人知をこえた現象をコントロールしようとした装置「イオマグヌッソ」は、その暴走でジオン公国に大打撃を与えて機能を停止した。
いま、イオマグヌッソをめぐり、ふたたび闇は動き出す。
刻は流れるのか、巡るのか。
舞台はサイド3。ズムシティ。
アルテイシアは「公王」ではない。
公王制という制度は消滅させるつもりでいる。
とはいえ、アルテイシアは、ジオン立法府の議員でも高級官僚でもない。ましてや首相でもないわけで、そうするとなぜ、公王府に執務室を構えて、さまざまな書類を決済しているのか、わからなくなる。
ジオン公国という国家の「元首」である。
というのがその立場上の位置づけだが、目の前の書類に対して拒否権があるのかは、微妙な問題があった。
彼女がサインを拒めば、一切の審議は通らない。
これは独裁者となんら変わりはないことになる。
執務が一段落したあと、各界の著名人を呼んで一時間ばかりの雑談の時間がある。
アルテイシアにとっては楽しみな時間ではあるが、今日は少々毛色が違っていた。
現れたのは、ジオン工科大学の教授である。
研究の専門分野はゼクノヴァであり、先だってから、ソロモンショックやイオマグヌッソ事変についての政府のもつ資料をさかんに要求していた。
だが、面会の際して彼が提案したのは、そのことではなかった。
「……イオマグヌッソを再建する、ですって?」
アルテイシアは眉間に皺を寄せた。
「いまの人類に大量破壊兵器は必要ありません。」
「兵器は戦うばかりではありません。」
40絡みの男はせかせかと言った。
「戦いを起こさせないための抑止力にもなります。」
「だからと言って、運用自体が危険極まりないイオマグヌッソを―――」
「ああ、これはこれは。私としたことが言葉が足りませんでした。」
美しき国家元首に会見できたことで、彼なりに興奮しているようだった。
しかし、言葉が足りなすぎる。
ジオン工科大学の教授という事だったが、授業を受ける生徒が気の毒になるレベルである。
「そもそも、あれは兵器ではありません。
地球環境改善のために。そう仰ってキシリア様はあれを建設したはずです。
そしてその性能は、予想を超えたものでした。」
アルテイシアは報告を受けている。
一回目の作動でそれは、ア・バオア・クー要塞とその周りに展開したギレンの親衛隊の艦隊を、引き寄せ、さらに他の時空に放出してのけた。
そして、行われなかった二回目の作動ではその目標は、地球であった……と言われる。
「ひとはなぜ争うのでしょうか?」
教授は、独り言のように言った。
「分かり合えないから。と言うのが父ジオン・ズム・ダイクンの答えでしたわね。宇宙に適応した認識能力の拡大が、それを防ぐ、と。」
「限られたものを奪い合うからなのですよ、陛下。」
ぜったいに授業を受けたくない教授は勝手に続けた。
「今日の人類の問題もそれにつきます。人口増加による地球環境の汚染。宇宙に移住先を求めようにも、コロニーの建設には多大な資源が必要だ。
小惑星をいくつかひっぱって来たくらいではとても足りない。
コロニーに移住させられた人々の暮らしは改善されず、一方で地球に残れることが一瞬のステータスとなってしまっている。
事実だけを申し上げれば、ギレン総帥がコロニー落としを行うまで、まだ人類の大半は地球で暮らしていたのですよ。」
「戦争の原因についてなら、それはいろいろあります。民族、宗教。
あるいは武器を売りたかったから、立案した作戦を試したかったから。
歴史を紐解けば、さまざまな理由で人類は戦争をしてきました。」
アルテイシアは正直、この時点でこの男の長広舌にあきあきしていた。
「それと、イオマグヌッソの再建となんの関係があるのかは理解できません。」
「ア・バオア・クーとその駐留艦隊はいったんイオマグヌッソ宙域に引き寄せられました。」
教授は言った。
「そののち、消滅したわけですが、これは二つのプロセスが行われたと解釈できます。すなわち『引き寄せ』と『放逐』です。
最初のプロセスで、止めることが出来たとすれば……」
「大戦力をタイムラグなしで任意の場所に展開できる……と?」
「ああ、これだから為政者というものは!」
教授は天井を仰いで落胆した。
「アステロイドベルトには資源とした利用可能な小惑星がまだまだ無数にあります。」
「それは、わかってはいます。
ですが、工作チームを派遣して、核パルスエンジンを取り付け、地球圏に運ぶには膨大な時間がかかります。
実際に、それよりも遠い木星資源船団などはあれだけの年月をかけ……」
アルテイシアは黙った。
教授の言わんとしていることに気づいたからだ。
「そう。イオマグヌッソを使って、引き寄せてしまえばいい。
資源問題は解決する。
無制限な資源があるならば、あるいは火星のテラフォーミングも成功するかもしれない。
そして、送り出すほうは?
ア・バオア・クーは破壊されていずことも知れない場所に放逐されたようですが、移送先の座標を指定することは?
破壊無しで送り出すことは?
いずれも可能なはずです。」
「……言わんとすることはわかりました。」
アルテイシアは頷いた。
「でもイオマグヌッソについては、その設計から指揮にあたったレオニー博士も死亡している。研究チームごとね。」
「生き残りがいるとすれば?」
「あの大惨事のなかで!?」
「イオマグヌッソそのものは完全に破壊されたわけではありません。
そこにいたものと遺体を付き合わせると、脱出したものもいると考えられます。」
教授は身を乗り出した。
「レオニー博士の助手、シロウズ氏を、ジオンの力で探していただけないでしょうか!?」
その夜はパーティがあった。
ズムシティの商工会議所の何十周年だかを祝うパーティだ。
「ジオン公国誕生以前から、ズムシティがその名になるよりまえから、サイド3の発展に寄与いただいた商工会議所のみなさんへ。
ジオン公国は感謝の意を評し、今後ますますの発展を祈念いたします。」
アルテイシアは肩を大胆に露出したドレスを着用し、グラスを片手に壇上に立つ。
これも「仕事」と割り切るが、まったく楽しんではいない。
(ドレスの露出が多すぎたのか、このあとのネットニュースで、いよいよアルテイシア・ソム・ダイクンが婿探しに真剣に乗り出した、と書かれて、翌朝その記事を見たアルテイシアはひどく落ち込んだ)
このパーティそのものは、あまり面白いものではない。
商工会議所の中心メンバーたちは、アルテイシアへの挨拶を一通りすませると、それぞれが懇意にしている(あるいは懇意にしていると思っている)立法府議員のもとへ走り、それぞれ自分が有利になるような法律や条例の打ち合わせに余念がない。
お互いに忙しい護衛隊長や直属艦隊司令官と話すには、ちょうどいい機会だった。
「イオマグヌッソ……ですか。」
シャリア・ブルは首をふった。
「技術的には可能でも、まだ人類が手を出してはいけないもののような気がいたしますね。
大気圏内でしか生活ができないのに、核エネルギーを活用しようとした宇宙世紀以前の人類のように。」
「しかし、核の使い方は、その当時から変わらない。」
ランバ・ラルは、グラスを片手に上機嫌だった。
彼は、先だっての戦闘で負傷し、内蔵のいくつかを培養した新しいものに取り替えたのだが、それがなかなか調子がよいらしい。
「兵器として。あるいは動力源として。
制御の技術は進歩し、当時主流だった核分裂から核融合に変わったが、基本的には先達にならって我々は動いている。」
「出来れば手を触れないでおきたいというのが、私の感想です。」
シャリア・ブルは、言った。
自身もニュータイプでもある彼は、おそらくマチュたちを除けば、もっともイオマグヌッソの真相に近いところにいた人間かもしれない。
「あれは……世界を改変する力がある。人間が触れていいものではない。」
「ニュータイプのカン、ですか?」
「もっと実務経験に基づいたものです。
レオニー博士の助手であったシロウズを探すように、との事ですが我々は既にその人物の居場所を抑えております。」
「さすが、ね。ではさっそくコンタクトをとってみましょう。場合によっては、こちらで保護が必要かもしれないわ……」
「いまその人物は、ネオ香港クランバトル主催者クワトロ・バジーナと名乗っています。」
アルテイシアの顔が、一瞬、ひきつった。
「どうやらシロウズは偽名だったようですね。」
そう言えば、アムロは現在、機体なし、です。ZZはアーガマ管理です。マチュのジークアクスもソドンに取り上げられてます。
ニャアンのゾックだけは、一応ポメラニアンズの機体なので、ネオ香港旧港湾部の倉庫にいます。
ひとりでなんか踊ってるかもしれません。