話の展開的に0083やセンチネルに舞台を借りましたが、さて、今回は―――
ジオン工科大学本校は、サイド3・ズムシティに設立された公立の最高学府である。
戦争以前より、コロニー建設技術、宇宙機械工学、推進機関研究において高い評価を受けてきた。戦時下においてはモビルスーツ工学、ミノフスキー粒子応用理論、宇宙航行制御学など軍事転用可能な分野の研究拠点ともなり、ジオン公国の技術的基盤を支えた機関の一つとされる。
本校の校舎群はズムシティ中心区の行政施設群に隣接し、白とグレーを基調とした機能的な外観を持つ。記念講堂にはデギン・ソド・ザビの肖像が掲げられていたが、独立戦争後、ギレンのそれに替えられ、イオマグヌッソ事変からは、ジオン・ズム・ダイクンのものとなっている。
入学式では必ず「宇宙に生きる民の自立」が語られるのはさすがに、ジオン公国の作った大学らしい。
技術系あらゆる分野で、最高学府との評価も高いが、入学がそんなに難しいかと言われると、そこまででも無い。
これは、在籍の学生数が恐ろしく多いからだ。
とくに、数年前に誕生したここ、ネオ香港分校においてはその傾向が著しい。
分校の創設者は、いまでは早くも忘れられたことになっているが、キシリア・ザビである。
このことをもって、少なくとも戦後しばらくの間においては、キシリアは地球を慰撫し、存続させ、アースノイドと共存の意志があったのだ。と、のちの歴史家はそう語る。
彼女がイオマグヌッソを建設し、ギレンを謀殺し、ア・バオア・クーを駐留艦隊もろとも消滅させようと決意したのは、あくまで、戦後の政争において、ギレンが父デギンを手にかけたのを知ったころからであり、それまではあくまでスペースノイド、それもジオン公国主導の形ではあるが、地上を復興させ、ジオンへの反発を和らげる宥和政策をとろうとしていたのだと。
これはもっともらしい説ではあるが、一方で、キシリアが、荒廃した地上に大学をたてたのは、アースノイドのなかから、ニュータイプ能力を持つものを選別したかったのだとも言われている。
まあ、実際にはいろいろな思惑が入り乱れていたのだろう。
実際問題として、学費はこの手の学校にしてはかなり安く、奨学金制度も充実している。
ジオンといえは、モビルスーツ。
ではあるが、実際には、純粋工学および宇宙環境学、コロニー社会設計系の学部の方が多い。
立地はネオ九龍地区から約十キロ離れた丘陵地帯。再開発された工業区画と隣接し、実験用ドック、重力可変試験棟、小型MS整備実習棟などが整然と並ぶ。
ほかに分校ならではの特徴を掲げるならば、「地球圏再建と人類と自然の共存技術」を重視している点だろう。
コロニーを落としておいてなにを、という向きもあるが、少なくとも建築様式ひとつとっても、本校に比べ開放的で、ガラスと緑地を多用した設計。これは地球環境との融和を示す象徴的意匠とされる。
出来て日が浅いこともあって、研究設備は最新鋭であり、まあ、これを言うのもなんであるが、少なくとも本校から転入したものを含め、卒業生たちはコロニー開発公社やアナハイムを始めとする大手企業から引く手あまたの状態であった。
「……というのが、ジオン工科大学ネオ香港分校のあらましです。」
アムロ、マチュ、ニャアンは、中途入学になるので、生活相談員とかカウンセラーとか、そういった立場の人間からレクチャーを受けている。
「今回、みなさんはジオン公国からの特別推薦で、入学されたわけですが、実は特別枠で入った学生はすくなくありません。
各企業や軍や研究所など特別推薦枠はいろいろあります。」
目の前の女性は20代後半くらいか。
長い髪をくるくると纏めている。
着ているものは、モスグリーンのカーディガンである。
「ここまでで、質問は?」
「はい」
とニャアンが手を上げた。ふつうに上げればいいのになんとなくマチュに隠れるように手を上げている。
「どうぞ。」
「罰則について教えてください。」
「罰則……」
カウンセラーは、眉をひそめた。
「ここは、たしかにジオンの学校ですが、法律はネオ香港のものが摘要されます。」
「食い逃げは、禁錮何年になりますか?
市民権は停止になりますか?」
「ならない……と思うわ。」
真面目なカウンセラーは戸惑ったように言った。
「でもそれは、そもそも食い逃げをしなければいいのでは?というのが答えだけど。」
「えーえっと、借りパクはどんな罪になりますか?」
「そこら辺は、学内にとくに限定されたものではないから。
えーと、それはお友だち同士のことになるのかな?」
「モビルスーツの借りパクとか?」
カウンセラーは頭を抱えた。
「3人ともネオ香港ははじめて?」
「いえ、まえに少し滞在してたことはあります。」
アムロが代表して答えた。
「じゃあ学校も通常の日常の延長よ。窃盗には通常に刑法が適用になります。
きくのなら、学校内でのルールとかを尋ねた方がいいんじゃなくて?
例えば遅刻とか、無断欠勤。」
「そ、それは死刑になりますか!?」
「まさか!」
マチュが口を挟んだ。さすがにニャアンのトンチンカンな質問に、痺れを切らしたと見える。
「精々、独房入りだよ。」
「な、何年くらい!?」
「あ、あの。」
軍艦ボケして、学生生活を忘れているマチュをほっておいて、アムロはカウンセラーに話しかけた。
「ここで特に注意する点などがあったら教えてください。それとぼくは、モビルスーツの設計を専攻したいのですが、おすすめのカリキュラムがあったら何パターンか提示して欲しいです。」
「アムロ……レイ君だったわね。」
カウンセラーはコンソールに白い指を走らせた。
「テム・レイ博士のご子息で自身も、一緒に開発に携わってきた……と。パイロットの経験は……クランバトル!?」
「はい。ほくらは三人ともクランバトルの選手なんです。学業に差し支えない範囲です、ときどきは試合に参加することもあるかと。」
「ふうん。」
カウンセラーの顔はあまり好意的では無かった。
「現役のクランバトルのパイロットは、たぶんはじめてよ。
学内で、クランバトルへの参加、クランバトルへの賭博行為を禁止する法律も校則もないわ。でも学友をみだりに賭博やクランに誘う行為は、詐欺罪に該当する懸念がある。」
「し、死刑ですか!? それともノーマルスーツなしでの宇宙遊泳刑ですか!」
「ニャアンはすこし黙ろっか?」
「……それさえ、注意してもらえば、個人のことに大学側から口を出すことはありません、
それと、コースによっては、大気圏外での実習もありますが、ノーマルスーツなし宙に出したりはしないわよ。」
「ノーマルスーツでの大気圏突入は!?」
ガクブルしているときのニャアンは、次からつぎへと悪い想像が湧いてくるようだった。
これでクラバともなれば、不意打ちもすれば、味方も盾にとる。
とんでもなくしぶとい戦士になるのだから不思議なものである。
「ないない。」
マチュがあわあわしかかっているニャアンの服のすそをひっぱって、座らせた。
「大気圏突入はちゃんとモビルスーツに載せてくれるよ。」
「そんな危険なカリキュラムはありません!」
あまり、有意義な時間とは言えなかったが、一通り必要なことは聞いた。
アムロは礼を言って立ち上がろうとしたが、最後に、と言って、カウンセラーはIDカードを取り出した。
「見えるところでなくてもよいけど、必ず携帯しておいて。それなしには、教室も学食も出入りできないわ。」
それは金属製のかなり存在感のあるカードで、顔写真と学籍番号らしき文字と数字がふってあった。
「あまりないけど提示を求められたら、素手でもって相手に提示して。」
「素手で持つ意味は?」
「本人が触ると淡く光るのよ。」
もう一つ、アムロが気になったのが、学籍番号以外にカードの左下に振られた3桁のアルファベットだった。
三人ともに違う。
「それはあなた方の“クラス”を現してるわ。」
「Sクラスとかそういう……?」
「残念だけど、ここは現代の学校で、ロールプレイングの冒険者ギルドじゃないのよ。
単純に“組”の意味よ。
まあ、いろんな連中が集まるのでね。
あまり、同郷とか、連邦、ジオンで固まらないように、いろんな行事とかには“組”ごとに参加してもらうわ。
もっとも専攻によってカリキュラムはバラバラだし、実際に一緒にいる時間なんて限られたものになるでしょうけど。」
カウンセラーは肩をすくめた。
「……まあ、新しい友だちもつくりましょうってことかしらね。」
なんか、楽しいキャンバスライフを書くのは苦手。
次回、アムロが突然、不良に絡まれたりしたら、舞台設定が「特攻の拓」になったと思ってください。