という声もあるでしょうが。まあ、いろんな連中がいます。
アムロたちは現役のクラバ選手だってバレてしまったので、それなりのクラスにされたみたいですね……
ここで言う「クラス」は、人数は15名前後。
工科大学そのものは、4年制にはなっているが、人類の半数近くを死に追いやった大戦争のあとである。
年齢は、10代半ばからアムロのクラスだと、二十代の青年までいた。
アムロの記憶では、ほぼ同年代の者が集まることが「クラス」なのであり、すこし違和感がある。
一応、とくに予定がなければ、朝と授業が一通り終わる時刻にホームルームという顔合わせの時間がある。
義務ではないが、どちらかは参加するように、とのことだったので、アムロマチュたちと昼食をすませて、すこし学校のなかを見学したあとで集合場所に向かったのである。
マチュたちのことは(とくにニャアンは)心配であったが、こればかりはどうにもならない。
「初めまして。アムロといいます。
モビルスーツの設計を専攻するつもりです。
いろいろ事情があって、入学が遅れましたがよろしくお願いします。」
いや、普通の挨拶のつもりだった。
たしかに学生というには、いささか、奇抜な格好のクラスメイトたちだった。
別に変に思わず、普通に挨拶してしまったのは、自分にも責任はあるのだろう、とアムロは思った。
非合法時代のクランバトルを体験していたアムロには、別に相手の顔が傷痕だらけだったり、蛍光色に髪を染めたり、タトゥーをいれたり、鎖をじゃらじゃらさせていても、特に変だと思わなかったのである。
「ああ? アムロだあ?」
ぬう。と立ち上がったのは、紫の髪を逆立てた巨漢だった。
素肌に直接作業着をひっかけている。
その上着がはち切れそうに筋肉が盛り上がっている。
そのぶっとい腕にハンマーまでぶら下げていた。
ふつうの生活をしているものなら、それだけでビビり散らかすところだが、アムロはなんとも思わなかった。
偏屈だが腕のいいメカニックにはこんなタイプも多いのだ。
「はい、よろしくお願いします。」
「俺たち“火蜥蜴”は、頭でっかちの理屈屋は要らねえんだ!」
男は吠えた。
「てめえはなにが出来るんだ?」
「ええ……父の工場を手伝ってたんで、設計図は見れますし、ひけます。
あと関節周りのメンテは一通り。
得意なのはバーニヤの調整ですかね。」
「お、おお、そうか。」
と、男はやや態度を改めた。
アムロについての予備知識はなさそうだったが、特別枠の新入生とのことで、コネ入学のおぼっちゃまを想定していたらしい。
ジロジロと値踏みするように睨まれたが工場を手伝っていて、入学が遅れたことは理解してくれたようで、まあ、座れ、と言ってくれた。
「いきなり、おどろかせちまったか。」
人相の悪さでは、最初の男とあまり変わらない。
一応、性別は女性のようだが、たっぷりと背丈のある女が豪快に笑った。
「この学校じゃあ、いろいろとクラス対抗のイベントをやっててね。まあ、うちの“火蜥蜴”は武闘派なんだ。近々、モビルスーツの模擬戦に参加する予定でね。
こんなときに右も左もわからない新入生の面倒なんて見てられねえって、まあ、ちっと気がたってたのさ!」
「模擬戦? 実際に戦うんですか?」
「シミュレーターの予定だが、決勝に残れるようだと、試作機を作る予算がおりるかもしれない。」
最初の男がうれしそうに言った。
「うまくすれば軌道上で、リアルに戦えるかもしれないんだぜ?」
それはすごい!
さんざん、モビルスーツ研究の予算を稼ぐために苦労していたアムロは素直にそう思った。
「ところで、お名前は?」
「本名はちゃんとあるが、俺のことは“軍曹”って呼んでくれ。
ふだんはどうでもいいが、ここに集まってる時の俺だちは」
火蜥蜴(サラマンダー)!
全員が一斉に叫んだ。
「ようし! 次のモビルスーツのコンテストで優勝するのは?」
火蜥蜴(サラマンダー)!!
「いちばん、抜け目なくて、キレッキレの武闘派集団は?」
火蜥蜴(サラマンダー)!!!
たぶん、15のころの自分だったから、充分引いたと思われるが、アムロもクラバの荒波に揉まれてきた。
ゴロツキに「見えるかどうか」は、些細な問題であって、そのひとの能力は別である。
そしてひとつのチームとして一体感をもち、目標に邁進させるには、これは陳腐だがアリな手段だった。
「わたしのことは、扈三娘と呼んで?」
女偉丈夫はそう言った。
ブロンドの髪に緑のメッシュ。
顔立ちは、東洋系には見えないが、おそらくは古代宋の伝奇のファンなのだろう。
「で、あんたさ。モビルスーツの操縦のほうはどうなのさ?
見たところ、軍隊の経験はなさそうだけど。」
「親父の工廠の研究費を稼ぐために、クランバトルに出てましたから。
まあ、それなりに。」
「こいつはいいや!」
“軍曹”が豪快に笑った。
「じゃあ、お前の呼び名は“白い悪魔”に決まりな!!」
「え、いや、それは……」
「いやいや。だって、父親の工場を手伝ってて、クランバトルにも出たことがあるんなら、まるっきりアムロ・レイじゃねえか!」
「はい、アムロ・レイですが。」
え?
は?
「いや。だから、その名前がアムロで、クランバトルに出てたらアムロ・レイと同じ経歴だよなって……」
「いえ、だからたぶん、そのアムロ・レイです。」
「は、馬鹿を言え!
アムロ・レイ……白い悪魔と言えば、無敗のスーパーエースだぞ。
なんでそいつが……」
「ネオ香港のクランオーナーのクワトロさんから、引き続きクランバトルに出場を依頼されてるんですよ。そうすると、場所的にはここが一番便利で、施設も研究も充実しているし、奨学金を出してくれるところもあって……」
「“扈三娘”!」
軍曹が叫んだ。
「シミュレーターを用意してもらってくれ!
おい、自称“白い悪魔”!
てめえの腕前をみせてもらうぜ!
つまらねえ冗談だったらただじゃおかねえ!! 」
アムロたちは、寮には入らずに、ネオ香港市内にコンドミニアムを借りている。
同じ棟内だが、部屋は別々だ。
一時間ばかり、シミュレーターに付き合ったので、けっこう疲労がたまっていた。
あの“軍曹”殿は、パイロットとしてもたいしたものだった。
年齢も二十代の半ばくらいにはなっているようだし、あるいは独立戦争の経験者かもしれない。
模擬戦のマシンには、最近ロールアウトしたばかりのハイザックまでシミュレートされていた。、アムロは比較的ガンダムにスベックの似たゲルググを選んだ。
一回目。地上戦。
開始と同時に、ビームライフルが、“軍曹”の選んだグフカスタムの頭部を撃ち抜いた。
二回戦。月面。
軍曹はハイザックできたが、撃ち込まれるビームをかわして、サーベルを一旋。
三回戦。宇宙。暗礁空域。
軍曹と扈三娘は、M.A.V.を組む。どちらも機種はゲルググだ。
コンビネーションはうまい。おそらく本当にM.AVを組んだことがあったのかもしれない。
前後から、アムロのゲルググを挟み込むようにして同時攻撃。
アムロは目の前の敵に、シールドを叩きつけると同時に、背後の敵の両腕を叩き切っていた。
だんだんとハンデはキツくなり。ついに6対1で挑んできた相手を一分で、戦闘不能にされたとき。
サラマンダーはやっと諦めてくれた。
アムロが、「あの」アムロ・レイなら、必ず彼らのクラスが優勝するだろう。
だが! 技術者としてどんなモビルスーツを作ればいいのかは別問題となる。
ようするに、どんなモビルスーツに乗ろうがアムロがパイロットでいる限り、必ず優勝してしまうだろう。
そうなれば、技術者としたの誇りはどこに吐き捨てればいいのか。
アムロ自身も技術屋であったから、その悩みはわからないでも無かった。
自分はともかく、クワトロやシャリア・ブルのような実戦経験も豊富なパイロットが出てきたら、それはモビルスーツの型式でそうやすやすと埋められるものではないだろう。
彼の部屋のドアの前にマチュが待っていた。
マチュは我が確かに強い。ひとの言うことを聞かないところもあるが、逆に周りを惹きつける魅力もある。
学生生活にいちばん適応できそうなのは実はアムロ自身よりもマチュではないかと思っていた。
その彼女があまりうかない顔をしている。
「相談。」
「うん。わかった。下のラウンジにででも行こうか。」
エレベーターに乗って、1階の共用スペースに腰を下ろす。
軽食と飲み物くらいは注文出来るので、アムロはサンドイッチとコーヒーを、マチュはパフェをたのんだ。
「進路のことなんだけど。」
「ああ。モビルスーツ関連じゃない勉強をしたいって言ったよね……」
「……変な目で見られるかもしれないけど研究したいのは、ゼクノヴァ。
だけど、それを今、言ってしまって良いか、の相談。」
アムロは彼自身の目でゼクノヴァを見ている。
デラーズ・フリートが用意したコロニーレーザー。
それを空間に空いた穴から出現したエネルギーがほぼ完全に相殺してのけた……。
そして、この現象は、歴史上、初めてではない。
グラナダを救ったソロモンショック。
そして、ア・バオア・クーを消滅させたイオマグヌッソ事件。
その発動の鍵となるのが、おそらく目の前にいる少女と彼女の愛機ジークアクスに搭載されたオメガサイコミュなのだ……。
マチュは、なにはともあれシュウちゃん探しに行くだろうって、まあ最終回でも宣言してましたし。