ララァは、ワンピースとも貫頭衣ともつかないゆったりとした服が好きらしい。
特にドレスコードの必要ないところでは、よくその服を着ている。
アムロは、似合うと思つつ、その服があまり好きではない。
まるで、その姿が1羽の水鳥のように儚く見えるのだ。
ときどき飛び立ったその水鳥が力を失って湖水に落ちる幻覚を見る。
「学校はどうなの?」
とララァは尋ねた。
一応は半個室になっている。レストランのVLPスペースに、一行は腰を落ち着かせた。
「あー、うん」
ララァの黒瞳から目を逸らすようにして、マチュが答えた。
「まあ、なんとなく……楽しい、かな。」
「クラスは締めました。」
ニャアンがぼそりと言った。
「みんな、顔つきは怖いけどいい奴らだったよ。」
アムロが言った。
「学校は久しぶりなんで、ね。
ぼくが進学を遅らせてたから、周りが年下ばかりになって浮いてしまうかって心配してたんだけど。
軍人あがりとか、実際に現場でメカニックをしてた人もいて、年上も結構いる。」
「アムロはモビルスーツの設計を専攻するのよね。ニャアンはコロニーの環境改良。
マチュは?」
「あ、あ、えーと、クラゲ。」
かつてそれが、アマテ・ユズリハが進学希望に書いた言葉だとは、アムロは知る由もないが、なんとなくマチュの不機嫌さは感じ取った。
「まだ、決まってないんですよ!」
アムロは慌てて言った。
「工科大学もぼくとニャアンの希望に付き合わせてしまったようなので……」
マチュのララァへの敵愾心。それが自分に関係したものだと気がつけぬほど、鈍いアムロでもない。
そのアムロとマチュをからかうようにララァは微笑む。
「午後からの予定は? 時間はあるの?」
「い、一緒にかいもの!!」
マチュが隣の席のアムロに肩を寄せた。
「よかったらクランバトル、見に行かない?
M.A.V.戦じゃなく、一対一のワンマッチだけだから、たぶんセレモニーもいれて、一時間くらいで終わるわ。ネオ香港復興記念スタジアム。」
「……っていうことは、射撃武器使用無し、のバトル?」
察しの良いアムロは理解した。
安全性を高めるために、クラバは様々なルールを設定している。
一般には、ビーム兵器なし、頭部破壊で決着というものだが、例外はいくらでもある。
例えば、アムロたちがつい先日まで戦った、ニューディサイズとの戦いではビーム兵器も解禁していた。
(これは実質的に実戦なのをアンキーが『そういうルールのクラバ』と言い張った
ためだが)
逆に飛び道具を一切禁止してしまうルールもあるのだ。
そこまで戦いを制限してしまって面白いか、という問題があるが、大きなメリットが一つある。
直接、目の前で観戦が可能なのだ。
「興味はあるんだけど……」
アムロはマチュをチラリと見た。
マチュはとんでもなく行動力があるため、活発に見られるのだが、必ずしも能天気に明るいわけではない。
とくに、いまは愛機ジークアクスと離れ離れになっているのだ。
「マチュやニャアンと休日を過ごすのは久しぶりだから……」
「対戦カードは、ネオ香港の守護神ククルス・ドアン。」
それはぜひ、見たいカードではある。
ティターンズがネオ香港を襲った時、アムロやマチュは、彼と共闘している。
旧式のザクで、性能で勝る軽キャノンを2機。瞬時に潰して見せた。
デニムから、ぜひクラバに招きたい人材だと聞いていたが、戦災孤児を養子に抱える彼は、後暗いところのあるクランバトルへの参加は頑として首を縦に振らなかった。
今回は、スペシャルマッチということで、了承が得られた、ということらしい。
マチュも同じことを思ったのか、うぐぐ、と喉の奥で変な声を出した。
「それは、少し……みたいかも。」
「対戦相手も特別よ。サイド6のCクラスで圧倒的な強さを誇る。」
「Cクラス? 武器を使わない階級だったよね?
初心者向けの。」
「戦いを直接見られるので、固定のファンはいるわ。
パイロットは、ハヤト・コバヤシ。アムロの元M.A.V.らしいわね。」
結局、アムロ、マチュ、ニャアンは、ララァとともにスタジアムに向かうこととなった。
カンチャナとヴァーニも一緒である。
スタジアムのゲートへむかう道はごった返していた。たしかに一定のファンはいるようである。
ララァはなれた様子で、一行をVIP用の隠しゲートへと案内した。
警備員は、ララァの顔を見て、敬礼し……アムロ、マチュ、ニャアンの顔を見て驚愕した。
「“白い悪魔”……“狂犬”に“病み猫神”」
「神ってなんだ、神って!!」
「このところ、ニャアン様を古き邪神として崇拝するものが増えておりまして……」
「迷惑!」
「選手に挨拶したいのです。」
ララァは丁寧に頼んだ。
「選手の控え室を教えてください。搭乗はまだでしょう?」
「ドアンはたぶんもうコクピットに入ってます。ハヤト・コバヤシ選手はまだ……」
警備員はすばやく交替の者を呼ぶと、アムロたちを案内してくれた。
アムロは当惑しているがこれが当然なのだ。
ここは、クランバトルの会場であり、アムロの名を知らないものはいない。
クワトロ大尉が、VIP席の手配をしていなかったとしても対応は同じだろう。
「ハヤト選手。」
「関係者以外は近づくなと言ったはずだ!」
警備員がドアをノックしたとたんに罵声がかえっきた。
「アムロ・レイさんがお越しです。」
沈黙は数秒続いた。
ドアが開いた。
髭面の男が顔を覗かせる。
アムロを見て、そのまま凍りついた。
「お、おい、ハヤト。ホンモノのアムロだ。“白い悪魔”だぞ!!」
「言ったはずだよ、俺は白い悪魔のM.A.Vなんだって。」
久しぶり。
とはいってもそう時間はたっていないはずだが、ハヤトは痩せて見えた。
いや、そうではない。
もともと小柄ながらがっちりとした体型だった彼が、よけいな肉を削ぎ落としたのだ。
「ひ、久しぶり……結婚式には出られずに済まなかった。」
控え室は、殺風景ではあった。
試合開始まではそう時間はないから、そろそろモビルスーツに乗って、実際の動作チェックをしなければならないはずなので、そう時間はない。
「いや、クランバトルからは足を洗うって言ってたんで、今日の試合のことは驚いたんだ。アドレスとかは変わってないかい?
連絡するよ。」
「フラウなら元気だよ。」
ぽつり、とハヤト・コバヤシは言った。
「結局、子どもを養うのには金がかかる。
なのでクランバトルに戻ってきてしまって。」
「そ、そうなんだ。そうか。Cクラスのルールなら、安全性は高いからな。」
「そうでもない。」
ハヤトはゆっくりと立ち上がった。パイロットスーツをすでに着込んでいる。
「基本、1Gの重力下で転げ回って戦うんだ。コクピットがとうなるかわかるだろう?」
言われてみればその通りだ。
ハヤトはそのまま立ち上がって、アムロの肩をボンと叩いて、部屋を出ていった。
「ククルス・ドアンは強いぞ!」
背中にむかって、アムロは叫んだが、ハヤトは振り返らずに手をあげただけだった。
「ほ、ほんとに、“白い悪魔”と知り合いだったとは……!」
最初にドアを開けた髭面の男は、怖い顔を精一杯の笑みを浮かべた。
「ハヤトとは、学生時代からの友人なんです。」
「そ、そうでしたか……」
「ハヤトは……その、どうなんです? 戦績は。」
「そりゃもう!
サイド6のあのクラスじゃあ敵なし、ですよ。ただ……クラスがクラスだけに、試合料や賭け金からの歩合が悪くて……」
髭面はしょげたように下を向いた。
ララァがすっと割って入った。
「アムロ・レイはパイロットです。ギャラのお話しは、デニムさんかジーンに。」
ハヤトは柔術をやってたので、モビルスーツも射撃よりは、近接戦闘が得意だったはずです。それなのにガンタンクなんかに乗せられてしまうから…