ゾックが退屈しすぎて踊っております。
というか、ジフレドのカッパサイコミュを搭載されたゾックは、ニャアンが危なくなれば勝手に駆けつけるくらいはします。
マチュとの話は深夜まで及んだ。
ゼクノヴァ。
そして、イオマグヌッソ事変。
もっとも最初に確認されたソロモンショックを除けば、マチュはそのすべての現場に居合わせ、なんだったら当事者でもあった。
マチュの話はわかりやすくはない。
「……ガンダムが言っている。」
と言うセリフをアムロは、十回以上きいた。
アムロは理系ではあるが、その知識も関心も実用的な技術に傾いている。
だが。
ゼクノヴァが、空間を、いや「世界」を飛び越える転現象であることは間違いなさそうだった。
その引き金となるのは、これもほかの時空から流れ着いた特別なサイコミュとニュータイプ。
イオマグヌッソはその増幅装置なのだろう。
ララァから「夢」の話もきいていたアムロは「特別な」サイコミュがなんなのかもほぼ理解した。
異世界のニュータイプ。その疑似人格を取り込んだサイコミュが、アルファ、カッパ、オメガと呼ばれた。
アルファは赤いガンダムとともに失われ、その疑似人格のもとになった少女「シャロンの薔薇」は、別世界へと送り返された。
カッパはジフレドとともに失われた―――はずだが、これについては、アムロは後日、アンキーに問いただすつもりでいた。
そして、オメガサイコミュはジークアクスにある。
ここから先はアムロ自身、信じたくなかったが、オメガサイコミュに宿る人格と彼は、話をしている。
知らないような、よく知っているような。
それはアムロ自身だった……
別の世界で非業の死をとげた彼自身の。
まだまだわからないことだらけだ。
ララァが改変し続けた「夢」の世界は並行して存在し続けているのだろうか。
ララァは、アムロのビームサーベルが「大佐」を殺した。
それが「はじまり」だったと言っていたがはたしてそれは正しいのか。
そして、おそらくは分裂した世界をまたがって移動し続けるシュウジ・イトウとは何者なのか。
ゼクノヴァについては、いくつか研究室が立ち上がっている。そこにはいるには、担当教授のゼミに入っておくのがいいらしい。
だが反面、ゼクノヴァ、とくにイオマグヌッソについては、現場の動画も含めて、ジオンが秘匿している部分もあるので、研究はあまり進んでいないようだ。
いまの段階では、ゼクノヴァについはあまり興味のある様子は見せない方がいい。
というのが、アムロとマチュが出した結論だった。
とくにマチュ自身がゼクノヴァ発動の鍵となるようなら、よけいなトラブルに巻き込まれる心配がある。
「それって、わたしが……いなくなるとちょっといやだから?」
マチュは移動方法が確立出来ればシュウジ・イトウを追いかける気なのだ。
「心配じゃないか。
ゼクノヴァによる移動が安全なものかわからないんだし、行った世界で何が起きているのがわからない。」
「危険だから?」
「そうだよ。ララァの夢は自分の生きてるあいだだけしか、見ることが出来ないけど、コロニー落としと核攻撃の応酬で、人類が滅んでしまった世界もあるかもしれない。」
「危険だからか……それだけかあ。」
マチュはジト目でアムロを見上げた。
そこからは、たがいに「クラス」で体験した四方山話になった。
案の定。
現役のクランバトル選手、ということで、アムロ、マチュ、ニャアンは三人とも、かなり荒くれたところに回されたらしかった。
アムロが「白い悪魔」だとバレた話しに、マチュは机を叩いてよろこんだ。
「いや……これは学校に頼んでクランバトルの選手は、そのクラス対抗のモビルスーツバトルに参加出来ないようにしてもらおうかと思うんだ。
いくらなんでもフェアじゃないからね。」
マチュは少し考えて、無理だと思う、と言った。
「だって、生徒の中には、元連邦やジオンのパイロットもいるんだよ。クラバ選手が対抗戦に出れなくて、ホントの軍人が出られるのはおかしいよ。」
一方、マチュのほうは。
クラスのものたちは、すでに現役のクランバトルパイロット「狂犬」マチュが来ると知って大歓迎で待ち構えていたらしい。
思ったよりも小柄な身体と可愛らしい顔立ちは、意外なようだったが。
そして、ニャアンだが。
「なんだって! 1ヶ月停学!?」
「まあ、そんなに実害はない、と思うよ。」
マチュはオカワリに頼んだソーダをチュウチュウしながら言った。
「補講は普通に受けさせてくれるみたいたし、同じことはもう起きないでしょ。」
「なにがあったんだ!?」
マチュが言うには……
これはマチュ自身がニャアンからきいた話しと、周りから聞き集めた話を総合して得た情報なので、かなり信憑性は高そうだった。
ニャアンのクラスは、かなり荒れたところだったらしい。
転入生への罵詈雑言。嫌がらせ。
そんなとき、ただただ怯えて縮こまってしまうのがニャアンだ。
言葉の行き違いか、ニャアンの被虐的な態度がエスカレートさせたのか。
クラスメイトのひとりが、刃物をチラつかせたらしい。
ニャアンはそれを明確な「攻撃」と判断し。
クラスメイトの足首を掴むと、そのまま窓から下にぶら下げたらしい。
悲鳴と怒号が飛び交い、周りのものが駆け寄ろうとしたが
「手、離しちゃうかも」
という言葉で、動きはビタりと止まった。
教室は3階だったらしい。
「わたしはどうでもいいんだけどね。」
ニャアンは静まり返った連中に淡々と言った。
「攻撃されたらこちらも攻撃します。ルールはクラバのルールで。だから故意に命はとらないけど、戦闘不能にはします。
ああ……ええっと、頭は潰しても反則にはならないんだっけ?」
「し、死ぬ、死ぬ、死ぬ、それ死にます。」
そうか!
と、ニャアンは頷いた。
彼女が格闘術を習ったのは、月面のグラナダであって、そこの重力は地球の6分の1。
落下した時のダメージはより深刻になる。
「ちょっと、ひっぱり上げるから手伝ってください。」
で、停学になったニャアンを校門前でひろったマチュだが、クラスメイトたちは全員びびり散らかしており、ニャアンを「姐さん」と呼んで、カバン持ちまでしていた。
マチュの口から、自分とニャアンがクランバトルのエース「狂犬」と「病み猫」であることをきいた全員がその場で平身低頭せんばかりだったという。
ということで。
アムロたちはほのぼのした学生生活をスタートさせたのだが、クワトロ・バジーナはそうはいかなかった。
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クワトロ・バジーナのコンドミニアムは、世間の水準からすればかなり豪華だった。
ララァの侍女のような立場のカンチャナやヴァーニたちにもそれぞれ寝室がある。
だが、彼のような立場のものにとっては、私邸も仕事場になってしまうことが多い。
客人がきているときには、居間が使えない、などということがあってはあまり快適な住環境とは言えないのだ。
部屋数は多くならざるを得ない。
夜も更けてから尋ねてきたのは、ウォン・リーだった。
アナハイム・エレクトロニクス社の極東支配人である。
このご時世に紙に印刷された資料をいっぱいに持ち込んでいた。
「アナハイム・エレクトロニクスムーンからの返答はたぶんそちらが把握しているのと一緒だ。」
不機嫌そうに、ウォン・リーは告げた。
こんな時間なのだが、キッチリとスーツを着こなしている。
「ペズン蜂起の責任については、調査が必要である。ジャミトフ、バスクの身柄を連邦に引き渡せば、うちうちに処刑される恐れがあるため、真相が究明させるまで、彼らはアナハイム月面工場に止めおく……」
「そういうことだ。」
ウォン・リーは、書面を提示した。
「これがアナハイムムーンからの回答書になる。」
クワトロは目を通した。
多少の言い回しの違いはあったが、いま彼が言ったままの内容だ。
それについてのメリット、デメリットも列記されているのがいかにもビジネス文書らしい。
「トロイホースを追撃した我々に、アナハイムムーンはビグ・ザムの改良型で攻撃を仕掛けてきた。それについては?」
ウォン・リーは、また別の書類を取り出した。
「ビグ・ザムの製造については、ギレン総帥の存命時の発注だ。
ちょうど完成した試作機の動作テストを兼ねて、ポメラニアンズ所属のモビルスーツとクランバトルを行った……そうだ。
これがその報告書になる。」
「そんなに都合よく、ギレンからビグ・ザムの発注が本当にかかっていのか?
都合が悪くなるとなんでも『クランバトル』で片付けるのだな。」
「それはお互い様だろう?
そもそもジオンを巻き込んでの、民間団体でのペズン討伐をクランバトルで乗り切ったのは、そっちだろうが。」
主体となって動いたのはアンキーであり、自分はパイロットとして参加しただけだ……と言うのも苦しい言い訳だったので、クワトロは話題を変えた。
「エイノー提督の消息はそちらに届いているか?」
「うむ。ジオンが亡命を受け入れたそうだな。
どう考える?」
ウォン・リーは面白そうに、クワトロの顔をのぞきこんだ。
「死なせるには惜しい人物だが、責任はとらねばならない。今後同じことをしでかすものをださないためには。
ジオンもあくまで、『亡命』させただけで、べつにジオン軍に取り込むつもりはないだろう。
むしろ、エイノーの今後の発言そのものが、連邦の腐敗を糾弾する材料になれば充分だろうな。」
「アナハイムも同じ見方だ。
月の連中がジャミトフを取り込んだのも、目的は一緒だろうな。なにかあったときに連邦が動きづらくなるような発言を引き出すことが出来る。」
ウォン・リーは、彼にしては珍しく、上機嫌だった。
「さて、これではっきりした。
我々は手詰まりだ。こちらからなにかは仕掛けにくい。
アナハイムムーンは、当面、駒を溜め込んだところで満足だろう。
おそらく次の手は、クランバトルの興行権の取得ということになろうが、それ自体はアナハイムムーンの権限内だ。本社であれこれ口出しするものでもない。
そこで、だ。」
ウォン・リーはニヤリと笑って、ウインクして見せた。
「いまのうちに身を固めたらどうだね、クワトロ“大佐”。」
クワトロのような男でも意表を突かれるこたはあるのだ。
しばらく、彼は考え込み……首を横に振った。
「それは―――急ぐ必要はあるまい。」
「長く付き合えばよいというものではないぞ。そしてタイミングというものは本人たちより周りがなんとなく、察するものだ。
ララァ……さんといったか?
プロポーズしてみろ!」
「残念だが。」
クワトロは言いにくそうに言った。
「彼女はまだ若い。
そして、私といえばモビルスーツに乗れる機会があると、なにもかも忘れて宇宙の彼方に飛び出してしまうような男だ。はたして、夫に相応しいか……」
「なるほど!!
ならば、マハラジャ・カーンの娘を娶って、アルテイシア政権を磐石のものとするための礎になるか!
それも確かに立派なことだが」
相手は、アナハイム・エレクトロニクススの重鎮だったが、さすがにクワトロは険しい顔で相手を睨んだ。
「なぜ、そうなる!?」
「長子の君ではなく、アルテイシアが公王についたのだぞ?
なにか複雑なお家事情があるのは、素人目にもわかる。
そして、彼女が公王になった以上、きみはダイクン家にとって邪魔になる存在になり兼ねない、ということもな。
ハマーン・カーンを娶ることは、その問題を解決してくれる。カーン家の姻戚となったら、そうやすやすとは暗殺してしまうことは出来ない。君自身も現在のジオンの体勢のなかに組み込まれることで、アルテイシア政権に忠誠を示すことが出来る。」
「どうにも……」
クワトロは苦笑でかえした。
「ウォン・リーさん。あなたがそういった権謀術数にくわしいとは思わなかった。」
「ドライなビジネスマンだとでもおもったかね。
実は、これはわたしの甥の受け売りだよ。」
「なかなか面白い甥ごさんだ。
占い師かなにかかね?」
「残念。少し違う。士官学校を出た元連邦軍大尉だよ。きみと違って自称ではない。」
「元、ということは、除隊されたのか?」
「軍縮の影響でな。もともと軍のキャリアには興味がなさそうだったから、本人はそれほど落ち込んではいなかったが。
いまはネオ香港大学の史学科に在籍している。」
ウォン・リーはずいと体を乗り出した。
「…私の甥は君がその進言をなんだかんだ理由をつけてはぐらかすことも予想していた。
その場合は、ララァさんとの結婚を先延ばしにする理由をなにか作ってやらねば、きみの身が危ないとも言っていた。」
クワトロは、心の中でうめいた。
彼を亡きものにせよとのジオンの意志は、他ならぬシャリア・ブルから聞かされている。
当面の利用価値が、かれの命を長らえさせていたのだが。
だが、利用価値のほうは一段落し、逆に知らなくてもいい知識をもっている人物として改めてクローズアップされたとしたら。
たとえばイオマグヌッソの建設についての知識とか。
暗殺者を差し向けられるとは思っていない。
そのような後暗さは、アルテイシアは好まない。
だが、相手のよくわからないクランバトルが組まれ、ふたを開けてみたら相手が“レイダー”であったとかはありそうだった。
「……そうは言っても結婚などは互いの意思が一致しないと、な。」
「そう言うだろうと、甥も言っていた。」
楽しそうに、ウォン・リーは笑った。
「ならば、ララァさんとカーン家のご息女を学校に通わせるようすすめたらいかが、かと。」
「学校!?」
「そうだ。
花嫁候補がまだいずれも学生だというのは、結婚を先延ばしにする納得のいく理由になる。」
ちょいと長くなりました。
アルテイシアさんは正式には「国家元首」ですが、ひとによっては「公王」のほうが呼びやすいようで、ウォン・リーさんもそう呼んでます。
甥ごさんの名前?
だすかどうかわかんないけど、たぶんヤンです。