バトルは、ニャアンの生身のシーンだけだったなあ。
クワトロは、ララァとそのふたりの侍女たちを保護しているつもりになっているが、事実は少し異なる。
ララァは、クランバトルの人気選手であり、ヘルムコングロマリットからのテストパイロット契約として、かなりの額を受け取っている。
くわえて、ポメラニアンズからも対戦について、またそれに動いた掛け金の歩合もあり、その口座にはかなりの額が積み上がっている。
それは、かなりのベストセラーになった「ココ・シャロン」の写真集の印税を霞ませるほどのものであった。
だから、経済面ではクワトロのところを出ていこうと思えばいつでもできる。
「学校…ですか?」
朝食の席で、すこし驚いたようにララァは、愛する男の顔を見つめた。
「そうだ。クランバトルについては、いまさら止めはしないが、あれはあれで特殊な世界だ。
ララァには―――
もっと、広い世界を知って欲しいのだ。」
「ヘルムコングロマリットのテストパイロットの専属契約も、クランの所属もそのままです。」
ララァはヴァーニにコーヒーのお代りを頼みながら言った。
「それと一緒に学生は出来るものなのでしょうか?」
「現役のクランバトルの選手が学生をしてはならないという法律はない。
そんな校則のある学校もないはずだ。
実際にアムロたちは、ジオン工科大学のネオ香港キャンパスに通い始めたはずだ。」
「わたしはあまり、その、技術系のことには興味がなくって。」
ララァは困ったように言った。
「それに、わざわざ一緒の学校に通わなくても…アムロとはいつでも遊べるから。」
胸のなかに湧き上がった酸っぱいものは、嫉妬心だったのだろう。
ララァに愛されていることまでも、クワトロは疑ってはいなかった。
だが、自分だけが愛されているのか、ということについては、若干自身がもてなくなっている。
単純にニュータイプとしての能力ならば、ララァとアムロのほうが優れている。
だからこそ、ララァとアムロにしか通じ合えるないものがあるような気がするのだ。
そして、アムロとララァはちょくちょく二人で会っている。
買い物に付き合わせたり、クワトロが打ち合わせで一日中、家を空けたりするときには、食事をしたり。
正確にはヴァーニとカンチャナも一緒なのだが、ふたりの侍女たちのララァへの忠誠ぶりを見ていると、なにか二人にあったとしてもそれを制止したり、ましてクワトロに報告するなど有り得ない。
「それなら、歴史のお勉強をおすすめします。お姉さま。」
カンチャナが、クワトロのカップにコーヒーを注ぎながら言った。
「歴史?」
「そうです。先人たちの愚行を学ぶことでこれからの世界がどうなるかを学ぶことが出来ます。」
カンチャナはにっこりと笑った。
「数多世界の『夢』を見ることができるお姉さまにはぴったりです。」
かく言うカンチャナも経済的には、クワトロの庇護を必要としなくなっている。
彼女の書いたラノベ『機動戦士ガンダム~行きて帰りし夢物語り』は、ジオン独立戦争を舞台にしたif戦記というジャンルに金字塔を打ち立てた。
この手のジャンルは、主に戦争に負けた側であるアースノイドを中心に、一定のファンを得ていたものだが、その多くが、「遺伝子レベルの強化を受けたコーディネーターがジオンのニュータイプ部隊を蹴散らす」とか「異星人のもたらした超兵器“月光蝶”がジオンの艦隊をチリに変える」とか「木星に眠っていた巨人を蘇らせてジオンに対抗しようとしたらそれは実は宇宙怪獣で、スーバーアンドロイド美少女がそれに立ち向かう」とか、とくにくタガを外れた荒唐無稽の設定が多かった。
カンチャナが改変したのは一点だけ。
赤い彗星が、サイド7に潜入したとき、ガンダムに乗り込んだのが、シャイ少佐ではなく、民間人の少年アレム・ロイだったこと。
それだけで、その後の展開は大きく変わり、ア・バオア・クーを抜かれて、ついにジオンは敗北する。
その展開には、まるで実際にその世界を体験したかのような妙なリアリティがあった。
分かるものには、主人公のアレム・ロイが、最近クランバトルで名を馳せている“白い悪魔”アムロ・レイがモデルであることはわかるだろう。
そりゃあ、独立戦争のときに白い悪魔が連邦にいたら、戦の趨勢は一変するよなあ、でもそんなことが。
あれ? でもアムロって、ガンダム開発者のテム・レイ博士の息子だよな? ならひょっとして、赤い彗星のサイド7強襲のとき、サイド7にいたりする?
で、シャアより先にガンダムに乗ってたりしたら!?
かくして、カンチャナのラノベは、ダリルのようなジオン軍出身のものまで読むほどのベストセラーになり、いま彼女は、続編「Zガンダム~ある可変機と少年」を執筆している。
連邦軍が、「タイタンズ」と「エウゴ」に別れて争い、それに巻き込まれた少年を描いたこの物語りも好評をもって受け止められている。
連邦軍がふたつに割れて武力衝突など、有り得ないとさすがに設定に文句が着いたが、ペズンの反乱を経て、それもまたありえた歴史かもしれないと、驚きをもって世間に受け止められている。
「面白いかもしれない。」
ララァは頷いた。
「そう言えば、最近カンチャナがよく、チャットしてる歴史好きの“奇術師”さんって、ネオ香港大学の方なのかしら。」
「チャットの内容からは、間違いなさそうですよ。学生さんか講師かはわからないけど。」
「会ってみたいわね。」
ララァはクワトロに向かってにっこりと微笑んだ。
「でしたら、わたし、ネオ香港大学で史学を学んでみたいと思います。」
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「輸出規制?」
アルテイシアは眉を顰めている。
「連邦が?」
「はい。」
ランバ・ラルは答えた。
「表向きは、採掘量の減少とのことですが、実質的は」
「嫌がらせ、よね。」
「如何なさいます?」
ラルは君主の顔を面白そうに見た。
「案を出してみてくれますか?」
「軍を降下、ならびに地上戦力を動員して鉱山地区の占拠。」
「却下」
「同様の資源を保有する小惑星の移動。」
「だめです。時間が掛かりすぎます。」
「代替措置を検討します。輸出規制の撤廃に替えて、連邦の宇宙戦力拡大を一部容認。」
「たぶん同じ方法をなんどもとってくるわ…」
アルテイシアは唇をかんだ。
悔しそうだが。
「では仕方ない。腕づくで解決しましょう。
連邦に輸出制限解除を掛けてクランバトルを申し入れてください!」
めちゃ、喜んでいる。
少し補足。
学生になるために、必要なあの頭の痛い「入試」というものについて。
アムロたちは、なにしろ公王府の推薦の推薦なので免除されています。学力不足の分は入学後補講でとらさられることになります。
当然、補講の時間が長くなれば、卒業までにはうんと時間がかかりますが、学校的には在学年数が長くなればその分、授業料が稼げるのでまあ、いいか、ということですね。
ララァの希望した「ネオ香港大学」は偏差値は、ジオン工科大学よりも高い超名門校です。なので、クワトロさんはたぶんお金払えば、授業を受けられる「聴講生」として、ララァを送り込むつもりです。
途中で学力に自信がつけば、編入試験を受けて学生になってもよいし、そうでなくても希望の史学科のコースといくつかの基礎学問コースの授業はでられます。
ポイントとしては、このまま履修を終えても、「卒業生」にはなれないことですね。
つまり、聴講生のまま履修を終えたララァが、「ネオ香港大学卒」と称してどこかのコロニーの市長選に出たら学歴詐称になります。