合気は舞い、鉄槌は叩き込み、勝敗は一瞬の業に収束する。
だが、これは終わりではない。
ネオ香港。
資源と利権と野心が渦巻く街に、次の火種はすでに落とされた。
静かに笑う者がいる。
動き出す影がある。
そして――まだ、立ち上がる者も。
次章。
鉄は冷え、策は熱を帯びる。
恐るべき乱入者が牙を研ぐ。
有利な状況。
ある時代の格闘技ならば必勝ともいえる体勢をとった!
だがハヤトは、実は舌を巻いている。
完全に視覚の外からの攻撃。
それに、ドアンはとっさに反応してみせたのだ。
ここで仕留める。
小指側の拳を使った打撃「鉄槌」は実は、初心者にも向いている。鍛えていない「拳」は案外と脆いのだ。
ハヤトは、「鉄槌」を振り下ろす。
それをドアンが。
かわす。
かわす。
また、かわす。
かわす。
いや生身の格闘に慣れていたとしても、モビルスーツをそんな風に操ることなど。
狙いが、メインカメラのある頭部に集中しているとわかっていても。
打撃に集中するあまり、軽キャノンの上体が前のめりになる。
グン。
と、同時にザクが腰をそらした。
軽キャノンの腰が浮く。
同時に、ザクの膝が股間を蹴りあげる。
もちろん、別にそこは別に急所ではない。
だが、ザクに馬乗りになった軽キャノンを跳ね上げるには十分だった。
ハヤトはとっさに受身をとった。
別に彼自身が直接痛みを感じるわけではないが、機体の損傷を抑え、コクピットへの影響を最小限にするにはそれが有効だった。
向き直ったときには、ザクが目の前に迫っている。
大きく拳を振り上げて―――
その技は「鉄槌」。
今しがた、ハヤトが使った打ち方だ。
もうそれをマスターしたのか。それともククルス・ドアンという男の知識の範疇だったのか。
全身の体重が、その拳に乗っている。
当たればいくら「鉄槌」の打ち方でも拳を壊しかねない。
だが、当たった部位もまた―――破壊される。
ハヤトは動いた。
鉄槌は軽キャノンの肩に触れた。
そのまま、滑るようにベクトルを変えられ―――
ザクの巨体が、地面に崩れ落ちる。
「なんだ!? あれは!」
「ドアンの旦那が勝手に転んだ!?」
「いや、あれはアイキだ。」
どの時代。どの国にも解説好きはいる。
「アイキだと!?」
「そうだ。
東の島国に伝わる一子相伝の暗殺拳。その奥義を見たものは“死”あるのみ。」
明らかに別のなにかと混同しているようなのだが、周りは感心して聞いている。
転がしたくらいでは、モビルスーツには致命的なダメージにはならない。
だが、コクピットはエライ事になるはずだ。
だが、何事もなかったかのように、ザクは立ち上がる。
そのまま、再び拳を振り上げて、軽キャノンに打ちかかる。
ハヤトはそれに手を添える。
再び、力の向きを変えられた打撃は、その勢いのままに、ザクを転倒させた。
間髪入れずに立ち上がるザク。
ハヤトは、間合いの内側に入った。
手を押し出し、踏み込むザクの頭を押すようにして、前進するザクの力を「回転」へと変える。
ぐるり。
と一回転して、地面に叩きつける。
無重力空間ならば、まだいい。
ここは地上で重力は発生している。
17メートルの巨体が倒れ、回転する。
コクピットのパイロットが無事であるはずがない―――
だが、ドアンは立ち上がる。
「こっちは正規のパイロット上がりだ。耐G訓練は反吐がでるほど受けている。」
ドアンは吠えた。
「何百回繰り返しても一緒だぞ、こんな投げ技などは!!」
いや。
効いていないはずはない。
合気の技が、よく「わざと」投げられているように見えるのは、実は受け身である。
技をかけるものの、意図した方向に飛ばなければ、骨が折れ、筋肉は断裂する。
ならば。
受け身の取れないように投げる。
「うおおおおおっ!!」
「あ、あれは!」
「知っているのか! カンチャナ!!」
「ええっと、あれはたしかお子様が喧嘩に使うぐるぐるバンチです。」
ハヤトは、冷静にタイミングをはかった。
「鉄槌」は連続して降ってくるが、リズムは一定だ。
とらえられる!
振り下ろされる右手を掴んだ。
体勢を崩しながら、相手が「飛ぶ」よりも早く関節を破壊する。
だが。
ザクは飛ばす。
逆方向に身体を回転させた。
当然。
右腕は肘から引きちぎれた。
な、なに?
呆然と。
引きちぎれられた腕を抱えるハヤトの視界いっばいに、もう片方の腕の鉄槌が広がった。
次の瞬間、メインモニターが真っ暗になる。
「軽キャノン、と、頭部破壊!!」
うおおおおっ!ーーーー
会場が吠えた。
「勝者! ククルス・ドアン!!」
「なにが!どうなったの?」
ラーメンのなるとを咥えたまま、ニャアンが言った。
「ドアンさんはわざと右腕を引きちぎらせたんだ。」
アムロは言った。
「もちろん、人間が自分の体でそんなことをしたら、激痛で動けなくなる。でもモビルスーツには痛覚なんてないから。」
ドアン!ドアン!
ドアン!!
ドアン!!
頼れる保安隊長の劇的な勝利に、会場が揺れる。
次の瞬間――
「まだだ!!」
頭部のひしゃげた軽キャノンが立ち上がった。
「まだ、たかがメインカメラをやられただけだ!!」
「……あれって、天パのセリフよね?」
マチュがアムロを見上げて言った。
「い、いや。たしかに言ったことはあるけど、べつにぼくの特許じゃないよ。」
「……なんか……」
マチュの目が輝く。
「燃えてきたな!」
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「現在、高度一万メートルです。」
コモリ少尉が言った。
「ソドン、グレイファントム。ネオ香港空港、第二ターミナルに着陸許可がでています。降下を続けます。
それと……」
「なにか?」
ソドンのラシット艦長は嫌な予感を感じながら、問い返した。
「……ジークアクス、発進シークエンスです。」
「ネオ香港には、アレがいたな。」
ラシットは全てを諦めたように、言った。
「ええっと、それから」
「まだあるのか!!」
「“レイダー”の発進許可要請が」
ううむ。地味だ。