マチュのお父さんって、本編に出てきてましたっけ?
名前がわからないので、描写しにくいです。
驚いたことに入学願書は紙だった。
少なくとも、最後の部分は手書きでサインするようになっていた。
アムロは、目の前のがっしりした口ひげの男を見やった。
ランバ・ラルはニヤッと笑って、それに答えた。
「なにか、不安かな?」
「……」
「お主たちの活躍は、目の当たりにしている。それに対する対価として、ジオンはジオン工科大学への推薦と、在学中の学費、生活費を負担させてもらう。
そのあとの事はあとの事だ。
望めば、ジオン行政府や軍への入隊も可能だが、それは先の話し。
なにか条件をつけて、きみたちを縛ることはせんよ。」
ニューディサイズとの死闘で負傷したランバ・ラルはそのまま約1ヶ月の入院生活を余儀なくされた。
そして、そのまま、グラナダに居残り、アムロたちのジオン工科大学への進学の手続きを担当してくれている。
アーガマのメンバーはいったん解散だ。
カミーユ・ビダンは、ファ・ユイリイやルー・ルカとともにグリーンノアに戻ることになった。
なにしろ、紆余曲折あったとはいえ、まだ学校に通う年齢なのだから、それは正解なのだろう。
ジュドーは、これについてはいかなかった。
彼には妹を一流の学校で学ばせる、という目的があり、そのためには月面都市のほうがだいぶマシだった。
ジオンは、優れたニュータイプを囲い込むことについては、努力を惜しまず、結局はグラナダに居を構えることになったのだ。
ジュドーたちも学校に通うことになったが、リィナとは別の、もっと技術的なことを勉強させてくれる学校に通いつつ、ケリィ・レズナーの工房でジャンクを扱う商売を続ける。
経済的な支援はジオンから申し出があったが、それはそれとして、自分たちに稼ぎがない、ということは、ジュドーにとってはかなり、不安に感じることなのだ。
“よい仲間だったけど、いったん道は別れるのだな。”
一方なぜか別れぬものもいる。
アムロは入学願書に名前をかくと、隣の赤毛の少女を見やった。
彼女も自分の入学願書に署名済みだ。
―――アマテ・ユズリハ。
その署名をじっと見つめているアムロに、慌てたようにマチュはその部分を隠した。
「それが……本名?」
「そっ、そう。」
赤くなることはないのだが、なぜか焦るマチュである。
その隣でニャアンは淡々と署名を終えて、書類をランバ・ラルに差し出した。
「この戸籍とIDはキシリア様が用意したものだな?」
ニャアンの表情が強ばる。
「心配することはない。正規のIDだ。身分上はまだ、ジオン軍とフラナガンスクールに籍があるようだが、一時休学の扱いにしておく。」
ほっとしたようにニャアンは、マチュに身を寄せた。
難民としてなかなかに苦労の多い人生を歩んできたニャアンには、マチュの隣が一番、安心できる―――という事なのだろう。
「じゃあ」
「うむ。書類上の手続きはこれでいい。あとはこちらでやっておく。
入試は免除だが、基礎学力に足りない部分は入学してから補講をうけることになる。
マチュくんは、モビルスーツの開発コースではないんだな?」
「ああ。ええっと。まあ。」
マチュは口を濁した。
「操縦するのは嫌いじゃないけど、武器とか装甲材の研究はあんまり。」
「まあ、そこらも含めてきみたちは自由だ。」
書類を受け取って、ランバ・ラルは立ち上がった。
「入学手続きはこちらでとっておく。君たちの生活費はクワトロ殿に渡すので、彼から受け取って欲しい。」
負傷はたいぶ、大怪我だったはずだ。いくつかの臓器はまだクローン生成が間に合わず、機械式のものがはいっているはずだが顔色は悪くない。
「いろいろお世話になりました。」
「いや、こちらこそ、だな。
そうだ。近々アルテイシア様が地球に降りることになっている。
きみに会いたがっていたのでその節はよろしく頼む。」
よろしくされても困るのだが、断る事も出来ない。アムロは曖昧な微笑みで頷いた。
アムロたちは部屋を出た。
マチュが、彼の顔を見上げる。
なにか言いたいことがあるときの視線だった。
「あのさ」
「なに?」
「わたしの両親がグラナダに来てるんだよ。」
「ああ……そうなんだ。じゃあ一度ご挨拶したほうがいいかな。」
ほっと安心したように、マチュはため息をついた。
「じゃあさ。今日の夕ご飯。そのときに一緒に行ってくれる?」
そろそろと逃げだろうとしたニャアンの腕をがっちりとマチュがホールドしていた。
「ああ。わかった……でもユズリハってきいたことはあるぞ。
サイド6では名家だろう?」
「そんなんじゃなくてさ。」
マチュはけっこう真剣だ。
「いや、そんなのかもしれないけど、わたしにとってはただの親だよ。」
「まあ、それはそうだ。」
「わたしは、塾サボってクラバに出て、アンキーからお金をパクって逃げ出して、地球に降りて、それから会ってないんだよね。」
なにか、名門ユズリハ家も大変なことになっているようだ。
そこに付き合わされるのか。
アムロは暗澹たる気分だったが、ここまで巻き込まれたからには、断ることも難しそうだった。
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アムロが一応、ジャケットに身を包んで、待ち合わせの場所にいくと、マチュとニャアンはすでについていた。
ふたりともわりとラフな格好である。
いや、どこかの制服にもみえる。
学生は学生服が正装であり、格式のあるレストランもそれで通るところもあるが。
マチュからして見れば、両親と別れたときから時間は止まっているので、できるだけかわった自分を見せたくないのだ―――というよつな意味のことをマチュはたどたどしく説明した。
最後に「……ってガンダムが言っている。」と付け加えていたのでたぶん、自分でもやってることに確信はないのだ。
ニャアンは特に深く考えずに、マチュが制服だったので、自分も制服を着た、という流れのようだが、なんとなくコスプレ感が否めない。
レストランに着くとすぐに個室に通された、
ユズリハ夫妻は、すでに到着していた。
「やあ、ママ、パパ、ひさしぶり!」
物凄く引きつった笑顔で、マチュは言った。
感動の再会……
には、ならずそのまま、マチュは両親の向かいの席に腰をかけた。
沈黙。
アムロは慌てて言った。
「あ、は、初めまして。アムロ・レイっていいいます。お嬢さんと……」
いや、この挨拶は違う。
別に彼はマチュと付き合ってるわけではないのだ。
クランバトルにおけるM.A.V.ではあるのだが、そのことをサイド6の上流階級のものたちがどう感じるかは自信がなかった。
ならず者の集まりに、大事な娘を引きずり込んだ無法者―――そんなふうに見られるのは困る。
「テム・レイ博士のご子息ですね。アマテがお世話になっております。」
母親がそう言って、丁寧に頭を下げた。
ニャアンが、アムロをつついた。
自分の分の挨拶もやってくれ、ということらしい。
「こっちが、ニャアン。ジオンのフラナガンスクールの学生で、今度一緒に、ジオン工科大学へ入学することになりました―――その、アマテさんのルームメイト、です。」
「荷物を家で預かったままです。」
母親はそのニャアンを見てめながら言った。
「なかにはあなたの物もはいっているようですね。」
「あ、ああ。さすがにソドンやアルビオンに水着やウクレレはいらないかな、と思って……」
「どこで、なにをしていたのかは問わない。」
父親の方が言った。
まだ若いがなかなかハンサムだった。だぎその視線はなかなかに剣呑なものがあり、ニャアンは、マチュの後ろに隠れようとジタバタした。
「しかし、連絡くらいは欲しいものだな。」
「マチュ……アマテさんは、テロリストの疑いをかけられて、ジオン軍に匿って貰っていたんです。」
アムロは、話が拗れる前に説明できることは、説明しておこうと口を挟んだ。
ニャアンは、まったく頼りにならないし、マチュもまた「……と、ガンダムが言ってる」とか言い出したら、最悪なことになる。
「テロそのものは、今回、ぺズンで動乱を起こしたティターンズの手によるものです。
アマテさんはまったくの濡れぎぬで、指名手配されました。
ジオンが匿ったのは、たまたまイズマコロニーでシャリア・ブルと巡り会う機会があったのと、アマテさん自信が優秀なニュータイプだったからです。」
「ジオン独立戦争の英雄のひとり……灰色の幽霊、か。」
「いまでは、ジオン公王府直属艦隊の司令官で、准将をされてます。」
「きみは……」
「ぼくはいまはクランバトルに出場していますが、それは生活費のためです。
卒業したら、父の研究を手伝うために、グリーンノアにいくつもりです。」
ううむ。と、父が唸った。
父親は―――彼も外交官である。
サイド6で、ほそほぞとモビルスーツ開発をしながら暮らしていたアムロも名前はきいたことがあるほどの名家であり、さっきあわてて、ユズリハ家の情報を検索したら、しっかりとカムラン筆頭補佐官の派閥だと出てきた。
いまは官僚だが、もしカムランが今後、サイド6内でさらに出世するようなら、別の道もありえる…ようなことも書いてあった。
「アマテとは、そこのところはもう話をしているのだろうか?」
え?
と、アムロは隣のマチュを見た。
マチュはジト目でアムロを見上げている。
「……初めて聞いた、かも。」
「将来のことはきちんとお話ししないとダメよ。」
母親が言った。
「とくにどこに住むかなんてことは、最初からお互いにわかったつもりでいてもいざとなると揉めるから……」
やはり、勘違いをされているのか。
アムロから見れば、マチュはまだまだ子どもに見えるのだが、実際には年齢はそこもで離れていない。
少なくとも大学を卒業するくらいには、なんの問題もなくなっているだろう。
行方不明だった娘が、久しぶりの再会に男性を連れてきた。
なるほど、そう解釈されても仕方ない。
軽々しく「ご両親に挨拶を」などと言うべきではなかったか。
と、悔やんでもおそかった。
「わたしとアムロは、M.A.V.だよ。それ以上でもそれ以下でもない。」
M.A.Vは一般には、モビルスーツの戦術のひとつとして、二機一組で行動するペアを言う。
クランバトルでもチームを組んで戦う両機をM.A.V.という。
だが、わりと俗っぽく、行動をともにするペアという意味で使われるし……日系の多いイズマコロニーでは、間夫、という古語も、あるのだ。
クランバトルでのペアのことです―――と説明しようとしたアムロに、ニャアンが小さな声で言った。
「わたしもアムロさんとM.A.V.です。」
えええっ!?
目を見開くユズリハ夫妻に、追い打ちをかけるようにニャアンは言った。
「私とマチュもM.A.V.です。」
「き、きみは!」
父親は身を乗り出すように叫んだ。
「いったい誰をとるのかな?」
「難しいと思います。」
ニャアンは淡々と続けた。
「アムロは、ジオンのアルテイシア様からM.A.V.の申し込みを受けてますし……」
「アマテ! あなたはいったいどうするの!?」
うん、と胸をはって赤毛の少女は答えた。
そんなふうなマチュは、アムロにも眩しく、魅力的にうつるのではあるが……
「運命は私が、選ぶ。未来は自分で掴み取る……ってガンダムが言ってる。」
台無しである。
このあと、ニャアンがさらに「シュウちゃん」のことを話し始めたので、会席はカオスになります。