは離れていろというのが、ジオン公国との約束でな。」

クワトロは正直に言った。

「わたしが政治的な指導者になると、ギレンでさえ、青ざめるような大粛清をはじめかねないと危惧するものが、いまのジオン中枢部に複数いるのだ。」

 

「アルテイシアがいるだろうに。」

 

「そうだな。いちばん危惧しているのが、アルテイシア自身と、あとはシャリア・ブルかな。」

 

「それはなかなかに人望がないのだな……」

ガルマは呆れた。

実の妹に、独立戦争中の腹心の部下である。

 

ガルマとクワトロが、士官学校の同級生であり、恩讐もふくめ、深い話もあるのだろうと察したのか、周りのものたちは少し遠巻きにしてくれていた。

 

「アナハイムはどうなっている? なにか情報はあるか?」

「わからん。ネオ香港の支配人ウォン・リーに連絡をとってみたが、アナハイムエレクトロニクスは基本的に現地法人を作っている。

報告会、連絡会のようなものはあるが、月面のアナハイム社に対して直接、何かを、命令したりすることは出来なさそうなのだ……」

「こちらも似たようなものだ。」

 

ガルマは顔をしかめた。

 

「エッシェンバッハ家の伝手を辿ってみたが、返答は“ペスン蜂起については独自に調査中。結果がでるまでは、ジャミトフたちはアナハイム月面工場に止めおく”という返事しかない。」

 

「もともとジャミトフとアナハイムが手を繋いでいた可能性は?」

 

「100%だ。というより、アナハイムがまったく関与していないことがらなど、少なくとも地球圏にはないな。」

 

「武器の供与、扇動は?」

 

「連邦軍にはもちろん、ジオンのゲルググも生産ラインの一部をアナハイムに依頼しているはずだ。アナハイムとはまったく関係のない兵器は存在せず、扇動というなら、新型機のコンペに参加するのも一種の扇動だろう。」

 

ふと、ガルマは気がついて尋ねた。

「ところで、結婚はしたのか?」

しばらく姿を隠していた理由がそんなことくらいしか思いつかなかったからだが、相手は首を横に振った。

 

「ふむ。わたしの嫁さんになろうという奇矯な女性はまだ現れないよ。

もし……と思う女性はいたが、どうも別に好いた男が出来たようだ。」

 

「それはまた……」

少なくともこんなことで弱みを見せたことのない友人の姿に驚きながら、ガルマは空になったグラスにかえて新しいものを、手渡した。

「きみが……なんというか、珍しいな。」

 

「まったくだ。

わたしのために世界すら歪めた相手から愛想をつかされたのだとしたら……」

渡されたグラスを飲み干して、クワトロは感慨深げに、グラスの底を見つめた。

「……なるほど。この世界を粛清したくもなるか。」

 

旧友の独白は部分的には理解できないところもあったが、ガルマは心底心配して次のグラスを差し出した。

 

「なんだ。具体的になにかあったわけではないのか?」

 

「ふむ……確かめる勇気がないのかもしれん。」

クワトロはグラスに口をつけた。

最高級の酒のはずだが、まったく美味くはなかった。

「実際のところ、ジオン・ズム・ダイクンの遺児だということに。

家と血にいちばん縛られていたのはわたしだったのかもしれん。

父の子ならば、もっとも優れたニュータイプであって当然という意識があった。

“彼女”が世界を改変してまで、わたしにとってよりよき道を選択しようとしたのも、わたしがジオンの長子だから、特別だと。

心のどこかで思い込んでいたのかもしれない。」

 

「そのライバルというのはどんな男だ?」

 

「まだ若いが、いい男だよ。どちらかというと大人しい、研究者や、技術者向きの男だ。

わたしも久々に友人と呼べる人物に出会った……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




物語的には、「あのお優しい姉上を」とガルマがクワトロを暗殺しようとしたりするのが、おいしいのかもしれませんが。
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